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野毛山〈藤棚デパートメント〉前編
空き店舗を使って、
商店街の課題解決に挑む

リノベのススメ
vol.214

posted:2021.2.24  from:神奈川県横浜市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Kenichiro Nagata

永田賢一郎

ながた・けんいちろう●YONG architecture studio主宰。1983年東京出身。横浜国立大学大学院/建築都市スクールY-GSA修了。2013年より設計ユニットIVolli architectureとして活動の後、2018年より永田賢一郎|YONG architecture studioとして活動を開始。2014年よりシェアスタジオ〈旧劇場〉や設計事務所兼シェアキッチンの〈藤棚デパートメント〉、〈野毛山Kiez〉など自身の活動の場を地域拠点化していく活動をライフワークとして展開。藤棚一番街理事。2020年より長野県北佐久郡立科町地域おこし協力隊兼任、横浜と長野の2拠点での活動を始める。
https://www.yong.jp/

YONG architecture studio vol.2

横浜市の野毛山エリアにて、
オフィスや住宅、アトリエなど複数の拠点をつくり活動する
〈YONG architecture studio〉永田賢一郎さんの連載です。
現在は長野県にも拠点を持ち、2地域で活動を展開しています。

前回は藤棚の商店街で始まった〈藤棚のアパートメント〉と、
そこから地域へと広がる暮らしについてご紹介しました。
今回は次第に見えてきた商店街や地域の課題、
その後に立ち上げたシェアキッチンのプロジェクト
〈藤棚デパートメント〉の成り立ちを振り返っていきます。

暮らすことで聞こえてきた地域の課題

藤棚商店街では、毎年5月に「こども商店街」というイベントが開催されます。
地域の方々が商店街に露店を出し、地域の子どもが店長になって
お店を出したりと家族で楽しめるお祭りで、毎年多くの人が
商店街にやってきます(昨年はコロナで中止となってしまいました……)。

〈藤棚のアパートメント〉も屋台を出させてもらえることになり、
いつもお世話になっているご近所の方たちと一緒におやつやスープなどを出しました。

ちなみにこの屋台は、本連載で以前に紹介した、
同じ神奈川県の山北の間伐材を使った屋台です。
当時のプロジェクトを知っていてくれた商店街の方が
「ぜひ、商店街でも使ってください」と声をかけてくれたのがきっかけで、
藤棚まで運ぶことになりました。

「こども商店街」では商店街を歩行者天国にして露店が賑わう。

「こども商店街」では商店街を歩行者天国にして露店が賑わう。

また、夏休みには、商店街の近くにある映画館
〈シネマノヴェチェント〉さんでのアニメ上映との連動企画として、
藤棚のアパートメントでアニメキャラお菓子ワークショップなども開催。
ご近所の方々が親子で参加してくださり、小規模ですが盛況のうちに終わりました。

日本一小さなフィルム映画館〈シネマノヴェチェント〉。

日本一小さなフィルム映画館〈シネマノヴェチェント〉。

〈藤棚のアパートメント〉にて。アニメ映画のキャラクターのお菓子づくりは親子で参加。

〈藤棚のアパートメント〉にて。アニメ映画のキャラクターのお菓子づくりは親子で参加。

こうして日々、商店街や地域と関わりながら暮らし、活動しているうちに、
次第に地域の課題や本音を耳にするようになります。

「商店街で教室を開ける場所があったらいいのに」
「気軽に集まれる場所が商店街の中にあったら」
「ランチの選択肢があまりない」

地域の人たちの声はさまざま。

地域の人たちの声はさまざま。

一方その頃、お祭りや映画イベントなどを経て
商店街の理事会にもたまに参加させていただくようになり、
お店の方々の声も聞くことができました。

「空き店舗が増えてきた」
「若い人がもっと商店街に来てくれるといいのだけれど」

店舗が突然立ち退いてしまったり、理事会の人数が減って
商店街の運営が難しくなった時期があったりと、
みなさん地域を守るために苦心されてきたようです。

商店街の理事のみなさん。

商店街の理事のみなさん。

そんななか、商店街の理事のひとりである、かまぼこ屋さんの今井宏之さんから
「お祭りで使っていた屋台をポップアップショップとして商店街で使えないか」
という提案をいただきました。

藤棚の商店街では、歩道にアーケードがかかっています。
そこに屋台を置いて、1日限定出店というかたちで新しい人を外から呼べたら、
話題にもなるし、賑わいになるのでは、という相談でした。

「ぜひやりましょう!」とすぐ返事をして意気込んでいましたが、
これがなかなか難しかった……。
軒先を使わせてくれる店舗が見つからず、
また、屋台をストックしておく場所もネックとなりました。

商店街の新たな活動を牽引する老舗かまぼこ屋〈今井かまぼこ店〉の今井宏之さん。

商店街の新たな活動を牽引する老舗かまぼこ屋〈今井かまぼこ店〉の今井宏之さん。

スチールラックと間伐材でつくったワゴン。

スチールラックと間伐材でつくったワゴン。

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好条件の空き物件が…!

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〈旧劇場〉閉館へ。そして新たな拠点を求めて

また同じ頃、弊社が事務所として拠点を構えていたシェアスタジオ
〈旧劇場〉(詳細はこちら)があと半年でクローズするタイミングで、
ちょうど次の物件を探していた時期でもありました。

旧劇場では、4年間という短い活動期間ながらも
「拠点を運営する」ということの難しさやおもしろさを感じ、
地域の中に集まれる活動拠点がある有意性を強く感じていました。

次に自分でまた何かやるとしたら、どんなかたちがいいのだろうか。
商店街の近くに事務所をつくれたら屋台もストックできるし、
職住近接にもなるし、いいなあ、と日々ぼんやりと考えていました。

シェアスタジオ〈旧劇場〉の様子。

シェアスタジオ〈旧劇場〉の様子。

そんなあるとき、地区の自治会長さんから
「商店街にあるうちの物件の1階が空いているから、見てくれないか」
とお話をいただきます。

しかもどこから手にいれたのか、自治会長さんは
「野毛山ミーティング」の資料のコピーを持って
「この構想、とてもおもしろいですね。何か使えませんかね?」
とわざわざアパートまで訪ねてくれたのです!
このときほど「資料をつくっていてよかった」と思ったことはありませんでした。

そして後日に内見しに行くと、なんとそこは藤棚のアパートメントから徒歩20秒ほど、
商店街の真ん中にある路面物件という最高の条件の場所でした。

「商店街が賑わいを取り戻せるような場所ができたら」と言う会長さん。
藤棚や野毛山での活動に賛同してくださり、
「準備期間も自由に使ってよいから」と全面的な応援の意思表示をしてくれました。

会長さんに紹介された空き店舗。

会長さんに紹介された空き店舗。

藤棚のアパートメントから徒歩20秒ほどの距離!

藤棚のアパートメントから徒歩20秒ほどの距離!

何度か内見と測量をさせてもらい、まだ契約どころか資金の準備もない段階から、
勝手に妄想を膨らます日々。
「ワークショップや展示などができる空間として使えそう」とか
「キッチンスペースにカフェを入れて物販もできそう」とか、
図面を描きながらシミュレーションしていました。

図面を勝手に引いて妄想スタディを繰り返す。妄想はどこまでも膨らんでいく。

図面を勝手に引いて妄想スタディを繰り返す。妄想はどこまでも膨らんでいく。

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商店街を調べていくうちにわかってきたこと

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誰が使い、誰が運営する場所?

でも果たして、ここはいったい誰のための場所になるのでしょう。

自分がお金を出すとしたらまずどう動くべきか? 
人に使ってもらうとしたら、何にお金を払ってもらうのか? 
と、自分に寄せて考え出すとアイデアも具体的になっていきます。

そこで思い出したのが、商店街の人たちの声。
商店街の高齢化、空き店舗の増加、飲食店不足、集まる場所の需要、と
それぞれの立場の声がありました。
また自分でも藤棚の周辺にどんな人たちが暮らしているのかを調べて
「誰のための場所にしていくか」を設定していきます。

調べていくうちにわかったのは、商店街周辺には
30〜40代の比較的若い世代の方々が多く住んでいること。
そして、その世代の方々が商店街を往来する時間と
商店街の営業サイクルがずれてきていることでした。
若い人たちも商店街との接点を欲していたようです。

藤棚周辺の人口分布。若い世代の人たちも実は多く暮らしていることがわかった。

藤棚周辺の人口分布。若い世代の人たちも実は多く暮らしていることがわかった。

商店街の営業時間と通勤時間帯のズレが、接する機会の減少につながっていた。

商店街の営業時間と通勤時間帯のズレが、接する機会の減少につながっていた。

若い世代の人たちが商店街をもっと活用できるようにできないか。
新しい活動が商店街の中から生まれるきっかけの場所にできないだろうか。
若い世代からご高齢の人までが集い、同時に商店街のことを
もっとよく知ることができるスペースならどうだろうか。

こうしてアイデアが次第に固まっていきました。
そしてそれは、以前にかまぼこ屋の今井さんから相談を受けた、
商店街でのポップアップショップのアイデアと相まって、
「商店街の中で気軽にお店を開けるシェアキッチン」という
具体的なイメージとなっていきました。

自分で借りることを決心

さて、このアイデアをこの後どう実現させていくべきか。
いつかお金ができるまでそっとしておくべき? 
運良く誰かお金を出してくれる人が現れるのを待つべき? 
果たしてそれはいつになることか……。

地域で活動していくうえで、タイミングとテンポはとても大事です。
ゆっくり時間をかけることも重要ですが、まちが変わろうとしているタイミングや、
活気が出てくるテンポに合わせて次の展開を広げていくことで
まちの雰囲気が変わっていきます。

そのためには、未知の誰かを待つのでは遅く、
然るべきタイミングで動ける状態であることが大事。
そして今回出した結論は、「自分で借りて動かす」ということでした。

しかし前述の通り、そのとき自分には動ける資金がありません。
果たしてどのようにしてこの構想を進めるか。

続きは次回、資金集めから完成、そのオープン後までを紹介していきたいと思います!

information

map

藤棚デパートメント

住所:神奈川県横浜市西区中央2-13-2

Web:藤棚デパートメント

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