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DJ・Licaxxxの旅コラム
「予測不能な京都ひとり旅。
あるおばあちゃんとの出会い」

旅からひとつかみ
vol.021

posted:2021.10.12  from:京都府京都市  genre:旅行

〈 この連載・企画は… 〉  さまざまなクリエイターがローカルを旅したときの「ある断片」を綴ってもらうリレー連載。
自由に、縛られることなく旅をしているクリエイターが持っている旅の視点は、どんなものなのでしょうか?
独特の角度で見つめているかもしれないし、ちいさなものにギュッとフォーカスしているかもしれません。
そんなローカル旅のカタチもあるのです。

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Licaxxx

リカックス

さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第21回は、DJやビートメイカーとして活躍するリカックスさん。
ひとり旅を旅の醍醐味と考えて旅した京都のナイトライフ。
カウンター酒場で世代を超えた出会いがあった、刹那な思い出です。

「旅っぽさ」を堪能する

私は旅の楽しみ方というものがわかっていないタイプの人間だ。
国内外問わず、仕事で遠征に行くことが多いのだが、
DJの仕事は週末に集中しているので、そのまま次の現場に移動せねばならず、
なかなか延泊してその土地を楽しむということができない。
DJ前に泥酔するわけにもいかないし、
せいぜいごはんを食べて、美術館や展示に滑り込むのが精一杯だ。

さて、じゃあわざわざ予定を立てて仕事と別で旅行に行こうか?
いや、海や山を堪能するには体力がないし、
そもそも誰かを誘って予定を組むのもなかなかに億劫になってしまう。
そんな腰の重い私だって、本当は旅とやらがしてみたい!
何か理由をつけて旅を探しに行くぞ! と思ったのは、
友だちのDJやライブに合わせて行くというタイミングだった。
これなら仕事もないから酔っ払えるし、
ひとりに飽きても最終的にはみんなのいるところに合流できる。

これは2018年の出来事。
さて、ついたのは京都である。

夜には〈地点〉という劇団の稽古場兼アトリエである
〈アンダースロー〉に公演を見に行く。
さらに夜中は四条河原町にあるクラブ〈West Harlem〉で友人たちがDJをしている。
このふたつの項目を軸に、私はひとりで行動する時間を
“旅っぽさを堪能する時間”とした。果たして成功するのか。

17時ぐらいに京都に到着し、早速ひとり呑みと腹ごしらえをスタート。
やっぱりひとりでしっぽりやるといえば、蕎麦。
呑みすぎると公演中に眠くなるので1杯だけウーロンハイ。
オープン直後のせいか誰もいない。
蕎麦は基本的に無言で黙々と食べきるのがおいしいのでひとりに向いていると思う。
ここではちゃんと写真を撮っている。

そこから散歩しつつアンダースローに到着、無事に公演を観る。

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“はじめは静かに呑んでいた”

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カウンターでのひとり呑みに挑戦

さてここからが本番。
次はカウンターオンリーの地元の人しか来ないところに行ってみるというやつに挑戦。
ひとりで飲んでたって、何を話したって、
多分今日この1回しか会わないだろう人たちしかいない、という気持ちが、
住んでるまちとは別格の開放感を醸し出す。これは当たれば多分、旅っぽい。

食べログとグーグルマップを駆使して、ホテルから遠くない距離の居酒屋を発見した。
焼酎の瓶が並んでいて、タコやぬたなど渋めのつまみがおいしそうな店のほうが、
地元の客が多そうだ、という独自の見解のもと、載っている写真を確認。
ぎゅうぎゅうのカウンターが7席くらい。
電話して空いていることを確認し、すぐに到着。

カウンターの中には頑固そうな大将とよく喋る女将さん。年齢的には祖父母くらい。
入ったらカウンターには父親世代のサラリーマン、
地元のおじいちゃんおばあちゃんの老夫婦、
あとひとりで来ているおじいちゃん、とかそんな感じだった。
1杯目を静かに飲んでいると、全員が友だちという訳ではないが、
大将はみんな知り合いみたいだということがわかった。
これは独自の見解が当たったようだ。

2杯目を半分くらい飲んだあたりで、
女将さんが「今日はどこで見つけてくれたんですか?」という静かめのツッコミ。
私がまあまあ飲むことを確認してから聞いてくるところに、奥ゆかしさを感じた。
なぜか仕事でという嘘をついた。
その日は仕事じゃなかったけど説明が難しいので省いた。

「仕事で京都に来ていて、
合間においしそうな飲み屋を食べログで見つけたものですから……」的な答えをしたら、
なんと出来上がった常連客全員がつっこんできた。
これには驚いた。「あんた! 当りだよ! よく見つけたね!」
「ひとりで若い子が入ってきたからビックリしちゃったよオ!」
「どうやって話しかけようかと思ったさあ!」なんて
親戚一同みたいな勢いで聞かれて、仰天。
席数が限られているのもあり、常に常連ばかりで埋まっているようで、
“異星人が来た”ばりにみんなもこちらの様子を伺っていたようだ。
「若い子がこんなもの好んで食べるのか」「焼酎飲むのか」とか、
そこからはもうずっと台風の目、もてはやされまくる。
もちろん写真を撮っている暇はなかった。

ちらほら帰り始めたあたりで、老夫婦で来ていたおばあちゃんのほうが
もう一軒連れて行ってあげると言い出した。
綺麗で元気でシャンとしたよく飲むおばあちゃん、
どうやらおじいちゃんは置いていくらしい。
旅のグルーヴ出てきました。

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“検索してもお店が出てこない!?”

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おばあちゃんとレコードを聴けるバーへ

そのおばあちゃんと、
3月頭でまだ寒い夜の静かになったアーケードの下を腕を組みながら歩いた。
道の途中、ほかで飲んでいたお友だち(おじさんら)と遭遇して陽気に話していた。
「若い子ナンパしてえ!」なんて言われていて、
ああ、地元の飲みの場では結構有名なおばあちゃんなのかな、と思った。
おばあちゃんのお友だちができたのは初めてだし、
自分の祖父母と外に呑みに行ったことなんてなかったので新鮮だった。

ついたバーは純喫茶・バーのような老舗の雰囲気漂うちょっと広めのバー。
レコードがかかっていて、ウイスキーがたくさんある。
おばあちゃんはもちろん常連らしい。
すでに酔っていてここら辺からざっくりとしか聞いていなかったが、
音楽関係の大御所が結構立ち寄るところらしい。
京都の〈Metro〉とか、箱の名前をあげたらマスターはちゃんと知っていた。
コースターをもらって、ここにきたら私に会えるよ、
とおばあちゃんと連絡先は交換せずに解散した。
えー、ここでももちろん写真を撮っていない。

そこからWest Harlemまで歩いて行って、ちゃんとDJを楽しんで、無事に旅が終了した。

しっかり狙った通りの予測不能体験をし、
“旅っぽさを堪能する時間”を満喫することができた。
なんせ、しっかり店の名前をどれも覚えていない。
知らない土地でもちゃんと酔えたようだ、この旅は成功といえるだろう。

今回この原稿を執筆するにあたって思い出すために、
真剣にお店を検索にかけてみたが店が多すぎるのか、
それとも幻なのか、全然ヒットしない。
結構昔から、食べログの行きたいリストやグーグルマップのピンを活用するほうなのだが、
それも残っていない。
日常に混じってくる引きずらない非日常の思い出、
私にとって丁度いい濃度の旅となったようだ。

profile

Licaxxx
リカックス

東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー、編集者、ラジオパーソナリティ。2010年にDJをスタート。マシーンテクノ・ハウスを基調にしながら、ユースカルチャーの影響を感じさせるテンションを操り、大胆にフロアをまとめ上げる。

2016年にBoiler Room Tokyoに出演した際の動画は50万回以上再生されており、Fuji Rockなど多数の日本国内の大型音楽フェスや、CIRCOLOCO@DC10 などヨーロッパを代表するクラブイベントに出演。日本国内ではPeggy Gou、Randomer、Mall Grab、DJ HAUS、Anthony Naples、Max Greaf、Lapaluxらの来日をサポートし、共演している。さらに、NTS RadioやRince Franceなどのローカルなラジオにミックスを提供するなど幅広い活動を行っている。

さらにジャイルス・ピーターソンにインスパイアされたビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」の主宰。若い才能に焦点を当て、日本のローカルDJのレギュラー放送に加え、東京を訪れた世界中のローカルDJとの交流の場を目指している。

また、アンビエントを基本としたファッションショーの音楽などを多数制作しており、近年ではChika Kisadaのミラノコレクションに使用されている。

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