連載
posted:2013.8.6 from:東京都港区 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
「貝印 × colocal ものづくりビジネスの未来モデルを訪ねて。」は、
日本国内、あるいはときに海外の、ものづくりに関わる未来型ビジネスモデルを展開する現場を訪ねていきます。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
家具、インテリアなどのプロデュースカンパニー「t.c.k.w」の
プロジェクトである「ubushina」。
漆、金箔、鋳物、陶磁器、和紙、布、木工など伝統的な素材や技術を用いながら、
家具・照明器具・アートオブジェなどの製作やプロダクトの開発を行っている。
ubushinaを漢字で書くと“産品”で、
生まれた場所という意味の産土(うぶすな)と
同じ意味を持つ日本の古語である。
そんな純和風のネーミングを持ちながらも、代表である立川裕大さんは、
もともとヨーロッパ系のインテリア企業に勤めていた。
仕事やプライベートでミラノサローネなどの本場に出かけていくうちに、
こんな言葉をきくことがあった。
「日本人は、なんでイタリア人みたいなデザインをしているんだ?」
そしてあるイタリア人建築家のアトリエで
デザインの社会性という視点を目の当たりにする。
美しいデザインは、実は社会に対する答えのひとつであると気がついたのである。
それらを感じた30歳頃、
自身もまだ若く日本や社会との結びつきはわからなかったが、
ビジネス的な成功や利益のためだけに力を注ぐのではなく、
もっと足もとを見つめ直さなければならないという思いが
頭のどこかに残っていた。
1999年、33歳で独立。するとすぐに富山県高岡市から声がかかった。
高岡はもともとものづくりで有名なまちだが、当時はすごく冷え切っていたという。
かつてから、伝統工芸と現代的なデザインを
組み合わせるような試みは行われていたが、そのほとんどが一度つくって、
大きな展示会などで発表して終わりというものだった。
そんな一過性なことでは意味がないと思った立川さん。
そこで思いついたのが、「ものではなく技術を売りましょう」というアイデアだ。
前職で、店舗や施設などのオーダーメイドを手がけていた立川さんにとって、
そのニーズがあることもわかっていた。
「例えば薄いガラスを使ったグラスをつくれるのならば、
その技術を使って照明器具にしたいひともいるかもしれないし、
アートワークをつくりたいデザイナーがいるかもしれないですよね」
そして200種類ほどのマテリアルサンプルをつくり、東京で紹介をはじめた。
もちろん最初は鳴かず飛ばず。うまくいく確信はなかったが、
「巨匠建築家のアンジェロ・マンジャロッティがつくったシャンデリアは
ムラーノグラス(イタリアのムラーノ島の伝統技術)だったなぁ」
など、世界のいくつかの成功事例が立川さんに勇気を与えていた。
2003年に目黒のギャラリー&ホテルのCLASKAで照明製作の依頼が入り、
そのころから伝統技術が“売れる”ようになってきた。
これらマテリアルサンプルをもとに生まれるのは、
伝統技術を用いつつもコンテンポラリーなデザインの商品。
ubushinaにオファーしてくる設計事務所やデザイナーは、
伝統技術を拡張してくれる。
「伝統工芸職人が培ってきた技術や知恵を、そのままトレースするのではなく、
上書きしていかないといけません。
しかし、職人にまったく新しいことをやってくれといっているわけではなく、
新しい枝を生やしましょうという提案なんです。根っこは変わりません」
水は流れていないとよどんでしまう。伝統技術に甘んじてはいけない。
過去もしっかり見ている立川さんだからこそ、未来を職人へ語ることができる。
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仕事が次第に軌道に乗るようになってきた要因として、
「日本人のルーツコンシャスが進んだこと」もあげられるという。
原点回帰して、自分たちのルーツを問うようになってきた。
かつてはすべて地産地消であった。だからアイデンティティが濃かった。
しかし次第に別の消費地で売られるようになると、
アイデンティティは薄れ、どこでも同じようなものに。これがグローバリズムだ。
「職人さんたちによく言うのが、
もう一度、自分たちの足もとを見つめ直しましょうということなんです。
伝統技術は郷土料理みたいなもの。その土地に根づいた理由がある。
だから自分たちにしかできないことが必ずあるはず。
その大切なものを一番中心において、そこに呼び込んでくればいい」
地元に呼び込むことができれば、無意味なケンカをする必要はない。
例えば同じ焼き物でも、そもそも美濃焼と波佐見焼はまったく違うもの。
消費地の視点ではなく、産地の視点で考えていく。
それが呼び込むということかもしれない。
そうして仕事が生まれたとしても、
地方は封建的で、職人はガンコ、というのが一般的なイメージ。
そこに上手に入り込む術はあるのだろうか。
「ぼくたちがお願いする仕事は、彼らが普段やっていることとは違う仕事。
“だからこそ楽しいし、それを本業にフィードバックできる”
と思ってもらえる好奇心と向上心がある職人でないとうまくいきません。
だからお願いできる職人とできない職人は、最初からはっきりとわかれるんですよ」
職人のクリエイティブ心をくすぐると、
「今度はどんなムチャブリがくるんだ(笑)」と、
むしろそれを楽しみにする職人も出てくるという。
立川さんいわく「愛すべき変態たち」。
そしてこうも言う、「ぼくらの宝、日本の宝」。
もちろんubushinaとしても、
どの職人がどんな技術を持っているか、どんな特長を持っているか、
しっかりと把握していることが重要だ。
「この職人じゃないとできないことをやりたい」という思いが根底にあるので、
同じ見積もりを多くのひとに取って選ぶこともしない。
こうして職人のプロダクション事務所のような性質が自然とできあがっていく。
これは産地に通い、産地の目線を意識して
信用を構築してきたからできたことなので、
簡単にカタチだけ真似しようとしても難しい。
産地のアイデンティティ、職人の個性。
それらの集積が、日本のものづくりをかたちにしていく。
伝統と最新を持ち合わせている希有な日本だからこそできること。
それがubushinaが見据えている多様性のある未来だ。
次回は、実際にubushinaが発注しているものづくりの現場からレポートする。
information
ubushina
ウブシナ
住所:東京都港区南麻布4-13-9 鈴木ビルB1
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