連載
posted:2014.12.18 from:宮崎県日南市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Yoko Yamauchi
山内陽子
やまうち・ようこ●企画と文章。熊本生まれ、熊本育ち、ちょっと放浪、熊本在住。地元を中心に、広告・広報の企画を手がけています。おいしいものが大好きで、お米、お水、お魚、お野菜、いろんなおいしいものにあふれている熊本から離れられません。
credit
撮影:松永育美
obisugi designからつながる宮崎の森のはなし
日本一の杉景観と称される飫肥杉(おびすぎ)の人工林。
ぐるりと見渡す限り、手入れが行き届いて美しく
まっすぐに空に向かって伸びている立派なスギの木立。
ところどころに、未来のこの美しい景観を担うであろう
植林されたばかりのスギを見ることができる。
宮崎県の森林面積は、県土の76%を占めている。
なかでもスギの生産量は全国有数で、宮崎県産材として
杉丸太生産量が過去23年連続、日本一を誇っている。
地域の経済と密接に関わる、飫肥杉
樹脂分が多く、成長が早いため、しなやかでやわらかい飫肥杉。
江戸時代初期に、飫肥藩財政の窮乏を救うために
山林原野にスギを植林したのが、飫肥杉のはじまりといわれている。
400年以上ものあいだ、この地域の貴重な財源であったわけだ。
飫肥杉が持っている特徴から、木造船の材料として重宝され
「囲炉裏端にいるだけで、商売が成り立つ」と言われたくらい
昭和後期まで日南市の経済と活力を支えていた。
しかし、船の材料としてFRPが台頭すると
とたんに飫肥杉の船の材料としての需要が減り価値が下がっていくとともに
地元の経済と活力に対しての危機感がつのっていた。
先人たちから受け継いできた、飫肥杉の人工林。
歴史、経済、景観など、あらゆる観点からみて、
地域にとってなくてはならない、大切な存在である。
「飫肥杉を生かして、日南市を活性させよう」
いまから約8年前、最初に声を上げたのは、日南市役所だった。
その声に賛同した地元の企業が集まり
業種を超え、なにができるか知恵を出し合った。
飫肥杉を材料にして、商品をつくることはできる。
ただ、つくった商品を売るだけでなく、飫肥杉の魅力を伝えると同時に
日南市という地域を発信することが大切だと考えた。
そこでたどり着いたひとつの方法が
東京で活躍するデザイナー、商社との協同プロジェクトだった。
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obisugi designが地域にもたらす刺激
しなやかでやわらかい特徴をもつ飫肥杉は
家具の材料としては不向きだといわれていた。
その特徴をマイナスととらえず
長所として生かしたデザインをもとに、地元の業者が製作を担当。
素朴な飫肥杉の性質を生かし、
シンプルでミニマルなobisugi designの家具は話題となり
2010年にはグッドデザイン・日本商工会議所会頭賞を受賞した。
さらに、皿やトレイ、玩具などのギフト商品を展開するSUGIFTを発表。
地域の外にいるデザイナーがとらえる飫肥杉の魅力は、
商品とともに広く、全国に伝わっていく。
それは地元の人にとっても新たな発見となり、
地域にとっていい刺激を生み出してきた。
「木は、生きもの。切っても呼吸しているし、さわるとじんわりあたたかい。
その良さを、ふれて、使ってみることでたくさんの人に実感してほしい」
と語るのは、obisugi design製作の一端を担う日南家具工芸社の池田誠宏さん。
曲げ物を得意とする同社は、SUGIFTで展開している小物をヒントに
オリジナルの商品を開発した。同じように、ほかの業者も
それぞれに工夫した商品開発に取り組むようになった。
SUGIFTの人気商品である、少し反りを施したトレイ。池田さんは、
「安定させる工夫を加えれば、別の商品として展開できるのでは」と考え、
オリジナルトレイを生み出した。
日南家具工芸社だけでなく、obisugi designに協力する業者のなかから
スギの木のはがきや、コースターなど、
独自の商品開発につなげているところは少なくない。
きっかけは、地域の外の人からの素晴らしいアイデア。
そこから、自分たちでどうにか飫肥杉を広めたい、と
刺激を受ける地元の人が増えてきた。
obisugi designプロジェクトがもたらした
いい循環が地域に生まれてきている。
地域が一丸となってめざす、次のステップ
obisugi designが話題となったことで飫肥杉の知名度も少しずつあがり、
商品展開も安定してきた。
そんないま、新たな展開を模索する段階にきているという。
「これからは、これまで開発してきた商品を
どうやって外に発信していくかが課題。
商品そのものから、飫肥杉の魅力を感じていただいて
その後、建材としての飫肥杉をPRしたい。
商品を売ることだけではなく、
地域の利益につなげることが私たち、行政の役割です」と、
今後の展望を語るのは日南市役所の水産林政課に属する加藤智之さん。
obisugi designが手がける家具や小物を、ひとつの“きっかけ”として、
家を建てる材料としての飫肥杉の地位を確立していきたい、という思いが強い。
「飫肥杉は、しなやかでやわらかい。そして、色白で美しい。
長所は短所としてとらえられることもあるが
建材としてとても優れています」と、加藤さん。
2013年夏には、飫肥城趾近くにobisugi designとSUGIFT、
飫肥杉関連の商品を展示・販売する
アンテナショップ「オビダラリー」がオープン。
地域の財産である飫肥杉を、地域の人が発信する。
次のステップへと動き出している。
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木のある暮らし 宮崎・obisugi designのいいもの
information
日南市役所 水産林政課
住所:宮崎県日南市中央通1-1-1
TEL:0987-31-1135
日南飫肥杉デザイン会(南那珂森林組合)
住所:宮崎県日南市大字上方1830-6
TEL:0987-27-1108
オビダラリー
住所:宮崎県日南市飫肥4-2-28
TEL:090-9720-0541
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