連載
posted:2014.12.17 from:和歌山県田辺市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Erika Murata
村田恵里佳
むらた・えりか●大阪生まれ、大阪在住のフリーライター。生粋の河内っ子としての土着っぷりをいかし、関西の郷土史をひも解く取材がライフワーク。ここ数年は「カレー」「チャイ」「和歌山」の取材多数。
credit
撮影:照井壮平
G.WORKSからつながる和歌山の森のはなし
かつて、紀伊国(きのくに)と呼ばれた和歌山。
その由来は“木の国”で、古くから木の神様が住むところとされてきた。
高野山や熊野三山など、ふかい森に包まれた聖地があり、
南方熊楠を虜にした那智原始林など、広葉樹が茂る天然林も現存する。
一方で、県土の77%を占める森林のうち、61%は人工林。
いまかいまかと出番を待つスギやヒノキの宝庫ながら、
木材の需要低迷や価格低下により、森林の荒廃は続く。
そんな現状を打開するべく、県は企業とともに森林保全に取り組む事業、
「企業の森」を全国に先駆けて開始。
子どもたちの林業体験、温泉施設を中心とした木質バイオマスの利用促進、
さらに色つやがよく、木目が美しい紀州材の魅力を伝えるなど、
幅広い活動を行っている。
ものづくりの原点に立ち返った家具づくり
和歌山県のほぼ中央に位置する田辺市龍神村。
ここは、高野・熊野の二大聖地をつなぐ、
まるで背骨のような山岳地帯のなかほどにある山村。
森林率95%と、驚くべき自然に恵まれた場所だが、
その71%は人工林。植林される樹木の多くがスギだという。
紀南の温かい風と寒暖差の激しい山の気候に育まれたスギは、
木目の詰まりが良く、その強度と美しさから建材にも最適。
「龍神杉」なる優秀な木材として、知られている。
そんな龍神杉をふんだんに使った家具づくりを行うのが「G.WORKS」だ。
G.WORKSの家具は、すべて受注生産。
定番のテーブルやチェストなどもあるけれど、
「一番の得意」と、代表の松本泉さんがささやかに胸を張るのは、イス。
シンプルなフィットチェアに、ロッキングチェア、スツールやベンチなど
種類はさまざまだが、すべての座面と背面に使われているのが、龍神杉。
「樹種によって適した発育環境は違うけど、
スギは多雨多湿で寒暖の差が大きい場所で良質なものが育つ。
龍神は、まさに絶好の環境。山あいの厳しい気候に耐えながら、
じっくり育つから、身が引き締まっているというか。
それでいて、スギ独特の削りやすさがあって、
手間をかければ自由な形がつくれるんです。
昔は輸入材を仕入れたこともあったけど、地元でものづくりをするなら、
やっぱり地域の素材を使いたいと思って。
林業をやっている仲間がいるので、いまは彼らから原木を買ったり、
隣村の製材所から木材を仕入れたりしています。
地域のつながりから生み出す。
いつしか、それがものづくりの原点のような気がしてきました。
スギは、たっぷり使っても圧迫感がないし、肌触りなめらか。
桜などの広葉樹でつくった座面は、硬くて冷たいけど、
スギは、ふわりとして温かい。
僕のなかでは、椅子をつくるのにぴったりの木ですね」
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図面では描けない曲線と凹凸
工房のおもてに設けられたショールームで、
展示されているロッキングチェアに座ってみる。
座面に腰かけ、背もたれたに身をあずけた瞬間、
まるで雲に乗っかったような浮遊感に驚く。
空気をまとったようにも感じるスギの座面は、確かにやわらかくて、
繊細な曲線を描く背もたれが、体をさらにやさしく支えてくれる。
「木目や色の具合、接ぎ合わせ部分のなめらかさ、全体的なバランス……。
気遣うところはたくさんあるけど、一番シビアになるのは座面。
おしりの当たりがいいように、わずかな凹凸をつけるのですが、
この部分だけは、いつも僕の仕事。
型紙がなく、図面でも表現できない部分で、経験と勘でやるしかない」
これまで100脚近くのロッキングチェアをつくりながら、
「まだまだ改良中。つくり続けていると、気になる部分がふっと出てくる」
と、職人気質で貪欲な松本さんは笑う。
同じ土地に暮らす木を使うということ
大阪で10年間のサラリーマン生活を過ごしながらも、
ものづくりで生計を立てる生き方に心惹かれ、帰郷を決意した松本さん。
地元へ戻り、早25年。
龍神村に生まれた者として、現在は持続可能な環境づくりと、
心地いい家具づくりの両立を目指しているという。
「龍神村にも、戦後に造林され、手入れされることなく
荒廃している森がたくさんある。
地元の木材を使って家具をつくれば、林業が成り立ち、
わずかでも山が守られ、再び苗が植えられる。
しかも自分が暮らす土地の木というのは、
こうして使うのがいいんだろうなって、自然とイメージが湧いてくるんです。
素材に素直になれるというか、そのものの良さが率直に見える。
きっと、地元の木には触れる機会が多いからだと思います。
こだわりがあると、木の持ち味とは違う方向にデザインが先走ったりして、
素材と合わないものをつくってしまうことがある。
いまなら、龍神の木がどんな形になりたがっているか、わかる気がする。
その圧倒的な自然の力を家具として伝えたいですね」
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木のある暮らし 和歌山・G.WORKSのいいもの
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G.WORKS(ジー・ワークス)
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