colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

小豆島のお塩屋さん〈波花堂〉で
過ごす自給自足な1日

小豆島日記
vol.164

posted:2016.11.28   from:香川県小豆郡土庄町  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  海と山の美しい自然に恵まれた、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。
この島での暮らしを選び、家族とともに移住した三村ひかりが綴る、日々の出来事、地域やアートのこと。

writer profile

Hikari Mimura

三村ひかり

みむら・ひかり●愛知県生まれ。2012年瀬戸内海の小豆島へ家族で移住。島の中でもコアな場所、地元の結束力が強く、昔ながらの伝統が残り続けている「肥土山(ひとやま)」という里山の集落で暮らす。移住後に夫と共同で「HOMEMAKERS」を立ちあげ、畑で野菜や果樹を育てながら、築120年の農村民家(自宅)を改装したカフェを週2日営業中。
http://homemakers.jp/

海水から塩をつくるご夫婦のすてきな暮らし方

お米や野菜を自分で育てる。
薪を割って、羽釜でお米を炊く。
自家製のお味噌でお味噌汁をつくる。
ニワトリを飼って、産んだ卵を食べる。
そして、海のそばで暮らす。

こんな暮らしをしてみたいなーと思っている人が、
少なからずいるんじゃないかなと思います。
むしろ結構たくさんいるのかな。

小豆島でまさにそんな暮らし方をしているご夫妻がいます。
〈御塩(ごえん)〉というお塩をつくっている波花堂(なみはなどう)の
蒲(かば)敏樹さん、和美さんご夫妻。

料理の説明をしてくれる奥さまの和美さん。

薪の割り方を教えてくれる蒲さん。

おふたりがつくられている〈御塩〉です。

その工場&自宅をいつか見てみたいなと思っていたのですが、先日ようやく行けました。
きっかけは、私たち小豆島カメラの企画「生産者と暮らしに出会う旅」です。

「生産者と暮らしに出会う旅」は、小豆島の生産者さんに会いに行き、
その生産の現場を見学したり、小豆島の食や住まいなど
暮らしに触れることができるイベントです。
あ、忘れてはいけないのがカメラですね。
オリンパスのカメラを参加者の皆さんに貸し出し、
イベント中にそれぞれがいいなと思った瞬間を自由に撮ってもらいます。

気持ちのいい秋晴れ。海のすぐそばでカメラの使い方を説明。

参加者皆さんにカメラを貸し出し。

小豆島カメラのメンバーがカメラの使い方をレクチャーしたり。

最初は1泊2日の泊まりつきプランだったのですが、
もっと気軽に島内の方々にも参加してほしいという思いから、
最近は半日~1日の内容に変更しました。
内容は、自分たちが会ってみたい人、行ってみたい場所を中心に選んでいるので、
毎回企画者である自分たち自身とても楽しみな企画。

蒲さんのご自宅前でみんなで調理。

今年収穫した新米と御塩でシンプルだけど贅沢おにぎり。

今年は「米」をテーマにしていて、春は田植え&梅干しづくりをしたので、
秋はできた新米と梅干しでおにぎりをつくるイベントにしようと。
そのおにぎりは、島のお塩〈御塩〉を使ってつくろう!
それなら塩づくりの現場を見てみたいよね、蒲さんのところに行ってみたいよね、と。
そんな流れで決まった今回の企画。
11月中旬、気持ちのいい秋の日に開催されました。

「生産者と暮らしに出会う旅」では定番になりつつある豚汁!

みんなでいただきます。

今回のイベントのメインディッシュ! おにぎりのまわりにあるのは和美さんがつくってくれたお惣菜たち。

次のページ
蒲さんの塩づくりと暮らし

Page 2

蒲さんの工場&自宅は、私たちが暮らしている肥土山という地区から
車で1時間近くかかります。島の南東にある田浦半島の
海沿いの道を走っていくと、煙が出ている1軒の小屋を発見。
もしかして。そう、そこが塩づくりの拠点です。

道沿いにあるこの小屋が塩づくりの工場。

海から大量の水を汲み上げてきて、炊き続け、塩をつくります。

その昔、小豆島では塩づくりが盛んで、江戸時代には
幕府への献上品にもなっていたほど良質な塩がつくられていたそう。
その塩を材料としたお醤油や佃煮づくりなどが発展。
時代ともに産業の中心が醤油業、加工業に移り、
いつしか島の塩屋さんはなくなってしまいました。

そしていま、瀬戸内海の海水を汲み上げ、
昔ながらの塩づくりを島で復活させたのが蒲さん夫妻。
(このお塩づくりのことは、小豆島日記vol.100にも書かれています)

こういうちょっとした道具の並びが美しい。

できたての御塩。まろやかな味。

蒲さんご夫妻のすてきだなと思うところは、その塩づくりのことだけではなくて、
暮らし方全体。今回のイベントは、塩をつくっているところを見せていただき、
その後お昼ごはんをみんなでつくって食べるという内容。
もちろん素材は小豆島のもの中心。
むしろ蒲さんのところで採れたもの、つくられたもの中心。

畑に何気なく置いてある収穫かご。

飼っているニワトリたち。

庭のかぼすの木。

薪を割って、その薪を燃やして羽釜で小豆島産のお米〈肥土山そだち〉を炊く。
豚汁の最後の味つけは、蒲さん自家製のお味噌で。
大根を採ってきて、実も葉も丸ごと使っておかずに。
ビワの葉を採ってきて、洗って切って、即席ビワ茶。
しいたけを採ってきて、残り火で焼いて醤油とオリーブオイルをかけて贅沢な一品に。
デザートは畑のみかん。

ビワの葉を採ってきて丁寧に洗って切ります。煮出したらお茶に。

大根は葉っぱも細かく刻んで塩もみに。

あー、もうここにはすべてある!
そしてそれは蒲さんたちの手でつくり出されてる。
心にぐっときました。

私たちは、〈HOMEMAKERS〉として小豆島で農業をしていますが、
暮らしに関わるものは自分たちでつくりたいという思いからその屋号にしました。
でも蒲さんたちは私たちよりずっとHOMEMAKERS(笑)。
まだまだ自分たちの手でつくれるものがいっぱいありそうです。

いろんな暮らし方があって、すべての人が自給自足をしたいわけじゃないし、
私たちも完全自給自足にこだわることはなく、できる範囲で
暮らしに関わるものを自分たちの手で生み出したいと思っています。

そういえば昔読んだ『家族で楽しむ自給自足』という本に
こんなことが書いてあったのを思い出した。

現代に生きるぼくたちは、
生きるために何かを自分で作ったりなんてしなくていい。
けれども昔の記憶を受け継いだ手は、何かを作りたいと思っている。

100の自給をする人が1人いるより、1の自給をする人が100人いればいい。
世界に一つだけ、小さいけれどユニークな自給自足をする人がいて、
自慢の物や技を交換する。
つながりが広がって、全体を眺めたら自給自足になっている。
そんな街になったらおもしろい。

そうそう、これ。
小豆島がそんな場所になったらすてきだなと思います。

蒲さんのところで過ごした時間は、頭のなかにあるいろんなことを
思い出させてくれました。
帰ってさっそく、畑から採ってきたカブの実と葉をまるごと使って塩漬けに。
ひとつずつ、ひとつずつ。あ、もちろんお塩は御塩です(笑)。

information


map

HOMEMAKERS 

住所:香川県小豆郡土庄町肥土山甲466-1

営業時間:金曜、土曜のみ 11:00~17:00(L.O. 16:00)

http://homemakers.jp/

Feature  特集記事&おすすめ記事

Tags  この記事のタグ