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すべては鎌倉のために。
ITを使った参加型支援
カマコンバレー前編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.011

posted:2015.7.7   from:神奈川県鎌倉市  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!

editor’s profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

メイン撮影:Suzu(Fresco)

“まちに住む”ために、自分たちができること

鎌倉を愛するIT業界が集まっているから〈カマコンバレー〉。
そんな名前で活発に活動している団体がある。
シリコンバレーをもじったものだが、まったくといっていいほど方向性は異なる。
冗談とも思える名前だが、活動に対してはいたって本気なのだ。

鎌倉には、東京から移転してきたIT系の会社がいくつかある。
東京時代からそれぞれ面識があったが、やがて1社が鎌倉に移転し、
そのシェアオフィスに東京の知り合いを誘い……ということを繰り返し、
のちにカマコンバレーを結成することになる7社(カヤック、グローバルコーチング、
ランサーズ、テトルクリエイティブ、村式、ジャンプスタート、小泉経営会計)が
鎌倉に揃った。

「普通に考えればIT企業同士は競合ですが、みんな鎌倉が好きで移転してきた会社。
仕事を奪い合うより、仲良くなったほうが鎌倉で活動するのに健全だと思ったんです。
それなら、みんなの得意な能力であるITの力を使ってなにかやろう、
というところから始まりました」と教えてくれたのは、広報の北川幸子さん。
北川さんは、テトルクリエイティブの社員である。
カマコンバレーは、いろいろな企業で本職を持つ人たちの共同体なのだ。

素朴な疑問が浮かぶ。
カマコンバレーは、東京から移転してきた企業を中心に立ち上がった。
しかし東京では生まれなかった。なぜだろう?

「東京から鎌倉に移転して、“まちに住む”ということを楽しむようになったと思います。
東京にいるときは、極端に言うと“仕事を充実させること”がいい生活であり、
そこに地域性は入り込んできませんでした。
しかし、みんな仕事だけをする生活に違和感を感じてきています。
特に鎌倉には、仕事と生活のバランスをうまくとっている人たちがたくさんいます。
その“ワークライフバランス”を良くするために、地域と密着して営みに関わり、
地域を盛り上げたいと思っています」と北川さんは言う。

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トライ&エラーを高速で回す!?

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動き続ける鎌倉の文化

現在カマコンバレーには、140名ほどの会員がいる。会員は月会費1000円。
これを払えば月1回の定例会に無料で参加できる。
ちなみに会員ではなくても1000円払えば参加は可能だ。

定例会では毎回5名ほどが、鎌倉を良くするための活動案をプレゼンテーションする。
それに対して参加者全員でブレストし、
実際に月2本程度のプロジェクト発足を目指している。
この実行力とスピード感、なんともIT企業らしい。

約110名が集まった月1回の定例会。

東京の〈関心空間〉CEOだが、
鎌倉在住のカマコンバレー会員でもある宮田正秀さんは言う。
「反対があったら止まりますが、合議はしないというルールで進めています。
トライ&エラーを高速で回すという、
IT企業の特徴を体験している人が多いことで可能になっているやり方ですね。
移住して数年の人たちが牽引していることは確かです。
しかし、よくよく地元・鎌倉育ちをひも解いてみると、
立ち止まっていない人もたくさんいるんです」

また、カマコンバレーの〈禅ハック〉というイベントを担当している
今村泰彦さんもこう続ける。
「鎌倉には昔から、動き続ける土壌があったようです。
どちらかというと、僕たちが土地の力に当てられて、動かされているのかもしれません。
古くからここにある建長寺の高井正俊宗務総長は、
それを『鎌倉の文化だ』と言い切っていますね」

“IT企業の長所”と“鎌倉らしさ”は、意外と親和性が高いようだ。
そこで実際に、6月に開催された定例会に参加してみた。
取材申し込み時に「取材自体は問題ありませんが、ブレストにぜひ参加してください。
傍観というのはありません。“ジブンゴト化”してください」と念を押された。
なかなか徹底している。

漫画家・安野モヨコさんが所属するクリエイターエージェンシー〈コルク〉の佐渡島庸平さんもプレゼン。

この日にプレゼンされたのは、
「寅さんプロジェクト」「オチビサンを鎌倉の魅力を伝えるキャラクターに!」
「市議会議員の中間発表会」「鎌婚」
「鎌倉市の会計から『変化の予兆』を読み取って鎌倉市を発展」の計5本。
すべてのプレゼンが終わると、参加者は、気になる提案ごとに班に分かれてブレストする。
これも短い時間でまとめなければならないので、頭をフル回転!
“この考えは適切だろうか”と自分の頭のなかで推敲しているヒマはない。
思いついたことを次々と口にしていく。

その後、班ごとにさまざまな意見をひとつの案にまとめて発表する。
すべての班の発表が終わると、
プロジェクトとして参加してみたいものに手を上げて参加表明する。
こうして賛同者が1名でもいれば、いったんはプロジェクトとして回り始めるというわけだ。
もちろん、この段階から企画が練り上げられたり、転がっていくこともあるが、
目的に向かって“一歩踏み出す”ということが重要なのだろう。
それによって、背中を押してくれたり、想いに共感する人が現れるからだ。
すると、いろいろなことが自然発生的に動き始めたりする。

グループに分かれてブレスト。一気に熱を帯びる。

「勝手に事柄が起こって、集まって、動く。
そうやってずっと回っていくのが目指しているカタチです。
目的が同じであれば、“好き放題”にはなりません。
カマコンバレーは、
上下関係やヒエラルキーがあるようなものではありません」と宮田さん。

それはほとんどがボランティアで参加しているというところからも伺い知れる。
それどころか、会費まで払っている。
“お金を払ってまで、なんでボランティアしているの?”とよく聞かれるようだ。
それには「おもしろいことに混ざる参加費だよ。もしくは町内会費みたいなもの」
と答えると言う宮田さん。
リアルな町内会とパラレルに、バーチャル町内会も存在する。
お互いが刺激し合い、最終的にはリアルな場でアイデアが生かされていく。

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キャッチフレーズは、“この街を愛する人を、ITで全力支援!”

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ITというツールの使い方

カマコンバレーのキャッチフレーズは、“この街を愛する人を、ITで全力支援!”だ。
ITの役割を表現するときにこれまでよく使われてきたのは、“世界をつなぐ”という言葉。
どの地域の人とでもコミュニケーションできて、つながることができる。
そういう意味ではこれまでローカルとは対極のイメージだったかもしれないが、
カマコンバレーが証明している通り、実はローカルでもとても有用だ。

鎌倉のお祭り〈鎌人いち場〉にカマコンバレーが出展。青空ブレストが行われた。

「IT自体は、インフラに過ぎません。
すべての地域に対して、エンパワーメントできるツールです。
インフラとして末端まで通じるようになったからこそ、
ローカルのおもしろさがみんなに伝わるようになって、
いままで気がつかなかったことに気がつくようになってきたのだと思います」
と言う今村さんは、自身も最近までシリコンバレー系の企業にいて
グローバルばかり見ていたが、最近ではローカルのほうがおもしろいと感じているという。

「コミュニケーションと共感の起きるスピード、
そして事柄が連鎖するネットワークという点で、
ITをはじめ、ソーシャルメディアとスマホの役割は大きいと思います。
ただしカマコンバレーはITを活用はしていますが、
世界に轟く技術を開発したり、使っているわけではありません」と宮田さんは言う。

カマコンバレーは、ITといっても、“新しくて特別な技術”というよりも、
IT業界のものごとの進め方やロジックが、現代的な手法として活用されているのである。
それは古都・鎌倉においても役に立っているようだ。

後編【数々のプロジェクトを通して鎌倉の輪が広がる。 カマコンバレー後編】はこちら

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