連載
posted:2014.10.15 from:青森県下北郡風間浦村 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Yoko Aramaki
荒巻洋子
あらまき・ようこ●ときに編集者、ときに原稿の書き手。斜に構えるところがあるのを自覚しているが、意外に単純でやさしくされることに弱い。東京の西の地・青梅生まれ。自然いっぱいの中で育つ。自然、人、食に興味がある。
credit
撮影:岡田善博
わいどの木がつながる森のはなし
青森県は、森林面積が県土全体の約66%を占めている森林県。
青森県の木にもなっている青森ヒバは、
わいどの木がある下北半島や、津軽半島に多く分布している。
近年は、保護の観点から植栽や間伐を行いながら、計画的に供給されている。
どうやったら青森ヒバのよさを伝えられるか、それがすべての原動力
本州の最北端に位置する青森県の下北半島。
そのてっぺんにほど近いところに、
青森ヒバを使ったものづくりにこだわる木工所「わいどの木」はある。
迎えてくれたのは、わいどの木の社長・村口要太郎さん。
「うちのものは100%青森ヒバだよ。
ほかの木だったらやってないね。わいは、青森ヒバにほれ込んどるから」
と言いきる要太郎さん。
奥さんの節子さんに言わせると「頭の中はヒバのことばかり」なのだそうだ。
要太郎さんがそんなにもほれ込み、
青森ヒバに絞ってものづくりをしている理由はいたってシンプル。
青森ヒバの効能がすばらしいから。それをもっとみんなに知ってほしいからだ。
特質すべき効能は、殺菌・抗菌効果と、消臭・脱臭効果。
つまり、カビやシロアリに強く、不快な臭いをとってくれるということ。
わいどの木では、一般建築材の製造販売と並行して、
これらを生かした商品づくりも行っている。
たとえば、「ヒバ爆弾」という面白いネーミングの商品がある。
これは、製材するときに発生するおが粉を円筒状に固めたもので、
押し入れや下駄箱などに入れておくと、臭いや湿気がとれる。
はじめは燃料にしようと考えていたそうだが、
ヒバの消臭効果が利用できるのではないかと思いついたのが、ことの発端。
「木工所で働いている連中にこれを渡し、
その上に小便をしてもらい、その臭いを自らかいでもらったんだよ。
そうしたら、なんとまったく臭わなかったんだ」
そこから、これならば消臭グッズになり得ると確信して誕生したそうだ。
実は、青森ヒバは社寺仏閣の建材として使うことが多い。
それは、こうした効能があることに加え、数百年という長い年月を経て成木になるため、
木目が緻密で美しく、風合いがあるからだ。
それゆえに、高価なものと思われがちだ。
「社寺仏閣の建材に使うのは、幹が太く、まっすぐに伸びた、
樹齢200年はとうに超えているだろう一級のもの。
では、それ以外の曲がったものはどうするのか。
同じ200年の年月を経た木なのにって話だよな。
うちでは、青森ヒバはどれも区別なく使うよ。
加工しにくい部分があるならば、チップにするなど、
何か別のかたちにすればいいだけのことだ。
消臭効果は変わらないのだから、それを布に入れたら自然な消臭剤だよ。
無駄なく使ってあげれば、曲がったヒバもきっと喜ぶべ」
「よし、こっちへこい」と
要太郎さんが案内くれたところにあったのは、輪切りにされた青森ヒバ。
木皮から内側に5センチほど入ったところまでは、やや茶色みを帯びている。
この部分はカビが生えてしまうので、商品には使わないのだという。
しかし、それは決して捨てずに、製材された木を乾かすときや、家庭での燃料にする。
無駄にしない精神は、こんなところにも感じられた。
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塗装をせず、そのままの姿で仕上げるのも要太郎さんのこだわり。
「塗装するなんてとんでもねぇ!
ヒバのよさを殺しているようなもんで、ヒバに失礼だ」
だから、わいどの木の商品はどれもヒバの香りがぷんぷんと漂い、
ヒバの効能のひとつである精神安定効果も得られる。
木工所に隣接した展示販売所を見渡すと、
テーブルのような大きなものから、箸のような小さなものまで、
青森ヒバを使った数々の商品が並んでいる。
「商品のアイデアやヒントは、お客さんからもらうことも多いよ。
ヒバでつくった野菜箱もそのひとつだね。
『こんなにいろいろヒバを使ったものをつくっているのに、箱がないの!? 』
と指摘されたんだ」
つくってみたら箱としての機能はもちろんのこと、
ヒバの殺菌効果で野菜が長持ちするというおまけまでついてきた。
「わが家でも、かぼちゃやじゃがいも、玉ねぎなどを入れて使っていますよ。
おもちゃや雑誌を入れてもいいですよね」と節子さん。
気になったことは即実行、こうと思ったらまっしぐらに突き進む、
いろいろ試してみないと気が済まない。そんな要太郎さんに、節子さんは
「まわりをふり回す、ナンバーワンなんですよ」とあきれ顔。
その最たるものが、木工所の前に木の家を建てたことだ。
「すべてが木でできた家は受け入れられるか? と思って。
金はないんだけどさ(笑)、試しに建ててみたんだ」
中に入ると、棚からテーブル、電気スイッチカバーまで、
すべてが木でつくられた空間だった。
「アレルギー持ちで新建材を使った家には入ろうとしなかった子どもが、
ここには進んで入った、とお客さんにいわれたことがあるよ。
青森ヒバ以外に、ナラやスギ、ホオノキも使っているけれど、
ヒバが中心材だから、ムレや臭いがない。
新建材を使うより、自然の木を使ったほうが絶対に体にとってはいい。
『青森ヒバは、人を健康にする』
これは、わいが、常日頃思っていることだね」
要太郎さんの会社の名前は、わいどの木。
「わいど」とは、下北半島の言葉で「私たち」の意味。
つまり、「わいどの木」とは「私たちの木」であり、それは青森ヒバを指す。
青森ヒバにほれ込んだ要太郎さんは、
会社名までも青森ヒバにしてしまっていたのだった。
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木のある暮らし 青森・わいどの木のいいもの
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わいどの木
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