連載
posted:2013.7.23 from:福岡県北九州市 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
「貝印 × colocal ものづくりビジネスの未来モデルを訪ねて。」は、
日本国内、あるいはときに海外の、ものづくりに関わる未来型ビジネスモデルを展開する現場を訪ねていきます。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
シャボン玉石けんは、化学物質や合成添加物を一切含まない、
無添加の石けんを製造・販売している。
しかし「無添加という言葉がひとり歩きしてしまっているのが現状です」と、
シャボン玉石けんの森田隼人社長は嘆く。
法律上、蛍光剤や合成着色料、香料などのいずれかが入っていないことで、
“○○無添加”と表記することが許されている。
一方、シャボン玉石けんが意味する“無添加”とは、
主成分である“石けん素地”以外に、何も合成添加物が入っていないものを指す。
むしろシャボン玉石けんが“何が添加されていないのか明記せよ”と、
指示を受けることもあるようだが、そもそも何も入っていない。
本末転倒の話ともいえる。
それに加えて、石けんと合成洗剤は「似て非なるもの」と
森田隼人社長も言葉を強める。
石けんは牛脂やパーム脂、オリーブオイル、アボカドオイルなど、
天然油脂に熱を加え、苛性ソーダや苛性カリを反応させながらゆっくりとつくられる。
一方、合成洗剤は、戦時中、不足しがちだった天然油脂を食用に回すため、
その代わりに石油から開発されたものだ。
「このふたつの違いは、あまりはっきりと知られていません。
香りが好きだから、価格が安いから、などの理由で合成洗剤を選ぶのは
消費者それぞれの好みですが、
もしそこに“安心・安全、環境にやさしい”という選択基準が入り込んでくるならば、
少なくとも石けんを選んでいただきたいです」
洗剤などの市場の現状は価格競争になっており、価格は下がる一方。
そのなかで無添加系のシェアはまだ10%にも満たない。
シャボン玉石けんの商品は、九州地区以外では
どこのドラッグストアでも買えるという状況ではない。
それでも無添加のシャボン玉石けんを求めて、
わざわざ隣駅のドラッグストアまで買いにきてくれるという顧客の層が生まれ、
増えてきているのも事実。
それでも、先述のように無添加と謳う合成洗剤というものも存在するから、
誤解が多いようだ。
キャンプをよくするひとならば、
キャンプ場で“合成洗剤使用禁止”の貼り紙を見たことがあるひともいるだろう。
環境配慮への意識が高い場所などでは、すでに石けんは推進されている。
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シャボン玉石けんの工場を訪れ、石けんの製造工程を見学させてもらった。
もっとも核となる石けんの素は、ケン化法と呼ばれる方法で製造される。
上述の通り、天然油脂と苛性ソーダ・苛性カリを大きな釜のなかで炊いていく。
熱して、熟成、また熱して、熟成。これを1週間繰り返していく。
天然由来のものを使用しているので、原料や季節、気温、湿度などによって
反応は変わってくる。よって、 “釜炊き10年”といわれるほど、
釜炊きには熟練の技と経験が必要となるのだ。
シャボン玉石けんでも、
釜焚き職人が五感をフル活用して石けんの素をつくっている。
五感というのは決して大げさではなく、
目で見て、匂いを嗅ぎ、触り、驚くことに味見もするという。
工程のなかの3日目という石けんの素を味見させてもらった。
石けんを舐めるという先入観があったので苦さを想像していたが、
多少ピリッとするが思ったよりも薄味で、食感はムースのようになめらか。
もちろんおいしくはないが、
それでも口に入れても構わないという事実が安全性を物語っている。
中和法という製造方法であれば数時間で完成するが、
それだと原料の油脂に含まれる天然の保湿成分グリセリンが残らないので、
使った後につっぱり感が残ってしまうという。
手間ひまかけてつくられる石けん。
ある意味で、酒蔵の杜氏の作業や発酵食品をつくっているようなものではないか。
石けんというと、固形石けんを想像するひとも多いと思うが、
シャボン玉石けんでは、シャンプーも、ボディソープも、
液体の洗濯石けんもつくっている。
とはいえ、それらもすべて、合成洗剤ではなく石けんである。
固形でも液体でも原料や製法は同じで、
油脂の種類や配合比率などのバランスが少しずつ異なるだけだ。
だからシャボン玉石けんの社員は
実際にハンドソープをシェービングフォームとして使ったり、
洗濯石けんをトイレや玄関の掃除に使ったりしているという。
石けん成分のみという安心感があるからこそ成せる技なのだ。
シャボン玉石けんの製品、そしてものづくりへの思いには、純粋さを感じる。
例えば、香り付きの石けんの可能性について質問した返答のこと。
「当社は香料も一切使用していません。
植物性の天然香料もあり、万人に安全なイメージですが、
例えば肉を腕に乗せて肌が荒れる方はあまりいませんが、
草で肌が荒れる方はたくさんいます。
天然のものでも合わない、という方が実際にいらっしゃるんです。
だから私たちは、すべての他の石けんが使えなかったという方の
駆け込み寺でもありたい。そういう方たちの受け皿でもありたい。
余計なものすべてを取り除いた、一番シンプルなものでありたいと思っています」
愚直なまでに、純然たる無添加石けんを目指す。社長は最後にこういった。
「売り上げうんぬんよりも、ファンを増やしていきたい」
シャボン玉石けんのファンが増えれば、自ずと環境への負荷は小さくなり、
何より自身の健康のためになるのだ。
シャボン玉石けんの目指すものづくりの視線は、未来に向いている。
information
シャボン玉石けん
住所:福岡県北九州市若松区南二島2-23-1
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