〈TARO〉山中健生さん
イチゴはもっと、おいしくなれる!
10年越しに掴んだ手応え

山口県の最東部、広島県との県境にある岩国市。
市内でも瀬戸内海に面した由宇町(ゆうちょう)でいま注目を集めているイチゴ農園がある。
農園での直販も、オンラインでの販売も、いつも即完売。
山中健生さん・歩さん夫婦が営む〈TARO〉だ。

「イチゴ本来のおいしさをいかに引き出すか」。
それだけを追求して栽培に取り組んできた山中夫妻の10年を聞いた。

市場に卸すより、おいしく食べてほしいから

TAROでは、4つのビニールハウスでイチゴを育てている。
中を見せてもらうと、イチゴの実が赤く色づき、ミツバチが飛んでいた。
取材を行った1月中旬は、収穫のシーズン。
この時期は農園での直販や発送があるため、毎朝3時に起床。
収穫と検品をしているうちに、あっという間に直販を始める11時になっているという。
ハードな日々が続くが、直販を行う理由はイチゴの味へのこだわりにある。

TAROで栽培している品種は「さちのか」。ビタミンCが多く含まれているのが特徴。TAROでは、先まで赤くなってから収穫している。

TAROで栽培している品種は「さちのか」。ビタミンCが多く含まれているのが特徴。TAROでは、先まで赤くなってから収穫している。

「市場に卸す場合、お客さんが手に取るまでの時間を逆算して、
一番熟した状態よりも早く収穫する必要があるんです。
うちはハウスの横にある販売所で売っているから、一番状態のいいイチゴを、
その日の朝収穫して、そのまま売ることができます。
これが、私たちのイチゴを一番おいしく食べる方法だと思っているので」

おいしいイチゴの噂は、遠くまで伝わる。
一度食べた人の多くはリピーターになり、遠方から買いにくる人もいる。
今でこそイチゴの販売について自信とこだわりを持って話す山中さんだが、
農家になる前の、会社員をやっていた頃は、劣等感を覚えることもあったという。

はたして自分は、仕事に没頭できているか

山中さんは茨城県つくば市の会社で働くシステムエンジニアだった。
25歳のとき、大学院で植物病理学を研究していた、のちの妻となる歩さんと出会う。
農業について楽しそうに語り、「いずれ自分で農業をやりたい」と話す歩さんに、
大きく心を動かされたという。

会社員をやっていた頃には、自分がのびのびと働ける場所を求めて何度も転職した。

会社員をやっていた頃には、自分がのびのびと働ける場所を求めて何度も転職した。

その理由は、組織で働くことから感じる窮屈さだった。

「会社の先輩たちを見ると、エンジニアの仕事を心底楽しそうにやっている。
エンジニアに強い思い入れがなかった自分には追いつけないと思ったし、
『一流にはなれないだろう』と漠然と思ってもいました。
寝ても覚めても仕事に没頭できる人には勝てませんからね。
でも妻と出会って、農業だったら育てる作物も育て方も自分の思ったように決められる。
責任は重たいけれど、いつか没頭できるようになるのでは、と考えました」

組織という枠がないからこそ、知らないうちに自分に課していた枠を超えて、
可能性を広げられるのではないか。そんな期待を農業にかけたのだった。

writer profile

立野由利子 Yuriko Tateno
たての・ゆりこ●福岡の制作会社に勤める傍ら、フリーランスのライターとして活動中。取材記事からパンフレットまで幅広く執筆。アイドル、ZARD、給水塔を愛する95年生まれのみずがめ座。

photographer profile

山本陽介 Yousuke Yamamoto
やまもと・ようすけ●山本写真機店店主。まちの写真屋としての撮影業務に加え、プロアマ問わず全国からフィルムスキャニングの依頼を受けるラボマンとして活躍中。
http://yamamotocamera.jp/

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