連載
posted:2014.11.6 from:京都府京都市北区 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
profile
HAPS
東山 アーティスツ・
プレイスメント・サービス
2011年 東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス実行委員会設立。「若手芸術家等の居住・制作・発表の場づくり」を主な目的とし活動を行う非営利組織。相談窓口を開設し、空き家や空きスタジオの情報提供やマッチング等を通して、若手芸術家の京都市への定着を促進するための活動を行うほか、京都市内の芸術家を対象に、制作・発表を包括的に支援している。
http://haps-kyoto.com/
京都市北区紫竹。少し北上すると上賀茂神社にも近い、静かな住宅街。
その一角、久我神社の森を背景に、
築50年を数える2階建ての「ふじセンター」が佇んでいます。
建物に一歩足を踏み入れると、
シャッターが半分降りている外観からは
想像もつかない予想外の面白い空間が広がっています。
ここでは現在、鶏肉店、鞄工房、HAPSのマッチングした
アーティストのスタジオなどの活動があり、居住者もいます。
1階、庭、屋上などの空間を生かし、
時にはライブや季節ごとのイベントが繰り広げられ、
また近所の人々が立ち寄ってはおしゃべりをしていくような場になっています。
1960年に建てられ、2階は12部屋の台所つきアパート、
1階は、肉屋、漬物屋、八百屋、たこ焼き屋、
ゲームコーナーなど総合商業施設として賑わってきました。
平成に入り徐々に活気が薄れ、
ついには鶏肉屋「鳥米商店」1店のみが営業を続ける状態に。
しかし、15年以上が経過していたところ、
2012年10月から100坪のスペースを活用すべく、
ミュージシャンの山崎秀記さんが中心となり、
アトリエや作業場、住居として自分たちでDIYしながら、
さまざまな人が入居し始めています。
秀記さんは、20代の頃から演劇や音楽の京都アングラシーンで活躍し、
丸太町のライブハウス「ネガポジ」のオーナーで、
ロックバンド「ウォーラス」のリーダーでもあり、
現在は「ふじセンター」の運営を行っています。
大学から京都に来て既に引越しは10回を超えています。
より面白い物件をを探しインターネットをいつもチェック。
ふじセンターとの出会いも
関西の地域活性を目指し空き家物件を紹介するインターネットサイトでした。
そのサイトにはこう書かれていたそうです。
「驚異的な部屋数!
1階・2階の一定区画を除いた全ての部分がご利用できます。
面白い物件が好きな方、根性のある方、ぜひ。」
秀記さんは早速連絡をとり、現地の様子を見に。
物件の問い合わせをしたところ、
偶然にも大学の音楽サークルの後輩であり、
ふじセンター近くの大宮商店街で代々畳店を営む、
西脇一博さんが関わっていることが判明。
西脇さんは、畳店の枠を越えて、
設計・施工などの工務店的な仕事も手がけていたことから、
ふじセンターの大家さんからメンテナンスの依頼を受けていました。
ふじセンターは神社に隣接していることもあり、
周囲に差し障りがある状態にはしておけないと
長年ほぼ空き家となっている建物の補修や落葉の清掃を、
西脇さんが月に1〜2度行っていたそうです。
そんなご縁から、ふじセンターを秀記さんが借りることになっても
ライブハウスの改修や家のDIYを自ら行っている秀記さんを、
西脇さんが知っていたことが、大家さんにとっても安心材料に。
しかし、実際自宅として借りるとなると
物件の魅力と可能性を大いに感じたものの、
100坪の広さにやはり最初は勇気が要ったという秀記さん。
そこで、ほかの借り手として誰に声をかけるかが問題でした。
思案していた頃、大学の頃から音楽を通じた旧知の仲である山本玄さんが、
ふらりとライブハウス「ネガポジ」にやってきたのです。
ふじセンターの話をすると、玄さんはすぐに乗ってくれました。
革製品の作家である玄さんは、
ふじセンターからすぐの場所にある自宅に工房を構え、
そこで革の鞄などを妻の尚子さんとともに製作。
機械や素材などが増え、手狭になってきたので、
ちょうど新たな場所を探していました。
当初は一部の作業のみを行う場所として借りたそうですが、
今や工房全ての機能をふじセンターに移し、
日々1階スペースを守る顔となっています。
そんな不思議な縁が重なって、
ふじセンターの磁力に惹き付けられるように仲間が集まっていきました。
そのひとりは、舞台美術をつくっている田島邦丸さん。
現在はふじセンターに工具室を借りています。
田島さんは演劇の舞台美術を手がけていましたが、
劇団の解散を経て公演の場所を探していたところ、
秀記さんがふじセンターの活用を始めたことを知って、
1階に舞台をつくり、照明を取り付け、公演会場に。
その後は、ふじセンターに新たな入居者を迎えると床を張り直したり、
1階にみんなでお正月を過ごすための居間を、
畳敷き、障子張りでつくったり。
DIYする上でも頼もしい存在です。
そして、造園、電気や水道工事、設計など、
好きに遊ぶ余裕も出てきたという40代の
専門スキルも持つ古くからの友人知人などが
各自の強みを生かしあってこの場所で楽しんでいるという状況です。
現在は、鶏肉屋さんのスペースを除く、
「ふじセンター」1、2階全てのスペースを秀記さんが一括で借り、
運営しています。
1階はワンフロアで仕切りのない空間に、
鶏肉屋さん、鞄工房、手づくりの共用キッチンと居間。
さらにガレージとして使用している部分や、
フレキシブルなイベントスペースとして活用中。
ここで、田島さん特設の舞台が組まれ、ライブあり、フード&ドリンクありで、入居者や友人たち、そして近所の人々をまじえにぎわう
「ふじセンター祭」を年に2、3回開催。
奥の庭では養蜂もしているので、
蜂蜜の収穫と試食会も年に1度の行事になりつつあります。
2階の集合住宅部分のうち、住まいとしているのは秀記さん含め3名。
そして、アーティストのスタジオ、
工具室、短期滞在用の部屋として使用しています。
そして、比叡山まで見通せる見晴らしを誇る屋上では、
夏の「五山の送り火」の時に、たこ焼きパーティーが開かれたりもします。
ふじセンターをHAPSに紹介してくれたのは、
HAPSがこれまでに六原まちづくり委員会などで一緒に活動をしてきた
戸倉理恵さんでした。戸倉さんはジャズシンガーの顔も持ち、
「日本畳楽器製造」(!)なる、
畳を素材にした楽器で演奏するバンドでも活躍中。
バンドを率いるのは、先ほど名前が挙がった西脇さんです。
そんなご縁で「面白い場所がある!」とHAPSにお知らせいただいたのでした。
そして、HAPSのコーディネーションにより、
ふじセンターを制作の場としているアーティストが日名舞子さんです。
京都市立芸術大学を卒業後、
半年間続くワークショップの作品制作のために、
短期的なスタジオを探したいと、2013年8月にHAPSに相談を受けました。
早速マッチングへ。
当初は短期利用の予定でしたが、
ふじセンター屋上を作品の映像撮影に使ったり、
1階の広い空間で、作品の実験をするなど、
ふじセンターの環境が気に入ったようで、現在も継続しています。
ふじセンターでは、大学での制作環境とは違った、
幅広い人々と日々接し、話す機会が増え、作品にも変化が出てきたようです。
さらに、HAPSのマッチングで、
ふじセンターで作品制作を行うアーティストがまたひとり、
最近加わりました。
お話を聞いていると、次々に登場人物が出てきて、エピソードが尽きません。
秀記さんの頭の中には、
まだやりたいことがいくつも実現を待っているようです。
まずは、11月16日に、次回の「ふじセンター祭vol.3」を控えています。
お近くの方はぜひ、遊びにいってみてください。
infromation
ふじセンター
住所:京都市北区紫竹下竹殿町1
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