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古民家1棟貸し
〈平泉倶楽部~FARM&RESORT~〉
世界遺産・平泉の
“風土”と“人”に出合う宿

東北の田園 一関&平泉
これから始めるガイドブック
vol.017

posted:2019.3.18   from:岩手県(一関市・平泉町)  genre:旅行 / 活性化と創生

PR 一関市

〈 この連載・企画は… 〉  岩手県南の岩手県一関市と平泉町は、豊かな田園のまち。
東北有数の穀倉地帯で、ユニークな「もち食」文化も根づいてきた。
そんなまちの新しいガイドブックとなるような、コンテンツづくりが始まった。

writer profile

Kiyoko Hayashi

林貴代子

はやし・きよこ●宮崎県出身。旅・食・酒の分野を得意とするライター・イラストレーター。旅行会社でwebディレクターを担当後、フリーランスに転身。お酒好きが高じて、唎酒師の資格を取得。最近は野草・薬草にも興味あり。

credit

撮影:水野昭子

平安末期、奥州藤原氏によって建立された寺院や歴史的建造物が残る、岩手県平泉。
〈中尊寺〉や〈毛越寺〉など、東北で初の世界遺産認定を受けたこの地に、
2018年7月、古民家ゲストハウス〈平泉倶楽部~FARM&RESORT~〉がオープンした。

築150年以上の古民家をリノベーションし、
1日1組限定(1組9人まで)の1棟貸しで、宿泊費は1泊10万円。
少々高い? と思う人がいるかもしれないが、
その値段にふさわしい設備や、行き届いたホスピタリティ、
特別な体験がいくつも用意されている。

まだオープンして半年だが、日本の伝統や文化、プレミアムな体験を求めて、
国内外からの問い合わせが多いのだとか。

自然光が差し込むリビングダイニング。古い建材にもしっかりとマッチしたモダンな内装。

自然光の差し込むリビングダイニング。古い建材にもしっかりとマッチしたモダンな内装。

広々としたエントランス部分には、囲炉裏と、窓に沿って据えられたベンチ。
その奥には、キッチンとカウンターが設置されたダイニング。
キッチンには調理器具、基本調味料、IHコンロなどが用意されており、
宿泊者はこれらを自由に使うことができる。

棚にディスプレイされているのは、
岩手県一関の伝統工芸品「秀衡塗(ひでひらぬり)」に「南部鉄器」。
これらももちろん使用可能。

キッチンの窓からは青々とした裏の林が見え、まるで絵画が飾られているかのような美しさ。

キッチンの窓からは青々とした裏の林が見え、まるで絵画が飾られているかのような美しさ。

漆を焼きつけた、秀衡塗のワイングラスで日本酒を。

漆を焼きつけた、秀衡塗のワイングラスで日本酒を。(写真提供:平泉倶楽部)

お風呂はふたつ用意されており、そのうちのひとつは総ヒノキ風呂。
やわらかな木目のあたたかさと、ヒノキの香りに、心身ともリラックス。
なんとも贅沢なバスタイム!

総ヒノキ風呂

3つの和室と、ベッドが設えてある洋間がひとつ。
廊下はぐるっと1周することができ、
和室を横切って次の部屋へ、という構造ではないので、
複数の家族や友人と訪れても、プライベートが守られるのはありがたい!

和室には、代々大切に祀られてきた立派な神棚が。

和室には、代々大切に祀られてきた立派な神棚が。

ベッドが置かれた洋間。こちらの部屋のみ施錠可能。

ベッドが置かれた洋間。こちらの部屋のみ施錠可能。

快適な設備が導入され、美しくリノベーションされているが、
天井の梁、太い柱、土壁など、可能な限り昔の建材を残しながら、
当時の家に刻まれた記憶も今に伝えたいという計らい。

さらには、先ほども紹介したとおり、館内には
岩手の伝統的工芸品である秀衡塗や南部鉄器だけでなく、
一関の染職人が手がけた〈京屋染物店〉の作務衣、暖簾、座布団なども。

古いタンスの上には、古民家に保管されていた農道具がオブジェとして飾られている。

古いタンスの上には、古民家に保管されていた農道具がオブジェとして飾られている。

「ここは、ゲストハウスでもありながら
ある意味、一関の伝統工芸品のショールームでもあるんです。
南部鉄器で飲む白湯、秀衡塗でいただくお食事、手染めした作務衣など、
一関・平泉地域の歴史や伝統を、五感で体感してほしいんです」

そのように語るのは、平泉倶楽部を手がけた〈株式会社イーハトーブ東北〉の松本数馬さん。
松本さんもまた、一関に生まれたひとりだ。

〈株式会社イーハトーブ東北〉の代表、松本数馬さん。

〈株式会社イーハトーブ東北〉の代表、松本数馬さん。

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どんな想いで平泉倶楽部をスタートさせた?

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何度も訪れたくなる旅とは、“商品”ではなく、訪れた先の“人”にある

東京や仙台で銀行員として働いていた松本さんが、
地元である一関にUターンし、起業したのは、2011年の東日本大震災がきっかけ。

「あのときは、僕も仙台で被災しました。
当時は法人担当だったので、津波で工場が流されたというお客さまがたくさんいて。
また当時は、地元ボランティアとして活動もしていました」

平泉倶楽部のテラスにて

自らも被災しながらボランティアに参加。
東北の復興に携わるなかで、一関の現状にも意識が向くようになり、
帰郷を決意したのはその2年後。

「ボランティアなどをやっていくなかで、
東北ってやっぱりいいよな、って感じたんです。
でも、自分の地元を振り返ると、衰退していく部分がたくさん見えて、
今動かないと、このままではなくなってしまうもの、途絶えてしまうもの、
たくさんあるだろうなって。
いつか地元に戻ろうと思っていたので、じゃあ今しかない、と」

松本数馬さん

松本さんが起業した〈株式会社イーハトーブ東北〉の理念は「東北を照らす」。
地域活性化事業を通じ、「雇用創出」と「関係人口増加」を目指す会社だ。

「僕の使命は“雇用”をつくること。
雇用がないと、U・Iターン者といった人が移ってこないんです。
ただ、どうやって雇用をつくるかというときに、
大企業や工場誘致だと一時的になりがちで、撤退するとなれば影響はすごく大きい。
だから、100億の会社が1社あるより、
1億の元気な会社が100社あるほうがいいと思っていて」

そこで松本さんは、「宿泊」「飲食」「旅行」という3つの事業を展開。
「飲食」の事業では、
地元食材を活用した和洋食料理のレストラン〈かぶらや〉をオープンし、
一関・平泉の食文化を発信する場所をスタートさせた。

“平泉・一関のまるごとレストラン”をコンセプトにした〈かぶらや〉。三陸の「早採れわかめのしゃぶしゃぶ」や、岩手の風土が育てたブランド豚を用いた「館が森高原豚のかつ丼」、一関のもち文化から生まれた「もちパフェ」なども。

“平泉・一関のまるごとレストラン”をコンセプトにした〈かぶらや〉。三陸の「早採れわかめのしゃぶしゃぶ」や、岩手の風土が育てたブランド豚を用いた「館が森高原豚のかつ丼」、一関のもち文化から生まれた「もちパフェ」なども。(写真提供:平泉倶楽部)

「旅行」の事業では、東北を中心とした、伝統工芸、伝統芸能、農業体験、
グルメ、復興といったテーマの旅行ツアーを企画催行。

こういった取り組みから、飲食店従業員はもちろん、
ツアーガイドや、体験先へのオファーなど、雇用や仕事を生み出している。

地域の人と交流する、郷土料理体験。

地域の人と交流する、郷土料理体験。(写真提供:平泉倶楽部)

また平泉倶楽部では、
地域のお母さんの手ほどきで、一関・平泉の郷土料理をつくる「郷土料理体験」や、
踊り手を招いて宿の縁側で舞う「南部神楽鑑賞」、
ガイドつきの世界遺産ツアー、地元農家での農業体験など、
さまざまなオプションを用意し、地域住人を巻き込んだ取り組みも。

平泉倶楽部の縁側で舞われる南部神楽。オプションのメニューだが、神楽舞をひとりじめできるという贅沢。

平泉倶楽部の縁側で舞われる南部神楽。オプションのメニューだが、神楽舞をひとりじめできるという贅沢。(写真提供:平泉倶楽部)

「平泉の“風土”を感じ、知ってもらいたいという想いから生まれた宿なんです。
何度も訪れたくなる旅先って、“商品”ではなく、訪れた先の“人”にあると思っていて。
人や友だちに会いに行く、そんなゲストハウスにしたいんです。

それに、これだけ農業という基盤がある場所なので、
近くの農家や、農家民宿と一緒にやっていくのがいいと思っていて。
ただ、彼らと同じことをやってしまっては、ただの競合になってしまう。
そこで、今までなかった長期滞在ができる設備や、農家の人と連携した農業体験、
農家のお母さんたちによる料理体験などで、人と出会い、
地元の農産物を食べ、本当の平泉を体感してもらう、そういう文脈になっています」

平泉の風景。右下の赤屋根の家が平泉倶楽部。

平泉の風景。右下の赤屋根の家が平泉倶楽部。(写真提供:平泉倶楽部)

平泉文化の“風土”を、“人”を通して知ってもらい、
再び訪れてもらう場所になることこそ、平泉倶楽部が目指すものだ。

とはいえ、平泉にはまだまだ課題や問題が山積みという。
難題に挑む松本さんを鼓舞するのは、
これまでにも連載で紹介してきた同年代の仲間たち。

「地域をなんとかしようと、強い想いを持った同年代の仲間がたくさんいて、
僕も自然体でいられるんです。これは自分にとって大事なことですね」

束稲山の麓に佇む平泉倶楽部と、緩やかに続く棚田。

束稲山の麓に佇む平泉倶楽部と、緩やかに続く棚田。(写真提供:平泉倶楽部)

世界遺産にも登録された中尊寺をはじめ、
地域一帯が遺産的価値を持つと世界的に評価された平泉。
荘厳できらびやかな遺産と併せて、“風土”や“人”といったローカルな価値に出合う旅は、
きっと深く心に刻まれ、再び訪れたい場所となるはずだ。

information

map

平泉倶楽部~FARM&RESORT~

住所:岩手県西磐井郡平泉町長島字前林78-1

TEL:0191-26-0015(受付時間9:00~18:00)

宿泊料金:1泊100,000円(税抜) ※1日1組限定、1棟貸しの料金

予約可能人数:9名まで

チェックイン:15:00~21:00

チェックアウト:10:00

WEB:https://hiraizumi-club.jp/

Facebook:https://www.facebook.com/hiraizumiclub.jp/

東北の田園 一関&平泉 これから始めるガイドブック

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