連載
posted:2014.11.17 from:東京都目黒区 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。
editor's profile
Ichico Enomoto
榎本市子
えのもと・いちこ●エディター/ライター。東京都出身。小柄ですが、よく食べます。お酒は飲めませんが、お酒に合う食べ物が好きで酒飲みと思われがちです。美術と映画とサッカーが好き。
credit
撮影:加藤淳(メインカット、スズノブ店内)
画像提供:スズノブ
東京都目黒区の都立大学駅のそばで米店「スズノブ」を営みながら、
五ツ星お米マイスターとして全国を駆け回る西島豊造さん。
これまでさまざまなお米のブランド化を手がけてきたお米のスペシャリストで、
現在もあちこちの産地から声がかかる。
「ふつうの米屋がやる領域ではないことをやってるからね。
すでにブランドとなったお米に対して
拡販できるお米屋さんやマイスターはいるけれど、
ブランドづくりの1から100まで全部やっているのは、私だけなんじゃないかな」
と西島さん。
西島さんは北里大学で畜産土木を学び、土質や生態系について勉強した。
環境保全に興味があり、卒業後は北海道で2年半、農業土木の設計者として働き、
水田の用排水路、区画整理や農道などの設計の仕事に携わる。
そこで培われた土木の知識や技術が、米づくりにおける土づくり、
水田づくりに生かされているのだ。
「土のことをよく知っていて、農業土木の設計ができて、
河川などの構造設計に関する知識もあって、データ分析が得意。
そういう技術を持って、地域の活性化、ブランド化をしていきます」
西島さんは「SPR(Suzunobu Project Rice)」という
独自のお米のブランド化のプロジェクトを展開している。
ブランド化したいという生産者や地域の要望があると、
まず現地に赴き、実際に水田を見ながら、地力があるかどうか
全体的な環境なども調べ、技術者がどういう意識を持っているかを確認する。
さらに、20数項目にわたるチェック項目を確認しながら、
どれくらい将来性があるか見極める。
それからようやくブランド化が始まっていく。
「ふつうブランド化というと1本の柱でつくっていくことが多い。
でも自分のプロジェクトでは複数の柱を持っていて、さらに枝分かれしています。
トンネルではパイロットと言いますが、本線を掘るときに、
土質やいろいろな環境を調べながら、脇にもうひとつ穴を掘っていくんです。
だからたとえば日照が足りなかったり、水害があったりと、
何かがあったときにでも修正できるように、
ブランド化が止まらないようなしくみをつくっています」
地域や生産者のリスクを回避するプログラムを組み、
綿密なブランド化計画が練られている。
豊作でも不作でも、ブランド化のスピードが鈍らず
成立できるようなしくみをつくっているのだという。
また、特徴的なのは、土地柄や気候をいかした米づくりをするということ。
「その土地に合わせたやり方で米づくりをしていく。
土についてよく知っているから、お米の特徴を出しやすいんです。
この品種がこの産地だったらこういうお米になるということが想像できるし、
こう変えることができるというのも想像がつく。
それによって、より個性のあるお米をつくることができるんです」
地元の人たちだけでは気づかないこと、わからないことを、
お米のスペシャリストの視点から導いていくような仕事だ。
「生産者も、自分たちがつくっているお米のレベルがわからないし、
何をしていいかわからないんですね。そのときに、外から来た人間が、
ここがプラスだよ、ここがマイナスだよということを教えてあげて、
どういう可能性があるかを教えていく。
本当にいいものを持っていても世の中に出られない産地を、
どんどん引き出すことができると思っています」
米屋としてはかなり異色の西島さんについたあだ名は「エイリアン」。
米屋が自分でひとつの産地や地域のお米をブランド化して販売するということは、
昔は考えられなかった。平成7年から施行された食糧法以前は、
食糧管理法によって、米の流通には厳しい制約があり、
問屋を通さなければお米を仕入れることもできなかったのだ。
時代が西島さんに追いついてきたともいえる。
自分でブランド化したお米は米屋のみにしか流通させていないものもあり、
スズノブにはかなり貴重なお米が揃っている。
「エイリアンって外部からやってきた存在。
つまり、同じような人間の発想では何も生まれない。
そこからどれだけずれていくか、どれだけ画期的な発想を持てるか。
その発想が奇抜であればあるほど、エイリアンと言われてしまうけど(笑)」
スズノブにはいまのところ後継者がいないので、自分の代で終わると
西島さんは話す。けれど、その先のことも考えている。
「このプロジェクトでは最終的に、
地域でお米が販売できるようなしくみを考えています。
お米屋さんも今後減ってしまうかもしれない。
そうするといまお米屋さん限定で売っているお米は売り場がなくなってしまいます。
TPPのこともありますし、5年後、10年後を考えて、
そのなかで戦えるブランドをつくっていく。
生産者や農業公社、農協が直接海外に販売していけるように、
いまから仕掛けていきます」
西島さんは、地域におけるファシリテーターのような存在だ。
あくまで助言をする立場で、地元の人たちが自分たちで
プロジェクトを動かしていく力が大切だと話す。
「お米の表現やブランド化に関しても、農家さんに勉強してもらいます。
私が1から10まで全部教えるのではなく、自分たちだったらどう仕掛けるのか、
何が必要なのか、考えてもらいながらやっていきます。
かなり厳しいと思いますが、そうしなければ、何も生まれてこない。
自分たちで自分たちの地元を知ることが大切です。
自分たちのがそのブランドを将来どう動かしていきたいのか、
どういうポジションにしたいのかという意思がないと、ブランドは育ちません。
私はヒント、きっかけ、チャンスはどんどんあげるけど、
最終的にコントロールしていくのは地元。
そうやって意識が変わっていった地域のブランドはちゃんと残っていますよ」
西島さんのプロジェクトは、これからもさまざまな土地で続いていく。
「このプロジェクトのお米の流通価格は少し高いと思いますが、
それは農家の生産、将来、生活を守っているから。
それでもすごく高い評価をもらっていますし、ファンがつくお米です。
スーパーで売っているようなお米と同じお米をつくっても意味がない。
日本は土地によって気候と風土がまるで違うので、土地柄で全然味が違ってきます。
その土地にしか出ない特徴を引き出して、個性の強いお米をつくる。
100種類あったら100種類違う味のお米をつくりたい。
ほかの人がつくったお米とは違う、
個性だらけのブランドをつくっていきたいと思っています」
コロカル商店では、西島さんがブランド化を手がけたお米3種類を
コロカルオリジナル食べ比べセットとして販売中。
「もちもちごはん」=「ディスカバー農村漁村(むら)の宝 土佐天空の郷ひのひかり」
「おにぎりにぴったり」=「隠岐世界ジオパーク 島の香り隠岐藻塩米コシヒカリ」
「冷めてもおいしい」=「高度クリーン栽培 畦畔香るななつぼし」の3種類です。
詳しくはこちらから。
information
スズノブ
住所:東京都目黒区中根2-1-15
TEL:03-3717-5059
営業時間:8:30〜18:30
http://www.suzunobu.com/
profile
TOYOZO NISHIJIMA
西島豊造
1962年東京都生まれ。北里大学卒業後、農業土木コンサルタントの仕事を経て、1988年に家業の「株式会社スズノブ」を継ぐ。五ツ星お米マイスターとして各地の生産者とともにブランディングを手がけ、講演会などにも多数出演。著書に『今日はこの米! コシヒカリの子孫たち』『お米の達人が教える ごはん基本帳』(飛田和緒と共著)など。
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