連載
posted:2019.2.27 from:長野県長野市 genre:暮らしと移住 / 旅行
sponsored by 長野市
〈 この連載・企画は… 〉
ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。
writer profile
Takashi Kobayashi
小林隆史
こばやし・たかし●編集・執筆・企画〈general.PR〉代表。1989年長野県生まれ。信州大学教育学部卒業後、中学校教諭を経て渡米。帰国後にアパレルスタッフを務めた後、general.PRをスタート。長野、東京、山梨を拠点に、伝える仕事に携わる。2011~2017年は旧金物店を改修した居住空間〈シンカイ〉に暮らしながら、さまざまな企画を行う。
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本州のほぼ中央に位置する長野市は、東京から電車で約1.5時間。
車窓の風景は、木々の彩りへと移り変わる。
このまちの魅力は、そんな自然と隣り合わせの風土や食と美。
だけど、そればかりじゃない。
善光寺の門前町として、四方から訪れる旅人を迎え入れ、
疲れを癒してきた歴史がある。
いつの時代も、旅立つ人、旅の途中にいる人、
そして、彼らを受け入れる人たちが交差する長野市は、
次なる旅路をつなぐプラットホームだ。
そんな長野市で、自分の想いを込めた「場」を営み、
この土地ならではのカルチャーを培う人たちがいる。
彼らと交わす言葉から、これからの「ACT LOCAL」を考える。
人が行き交い、文化が交差する「コーヒーのある場」には、
世界中どこでも、旅人を楽しませる偶然が待っている。
店主にローカルのおすすめを聞くのもいい。
たまたま居合わせた人が、まちを案内してくれることだってある。
イヤホンを外し、これまでためてきたマイプレイリストをオフにして、
お店の音楽やそこで交わされる言葉に身を委ねては、
自分の知らない音楽や世界に耳を傾けるもよし。
たった1杯のコーヒー。されど、そこからたくさんの偶然がつながっていく。
連載の第4弾となる今回は、長野市で「コーヒーのある場」を営む、3人の店主を紹介。
彼らに共通するのは、「全国各地に独自の関係を築いていること」。
もはや、ローカルの境界線を越えて、
三者三様に豆の販売やコーヒーの監修などを手がけ、
実直に自分が表現したい「コーヒー」と「場」を更新し続けている。
そんな彼らとの出会いや、それぞれの「場」で交わす言葉から、
長野市の旅を始めてみたら、きっと、自分だけでは想像し得なかった
新しい世界が広がっていくだろう。
善光寺中央通りに面したコーヒースタンド〈FORET COFFEE〉、
中央通りから東へ、裏路地の先にある焙煎所〈ヤマとカワ珈琲店〉、
善光寺から西へ、閑静な住宅地に隠れ家のように佇む喫茶店〈平野珈琲〉。
3つの「コーヒーのある場」を巡れば、また長野を旅したくなる偶然に出会うだろう。
お互いに近況を報告し合う仲でもある3人の声とともに贈る本記事を片手に、
都会の喧騒を離れて、コーヒーを巡る旅を長野市で。
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外国人ファミリーや子連れの女性、ラップトップを広げて仕事をする人、
近くのゲストハウスから足を延ばして、旅の思い出と次なる旅路を語り合う人たち。
そんな人たちが、各々の時間を過ごす朝。
時折、大きな木製のカウンターから出てきて、「いってらっしゃい」と声をかける
〈FORET COFFEE〉店主の松澤岳久さんは、
そんなコーヒーのある朝を、このまちに思い描いていた。
「このまちに、あのコーヒー店があるから暮らしたい。
そんな風に思ってもらえる場所にできたらいいなと、お店を始める前から思っていて。
このまちに住んでいる人も、遠くから来た人も、
ふらっと立ち寄ってもらえたらうれしいですね」
善光寺中央通りに開いたカウンターから、
テイクアウトを頼んで善光寺へ向かう旅人もいれば、
反対の駅前へ仕事に出かける人もいる。もちろん、店内でゆっくり過ごす人もいる。
FORET COFFEEはそんな風に、旅も日常も交差する場所。
「おいしいコーヒーを出すことは基本。
そのうえで、スペシャルティコーヒーだからどうとかではなく、
単純に日々のなかで、この場所に来ることが楽しいと感じてもらうことが、
お店をやる意味。どうしたら気持ちよく過ごしてもらえるか。
大切なのは、本当にそれだけですね(笑)。
あとはお店を始めてみたら、外国の人から見た長野の魅力に気づかされることもあって。
来てくれる人たちが、長野や日本のカルチャーをどんな風に捉えているのかを、
なんとなく感じるうちに、僕らもこの土地固有のものを見直すようになったというか。
そういうことを、自分たちなりに考え直して、自分たちの感覚でちゃんと咀嚼して、
かたちにしていきたいと思うようになってきています」
こう話す松澤さんは、生豆の果実味を引き出したコーヒーに、
長野のフルーツをかけ合わせたメニューの考案や、
松をモチーフに描いたウォールアートをイラストレーターに依頼するなど、
独自のアンテナで「気持ちよく過ごしてもらうためにできること」を
ひとつずつ培っている。
しかし、そんな日々の営みが、長野にとどまることはない。
2017年には、グアテマラのコーヒー農園を視察。
焙煎の勉強をするために、定期的に、京都に拠点を持つ
オオヤミノルさんのもとへも通っている。
さらには、東京・浅草にあるコーヒースタンド
〈Sensing Touch of Earth〉のコーヒー監修も務めている。
「僕らのお店が、長野に来る理由のひとつであれたら」
と笑顔で話す松澤さんが、スタッフと共に築いていくカルチャーは、
ローカルの境界線を越えていく。
information
FORET COFFEE
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善光寺中央通りにある酒饅頭店を目印に東へ。
人通りの少ない、静かな場所にある古い平屋。
近づくにつれて、ほのかに漂うコーヒーの香り。
旅路をさまようように歩いた先に見つけることさえも、
〈ヤマとカワ珈琲店〉へ旅する楽しさだ。
この場所を営む川下康太さんの毎日は、コーヒー豆を焙煎することから始まる。
生豆の温度を確かめ、ノートに書き込み、焙煎機の温まり具合を調整し、
豆を焼いて、時間を計る。
焙煎機の中でカシャカシャと回る生豆は、次第にパチパチと音を立て始め、
川下さんはここぞというタイミングで、一気に焙煎機から豆を出す。
するとその瞬間に、コーヒーの香りが空間に広がる。
「いつも朝から、だいたいこんな感じで、1、2回焙煎したら、
焙煎以外のこともいろいろやって、準備ができたらお店を開ける。
ひとりでこうしている時間が、けっこう好きでね(笑)。
焙煎機は自動でも、豆を入れる前はアナログ。焙煎って、おもしろくて飽きない。
生豆そのものの味も、温度も、焼き具合も、毎日ちょっとずつ違いますからね」
そんな川下さんの「コーヒーのある暮らし」がそのまま、ヤマとカワ珈琲店。
気心知れた農家の菜園に遊びに行くような穏やかな時間が、ここにはある。
「これまで喫茶もやってきたけど、焙煎に専念するほうが、
無理なく自分のペースでコーヒーをつくれて、
自分の暮らしにちょうどいいなあと思っていて」
ヤマとカワ珈琲店には、コーヒー豆のほかにも、
ドリップパックやリキッドコーヒーなども揃う。
そのどれにも、知人が手がけたデザインが描かれている。
さらに、音楽家や作家の作品も販売。
川下さんは、これらのものを「届けること」に、コーヒーの魅力を感じている。
「“暮らしのなかで、無理なく飲めるいつものコーヒー”
であれたらいいなあと思っていて。
それは、このお店を続けてきたなかで、遠くの人でも、近くの人でも、
わざわざうちのコーヒーを頼んでくれる人たちがいたからでした。
場所もわかりにくいのに、見つけて選んでくれている、というか。
コーヒー屋さんって全国どこでもあるけど、ずっと連絡をくれる人もいて、
日々のなかで何気なく、ヤマとカワのコーヒーを楽しんでもらえてるんやなあと、
実感できたんですね。僕はその人たちに届けていて。
そういう関係を築けていることもうれしくて、コーヒーをつくって届ける毎日を、
そのまま僕の暮らしとして、楽しめているんです」
川下さんはもうすぐ2児の父になる。家族を営み、コーヒーを届ける暮らし。
そんな背景と一緒にコーヒーを味わえば、
コーヒーのある時間は、もっと味わい深くなる。
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人通りから離れた、静かな住宅地に佇む2階建ての一軒家。
白とグレーと杢で統一された空間には、
電球に照らされたステンレスやグラスの反射光、植物の影が広がり、
カトラリーやお皿がカチャカチャと鳴る。
その光も音も、ALTECの古いスピーカーから流れるJAZZと合わさり、
深煎りのコーヒーを少しずつ口に入れると、
壁にかけられた古時計の針が止まっているのでは、とさえ思えてくる。
ここには都会の喧騒も、目まぐるしく流れる時間もない。
「いろいろ悩んでいた20代の頃、喫茶店で考えごとをしてた時間があって。
それと、もともと旅が好きだったから、旅先でひとりで考えごとをしてた時間もあって。
たぶん、そういう時間が好きでね。まあそれって、露天風呂にゆっくり浸かって
ぼーっとするのと同じかもしれないけど(笑)。
ここが、ひとりの時間を持てる場所であれたらいいなと思っているんです」
〈平野珈琲〉の平野仁さんはこれまでに、
ゲストハウスやブックカフェを札幌市で営んできた。
そして、結婚を機に、長野市へ移住。2016年の末に、この場所を開いた。
もともと札幌市にいる頃から、自分でコーヒー豆を焙煎していたため、
長野に暮らしてから、喫茶店を開くことになったのは、自然な流れでもあった。
何より平野さんは、ゲストハウスやブックカフェ、そして喫茶店と、
これまでずっと、「場」というもののあり方を模索し続けてきたから。
「自分の居場所として“場”を持つことは、やっぱり大事にしているというか。
あらためて振り返ってみると、いまのこの場所の全部が全部ではないですけど、
過去に行ったお店や場所で記憶されたものが、いまだにあって。
“あのお店のあの佇まい”とか“あのお店に流れている空気感”とかね。
だからとりとめもなく、“あのとき感じたことをここで”みたいなことを、
ずっと考えているんだと思います」
もともと、コーヒーの焙煎を始めたきっかけも、
場をより良くしたいという、純粋な想いから始まったのだとか。
「かつて、ブックカフェをやっていた頃に、もっとおいしいコーヒーを出したいなあと、
いろいろな試行錯誤をしていたときがあって。そんなある日、たまたま縁があって、
焙煎機をつくってる方を紹介してもらえることになりました。
会いに行ったら、小さな工房で加工や溶接をしながら、焙煎機をつくっていて。
目の前で焙煎も見せてくれて、焼きたてのコーヒーを飲ませてもらったら、
とてもおいしくて衝撃を受けてしまったんです。
さらに、試しに自分で焙煎させてもらったら、ちゃんとコーヒーの味がして、
“ああ、これはおもしろいなあ”と。時間はかかるかもしれないけど、
納得のいくコーヒーをつくるには、自分でやってみようと思ったんです」
もっといい場所にして、もっといいコーヒーを。
そんな直球な想いで焙煎を始めた平野さんは、かつての記憶をうれしそうに話す。
そんなコーヒーを、長野の人たちだけでなく、
関係を築いてきた札幌のお店や人たちにも届ける日々を送っている。
そして、平野珈琲を始めてから2年の歳月が経ったいまは、
またあらためて、焙煎を見直すようになったそう。
「だんだんと、もっと良質なコーヒーにしていきたいと思うようになって。
コーヒー豆自体の質もそうですし、1杯のコーヒーに関わる環境や背景まで、
理解しておきたいなあという気持ちもあったので。
だから今年は、いろんな視点からコーヒーのことをもっと学んで、
深めていこうと思っています。
コーヒーって、そういう探究心をくすぐる何かが、あるんでしょうね。
単純に、“より良い場所にしたい”、“コーヒーをもっと良くしたい”と
思っただけなんですけど、突きつめて考え始めたら終わりが見えなくて、
困ってもいます(笑)。だからおもしろいんですけどね」
information
平野珈琲
「〇〇風」とか「流行りの〇〇」ということではなく、
「コーヒーのある場」に対して、それぞれがそれぞれに、
ただ純粋に、自分なりに咀嚼して、解釈して営んでいる。
こういう人たちがいるだけで、長野を旅する楽しさはもっと深いものになる。
そして、そんな人たちと出会い、コーヒーを巡る旅の土産に、
コーヒー豆をバックパックに入れたら、
帰路に着いて荷物を開いたそのとき、香りが部屋中に広がり、
旅の記憶が走馬灯のように蘇る、なんてこともある。
また、そんなコーヒーを巡る旅を土産話に話したら、
じゃあ来週みんなで行ってみようか、なんて盛り上がることもある。
休日の朝に淹れたコーヒーが、ふっとまた、旅を想う気持ちを駆り立てる。
あのコーヒーの香りとなめらかな口当たり。
あの場所の空気や音楽。辿り着くまでの時間。
ちょっと大げさだけれど、世界中どこにでも、
そんな魅力がふたつと同じものはないから、やはりコーヒーを巡る旅はやめられない。
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