colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

感覚を呼び覚ます八丈島の自然体験と
自分と向き合える“島キャンプ”ステイ

東京宝島ピープル
vol.002

posted:2019.3.8   from:東京都八丈町  genre:旅行

sponsored by 東京都

〈 この連載・企画は… 〉  東京には人々が暮らす11の島があり、独自の風土・文化で磨かれた個性を持っている。
今回は、神津島、八丈島、三宅島、大島の魅力をフィーチャー。
知的好奇心旺盛で感性豊かなゲストピープルたちが感じた島の魅力をレポートする。

writer profile

Haruka Shirakata

白方はるか

しらかた・はるか●埼玉県出身、ライター。その土地ならでは仕事や生活にまつわる話を聞くのが大好き。日本酒を嗜むようになって以来、ますます国内旅行と日本文化への関心が高まりました。

photographer profile

Haruka Ariyoshi

有吉 晴花

ありよし・はるか●愛知県出身、東京都在住。渋谷の IT 企業に勤めながら、写真を撮ったりデザインをしています。インタビューされている人の話を聴きながら撮影するのが特に好き。

異なる生態系を成すふたつの火山

「コートを脱ぎたくなる暖かさで驚きました」

羽田空港から、わずか55分。八丈島空港に初めて降り立った、
スノーピーク代表取締役副社長 CDOの山井梨沙さんの第一声だ。

2月にもかかわらず、この日の最高気温は16度。
空港を一歩出れば、歩道の両脇にはヤシの木と赤い花を咲かせたアロエが立ち並び、
亜熱帯の島を思わせる不思議な風景が広がる。

赤い花を咲かせたアロエ

山手線の内側ほどの面積を有する八丈島。
島の東西に異なる年代に生まれたふたつの火山があるため、
上から見ると、ひょうたんのようなかたちをしている。

島の西に位置する〈八丈富士〉は、くっきりとした輪郭線を持つ若い火山だ。
日光と乾燥を好む植物が多く茂り、麓にはフリージアやストレリチアの畑が広がる。

八丈富士

正式名称は「西山」。標高854メートル、伊豆七島最大の標高とその美しさから「八丈富士」の愛称で親しまれている。

7合目にある〈ふれあい牧場〉からは、
八丈島空港と市街地、東の三原山を一望できる。

八丈島で放牧される牛

一方、東に位置する〈三原山〉は、深い皺の刻まれた老いた火山だ。
山の中腹には、島で最も大きな滝〈唐滝〉、日によって異なる輝きを放つ〈硫黄沼〉、
麓には〈やすらぎの湯〉をはじめ、いくつもの温泉を有している。

三原山

正式名称は「東山」。10万年以上前に生まれた火山で、標高は700メートル。

次のページ
ジュラ紀にタイムスリップ!? 太古の森へ

Page 2

太古から守られ続けた八丈島の森

八丈島空港から東へ、車で15分。三原山の麓にある〈裏見ヶ滝〉へ訪れた。
ここは火山の生み出した豊かな水源により、
日陰と湿気を好む植物が多く自生している。

滝壺の周りを八丈島自然ガイドサービス〈椎(しいのき)〉の
大類由里子さんに案内いただく。

10メートルほどの落差ある滝

森を抜けると、10メートルほどの落差ある滝の裏側を散策できる。

「太古の時代、動物たちは本島から海を渡ろうと試みたけれども渡れず、
八丈島には植物の天敵となる動物がほとんどいません。
だから今も独自の生態系が息づいているんです」(大類さん)

現地で自然ガイドとして活動する大類さんは、
八丈島の自然に惚れ込み、都心から移住したひとりだ。

滝壺の周りを散策する山井梨沙さんと大類由里子さん

「私のガイドツアーでは、リュックに調理道具を詰めて山歩きをして、
こうした森の中で食事することも多いんです。アウトドアと食の組み合わせは、
八丈島の自然を贅沢に味わえる最高のアクティビティです」(大類さん)

岩肌に生える珍しい植物を、ひとつひとつ丁寧に解説してくれる大類さん。
滝の飛沫を肌に感じ、青々とした葉に触れてゆっくりと歩くうちに、
数時間前まで都心にいたことを忘れさせてくれた。

「こういうゴツゴツした岩肌も少しじめっとした森も、
小さい頃からアウトドアで親しんできたからか、心がとても落ち着きますね」(山井さん)

月桃の葉っぱを嗅いでみる

「これ、嗅いでごらん」と大類さんから手渡された葉っぱ。その正体は月桃。柑橘にも似た爽やかな香りに驚く山井さん。

続いて訪れたのは、裏見ヶ滝から車で5分ほどの場所にある〈ヘゴの森〉。
大類さんに代わり、〈中之郷ヘゴの森倶楽部〉の菊池義郎さんに、
森の中を案内していただいた。

湿地に足を踏み入れると、耳慣れない鳥の声が聞こえてくる。
人間の握り拳よりも小さな赤い鳥〈タネコマドリ〉だ。
耳に、目に、次々と飛び込むのは太古の風景。
一歩一歩進むごとに、まるでジュラ紀にタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。

ヘゴの森

大小のヘゴシダが1000本以上生えているヘゴの森。1周1.5時間、高低差70メートルの遊歩道は、ハイキング初心者にもやさしい。

ヘゴシダやモンステラの茂る森は、日中でも薄暗い。
幼い頃から島に暮らす菊池さんは、こう語る。

ヘゴの森を散策

「八丈島には自然崇拝の神様が多いんですよ。
木の神様、水の神様、石の神様……。
この森には、木の神様が住んでいるんですね」

二股のヘゴシダ

「今、目の前にある二股のヘゴシダは、
この森の1000本以上生えているヘゴシダの中で、
たった1本だけある特別な木なんです。

若芽が生えたとき、たまたま別のヘゴシダの枝が刺さって
こうなったと言われていますけど、
このすぐそばに、二股のアジサイも見つけたんです。
もしかしたら人間にはわからない力が、働いているのかもしれないですね」

別れ際に「今度は三原山の花々が咲く頃にいらしてください」と
菊池さんから島の特産品のひとつ、八丈フルーツレモンをいただいた。

八丈フルーツレモン

お土産にいただいた八丈フルーツレモン。皮まで柔らかくて酸味の少ない、高級食材。ずっしりとした重みを両手に感じる。

のどかな牧場風景から一転、美しい滝壺、
そして生命力溢れる太古の森へ。
表情豊かな八丈島の自然に触れる1日となった。

次のページ
山井さんが語る 島キャンプの可能性

Page 3

自然と人とのつながりを体感する八丈島キャンプステイ

1日の滞在を終えて、山井さんと大類さんに八丈島での滞在についてうかがう。

底土野営場にて

島内最大のキャンプ場〈底土野営場〉でのトーク。

「今回初めて八丈島を訪れたのですが、女性の滞在も多いんでしょうか?」(山井さん)

「最近は女性の一人旅も増えていて、
フィールドワークやダイビングを楽しむために休日を使って
ホテルで1、2泊される方も多いんですよ」(大類さん)

「羽田空港から1時間かからずに都会とまったく異なる環境に
トリップできるのは、八丈島の最大の魅力ですよね。
女性の滞在が増えているのもうなずけます。
今回の旅で私自身、美しいものにたくさん触れて五感で癒しを実感しました。
巨大なヘゴシダ植物や小さな鳥の鳴き声、滝の落ちる飛沫や、
大類さんと菊池さんとのガイド、キャンプの前にいただいた
しいたけのバーベキューもそうです」(山井さん)

しいたけのバーベキュー

三原山の麓で栽培された肉厚のしいたけ。

「ただ個人的には、既存の宿泊場はもちろんですが、
より多様なキャンプの選択肢があると、八丈島での滞在は
もっとおもしろくなるんじゃないかと感じました」(山井さん)

キャンプ地としての潜在的な魅力について、山井さんはこう語る。

山井梨沙さん

「キャンプの一番の良さは、滞在先の風土や文化に
身を投じることで自然はもちろん人間同士の絆が強くなるところです。

例えば、森の中で地球に寝転ぶような感覚を味わったり、
月夜の海を眺めて心を鎮めたり、
滝を背に焚き火で1日の体験を共有し合うようなこと。
こういった活動を八丈島で体験することによって、
感覚が研ぎ澄まされ、より人間らしさを取り戻していくことができると、
裏見ヶ滝やヘゴの森を巡ってみて確信しました」(山井さん)

整備された場所ではなく、
ありのままの自然の中に身を投じることによって、
キャンプによる癒しの力はより増幅される。
大類さんも、山井さんと同じようなイメージを描いていた。

「私も、ふたつの山が生み出した自然と近い場所で
初心者にやさしいキャンプを提案できないかと考えていました。今回の旅で、
底土野営場以外ではどんな場所でのステイをイメージされましたか?」(大類さん)

「海のすぐそばで空を広く感じられる南原スポーツ公園は、
キャンプ初心者向けのイベントをやるには十分な設備もあり非常に可能性を感じました。
あとは、環境としてはまだ整っていませんが、ロケーション的には
八丈富士のふれあい牧場や太古の自然に身を投じられるヘゴの森周辺も魅力的ですね」
(山井さん)

八丈富士

最後に、八丈島での体験の振り返りと、
キャンプステイの未来について山井さんへうかがった。

「初めての八丈島滞在でしたが、
美しい自然が都会でのせわしない時間を忘れさせてくれると同時に、
心身をリセットして、普段使っていない感覚を呼び醒ましてくれた気がします。

キャンプというフィルターを通して“豊かさ=ラグジュアリー”の
定義を変えるのが私の仕事におけるミッションなのですが、
八丈島での自然体験は、都会の物質的でラグジュアリーな体験よりも
ずっと価値のある時間を過ごせると感じました。

いつか都会の人たちが八丈島でキャンプをして
『あのときに見た山と海が忘れられない!』と
数年後に家族や仲間と訪れるような場所になったらすてきですよね。
広大な自然を有する八丈島ならではの豊かな体験を
さらに広げるお手伝いとして、新たなキャンプ場やイベントの企画など、
島の人たちと一緒につくっていきたいです」(山井さん)

八丈島のふたつの山が生み出した自然を、
より身近に、強く、深く感じられるキャンプステイ。
山井さんと島の人たちが紡ぐ、今後の発展が楽しみだ。

profile

LISA YAMAI
山井梨沙

新潟県出身。Snow Peak創立者の幸雄氏を祖父に、現社長の太氏を父に持つ3世代目。幼いころから当たり前のようにキャンプや釣りなどのアウトドアに触れて育ち、ないものは自分でつくるDIY精神を植え付けられてきた。2014FWからSnow Peakのアパレル事業を立ち上げ、現在は代表取締役副社長 CDOを務める。

information

map

底土野営場

住所:東京都八丈町三根4188

TEL:04996-2-1377(八丈島観光協会)

収容人数:テント70張・150名

その他:BBQに必要な備品のレンタルも可能。詳細は八丈島観光協会まで。

Web:底土野営場(八丈島観光協会サイト)

information

東京宝島

東京都では、東京の島々が持つすばらしい景観や特産品、文化などの地域資源を磨き上げ、高付加価値化を図ることで、東京の島しょ地域のブランド化を目指す東京宝島事業に取り組んでいます。東京宝島の詳細は、公式ホームページにて。

東京宝島ピープル

Feature  特集記事&おすすめ記事

Tags  この記事のタグ