連載
posted:2019.3.6 from:東京都神津村 genre:旅行 / 食・グルメ
sponsored by 東京都
〈 この連載・企画は… 〉
東京には人々が暮らす11の島があり、独自の風土・文化で磨かれた個性を持っている。
今回は、神津島、八丈島、三宅島、大島の魅力をフィーチャー。
知的好奇心旺盛で感性豊かなゲストピープルたちが感じた島の魅力をレポートする。
writer profile
Ikuko Hyodo
兵藤育子
ひょうどう・いくこ●山形県酒田市出身、ライター。海外の旅から戻ってくるたびに、日本のよさを実感する今日このごろ。ならばそのよさをもっと突き詰めてみたいと思ったのが、国内に興味を持つようになったきっかけ。年に数回帰郷し、温泉と日本酒にとっぷり浸かって英気を養っています。
photographer profile
Yayoi Arimoto
在本彌生
ありもと・やよい●フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
東京から南へ約180キロに位置する、伊豆諸島のひとつ、神津島。
高速ジェット船だと竹芝から約3時間40分、
調布飛行場から小型飛行機に乗ればわずか45分でアクセスできるこの島には、
同じ東京都であることが信じられないような豊かな自然が溢れ、
島特有のゆったりとした時間が流れている。
『Hanako』や書籍のライターとしても活躍している、モデルの斉藤アリスさんは、
国内外いろんな場所を旅しているものの、
東京の島、伊豆諸島に降り立ったのは今回が初めてとのこと。
「海外旅行のときは必ず飛行機に乗るので、
そのプロセスを踏んだことで飛行時間は短いのにすごく遠くに来た気分です。
しかも定員19名の飛行機は人生で初めてで、
プライベートジェットで離島に行くセレブみたいでワクワクしました(笑)」
と早くも興奮気味。
神津島は周囲約22キロ、人口約2000人の島。
遊ぶにも暮らすにも、何かとちょうどよいサイズ感といえるのだが、
なかでも突出しているのが、水の豊かさ。
離島は水不足に悩まされる場所というイメージがあるかもしれないが、ここは別。
そもそも神津島は、その昔「神集島」という字を当てていたそうで、
伊豆諸島の神々がこの島に集まって水の配分について会議をしたという
「水配り伝説」があるほど。
まさに神津島の水の豊かさを物語る逸話といえるが、島暮らしに限らず、
水は人間が生きていくために必要不可欠なもの。
アリスさんもモデルという職業柄、美容の面でも水の重要性を日々感じているようだ。
「人間も動物も植物もどんな生き物にとっても、水は体を構成する一番多い要素。
だから生命は水があるところにしか宿りません。
そんな生き物にとって最も大切な水を誇れる土地というのは、
それだけでエネルギーに溢れていて、パワーをもらえそうな気がします」
向かったのは、水の恵みを象徴するようなポイントのひとつ、多幸湧水。
ここは目の前に海が広がる絶景ポイントでもあり、
ポリタンクを持って水を汲みに来る人の多い、島民愛用の湧き水。
アリスさんも島の水をさっそく飲んでみることに。
「柔らかい味わいですね。手で触れるとひんやり冷たいんだけど、
突き刺すような冷たさではなく、感触も柔らかいんです。
洗ったあと、自然と手がポカポカしてきて不思議な心地よさです」
そもそもなぜ、神津島は水に恵まれているのか。
自然ガイドをしている古谷亘さんは、
トレッキングでも人気のある標高572メートルの天上山にその秘密があるという。
「天上山は言ってみれば、天然のダムのようなもの。
冬に吹く強い西風の影響で、
8合目以上は木がほとんど生えていないエリアがあり、
岩や石が風化して、山頂近くには白砂の砂漠が広がっています。
雨が降るとその砂地にしみこんでろ過されて、
地下水として山の周辺から湧き出てくるのです」
例えるなら、島の真ん中に巨大な水瓶がどっしりと置かれているようなもの。
水が豊富なのも納得なのである。
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おいしい水を生かした島の代表的な商品といえば、
神津島酒造の本格麦焼酎〈盛若〉がある。
伊豆諸島の居酒屋にはだいたい置かれている、人気かつ定番の焼酎なのだが、
盛若が古参の特産品とするならば、
ニューフェイスとして注目を集めているのがクラフトビールだ。
〈Hyuga brewery〉は、島で唯一のブルーパブ(醸造所を併設するパブ)。
オープンは2017年3月だが、
地元で酒販店を営んでいたオーナーの宮川文子さんが
クラフトビールに着目したのは、20年近くも前のこと。
「こんこんと湧き出る島の水で、
ビールをつくったらきっとおいしいだろうなと思ったけど、
誰かやってくれないかな、くらいの気持ちでした。
だけど年を追うごとに、こんなにすばらしい資源があるのだから
やらなきゃもったいないと思うようになり、今やらなきゃ後悔する!
と行動に移したのが2013年ですね」
なぜビールだったのかというと、「水の存在を一番感じることができるから」。
こうして試行錯誤を重ねて生まれたのが、
伊豆諸島特産の明日葉を使ったライトエール〈アンジー〉だ。
「クラフトビールはいわばご当地ビールなので、
水以外にも地元のものを使いたかったのですが、
明日葉はちょっと安直かなと最初は思ったんです。
でも試作してみたら予想外におもしろくて、
お互いのいいところを出し合うことができました」
飲み口はとても爽やか。明日葉はセリ科の野草で、
独特の香りやクセが特徴なのだが、
ビールの素材にすることでハーブのような役割を果たし、
薫り高い味わいになっている。
一方、神津島に魅せられた移住者が2017年夏にオープンした
ベッド&ブレックファースト〈みんなの別荘 ファミリア〉の
カフェ&バースペースでは、湧き水を使ったスペシャルなコーヒーを楽しむことができる。
「もともとコーヒーが好きなのですが、神津島にはおいしい湧き水があるので、
これはやるしかないなと思いました」
オーナー田中健太郎さんのイチオシは、
お湯ではなく水でゆっくりと抽出するダッチコーヒー。
水出しコーヒーは戦前、オランダ領だったインドネシアで栽培されていた、
えぐ味や苦味の強いコーヒーの味を抑えるために考案された抽出法なのだとか。
1日3杯限定の「ハピネスフル・ダッチコーヒー」の抽出時間は、なんと6時間。
時短が何かと重宝される現代に逆行するようなコーヒーなのだが、
ゆったりとした時間の流れるこんな場所で味わうと、おいしさもひとしお。
アリスさんも「こんなコーヒー、初めて!」と満足げだ。
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水の恩恵を受けているものとして、もうひとつ忘れてはいけないのが
島の漁業だ。神津島は昔から漁業が盛んで、伊豆諸島のなかで漁獲高は第1位。
今も昔も漁師の多い島として知られている。
江戸時代から島の経済を支えてきたのがカツオ漁で、
鰹節は特産品として高値で取り引きされたそう。
十数年前まではカジキもたくさんとれ、
突きん棒という長い銛でカジキをしとめるダイナミックな漁が行われてきた。
そして今、島で最も熱いのがキンメダイ漁。
キンメダイは金色に光る大きな目と鮮やかな赤い魚体が特徴で、
水深200~800メートルに棲息する深海魚なのだが、
近年、高級魚として全国的に注目されるようになり、
島の漁業もキンメダイ中心に。
漁師歴19年の浜川一生さんは、神津島の漁の変化をこう語る。
「俺が親父と漁を始めた頃、キンメダイは今の値段の3分の1くらいだったから、
みんなわざわざとろうとは思わなかったんだよね。
キンメの前はカジキ漁がすごく盛んで、俺が子どものときは、
水揚げされたカジキが市場に置き場所がないくらいずらりと並んでいた。
今はそれがキンメに変わって、漁協の水揚げの8割くらいを占めているんだけど」
キンメダイ漁は一本釣りで行われる。
といっても、竿を持って1匹ずつ釣り上げるのではなく、
50本の釣り針に重しをつけた糸を深海に垂らし、一気に引き上げるという漁法。
ちなみに資源管理のため、針の数はひとり100本までと決まっている。
「一番気を使うのは、やっぱり鮮度保持。
釣り上げたら急いで針を外して、氷で締める。
そうすることで海から上がったばかりのときは白いキンメが、
市場に持っていく頃には真っ赤になるんだ。真っ赤なキンメは、鮮度のいい証拠だよ」
島周辺の魚がおいしいのは、黒潮の影響も大きい。
しかも神津島は黒潮の流れの際の辺りに位置するため、温度差が生まれ、
良質な漁場になっているのだとか。
さらには、湧き水が豊富であることも関係しているはずだと浜川さんは力説する。
「水が豊富ってことは自然も豊富。
その水が流れ込む海の中も、栄養分が豊富なんだよね。
神津島の水の豊かさは、漁業にも絶対に反映されていると思うよ」
水揚げされたキンメダイが次々と集まってくる市場を見学して、
漁の話を聞いたアリスさんは、
「普段、陸から見る海は、青が広がるだけの景色だからつい忘れてしまうけど、
海の面積は陸よりもうんと大きいんですよね。
海の下に広がる世界を、私が実際に登った天上山を見上げながら想像してしまいました。
今の時代、行きたいと思ったら世界中のどこへでも行けるし、
知りたいことはなんだって知れると思っていたけど、
私の知っている地球の姿なんてほんの一部なんだなぁと
キンメダイを通じて感じましたね」
温泉に入ったり、トレッキングをしたり、新鮮なキンメダイに舌鼓を打ったり……。
水をテーマに巡った神津島の旅で、
アリスさんは東京の島の魅力にたくさん触れることができたようだ。
「小さな島は、コンビニがなかったり、食材や物資も限られていたり、
ケータイの電波もあまりよくなかったりして、いろいろと制約はあるけど、
その不自由さが逆に心地よかったです。
都会の人はがんばり屋さんで休むのがあまり上手じゃなかったりするから、
強制的に“できない”環境に身を置ける離島は
“何もやらない”時間をゲットするにはうってつけです。
私も知らず知らずのうちに肩の力が抜けて、
本当の意味で脱力できる場所だと思いました。
島で過ごす心地よい時間に加え、飲み物や食べ物を通して、
この島のエネルギーのある水を体に取り入れたことで、元気になれた気がします」
profile
ALICE SAITO
斉藤アリス
モデル、ライター。趣味は世界のカフェ巡り。これまで訪れた10か国と日本全国のお気に入りカフェ107軒を紹介した書籍『斉藤アリスのときめきカフェめぐり』(枻出版)が発売中。
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東京宝島
東京都では、東京の島々が持つすばらしい景観や特産品、文化などの地域資源を磨き上げ、高付加価値化を図ることで、東京の島しょ地域のブランド化を目指す東京宝島事業に取り組んでいます。東京宝島の詳細は、公式ホームページにて。
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