連載
posted:2013.7.16 from:福岡県北九州市 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
「貝印 × colocal ものづくりビジネスの未来モデルを訪ねて。」は、
日本国内、あるいはときに海外の、ものづくりに関わる未来型ビジネスモデルを展開する現場を訪ねていきます。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
credit
1910年創業、100年を超える企業のシャボン玉石けんだが、
その歴史は紆余曲折。
選択肢によっては今とはまったく違う企業になったといってもいいほど、
大きなターニングポイントがあった。
もともとは森田範次郎商店として、日用品全般を取り扱う商店であった。
当時、北九州は石炭業でにぎわっており、衣類なども汚れるので、
石けんがよく売れたという。
そうした時代の流れを読んで1961年から先代の森田光德社長は、
合成洗剤の製造・販売を始める。
時代は電気洗濯機が普及し始めたころで、
合成洗剤の売れ行きは順調に伸びていく。
あるとき、“機関車を洗う無添剤の粉石けん洗剤をつくってほしい”という依頼が
国鉄から舞い込む。
その依頼を受けて開発をすすめ、製品も完成した。
そしてその試作品を家で使ってみると、それまで薬を塗っても、
温泉に浸かっても治らず、10年来悩まされていた社長の皮膚の湿疹が
一週間も経たないうちに良くなったという。
しかし合成洗剤に戻すと、1日でまた湿疹が出てくる。
そこで初めて、自分の湿疹の原因が合成洗剤、
つまり自社の製品であったことに気がついた。
1974年、森田光德社長は一念発起し、
それまでの合成洗剤の取り扱いを一切やめ、
無添加石けんの製造・販売を中心に据えることを宣言する。
しかしそれまでの合成洗剤の売り上げは堅調。
社員はみな大反対したが、社長はそれを押し切った。
無添加石けんに切り替えた翌月、それまで月商8000万円あった売り上げが、
78万円にまで落ち込んだ。なんと1%以下。
当然社員からは“ほら、やめましょう”と説得されるが、
社長は「少なくともゼロではない。78万円分購入してくれていたお客様たちは、
こういう無添加石けんを必要としているじゃないか。
まだ合成洗剤と無添加石けんの違いを認識していないだけで、
これから伝えていこう」と踏ん張った。
しかしそこから17年も赤字が続き、社員数も少ないときで5人にまで減った。
それを支えたモチベーションを、現社長である森田隼人社長はこう語る。
「先代は自分自身が、こんなにいい商品はないと思ってやっていました。
また、今でもそうですが、お客様からの感謝の手紙が支えになったようです。
それを見ると途中で投げ出すわけにはいきませんよね」
地道に営業を重ね、90年代になってくると、一般的な環境への意識も高まってくる。
そして決め手となったのが、91年に発行した〈自然流『せっけん』読本〉だ。
石けんの素晴らしさと、合成洗剤との違いを社長自らが説いた。
自然志向の時代も始まり、とうとう翌92年、黒字へと転換する。
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現社長の森田隼人社長は2000年入社。
当時はまだ店舗と商談しても、まずは価格、そしてリベートまで求められていた。
そこから数年すると、時代が変わってきたと実感するようになる。
「例えば新聞店や銀行が、それまではたくさん配れば良かったノベルティを、
良いものを配らないとお客様が受け入れてくれないというように変わってきました。
シャボン玉石けんの商品なら、
環境に優しいというイメージを持たせることができます。
また小売店やドラッグストアでも、店舗イメージとして、
環境や身体に配慮した商品を置かないといけない雰囲気になってきました」
時代とともに、環境への意識が一般ユーザーへも広がってきたが、
それでも「まだ環境にやさしいから、
という理由で買ってくださる方は少ないです」という。
「例えば無農薬野菜を買う方は、
自分や家族に安全だから買うという方が大多数ですよね。
その先にある、環境に良いからものを買うという意識にまでつなげていきたい」
もちろんシャボン玉石けんのものづくりも、つくって終わりではない。
「企業理念として、“健康な体ときれいな水を守る”というものがあります」
石けんの排水は、短期間のうちに水と二酸化炭素に分解される。
川や海に流されると
カルシウムイオンやマグネシウムイオンと結合して石けんかすができるが、
これは微生物の栄養源や魚のエサなどになり、自然へ還る。
「先代が石けんに切り替えたときも、
まだ生活排水がそのまま川へ流されている時代でしたが、
石けんを使い始めたら、イトミミズが戻ってきたという話もあります」
というように、石けんは、身体にはもちろん環境にもやさしい。
そもそもシャボン玉石けんが社屋を構える北九州市は、四大工業地帯のひとつ。
重化学工業が発展し、同時に環境汚染が問題になった。
洞海湾は大腸菌も棲めない死の海と呼ばれた。
空は煙に覆われ洗濯物は黒くなる。そんな60年代を背景に、環境活動へ力を入れ、
今ではOECDの環境・経済を両立した
〈グリーン成長モデル都市〉に選定されている。
他にパリ、シカゴ、ストックホルムと、世界で4都市しか選定されていないものだ。
このような北九州において、
環境にもやさしいシャボン玉石けんの意義も高まってくる。
赤字時代の苦労は計り知れないが、
無添加石けんへの転換は、湿疹が治ったという自身の体験から生まれたもの。
そうした真実味のあるものづくりへの視点は、大きな自信と強さを持つのだろう。
次週は、実際に工場見学して教えてもらった石けんの製造法や、
合成洗剤と石けんの違いを紹介する。
information
シャボン玉石けん
住所:福岡県北九州市若松区南二島2-23-1
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