連載
posted:2014.12.16 from:群馬県多野郡上野村 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Hiromi Shimada
島田浩美
しまだ・ひろみ●編集者/ライター/書店員。長野県出身、在住。大学時代に読んだ沢木耕太郎著『深夜特急』にわかりやすく影響を受け、卒業後2年間の放浪生活を送る。帰国後、地元出版社の勤務を経て、同僚デザイナーとともに長野市に「旅とアート」がテーマの書店「ch.books」をオープン。趣味は山登り、特技はマラソン。体力には自信あり。
credit
撮影:阿部宣彦
上野村森林組合からつながる群馬の森のはなし
東京から100km圏内と恵まれた立地条件にある群馬県は、
総面積の3分の2を森林が占めている。その広さ、約42万5000ヘクタール。
森林面積、森林率ともに関東地方随一の「森林県」だ。
森林の4割にあたる人工林のうち75%は民有人工林で、
伐採して利用可能な40年生以上の森林が3分の2を占めている。
なかでも、その7割を占めるスギは1ヘクタールあたりの蓄積量が
500㎥を超えていて、活用がこれからの課題だ。
一方、群馬県の西南端に位置する上野村は、
森林の6割をケヤキやシオジ、トチといった広葉樹林が占める貴重なエリア。
「木工の里」として知られ、県内でも先駆けて地域材の活用に力を入れてきた。
今回は、そんな上野村にある森林組合の取り組みを紹介したい。
地域資源を生かして過疎から脱却!
人口1300余人。群馬県内で最も人口が少ない自治体である上野村は、
南は埼玉県、西は長野県と接し、
標高1000mから2000mの険しい山々が連なる山岳地帯にある。
広い村土の94%は森林で、人々は昔から森とともに生きてきた。
この緑豊かな上野村で、森から木を切り出して製材し、乾燥、加工、製品化から
販売に至るまで一貫した木工品づくりを行っているのが、上野村森林組合だ。
工場をのぞくと、若い職人たちが慣れた手つきで製材をしたり、
木工品の加工に精を出している。
「あの職人は東京出身、こっちは福岡出身なんですよ」
そう紹介してくれるのは、木工課課長の仲澤佳久さん。
自身は上野村育ちだが、ここで働く職人のうち6割以上はIターンの若者だという。
正直、驚かされてしまう。だって、ここまでの道中は山また山。
コンビニはもちろん、買い物をするような場所すらなく、
人家は村の真ん中を流れる川の両側にわずかに点在していただけだったから。
「美術大学や職業訓練校でデザインや木工を学んだ職人も多いんですよ。
平均年齢は30代」と仲澤さん。
皆さん、木工業に就くために、上野村に移住してきたそうだ。
そもそも森林組合の主たる業務は素材生産。
では、なぜ上野村森林組合は木工業を始めたのか。
「もともとは、全国的にも有名な黒澤村長が
村の事業として開始したんですよ」(仲澤さん)
この「黒澤村長」とは、1965年から2005年までの10期40年にわたって
上野村の村長を務めた黒澤丈夫氏。村長在位年数は全国最長で、
村の産業振興や1985年に同村で起きた日航ジャンボ機墜落事故の際の
迅速で的確な対応など、多大な功績を残した名物村長として知られている。
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時は1970年代。ピーク時には5000人だった人口が
半数以下にまで減少していた上野村は、過疎化対策と、
住民が安心して生計を立てていくための就業の場づくりが大きな課題だった。
そこで、黒澤村長は「村に豊富にある森林資源の活用しかない」という考えに至った。
それまで主流だった丸太販売という1次産業だけでは村内の経済基盤が弱いことから、
木工製品を加工して販売する新たな産業を興そうと決めたのだ。
そして、若者をひとり、村の職員に採用し、
研修生として神奈川県小田原市の木工場に2年間派遣。
修業を積んだその職員が村に戻ってきたのと合わせて木工業をスタートさせた。
これが1976年のこと。
「最初はろくろを使った挽物づくりが中心でしたが、
私が組合に入った1982年には5~6人の木工職人がいて、
すでに家具づくりもしていました」
と仲澤さんは当時を振り返る。
家具は県内の木工所で木製のドアづくりを学んできた職人を中心に制作した。
そして、少しずついろいろなものがつくれるようになり、
経営も軌道に乗った1988年、事業の主体は村から森林組合に引き継がれた。
木工を村の産業として確立させるためだ。
現在は山から木を切り出す「業務課」18名と、
製材して商品を加工する「木工課」15名の職人が組合に所属し、
雑貨や小物、食器、玩具のほか、床材や羽目材といった建材まで、
広葉樹、針葉樹を問わず幅広く手がけている。
その取り組みに魅せられて、林業や木工業に携わりたいという夢を持った若者が
I・Uターンで仲間に加わり、「木工の里」のイメージがつくり上げられた。
工場の目と鼻の先には村営住宅が整備されていて、村の補助制度も充実。
彼らが上野村の持続的な発展を支えている。
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良質な木材と豊かなアイデアで生み出される木工品
現在、上野村森林組合で扱われる8割ほどの木材は村産の無垢材。
冬の寒さが厳しい上野村の木は成長が遅く、木目が詰まっていて強度があり、
長く使っても目が狂いにくい。
「でも、それだけじゃないんです。うちでは製材してから最低でも半年、
長いものは何年もかけて木材を天然乾燥させています。
乾燥機にかける場合も、通常の工場では
一気に100℃くらいまで温度を上げて乾かす『高温乾燥』をしていますが、
うちの場合は『低温除湿乾燥』といって、
高くても45℃ほどの温度でじっくりと乾燥させます。
高温で乾燥させるとどうしても木が炭化してしまうのですが、
低温乾燥は自然に近い状態だから木にいいんですよ」と仲澤さん。
高温乾燥材は表面が黒っぽくなったり自然な色合いや香りが失われるのに比べ、
ここの木材は山と木の香りを感じさせる。
乾燥した木材は加工され、上野村の道の駅に隣接する
直売所「ウッディー上野村銘木工芸館」へ。
一歩、中に入ると、温もりあふれる木の器や漆塗りなどの和食器、
かわいい天然木の玩具やデザイン性に富んだ小物などがところ狭しと並んでいて、
見ているだけでワクワクしてくる。
特に目を引くのが、思わず微笑んでしまうようなユニークなデザインの
子ども用の玩具やイス。職人たちの個性豊かな発想力が伝わってくるようだ。
「玩具は当初、京都大学木材研究室の先生からノウハウを学びました。
いまは各職人が自由に新商品を試作し、みんなで協議をして商品化しています。
季節ごとに求められる商品もあるので、新しいものを
どんどん出していこうという気持ちでつくっています」(仲澤さん)
2階に並ぶのは、ダイニングセットやスツール、
棚や和家具など、バラエティ豊かな木工品。
ここで販売されているのは、森林組合の職人が製作したもののほか、
組合から独立した職人や村外から移住してきた工芸家がつくったものも。
彼らは村内で「木工家協会」を設立し、
森林組合から材料を購入したり大型機械を借りるほか、
組合に塗装を発注するなどのつながりがある。
こうした横の連携が「木工の里」上野村のイメージをさらに高めている。
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新たな活路を見出し、森と地域の暮らしを守る
いま、上野村森林組合では、
建材や土木用の木杭となる針葉樹の間伐材の需要が高まっている。
材価が安い針葉樹はこれまで村で積極的に販売しなかったため、
上野村には太い良材が多く残っているそうだ。
最近では、この針葉樹のなかでもスギを使ったベンチが軽くて価格も手頃だと評判で、
県有施設などに採用されている。
こうした森林資源の活用により、上野村の森はいま、
かなり手が入っている状態だという。
「昔からこの辺の人たちはどんどん森に入って自分たちで間伐をしていたのですが、
いまは所有者の高齢化が進んでなかなか手が入れられなくなっているので、
森林組合が請け負っています。
その間伐も以前は『切り捨て』がメインだったのですが、
いまは材を使うので搬出はかなり重視されています。
所有者の皆さんが育ててくれた木なので、
いくらかでも持ち主に還元できればと思って頑張っていますよ。
県内の森林組合ではかなり積極的に間伐を進めているほうではないでしょうか」
こう話すのは、業務課課長の藤田高広さん。
いまは間伐がメインだが、今後は主伐にも力を入れていくそうだ。
「これからも地元で出る木をどう使うか、商品だけでなく製材や建材など、
どんなかたちでも生かしていくことが今後の展望です」と話す藤田さん。
仲澤さんも、
「景気のいい時代は何をつくっても売れましたが、
いまは木工業で安定的な売上がないのも事実です。
そこで来年度からは新しい設備を導入して製材業に力を入れていきます。
納入先は大規模な製材会社や県産材センター。これまでは丸太で納めていましたが、
一次加工をすることで雇用の拡大も目指しています」と続ける。
森と木という地域資源を最大限に生かして次なる発展を目指す上野村森林組合。
森と地域に対する愛情がこもったふたりの言葉からは、
上野村の森にはまだまだたくさんの可能性があるのだと感じた。
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木のある暮らし 群馬・上野村森林組合のいいもの
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