連載
posted:2013.10.15 from:大阪府 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
「貝印 × colocal ものづくりビジネスの未来モデルを訪ねて。」は、
日本国内、あるいはときに海外の、ものづくりに関わる未来型ビジネスモデルを展開する現場を訪ねていきます。
editor profile
Tetra Tanizaki
谷崎テトラ
たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。http://www.kanatamusic.com/tetra/
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
熱を直接電気に変える「発電鍋」。
大阪を拠点に事業を展開するTESニューエナジーの藤田和博社長は、
東日本大震災をきっかけにこの発電鍋を開発した。
しかし震災のような非常時は別にして
日本国内で商品としての需要はあるのだろうか。
いまやどこにでもコンセントがある。
むしろ薪を使って火をおこすほうが難しい。
その需要は意外なところからやってきた。
世界のさまざまな国の無電化村からの問い合わせだ。
藤田さんの友人がアフリカに行くので発電鍋をどうしてもほしいという。
そこで1台送った。
そしてアフリカのウガンダで学校を建てるプロジェクトで実際に使用された。
彼らが携帯の充電やLED用の発電ができることを実証したのだ。
「発電鍋をたくさんつくって送ってほしい」
そのとき初めて電気がないところにマーケットがあることがわかった。
特に、アフリカ、あるいはバングラデシュ、インドなどの途上国には
大きな可能性がある。
ネットで通販を立ち上げて海外でも買えるようにした。
南米パタゴニアで自給自足の生活をしている中溪宏一さんも愛用者のひとりだ。
「たまたま電気のない環境で、毎日、薪で火を焚く暮らしだったから、
こんなに重宝なものはないですよね」と中溪さん。
「料理をつくる火力で音楽が聴けたり、一度バッテリーにためておけば、
電気が必要なときにパソコンの充電に使ったり、夜の電灯に使ったり。
同時にお湯ができるわけだから、お風呂を湧かしながら電気もつくってしまえる」
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世界各地から注文がやってきた。
アフリカでは、コンゴ、ウガンダ、ケニア。
ヨーロッパでは、ドイツ、フランス、スイス、ベルギー、ポーランド、
イタリア、スウエーデン、ノルウエー。
さらにアメリカ、カナダ、ブラジル、
インド、ニュージーランド、インドネシアからもだ。
アメリカからは、ハリケーン・サンディが発生したときに
ニューヨークのNPOからの発注がきた。
もともと東日本大震災がきっかけで開発した発電鍋。
災害時に活躍することが実証された。
イギリスのプロジェクトでは、コンゴのジャングルで使った。
雨が降ることが多いコンゴの密林の中では太陽光パネルは使えない。
そこでも発電鍋は大活躍した。
発電鍋は発電素材を鍋底に入れることで熱を電気に変える。
使用する鍋はそれぞれの国のライフスタイルによって違う。
お茶を飲む文化がある国では、発電できる「やかん」の需要がある。
またインドやアフリカなど、取手のない鍋を使っている地域では
やはり取手のない形状が好まれるのだそうだ。
それぞれの国からポピュラーな鍋を送ってもらいその形状にあわせて開発する。
また先進国でもアウトドアの文化がある国では、
キャンプ用のコッヘルに発電素材を使ったものを開発した。
世界中から発電鍋の使われ方の報告が届いた。
「技術の開発が先で潜在的なマーケットがあると後からわかった」と藤田さん。
「できたら携帯だけでなく、パソコンの充電ができるものがほしい」
世界中から届く要望で40WのDC12V、AC100Vが発電できる機種を開発した。
40Wあれば、PCの電源としては十分使える。
さらに150Wの電気をつくる商品を開発した。
今の液晶TVはだいたい30Wくらい。冷蔵庫の省エネタイプは60Wくらい。
150Wあれば、生活の基本はまかなえる。
アラスカで暮らす人たちは雪を溶かして飲料水をつくるが、
その過程で電気もつくれるのが助かるという。
スイスの人たちは夏の間、電気のない山間部別荘で過ごすことがあるという。
そのときに発電鍋が重宝するというのだ。
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藤田さんはアフリカで女性が自立するための発電屋台を考えた。
薪・炭の火からの熱電発電と太陽光発電のハイブリッド発電の屋台で、
60~100Wが発電可能。
昼間は太陽光発電と発電鍋、夜は発電鍋で発電しバッテリーに貯めながら
照明、テレビ、冷凍冷蔵庫などの電気を供給できる。
TESニューエナジーはどういう背景で立ち上がったのだろうか。
藤田さんにこれまでの経歴をうかがった。
「基礎技術を見つけ、予算を確保したり、ベンチャーの社長を見つけてくる。
そんな仕事をしてきました」
藤田さんはもともとバイオや医療関係の外資系企業でマネジメントの仕事をしてきた。
研究者ではなく、プロジェクトを立ち上げるプロフェッショナルだった。
いくつかのキャリアを重ねたのち、産業技術総合研究所(以下、産総研)に関わることになった。
産総研はもともと経済産業省の管轄の独立行政法人だ。
ベンチャーをつくるための人材として2004年より約10年関わった。
産総研が持つ技術からベンチャーとして世に出すスタートアップアドバイザー。
ベンチャーを立ち上げるためのプロジェクトマネージャーだ。
「技術を外に出して製品化する、役に立つものをつくること、
特許のライセンスを企業に与えて商品化することは、日本が得意としてきたことでした。
しかし、日本の企業はある時期から新しい試みが少なくなった。
そこでベンチャーとして世に出すスキームが必要になったのです」
藤田さんはこれまでさまざまなプロジェクトに関わってきた。
熱の移動を測定する技術を持つベンチャー企業「ピコサーム」の立ち上げ、
物質の振動を利用して触感する技術(触力)を利用したプロジェクト、
単結晶ダイヤモンドより高い硬度を持つ、
ナノ結晶ダイヤモンドを利用した開発などが代表的なプロジェクトだ。
これまで関わってきたさまざまな技術のなかでも「熱を電気に変える技術」に
ベンチャーの可能性を感じ、
藤田さん自らベンチャーの社長なって立ち上げた会社が、TESニューエナジーである。
「熱を電気に買える技術をワールドワイドに広げていく。
それが企業としてのミッションです。
電気のない地域に供給できる製品をつくっていきたい。
系統電源に頼らないオフグリッドの技術を伝えていきたいです」
先端技術が新しい価値を持つ商品を生み、市場ができる。
環境に配慮した技術や製品が広がり、最貧国の暮らしを支える。
新しいライフスタイルを生み出す。
藤田社長の夢は広がる。
information
株式会社TESニューエナジー TES New Energy Co.
独立行政法人 産業技術総合研究所 技術移転ベンチャー
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