連載
posted:2015.1.8 from:奈良県吉野郡川上村 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Takaki Matsumura
松村貴樹
まつむら・たかき●1976年生まれ。京都で育ちながらも、奈良県吉野郡川上村の祖母の家で1年のうち数週間、山の生活を味わう幼少期を過ごす。21歳で単身渡米、ニューヨークで5年間暮らし帰国。2006年にLLC INSECTSを設立。2009年の春、「IN/SECTS Magazine」を創刊。2014年12月15日、最新号(日記特集)を刊行。http://www.insec2.com/
credit
撮影:大塚杏子(からもも)
吉野杉工房からつながる奈良の森のはなし
日本一の多雨地域である紀伊半島。
そのほぼ中央に位置する奈良県の林野率は77%。
大仏や平城京などで知られる古都だが、ここは森の都でもある。
そんな県下に広がる森は95%が民有林で、先人によって育まれた
立派な人工林が広がっている。
人工林率が全国的に見ても高く第7位。
奈良県産材のなかでも有名な吉野杉は、
人工林の三大美林のひとつにもあげられるほど美しい。
またヒノキの人工林も多く、清潔感のあるピンク色が特徴である。
そういった特性を生かした製品も多いものの、
近年、県産材の生産・販売は年々下降傾向にある。
高いポテンシャルを持つ奈良の県産材だが、苦戦を強いられているのも事実。
そんななか、吉野杉で家具や小物の生産・販売をすることを目的に
村営の吉野杉工房は開設された。
大切に育てられているからこその年輪を生かして
吉野杉の最大の特徴は、その年輪のきめ細やかさ。
通常、1ヘクタール当たり2000~3000本の植林に対して、
その3倍以上植えるのが、吉野流。
こうすることで1本の苗に、行き渡る栄養分を制限することができる。
そして、横への成長を遅らせつつ、縦に延ばし、
何度も間伐を繰り返すことにより均一な成長を促せる。
これが美しい年輪の秘訣であり、手間がかかる理由でもある。
そのため材木の値段も少し高値にはなるが、
この木目を利用してできあがった製品の味わいは格別だ。
吉野杉工房では、テーブルや本棚などの家具もオーダーメイドでつくっているが、
特徴がよりわかりやすいものといえば、トレー、お椀、木皿などのキッチン用品。
整った木目が柄になるようにカットされた材を貼り合わせ、
さらに加工してできるのが、柾波木芸品。
盛器、盛皿、角トレー、菓子器、コースター、バインダーなどが揃う。
「この木目の綺麗さが人工林の、つまり手をかけてやる
吉野杉の良さですね。綺麗でしょ?」
と川上村生まれ川上村育ちで、この地を知り尽くす
地域振興課の森口尚さんは、丸太を触りながり誇らしそうに笑う。
経年変化で味が出る、吉野杉の楽しみ
やはり木工品は経年変化が楽しい。
とくに吉野杉は美しい年輪を生かした柄に、経年変化の色づきが加わり
さらに味わい深くなる。使えば使うほど、いい色が出てくるのだ。
森口さんに長年大切に使う秘訣について聞いてみると
「乱暴すぎるのは良くないけれど、そんなに気を使うこともないんです。
むしろ、木なので割れるということ、それさえ理解していただければ、
素材としてとてもいい。
たとえば家の構造材でも、割れるということがありますが、
だからといって問題があるということもありません」
森口さんのお話をうかがいつつ工房の様子を観察していると、
この仕事がとても魅力的なものに見えてくる。
地元の木を知り、つくり、伝えていく。
その土地に住む自分たちが、その土地でしかできないことをする。
当たり前かもしれないが、自然体のスタンスの魅力。
それが地元の仕事の創出にもつながっているし、
すでに地元のみならず東京方面からの移住者もちらほらと。
川上村、ひいては、この地方の中心産業である吉野杉を使う製品づくりに
今後も注目していきたい。
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木のある暮らし 奈良・吉野杉工房のいいもの
information
吉野杉工房(川上村木工センター)
住所:奈良県吉野郡川上村大字東川698-1
TEL:0746-53-2133
営業時間:9:00~16:30(ショールーム)
定休日:水曜、年末年始(12/29~1/3)
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