連載
posted:2018.6.22 from:神奈川県鎌倉市 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
豊かな歴史と文化を持ち、関東でも屈指の観光地、鎌倉。
この土地に惹かれ移り住む人や、新しい仕事を始める人もいます。
暮らし、仕事、コミュニティなどを見つめ、鎌倉から考える、ローカルの未来。
writer profile
Yuki Harada
原田優輝
はらだ・ゆうき●編集者/ライター。千葉県生まれ、神奈川県育ち。『DAZED&CONFUSED JAPAN』『TOKION』編集部、『PUBLIC-IMAGE.ORG』編集長などを経て、2012年よりインタビューサイト『Qonversations』を運営。2016年には、活動拠点である鎌倉とさまざまな地域をつなぐインターローカル・プロジェクト『◯◯と鎌倉』をスタート。
photographer profile
Ryosuke Kikuchi
菊池良助
きくち・りょうすけ●栃木県出身。写真ひとつぼ展入選後、雑誌『STUDIO VOICE』編集部との縁で、INFASパブリケーションズ社内カメラマンを経てフリーランス。雑誌広告を中心に、ジャンル問わず広範囲で撮影中。鎌倉には20代極貧期に友人の家に転がり込んだのが始まり。フリーランス初期には都内に住んだものの鎌倉シックに陥って出戻り。都内との往来生活も通算8年目に。鎌倉の表現者のコレクティブ「全然禅」のメンバー。
http://d.hatena.ne.jp/rufuto2007/
長い歴史と独自の文化を持ち、豊かな自然にも恵まれた日本を代表する観光地・鎌倉。
年間2000万人を超える観光客から、鎌倉生まれ鎌倉育ちの地元民、
そして、この土地や人の魅力に惹かれ、移り住んできた人たちが
交差するこのまちにじっくり目を向けてみると、
ほかのどこにもないユニークなコミュニティや暮らしのカタチが見えてくる。
東京と鎌倉を行き来しながら働き、暮らす人、
移動販売からスタートし、自らのお店を構えるに至った飲食店のオーナー、
都市生活から田舎暮らしへの中継地点として、この地に居を移す人etc……。
その暮らし方、働き方は千差万別でも、彼らに共通するのは、
いまある暮らしや仕事をより豊かなものにするために、
あるいは、持続可能なライフスタイルやコミュニティを実現するために、
自分たちなりの模索を続ける、貪欲でありマイペースな姿勢だ。
そんな鎌倉の人たちのしなやかなライフスタイル、ワークスタイルにフォーカスし、
これからの地域との関わり方を考えるためのヒントを探していく。
以前にコロカルでも紹介された「カマコン」は、
鎌倉に拠点を置くIT企業の有志たちによって立ち上げられた
地域活性のプラットフォームだ。
2013年に始まったこの取り組みは、いまやIT企業の枠を超え、
多くの参加企業、会員を抱えるまでに成長し、
そのユニークな取り組みは、全国30を超える地域に派生している。
このカマコンの立ち上げにあたり、中心的役割を担ったのが、
〈面白法人カヤック〉の代表・柳澤大輔さんだ。
ゲーム、広告、Webサービスなどの分野でユニークなコンテンツを制作するともに、
サイコロによって給与が変わる「サイコロ給」や、
全国を移動するバスの中で行う「旅する会社説明会」などの取り組みでも
話題を集めてきた同社は、2014年に上場を果たし、
いまや日本を代表するIT企業のひとつだ。
そんなカヤックは創業以来、先に触れたカマコンのみならず、
鎌倉のまちとの関わりを一貫して大切にしてきた企業でもある。
近年では、一旦中止が決まった2017年の鎌倉花火大会において、
市民主導による実行委員会の立ち上げに関わり、
「復活開催」の実現に大きく寄与するなど、時に地域企業の代表として、
時に一市民としてまちに関わってきた柳澤さんは、
2017年に「鎌倉資本主義」という新しい概念を提唱。
そして2018年4月には、〈まちの社員食堂〉
〈まちの保育園 かまくら〉をオープンするなど、地域活動を加速させている。
ステレオタイプな企業の地域貢献活動とは一線を画し、
まちと企業の関係性を更新するカヤックの取り組みについて聞くために、
鎌倉中心部にオープンした、まちの社員食堂と、まちの保育園 かまくらを取材した。
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柳澤さんを含むカヤック創業者3名は、鎌倉のすぐ隣、
藤沢市にある慶應義塾大学SFC時代からの仲間だ。
学生時代からなじみのある土地だったという鎌倉に本社を置いている理由について、
柳澤さんはこう語る。
「“面白法人”を掲げる僕らは、おもしろさの定義を多様性と捉えていて、
社員ひとりひとりが個性を生かし、社会で輝くことが
『人として豊かであること』だと考えています。
同じように、個性ある企業が、それぞれの地域で、
まちの特色を生かしながら活躍することが、
多様性をもたらすことになると思うんです」
まちの特色を生かしながら企業が活躍する、とはどういうことだろうか。
例えば、カマコンでは毎月行われる定例会で、
まちに関わるプロジェクトのアイデアを市民たちがプレゼンし、
その実現を支援するために、来場者全員が「ブレスト」に参加する。
カマコン自体は、カヤックが運営しているものではないが、
この「ブレスト」は、カヤックのアイデンティティとも言えるメソッドだ。
多様な人たちがアイデアを出し合い、
新しいプロジェクトをかたちにしていくブレストは、
さまざまな思想、宗教、文化的背景を持つ人たちが交流し、
独自の文化を築いてきた鎌倉というまちの土壌にもフィットする。
また、日本のナショナルトラスト発祥の地であり、
現在も多くの市民団体が存在する鎌倉は、市民参加型のカマコンとも相性も良く、
その結果カマコンは、まちを活性化させる重要なエンジンになったのだ。
事業を順調に成長させ、2014年には上場企業となったカヤックだが、
その過程のなかで柳澤さんは、「資本主義」のあり方に思いを巡らせるようになる。
「資本主義とともに成長してきた株式会社は、
一度大きくしたら止まらなくなる性質があるし、上場すればなおさら成長が求められる。
売上や利益を拡大していくことは、ある種スポーツ的なおもしろさがあるのですが、
富の格差や環境問題が深刻化するなかで、現在の資本主義の限界も感じていたので、
何か新しいかたちを示す必要があると考えるようになりました」
そこから生まれたのが、2017年に柳澤さんがブログで骨子を公開した
「鎌倉資本主義」だ。
資本主義の考え方や仕組みをベースにしながら、
人や企業が豊かであるために必要な「地域資本」を伸ばしていくことで、
企業の成長と地域の持続可能な発展を両立させるという考え方だ。
「資本を増やすという会社の得意な面を生かしながら、
売上や利益などの『経済資本』に加え、
人とのつながりやコミュニティなどの『社会資本』、
自然や歴史などの『環境資本』という地域資本を伸ばしていくことが、
カヤックが考える新しい資本主義のあり方であり、
今後企業が果たしていく社会的責任なんじゃないかと」
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「鎌倉資本主義」を掲げるカヤックは、ここにきて地域との接点を次々と増やしている。
2017年には、子どもたちがクリエイターに教わりながら
ものづくりをするワークショップスペース〈かまくらツクルンダ!!村〉を立ち上げ、
さらに今年4月には、鎌倉で働く人、暮らす人を応援することを掲げ、
〈まちの社員食堂〉〈まちの保育園 かまくら〉をたて続けにオープンした。
「例えば、まちの社員食堂では、地域資本を増やしていくことを見据え、
地産地消であることや、鎌倉で働く人同士がつながれる場になることを意識しています。
この社員食堂は、さまざまな企業やお店に垣根を超えて協力してもらっているのですが、
鎌倉資本主義は、『みんなでやる』ことが大事だと思っています。
それを実現させていくうえで、オール鎌倉でつながれるOSとして、カマコンは
とても役立っているとあらためて感じています」
鎌倉資本主義では、「地域の企業との共創経営」を掲げ、
1社に就労するのではなく、その地域に就労するようなワークスタイルも提案している。
これまでにも鎌倉の飲食店のあいだでは、ひとりが複数の店舗で働くことで、
人手不足を解消していくような緩やかな連帯が生まれていた。
鎌倉資本主義は、こうした鎌倉ならではのコミュニティのあり方、
つまり地域資本を言語化し、より強化していくことにも寄与するのかもしれない。
カヤックでは、職住近接を推進するため、
鎌倉近郊に住む社員への住宅手当などの補助をするとともに、
カマコンや地域ボランティアへの参加も促している。
「一般的に会社は、『何』をするかが問われるところですが、
カヤックでは、『何』よりも『誰』とするかを重視してきました。
まず社内の仲間たちが楽しいことはもちろんですが、
会社以外にも複数のコミュニティに属していたほうが、
楽しさや幸福度は増すはずなんです」
会社を成長させる事業(「何」)を生み出すうえでは、
「誰」と「どこ」で仕事をするかが大切だという考えのもと、
企業としての成長と、社員ひとりひとりの豊かさの両立を目指すカヤック。
すでに同社は300名を超える大所帯になっているが、
実際のところ、社員たちの地域へのコミット度合いはどのくらいなのだろうか。
「エンジニアが多いカヤックは、基本的にインドア思考の人間が多く(笑)、
カマコンや地域ボランティアに積極的に参加しているのは、おそらく2、3割程度です。
彼らは個人的にプログラミング教室などを行っているのですが、
会社としてはそのくらいのバランスでちょうどいいのかなと思っています」
まちで暮らし、働く人たちの自主性を重んじながら、
「何を」、「誰と」、「どこで」という個人の選択肢を、
企業における「経済資本」、「社会資本」、「環境資本」と重ね合わせていくことで、
地域、企業、個人がなめらかにつながっていくこと。
それが、柳澤さんが思い描く、「鎌倉資本主義」の理想的なあり方なのかもしれない。
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社員食堂、保育園といった個別のアクションと並行して模索しているのが、
経済の指標であるGDPに代わる、「地域資本」の指標を設定することだという。
「企業は、指標を追いかける性質があるので、
『鎌倉資本主義』を推進していくためには、
地域資本を測る指標が必要だと思っています。
例えば、ブロックチェーンなどの新しい技術を活用した指標をつくり、
その総量を増やしていくことに、地場の企業や市外から参入してくる企業が
コミットできるようになればと考えています」
そして、これらを実現させた先に柳澤さんが見据えるのは、
「地域資本主義」の考え方や仕組みを、
鎌倉から日本、さらには世界に発信していくことだ。
「鎌倉には、多様性や先端性を世界に発信していくうえで
優位なイメージや知名度があるし、社員食堂に関しても、
すでにやりたいという声が他地域から上がっています。
カマコンが5年間で全国に広がったように、
鎌倉でできることはほかの地域でもできるはず。
地域資本主義という考え方を、地域資本を測る指標とともに発信していくことで、
同時多発的な動きにしていきたいですね」
「つくる人を増やす」という企業理念を掲げてきたカヤックは、
鎌倉資本主義の一環として、世界各地に広がる市民工房ネットワーク
「ファブラボ」の日本における草分けである〈ファブラボ鎌倉〉とともに、
〈FABCITY KAMAKURA〉というプロジェクトも推進している。
クリエイティブとテクノロジーの力で、ものづくりの拠点が
点在するまちをつくっていくことを掲げるこの活動のように、
鎌倉資本主義は、まちに新たな文化を育んでいくことにもつながっていきそうだ。
「自分たちが新しい文化をつくれているかはわかりませんが、
少なくとも、外から入ってきた人や企業にも開かれ、
みんなが自分ごととして地域づくりに参加できるまちはすてきだと思っています。
カマコンもそれを促していくためのプラットフォームですし、
新しい考えをどんどん取り入れていける地域であるといいですよね」
多様性、先進性、発信力を兼ね備える鎌倉というまちがリーダーシップを発揮し、
地域社会の未来をつくっていく。そんな壮大なヴィジョンのもと、
今後も「まちの人事部」、「まちの映画館」などの展開を控えている柳澤さんに、
理想的なまちの未来像について聞いてみた。
「老後のことを考えたときに、安心して暮らせる環境がイメージできる一方で、
いい意味でどうなっているか想像できないワクワク感もあるまちだといいなと思います。
現時点で鎌倉がそういうまちになっているのかはわかりませんが、
70代の方がカマコンに参加して楽しそうにしているのを見ると、
自分が年をとっても楽しそうだなと思える。
自分たちだけががんばるのではなく、
みんなでそういうまちをつくっていけるといいですね」
information
まちの社員食堂
住所:神奈川県鎌倉市御成町11-12
営業時間:8:00〜9:30/11:30〜14:00/18:30〜21:30(21:00 L.O.)
定休日:土曜・日曜
information
まちの保育園 かまくら
住所:神奈川県鎌倉市小町1-13-28
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