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ゲストハウスに長屋、
緑豊かな庭に交差する
それぞれのストーリー。
HAPS vol.2

リノベのススメ
vol.044

posted:2014.9.30  from:京都府京都市東山区  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

HAPS

東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス

2011年 東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス実行委員会設立。京都市の委託により、「若手芸術家等の居住・制作・発表の場づくり」を主な目的とし活動を行う非営利組織。相談窓口を開設し、空き家や空きスタジオの情報提供やマッチングなどを通して、若手芸術家の京都市への定着を促進するための活動を行うほか、京都市内の芸術家を対象に、制作・発表を包括的に支援している。
http://haps-kyoto.com

HAPS vol.2
空き家だったお屋敷が、ゲストハウスとアーティストのアトリエへ

京都市東山区、HAPSのオフィスからも徒歩10分くらい。
清水寺や三十三間堂にも近く、五条通りと東大路という
観光客の行き交う大きな交差点から路地を少し入ると、
「常松庵」という看板がかかった日本家屋が見えてきます。
敷地の中に入ると、目に飛び込んでくるのは中心にある緑濃い庭です。
約400坪という、常松庵の広い敷地には池泉庭園を囲むように、
母屋であるおよそ築100年ほどの日本家屋や、
さらに、築100年ほどの長屋5軒も並んでいます。
庭の一角には小さなお稲荷さんも祀られています。
入り組んだ路地に沿って細長い町家が並ぶこのエリアで、
池を伴う広い庭園があるのもなかなかない物件です。

これらの建物が10年以上ほぼ手つかずのまま空き家となっていたところを、
昨年末にこの物件に出会った女性が、今年に入ってから改修に取りかかり、
母屋は2014年8月にゲストハウスとしてオープン。
長屋には、HAPSのマッチングで、春から夏にかけて、
この場所に惹かれたアーティスト2名が入居しました。
自分たちでリノベーションをしつつ、暮らしています。
ちなみに、そのうちのひとりは、
前回紹介したHAPSの壁づくりワークショップをはじめ、
脚本執筆から映像・舞台制作、アート媒体の編集など、
多方面で活動しているアーティスト、山田毅さんです。

常松庵を運営する大門さん。この日は庭の池近くに、ススキを植えたばかり。

常松庵全体の借り主となり、賃貸や宿泊施設の運営を行うのは、
HAPSのオフィスのご近所、松原通りで
おばんざい屋「ゆたか屋」を営む大門美鈴さん。

大門さんは、もともと賃貸業を手がけていましたが、
ご家族や生活の変化を経て夢を追いかけていこうと考えていたころ、
この場所に出会いました。
それが、ちょうど1年前の2013年夏。
最初に常松庵を見たとき、ジャングルのように生い茂った庭と、
古い家財やごみ一杯のお屋敷の中で、光が見えたそうです。
「夢がここにあった」と。
古いものが好きで、ガーデニングの資格も持つ大門さんにとって、
古い家がそのまま残され緑豊かな日本庭園がある常松庵は理想的な物件でした。

年明けて2014年1月から、庭や建物の片付けを開始。
母屋を宿泊施設として稼働すべく、
春から工務店による改修工事が始まりました。
自身も、それまで住んでいた高雄の古民家から、常松庵の住居に移りました。

部屋を仕切る襖を壁に作り替え、客室を確保。
浴室や洗面所を新設して宿泊施設として改修していきました。
バリアフリーに対応するよう手すりも設置。
5月頃からは、草取りにはじまり、
毎日庭の植物に手を入れ、石を並べ玉砂利を敷き、整えていきました。
約半年の改修期間を経て、ゲストハウス「常松庵」として無事オープン。

改修中、近くに住む大家さんが見にいらして、
「こんなにきれいにしてもろて」とおっしゃったり、
ご近所の方々からも「是非中を見せてほしい」
と言われているところだそうです。

当初の状態からは見違えるような、
しかしおそらくは、建物や庭が本来持っていた力が見事蘇り、
新しい住人たちとともに新たなサイクルが始まっているようです。

かなりの大事業となった改修ですが、
「私たちが楽しんでいればそういう場所になっていくと思うし、
縁があって集まった方を大事にしたい」と語る大門さん。
実際に、緑豊かな庭を眺めながらお話していると、
時を忘れてしまうような独特の空気に満ちた空間です。

一方、長屋の一角に住みながら、現在も改修を自らの手で継続中の山田毅さん。
東京都出身で、京都に移り住んでからはまだ1年半ほど。
常松庵以前は二条城近く、京都タワーと大文字山も見通せる、
眺めのよいマンションに住んでいました。
2014年の年明け頃、心境の変化もあって環境をがらっと変えてみたいと、
HAPSにご相談いただきました。

現在の山田さんの住居部分。前に広い屋根付きスペース、奥に工房スペースがある。

実は、山田さんから相談を受けた時期に、
HAPSでもちょうど大門さんから「面白い場所を見つけたの」
と、常松庵のお話をいただいた頃。母屋はゲストハウスへの改修を考えていて、
同じ敷地にある長屋は活用方法を検討中でした。
5軒ある長屋のうち東側2軒は、
倉庫として使われていた土間のスペースが隣接。
「生活とともに手を動かせる場所、作品をつくれる工房を探している山田さんに、
うってつけなのでは」と、早速紹介しました。
最初の見学で、山田さんも「ここだ!」と直感的に感じたということで、
トントンとお話が進みました。
HAPSにとっても、ご近所にまたひとつ面白い場ができていく、
嬉しいマッチングとなりました。

改修前の台所の様子。

床の表面を剥がしてやすりがけし、明るくなったキッチン。業務用冷蔵庫も導入(2014年7月)。

京都ではまだ寒い春、4月を待って山田さんは引越し。
その前に、まずは寝室となる和室の床から、リノベーションを始動。
前回の記事にも登場いただいた、建築士の木村慎弥さんとともに、
作業を進めていきます。
改修にあたっては、「作品としての家づくり」ということを考えたそうです。

普通にしない。世界観のカタチ化。

住まいとしての構造はしっかり保ちつつ、意匠の部分は、
不便だったり時間がかかったりしても、面白いことをしてみようと。
そこで、本来ならば新しい床板を張ってしまうような台所も、
元の駆体を生かしつつ、
床をディスクグラインダーで丁寧に剥がして、
ガラスショーケースの業務用冷蔵庫を設置しました。

和室の床の構造をつくり直す。

和室の畳を上げると、床がシロアリに食われて、
ダメになっていたので、床下から手を加えました。
壁には作品を掛けられるよう、板を貼り重ね、壁を厚くして白く塗装しました。
電気工事も入れて、エアコンを取り付けました。
この工事は結構大変で、業者に依頼しました。

続いて、もともとは陶芸職人の倉庫として使われていたという、
隣接する土間スペースも、不要物は取り除き、徐々に工具などを導入して、
工房として機能し始めています。
このあたりから、つくりながら生活するカタチがなんとなく見えてきたようです。

寝室の壁面を新たにつくり、ペンキを塗る山田さん。(2014年7月)

最初に整った寝室部分。周りにはものづくりをする人たちが多いので、新たにつくった白い壁は作品展示スペースに。

住居に隣接する土間スペースは工房へと改修。

山田さんに今後のリノベーション計画を尋ねると、こんな答えが。
「今は自分が生活する最低限のスペースが完成しただけなので、
自分の周りにいる好きな作家さんの作品などをきちんと飾ったりして、
もう少し手を入れてお客さんを招ける家にしたいです。
この空間を生かして展示や、ワークショップなども開催したいし、
もっとこの場所を知ってもらいたいですね」

さらに、常松庵に住み始めてからの変化として、
家づくりを一緒に行った建築家の木村さんと、
同じ景色を見ている」というユニットでも動き始めました。
何かを「つくること」が身近になり、
個人での制作だけでなくワークショプなど活動の幅が広がったと言います。
山田さんは、実家は材木屋さんで幼い頃から工作に親しみ、
長じては映像や舞台の制作を手がけ、進学した美術大学では、
物語を空間に落とし込んで表現する作品制作をしていた山田さん。
「古いものに宿るストーリー性をカタチにしたい」
と最近は考えているそうで、
これにもまた常松庵での暮らしも少なからず寄与しているようです。
母屋の改修時に出た廃材や敷地内にあった古い家具などを貰い受け、
それらに手を加えて、新たな「もの」として活用することも計画中。

敷地内で見つけた古い階段を利用し、育てているハーブをディスプレイ。

山田さんは、ここに移り住んでから、
大門さんの「ゆたか屋」によくご飯を食べに行くようになりました。
そこで、私たちHAPSスタッフとばったり顔を合わせることも。
また、大門さんから家庭菜園の野菜をいただいたり、
庭木の剪定をお願いされたり、
先日も常松庵ウェブサイト用の写真を撮影したり。
敷地内にいる人々と日常的に会話があり、交流があるというのは、
今までの生活にはなかったことで、それが刺激的であり、
この場所の魅力なのだそうです。
さらにはゲストハウスもあるので住人以外にも、
たった数日だけここに滞在する人や、ロングステイで長く滞在する人もいます。
7月に来日したグアドループのアーティストも1か月滞在していました。
生まれた国もここにいる目的も違う人々がすれ違う、
交差点に立っているような感覚もまた面白いと、
常松庵での暮らしを楽しんでいます。

ウェブサイト用に写真撮影中の山田さんと常松庵マネージャー・水野さん。

庭木の葉が色づく頃、観光シーズンの京都で、
常松庵もこれからまた多くのゲストを迎えるはずです。
蚊が少なくなったら、庭でハンモックを吊るしたいと、
大門さんは計画しています。山田さんの住まいはどう変化していくのでしょう。
この豊かな場所から生まれるものや出会いを、
私たちもこれからも見守っていきたいと思います。

information


map

常松庵

住所:京都市東山区慈法院庵町594-1
TEL:075-525-0811

http://joshoan.com

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