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京都の町家を
インタラクティブな空間へ。
HAPS vol.1

リノベのススメ
vol.039

posted:2014.8.29  from:京都府京都市東山区  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

HAPS

東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス

2011年 東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス実行委員会設立。京都市の委託により、「若手芸術家等の居住・制作・発表の場づくり」を主な目的とし活動を行う非営利組織。相談窓口を開設し、空き家や空きスタジオの情報提供やマッチングなどを通して、若手芸術家の京都市への定着を促進するための活動を行うほか、京都市内の芸術家を対象に、制作・発表を包括的に支援している。
http://haps-kyoto.com

HAPS vol.1
20年間空き家だった町家を、ワークショップリノベーション。

京都の祇園や清水寺といった名所にもほど近い東山区の静かな住宅地の一角、
大和大路沿いに、白く塗られた町家があります。
ここは、私たちHAPSが活動拠点とするオフィス。
小さいながらもギャラリースペースやイベントスペースを兼ね備えた複合的な空間です。
HAPSとは、「東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス」の略で、
京都市の事業として市内の若手芸術家をサポートしています。
アーティストと彼らを支える人たちのよろず相談にのったり、
ネットワーク形成を目指し国内外のキュレーターを招聘して、
ワークショップやレクチャーを開催したりと、芸術家支援のために日々活動中です!

そんなHAPSの活動の大きな柱に、
アーティストに向けた京都市内の物件マッチングがあります。
なんと、京都市内には現在、約11万戸の空き家があり、
景観や防犯上、大きな問題となっているのです。
空き家の状態が続けば、家は荒廃します。
しかし、通常の不動産流通のためには
貸し主の側で大がかりな改修が必要で費用もかかります。

一方で、京都には4つの芸術大学がありますが、
卒業生たちの活動拠点となるスタジオに適した物件(広さ、予算、土間ありなどの条件)を
市内では自力で見つけることが難しいという状況があります。

そこで、アーティストが自身で手を動かし空き家をDIY。
大家さんの改修費は抑えられ、アーティストたちは、家賃コストを抑えられ、
双方にとってメリットとなるマッチングサービスが始まりました。

ここでは、そんなさまざまなマッチング事例を綴っていきますが、
まずは、HAPSのオフィスからです。

HAPSの2階のオフィススペース。

2階のミーティングルーム。ここで、アーティストなどの相談に応じています。

1階入り口部分はギャラリースペースとして、夜間展示「ALLNIGHT HAPS」を行っています。
写真は、向井麻理企画「ミッドナイトサマーシアター」での「最後の手段」による上映の様子。

HAPSのオフィスの建物自体も京町家を改修した空き家活用のモデルケースとなっています。

HAPSのオフィスが位置する六原学区は、京都市内でも早くから空き家活用に取り組み、
オフィスとなった空き物件も、地域の自治会から紹介していただきました。
およそ築100年、20年ほど空き家だったもので、長く借家として使われており、
中国地方にお住まいの大家さんは、相続して初めてこの家の存在を知ったそうです。
大家さんとしては、
相続時点で既に10年以上空き家で、床も一部腐っているような惨状だったので、
ご自身で手をかけて賃貸することは考えていなかったそうです。

全体に傾いてしまった物件の歪みを直すための土台からのジャッキアップ、
さらに屋根補修、電気・ガス、水回りの整備など全てを含めると、
設計事務所からの当初の改修見積りは2000万円くらいになりました。
しかし、大家さんとHAPS、どちらにもその予算はありません。
悩んだ結果、建築リサーチチーム「RAD」に相談したところ、
ワークショップ形式での改修をやってみようということになりました。
「RAD」は、Research for Architectural Domainの略で、
彼らは、「建てること」のみならず、
「現にあるものを、どう活かすのか」という視点から活動しています。

ワークショップなどで派生する改修費を全てHAPSで担う代わりに、
家賃は大家さんの固定資産税と火災保険料をまかなえる、
最低限に抑えていただくことになりました。

改修前の建物外観。

ワークショップの講師は、地元の大工さんや左官屋さん、そしてアーティスト。
参加者は、京都ならではの伝統技法や、アーティストの斬新なアイデアを体験でき、
さらに、自身で空き家を活用する際に必要な技術を習得できるので、
空き家活用促進にもつながります。

最初のワークショップの日、
空き家に入ると、床は両端で15cmほど傾き、屋根には大量のホコリが溜まっている状態。
まずは、ワークショップ参加者とともに、
床などの内装や造作家具など不要物の片付けからスタートしました。
2012年7月のことです。
水道・電気設備、コンクリート土間こそはプロの方に工事をお願いしたものの、
ほかは各分野のエキスパートやアーティスト指導のもと、
HAPSが募った一般の参加者とともに改修していきました。
解体や撤去の次は、床を水平にし、建物の骨組みや壁の補強、
棚階段やロフトづくり、壁の塗装や表面の加工、新たな壁や床づくり、
三和土工法での土間づくりなどを行っていきました。

解体・撤去作業1日目(2012年7月)。

アーティスト・市村恵介さんの指導のもと、1階ギャラリー部分の壁を制作(2012年11月)。

町家に用いられる伝統工法のひとつ、古い土壁に布海苔で和紙を貼っていくことで剥落を防止(2012年12月)。

毎回、ワークショップは、中心となるRADの木村慎弥さんによる朝礼からスタート。
グループワークで作業を進めるので、初対面同士でもすぐに打ち解けます。
最初は全くの初心者であっても、繰り返し参加していくことで、
スキルは目に見えて上がっていきました。
力仕事や暑い・寒い時期など、ハードな面もありましたが、常に和気あいあいとしたムード。
昼食や時には夕食もともにしたり、近くの銭湯、大黒湯で一日の作業を終えて汗を流したり。
特にリピーター同士は、その後もイベントに誘いあうなど、交流が続いています。

hyslomによる、アーティストならではの視点で改修を楽しむ塗装ワークショップ(2013年2月)。

ワークショップの合間には、炊き出しをしてともに食事を囲んだ。

RADの提案で、
単に解体したり改修したりするだけではなく、工程を全て記録に残していったのも、
一連のワークショップの特徴です。
今後空き家を活用したいアーティストがDIYで改修する際の参考にできるよう、
手順、作業にかかる人手、時間などをレシピとしてまとめています。
記録の一部は、写真を中心に、Facebook上でHAPS Office renovation projectのページで
見ることができます。

また、この物件の難点だった歪みは、
「歪んだまま見せる」というテーマのもとで改修を行い、
隠すのではなく、見せるための工夫が随所に施されています。
例えば、2階の床は板張りの周囲四辺をモルタルで囲まれています。
歪みによって、端まで板を張ることができない代わり、
歪みをポジティブに見せるデザインとして取り込んでいきました。

はなれの改修では、元の構造に波板をかぶせることで見せつつ補強(2012年12月)。

週末を中心に、数十回のワークショップを行い、
約100日の作業日数を経て、2013年8月にオフィスは開館しました。
京都内外(愛知、三重、なんと関東、九州からも!)からの参加者の中には、
リピーターとなってさらに友人を連れてきてくれる人もいて、
参加者登録は100人近くにのぼりました。
「建物を自力で解体するというのは、できると普段想像していなかったことだったけれど、
テレビ番組のような体験で印象深かった」とは、ある参加者の証言です。

現在もなお、さまざまな部分の手入れの目的で改修ワークショップは継続しています。
「オープン時点での完成度は80%で、
残りの20%を残したことで、他の人が遊びを加えていけたので、結果として面白くなった」と、改修ワークショップで現場監督を務めたRADの木村さんが、
当時を振り返り話してくれました。

壁づくりワークショップで参加者に説明する木村さん(中央)。

オープン後も意匠や装飾といった部分を改修し続けました。
例えば、オフィスに着くとまず目に付く「HAPS」の看板下部分は、
「都市表層研究所テグラ」によるワークショップででき上がったものです。

ワークショップで制作したタイルを入り口壁面に設置(2014年3月)。

集会スペースには黒板が設置され、改修で出た廃材を使用した本棚が設置されています。
この場所では現在、知識や経験、
技術を共有していく開放的なレクチャープログラム「OUR SCHOOL」が展開されています。

1階はレクチャーやワークショップ等に活用。

今年3月には1階の耐震補修を兼ねた土壁のワークショップを実施。
左官職人の萩野哲也さんをお招きし、
竹小舞(たけこまい/土壁の下地に使う細い竹)の編み方や
材料のつくり方から土壁の塗り方までを指導してもらいました。
素材として用いられる土は、練り直して繰り返し使われているため、
HAPSオフィスの土壁には、江戸時代からの土も混ざっているそうです。

また、この夏は新たに「同じ景色を見ている」
(建築家で一級建築士の木村慎弥さんと映像や舞台制作を行う山田毅さんによるプロジェクト)チームによるワークショップで中庭の壁が完成。
これまでは、お隣の壁面がむき出しで少し殺風景な庭でしたが、
縁あって、ある家から譲り受けてきた、
丹精込められた植木たちとあわせ、潤いある憩いの空間が出現しました。

壁づくりワークショップで、壁の構造につくった木のうろこを貼っていく(2014年6月)。

木村さんによる「土壁の中塗りのワークショップ」も今年の秋に控えています。
建物の歴史にも思いを馳せながら、今も続く改修ワークショップで、
HAPSオフィスは進化を続けています。
最近では親子向けのお話会が定期的に開催されていたり、
またご近所の方々が夜に足を止めて展示を眺めていたりも。
さらに、ご近所で不要品となった毛布やちゃぶ台など、
「誰か必要としている人いないかしら」といった、
ありがたいお話が舞い込んでくることも増えてきました。
一方で、京都のアーティストが日々相談に訪れ、
さらに、世界的なアーティストやキュレーター、美術やまちづくり、
建築などの関係者が国内外から視察に訪れるなど、
HAPSのミッションのひとつでもあるネットワーク形成を体現するような場所になっています。
地元に深く根差しながら、
同時に世界に向けて京都のアートについて発信していくような場でありたいと思います。

次回は、HAPSがコーディネートしたアーティストのスタジオなどを紹介します。

information

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HAPS
東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス実行委員会

住所 京都市東山区大和大路通五条上る山崎町339

http://haps-kyoto.com/

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