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金継ぎ師&漫画家・堀道広の旅コラム
「四国八十八ヶ所のお遍路で、
石手寺に招かれた」

旅からひとつかみ
vol.020

posted:2021.6.29  from:愛媛県松山市  genre:旅行

〈 この連載・企画は… 〉  さまざまなクリエイターがローカルを旅したときの「ある断片」を綴ってもらうリレー連載。
自由に、縛られることなく旅をしているクリエイターが持っている旅の視点は、どんなものなのでしょうか?
独特の角度で見つめているかもしれないし、ちいさなものにギュッとフォーカスしているかもしれません。
そんなローカル旅のカタチもあるのです。

text

Michihiro Hori

堀道広

かたちから入るお遍路もアリである

完全に自由な旅というのは、いつ以来していないだろう。

10年以上前の話になるが、香川の高松に友人が住んでいたので、
高松を拠点にして「四国八十八ヶ所」の「お遍路」に挑戦したことがあった。

まずは服装から入ろうと、朝一番で高松から徳島に行き、
第1番札所の霊山寺で、すげ笠と白衣(びゃくえ)を買った。御朱印帳も買った。

すげ笠と白衣を装着。

すげ笠と白衣を装着。

そして私はばっちりお遍路ファッションに着替え、
高松で借りたレンタカーにさっそうと乗り込んだ。
……レンタカー?
そう、私は一刻も早く八十八ヶ所を回るため
「レンタカーでお遍路」という禁じ手を使っていた。
レンタカーでお寺に行っては、御朱印帳に文字を書いてもらい(納経は300円)、
次から次へとお寺を回った。

レンタカーにはカーナビがついている。
私は紙の地図を見なくとも、次の札所への道を異様にスムーズに巡ることができた。
あっという間にかなりの数のお寺を巡った。
まるで、ルート宅配をしているような気持ちになってきた。
山の上のほうにありそうな、自力で登山をしなければいけない札所は飛ばした。

夕方、暗くなると拠点である高松にレンタカーを返しに帰り、友人宅で宿泊した。
そして翌日、また友人宅を出てレンタカーを借り、県をまたぎその続きのお遍路をした。
効率が悪い気もするが、当時は宿泊するお金もなかったし、
効率が悪いということすら気づかなかった。
スムーズにお寺を巡るうちに、私は夏休みの都区内ポケモンスタンプラリーをしている
小学生のような気持ちになっていた。
自分はなぜこんなことをしているのか。これになんの意味があるのか。
成し遂げた末に、何があるのか。
すげ笠を被って車を運転しながら根本的なことを自問自答した。

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“お遍路で一番気に入った場所とは”

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石手寺の美しさ、そして混沌

外は夏。うだるような暑さだが、車の中はガンガンに涼しい。
道を歩く純正のお遍路さんたちを横目に、涼しげな顔で車で追い抜く。
こんなお遍路では何も徳は上がらない。当時はそれもわからなかった。

香川ではうどんを食べ、徳島ではラーメンを食べた。
うどんは220円で食べられるところもあり、納経(300円)より安い。
うどん屋が多いので、牛丼屋やハンバーガー店が少ないように感じた。
うどんがモチモチ過ぎて飲み込んでいいのか喉が迷うほど新鮮だった。
うどんが新鮮、というのもヘンな言い方だが。

途中、愛媛県松山市、道後温泉の近く、
第51番札所の石手寺(いしてじ)というお寺を訪れた。
遍路の元祖と言われる衛門三郎(えもんさぶろう)ゆかりの寺としても有名で、
山門に行くまでの露店もなかなかの雰囲気で見るべきところが多く、
仁王像がある山門や三重塔は圧巻で、いうまでもなく美しい。

それでたいていの人は満足して帰りそうなお寺ではあるが、
最初に見かけた不動明王の過剰な「味」というか、
アウトサイダーアートっぽさに、ふと波動を感じるものがあった。
見ると普通のお遍路さんがお参りをしているかたわら、
「マントラ仏生命の流れ」という看板と洞窟があった。
200メートルほど続くトンネルは、胎蔵界と金剛界を表しているという。
真っ暗な洞窟の真ん中に、大量のお地蔵さんが並んでいる。
クリスマスの電飾らしいものがあり、
さながら「仏DISCO」と名づけたい洞窟ではあるが、
電気がほとんどついていないので、逆に恐ろしさが増長する。
壁画もあり、いちばん奥には、
暗闇のなか曼荼羅を3次元化したインスタレーションを柵越しに見ることができた。

洞窟を出るとその先には、サイケデリックに塗装した仏像や、
銀のペンキを塗ったインドの神様を見ることができる。
モルタルでつくった閻魔像が座している門があった。
インドと地獄とラテンと宗教の全部丼というか。
「混沌」という言葉が似合う。

サイケデリックに塗装した仏像に出合った。

サイケデリックに塗装した仏像に出合った。

 

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“驚きだらけの巨大ドーム”

Page 3

200体ほどの仏像に囲まれた

閻魔像の門をくぐりしばらく行くと、3メートルのガリガリな釈迦像と、
石手寺奥院ともいうべき黄金色の巨大なドームに行き着いた。

 

ここまでも、はっきりいってひとりだと怖い。
勇気を出してドームの中に続く階段を上がると、
ぐるり見渡して200体ほどの木彫り仏像が
ライヴハウスのように等間隔で突っ立っている中心にたどり着いた。
ドームの中心にはスナックにあるようなベルベットの赤いソファーが置かれていた。
どういう意味?

いちばん驚いたのは、ドーム内の入り口の階段の反対側に、
おじさんがひとり潜んでいたことだった。
管理人さんかな……。これには驚いた。
おじさんは、パソコンで何かしていたようだが、
私が近くと、サササとどこかに行ってしまった。

誰が何のために、何をやろうとしたのか。何かで断念して、その途中なのか。
すべてはわからないままだったが、信仰の延長上にある過剰な混沌とした部分というか、
サービス精神、もしくはマッドな仏心を垣間見た。
そう考えながらも客観的にひとりでその空間にいる自分が恐ろしくなり、
ダッシュでドームをあとにした。

 

どうやらこのお遍路の意味は、この石手寺にあったのではないか。
最初から、石手寺に招かれたのではないか、という気すらした。

その後のお遍路にもいくつか回ったが、石手寺の衝撃が強すぎてほとんど覚えていない。
四国八十八ヶ所のうち、結局行けたのは半分くらいだった。
レンタカー&カーナビという文明の利器を持ってしても、
半分しか攻略できなかったのである。
徒歩でお遍路をするというのは、ハンパないことである。

いま行ってみても、当時と同じ感想ではないかもしれない。
でもまたいつか愛媛に行ったとき、石手寺を訪れたいと思っている。

profile

Michihiro Hori 
堀道広

1975年、富山生まれ。石川県立輪島漆芸技術研修所卒。1998年『月刊漫画ガロ』でデビュー。漆職人として働くかたわら漫画の持ち込みを続け、2003年、第5回アックス漫画新人賞佳作。以来、特徴ある絵柄で地道に活動を続ける。また、漫画の仕事と並行して、割れた陶器を漆で修復をする教室「金継ぎ部」を主宰。金継ぎによる器と漆器の修理、漆の小物製作などその活動は「うるしと漫画」の分野でのみ特化する。

趣味は、ガラクタ・骨董集め。

主な著作に『青春うるはし!うるし部』(青林工藝舎刊)、『耳かき仕事人サミュエル』(青林工藝舎刊)、『部屋干しぺっとり君』(青林工藝舎刊)『パンの漫画』(ガイドワークス刊)など。

Web:堀道広歳時記

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