連載
posted:2014.1.14 from:兵庫県淡路市 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
「貝印 × colocal ものづくりビジネスの未来モデルを訪ねて。」は、
日本国内、あるいはときに海外の、ものづくりに関わる未来型ビジネスモデルを展開する現場を訪ねていきます。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
淡路島美術大学(=あわび)主宰の岡本純一さんは、
東京に住んでいたときは、現代美術作家として活動していた。
資生堂ギャラリーで展覧会を開くなど、その活動は順調であったが、
あるとき、淡路島への移住を決めた。
「東京にいたときは、
アートのためのアート作品をつくっていたように思います。
生活からかけ離れた活動に、ずっと違和感を感じていたんです」
違和感を持っていたからこそ、すんなり移住することができた。
そして淡路島では、生活と密着したものづくりを実現している。
自宅は海沿いの道路から、少し丘を登った見晴らしのいい立地。
築100年ほどの古民家をリノベーションして暮らしている。
薪で焚いているお風呂からとび出した煙突が目印だ。
ゆっくりと温かくなっていくのが心地いいという。
家にお邪魔すると、大きなロケットストーブが鎮座している。
しかしこれはちょっと失敗作。薪ストーブの導入を検討しているという。
このように、失敗という過程すら楽しみながら、少しずつ改装している。
自宅へと登っていく途中にある畑を借りて、自然農で野菜などを育てている。
最低でも「子どもたちが食べる野菜くらいは自分たちの手で育てたい」と、
子どもの食には強い関心を寄せている。
その延長線上として、
奥さんの寛子さんを中心に、自然農の学びの場を立ち上げている。
奈良にある赤目自然農塾で長年スタッフを務めてきた大植久美さんと
吉村優男さんを招いて行われる月1回の勉強会だ。
地域住民を集め、みんなでからだを動かしながら、
食を媒介にしたコミュニケーションの場としても機能している。
オーガニック食材などを集めた『あわびプチマルシェ』も開催。
他県へ視察に行くなどして、淡路島での食への関心を高めようと活動する。
淡路島は食糧自給率が100%を超える。
そんな土地だからこそ、
自然農や無農薬・無肥料など食文化への関心を高めていけば、
生まれる効果も大きいのではないか。
食は子どもたちの未来に直結する。
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「あわび」では、多くの展覧会やワークショップなども開催している。
中心に据えている哲学は、
“子どもの食べ物と、子どもの感性。そしてかつて子どもだった大人へ”
例えば一昨年開催された『あわびと子どもの美術館』では、
体験型のワークショップや展示、
さらには農作物の生産者を招いて勉強会や試食会、農作業体験などが行われた。
「子どもたちに手を使ったものづくりをさせたかった」と語る岡本さんは、
海や山で遊んだり、何かをつくる体験を通して、
子どもたちの豊かな想像力を育みたいのだ。
子どもは無条件にアート作品を楽しめるが、
大人は構えてしまって素直に楽しめない。
その殻を破って、子どものころの気持ちを思い出させようとする。
「そうすることで、世の中が見えてきて、考え始めることができると思います。
情報を受けるだけで、何も考えられなくなってきていると思うんです。
野菜ひとつとっても、“これはどこでどのようにつくられたのか”、
そうしたことを考えるきっかけになればいいと思います」
取材時、淡路島美術大学では、
器や家具などの生活道具を通して“穏やかさ”について考える
『穏やかな家』という展覧会が開催されていた。
あわびウェアの他にも、陶芸作品や木工作品などが並ぶ。
それらは生活道具であるので、ほとんどが購入可能だ。
またアトリエの一画では、
翌日の本番に備えた演劇プロジェクト『アトレウス家』シリーズの
最新作「淡路島在住アトレウス家」上演のため、
準備とリハーサルが進められていた。
淡路島内外のアーティストを招き、作品を展示していくことで、
地域住民へメッセージを送っている。しかし反応してくれるのは、
まだまだ移住者のほうが多いというのが現状のようだ。
奥さんの岡本寛子さんはこう語る。
「淡路島のひとは、アートへの関心があまり高くないようです。
食も含めて淡路島のいいところにも気がついていなくて、
まだまだいいものは都会にあるという価値観を持っています。
神戸にすぐ行けてしまうという立地のせいもあると思いますが、
休日は都会に出て、デパートや大型スーパーなどで買い物しています。
だからあせらず、まずは移住者から熱を帯びていって、
“あそこは何か面白いことやっているらしい”と、
少しずつ地元にも認知されていければいいと思います」
それでも最近では、地元のおばちゃん農家も無農薬栽培に挑戦し始めるなど、
少しずつ、あわびイズムは広がっているようだ。
このように、淡路島美術大学のアートやものづくりは、
ライフスタイルとともにある。ある意味、“岡本家=あわび”だ。
「正直、移住当初はメッセージ性を強く出そうとして力んでいました。
でもだんだんと肩の力が抜けて自然体で活動できるようになっています」
「暮らしから仕事が生まれているし、壁がどんどんなくなっています」
と寛子さんの表情も明るい。
生活と密着しているという意味では、
あわび焼の器や食器は非常にシンボリックな役割を担っている。
展覧会やワークショップ、彼ら自身のライフスタイルから
何か感動を得た住民が、“モノを選ぶ、買う”という行為に
もっと意識的になってくれればうれしい。
芸術活動というものが、生活とはパラレルな存在になってしまっていた。
しかし「どこからがアートでどこからが商売なのか。
融合しているのでわかりません」と岡本さんが語る通り、
現在ではその概念は崩壊している。
ライフスタイル自体が作品であり、ものづくりであるという
原点に立ち返っているのだ。
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淡路島美術大学
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