連載
posted:2019.3.11 from:長野県長野市 genre:暮らしと移住 / ものづくり
sponsored by 長野市
〈 この連載・企画は… 〉
ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。
writer profile
Takashi Kobayashi
小林隆史
こばやし・たかし●編集・執筆・企画〈general.PR〉代表。1989年長野県生まれ。信州大学教育学部卒業後、中学校教諭を経て渡米。帰国後にアパレルスタッフを務めた後、general.PRをスタート。長野、東京、山梨を拠点に、伝える仕事に携わる。2011~2017年は旧金物店を改修した居住空間〈シンカイ〉に暮らしながら、さまざまな企画を行う。
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本州のほぼ中央に位置する長野市は、東京から電車で約1.5時間。
車窓の風景は、木々の彩りへと移り変わる。
このまちの魅力は、そんな自然と隣り合わせの風土や食と美。
だけど、そればかりじゃない。
善光寺の門前町として、四方から訪れる旅人を迎え入れ、
疲れを癒してきた歴史がある。
いつの時代も、旅立つ人、旅の途中にいる人、
そして、彼らを受け入れる人たちが交差する長野市は、
次なる旅路をつなぐプラットホームだ。
そんな長野市で、自分の想いを込めた「場」を営み、
この土地ならではのカルチャーを培う人たちがいる。
彼らと交わす言葉から、これからの「ACT LOCAL」を考える。
「こんなレザーベルトや、あんなレザーウォレットが、あったらいいな」と
頭に浮かぶイメージが膨らんだら、マップのピンを長野市に落として、
休日のひとときを楽しんでもらいたい場所がある。
革作家の木村真也さんが営む〈OND WORK SHOP(オンド ワークショップ)〉だ。
木村さんがつくるレザーアイテムは、
色、ステッチ、デザイン、そして革の表情まで、同じものはふたつとない。
オーダーを受けて、ゼロからデザインをおこすこともあれば、
バックルからベルトの「太さ・色・長さ」まで自由に選べる革ベルトや、
はたまた、バッグや衣服、家具にまで、革を用いたリペアをする。
革の個性とお客さんのイメージを読み、
おもしろおかしく談笑のキャッチボールを繰り広げては、
膨らんだイメージから世界にひとつのものをつくる。
そんな木村さんの誠実な人柄が沁みるOND WORK SHOPは、
2014年10月のスタートから、およそ4年半の歳月が経ったいま、
毎月30組以上のオーダーを呼ぶサイクルを生んだ。
木村さんは、これまでを振り返り、子どものように純真無垢な笑顔で、
ものづくりへの想いをこう話す。
「人が本当にほしいと思うもの、永く使いたいと思うものを、
ひとつひとつ、ちゃんとつくって、届けたい。それだけなんです」
とはいえ、出身の長野県飯山市で高校を卒業したあと、
東京の専門学校でグラフィックデザインを学び、
20代を浅草の老舗ベルトメーカーで過ごしてきた木村さんにとって、
長野市で自分のお店を開くのは、知り合いもツテもゼロからのスタート。
ましてお店ともなれば、立地や単価、客数などの計算を
しないわけにはいかなかったのでは?
と素朴な疑問も浮かんできそうだが、木村さんはまっすぐに言う。
「お店を始める前から、いままでずっと、
そういう計算ありきでお店のことを考えたことがなくて。
むしろ、売ろうとしてない(笑)。
それよりも、ここで出会えた人たちが、『何を求めているのか』
『何を楽しみたいと思っているのか』ということばかり考えてきました。
根本的に、出会えた人とは、ものを売るだけの関係になりたくない
と思ってやってきたので。
だけど、もし東京でやっていたら、経費がかかりすぎちゃって、立地条件や価格など、
お金を稼ぐことに比重をかけざるを得なかったかもしれないですね。
そう考えると、やりたいものづくりのあり方とこの場所が、
たまたま合っていたのかなと思います」
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OND WORK SHOPがあるのは、長野市善光寺門前界隈。
連載の第1弾と第2弾にも紹介している、
〈ナノグラフィカ〉の清水隆史さんや〈KANEMATSU〉の活動をきっかけに、
2010年前後から、空き家に新たなあかりが灯るようになっていったエリアだ。
30代を迎えた木村さんが長野に移住し、お店を開いたのは2014年のこと。
その頃には、善光寺門前界隈の空き家を改修して、
自分の夢をかたちにする同世代の人たちが増えていたこともあり、
新たなあかりが灯るOND WORK SHOPのうわさは、
知り合いから知り合いへと、自然に広がっていった。
そうしてスタート直後1か月の間に、さまざまな人が足を運んでくれたことで、
「ここでなら、ものを売るだけではなく、人との関わりをちゃんと築いていける」と、
木村さんのなかに、確かな手応えが芽生えた。
こうした背景も重なり、「人が本当にほしいと思うもの、
永く使いたいと思うものを、素材に感謝してつくる」という
まっすぐな想いで、理想のものづくりのサイクルを培ってきた木村さんは、
不揃いの商品がはじかれてしまうことも多い「大量生産のものづくり」とは距離をとり、
革の個性とお客さんのイメージに寄り添い続けてきた。
そんな営みからは、仕事と暮らしのちょうどいいバランスも生まれていったという。
「ものづくりを通して出会えた人たちが、
日々を遊ぶ人、一緒にごはんを食べる人にもなり、
そのまま30歳からの自分をつくるベースになっていきました。
このあたりの人たちは、人がよくて。
お店の方向性を見直していたときなんかは、
個人でお店をやっているみんなとお酒を呑んで、お互いに鼓舞し合うことで、
がんばれた瞬間もあったなあと思います。
まあ、別の地方でやっていても、同じことを思ったのかもしれないですけど(笑)、
なんとなく肌感覚で、この界隈でおもしろく暮らしていけそうだなあと感じたのは、
たしかでした」
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元布団店を改修した空間で、独自のものづくりを続けてきた木村さん。
彼自身のあたたかな空気感のたまものか、はたまた、お酒好きの愉快な人柄のおかげか、
長野市と全国各地のアクセスのよさも相まってなのか、
OND WORK SHOPには、各地からのオーダーが集まっている。
もはやローカルの境界線を越えて、理想のものづくりのサイクルを培ってきたことで、
木村さんは新たな将来を思い描くようになった。
「ここでやってきたからこそ出会えた人たちがいて、
その人たちとは、これからも永くつき合っていける関係になっていると感じられたから、
場所を変えようとも、いまのものづくりのかたちは続けていけると、
確信できるようになってきて。
それに、自分の中の“リトルキムラ”が(笑)、
もっと自然の中でものづくりをしたくなってきたということと、
僕の奥さんが田舎で美容室を開きたいと考えるようになったということもあって、
もう少ししたら、きれいな自然が広がる山のほうに、
夫婦でお店をつくろうと思っているんです」
長野市を経て、理想のものづくりのサイクルを培い、次なる夢を紡ぎ始めた木村さん。
稼ぐことに比重をかけすぎることなく、実直に夢を描いて営んできたお店。
「お客さんと友だちになること」で築いてきた関わり。仕事と暮らしのバランス……。
木村さんのあたたかな人柄を真ん中に、あらゆる背景が合わさり、
「本当に求められるものだけをつくる」というものづくりのサイクルが回り始めたのは、
これからのローカルを知るひとつのヒントになるのかもしれない。
そして、木村さんが長野市を離れようとも、出会えた人たちのことを、
「あそこのあの人に会いに行くといいですよ」
「あそこがおもしろくて」なんて、思い出ごとこのまちを語ると、
それがきっと、いつか誰かが長野市を旅する理由になる。
こんなふうに、いろんな旅が交差する長野市は、
いつだって新しい何かが生まれるきっかけをもっているのだろう。
information
OND WORK SHOP
profile
SHINYA KIMURA
木村真也
1982年長野県飯山市出身。高校卒業とともに上京。グラフィックデザインの専門学校卒業を経て、浅草のレザーメーカーに就職。約10年間勤めた後、長野市に移住。2014年10月に〈OND WORK SHOP〉をスタート。
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