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ヤマモ味噌醤油醸造元7代目 髙橋 泰さん

PEOPLE
vol.017

posted:2013.3.25   from:秋田県湯沢市  genre:食・グルメ / ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。

editor's profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●東京都出身。エディター/ライター。美術と映画とサッカーが好き。おいしいものにも目がありません。

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撮影:嶋本麻利沙

老舗7代目の挑戦。

秋田県湯沢市。雪深いこのまちに慶応3(1867)年から続く味噌醤油醸造元がある。
「ヤマモ味噌醤油醸造元」。
髙橋 泰さんは、その代々継承される名跡「髙橋茂助」の7代目にあたる。
「僕は名前をふたつ持っているということになるんです。海外では考えにくいですよね。
“7th generation of Mosuke Takahashi”というと、伝わりやすいです」
海外には7代続く企業はそう多くないが、
日本は100年以上続く企業が数万社あると言われる、世界に冠たる老舗大国。
けれど、老舗というだけでは生き残っていけない。髙橋さんはそんな危機感を抱いている。

高校卒業後、関東の大学に進学し、デザイン工学科で建築を学んだ。
いずれは家業を継がなくてはいけないことはわかっていたが、
それまでは好きなこと、やったことのないことをどんどんやった。
バックパックを背負って旅にも出た。
卒業後、継ぐことを考えて東京農大の短大に進学、
その後、業界大手の醤油メーカーで商品開発などを学び、故郷に戻って来た。
現在も会社社長は髙橋さんの父、嘉彦さんが務めるが、
泰さんが家業を継いでから今年で7年目になる。
「最初は嫌々という感じでした。フラストレーションばかりたまって、
最初の1年は特にきつかったですね」
あるとき嘉彦さんに、会社のパンフレットをつくるように言われる。
が、地元の業者に発注したところ思うようなものができず、
それならばと、写真、テキスト、デザイン、すべて自ら手がけることに。
そこから、さまざまなことを自分でやるようになる。

創業者、髙橋茂助にちなみ屋号は「ヤマモ」。創業140年余。

もろみ蔵には百有余年使われている古い樽が。ここでじっくり熟成される。それぞれの樽には火入れをした日付と回数が描かれている。

上段から樽を見下ろす。味噌は一年の天然醸造ののち、雪解けの季節に食べごろを迎える。

ヤマモは従業員数14名の小さな会社だが、その顧客は9割以上が地元の一般家庭。
リピーターも9割以上だという。
卸を通さず、直接の顧客が9割というのは強みだが、
それも時代が変わり、流通が変化すれば大きなダメージを受け兼ねない。
ましてや、地域の過疎化は深刻だ。
これからはマーケットを県外、そして海外に広げていく必要があると、髙橋さんは考えた。
JETRO(ジェトロ、日本貿易振興機構)が出展支援をしている
海外での展示会や商談会に、これまで何度も応募し参加してきた。
まずは市場調査で2度、その後は企業マッチングのための商談会に参加するため
4度渡航した。
当初はJETROからも、海外の企業やバイヤーからも厳しい指摘を受けた。
当然だが、ただ自社の商品を持って行くだけでは見向きもしてくれない。
戦略が必要なのだ。
「まずコンセプトを見直すことが必要でした。
そして商品はどれくらいの容量がいいのか、どんなパッケージがいいのか。
特にパッケージに関しては、外国の方から高い要求がありました」

もらった意見や要求にはできるだけ素早く対応していく。
こうして、ひとりで商品開発に手をつけ、
容量も手頃でデザイン性の高いパッケージの商品を考案。
ただ、中身の味は変えていない。
伝統のヤマモの味はそのままに、自分なりのアイデアで、
これまでなかった限定商品もつくった。
「焦香(こがれこう)」は、地元の農家でとれたセージやバジル、
唐辛子などを漬け込んだ醤油。肉料理に合いそうな風味の漬け込み醤油だ。
「肉味噌」は、コクのある熟成三年味噌を使った商品で、
料理にも使いやすく、もちろんそのまま食べてもおいしい。
展示販売のイベントの際に、味噌だけを試食させるのではなく、
肉味噌に調理して出したところ好評で、売ってほしいという声があったため商品化した。
「焦香も熟成三年味噌も、時間をかけておいしくするという点では唐突ではないんです。
新商品も、ヤマモのコンセプトからは外れていません」

現在は台湾、タイにも取引先ができた。
でも、海外でバーンと売上を伸ばそうというのではない。
「長くつき合っていけるところと組みたいと思っています。
継続的な関係を築けるところを徐々に増やしていきたい」

ペットボトルの商品もあるが、昔ながらの一升瓶でも出荷している。瓶をリサイクルしているので、いろいろな色の瓶が。

従来の商品も、塩分控えめの「あま塩しょうゆ」、濃縮めんつゆの「あじ自慢」、濃縮だし「白だし」などバリエーションがある。

こちらも中身は同じ。120ml~300mlと、ひとり暮らしでも使いやすいサイズ。さまざまなヒヤリングを行い、髙橋さん自らデザインした。

これからも、このまちで続けていくために。

いろいろなことに取り組み始めて約2年。
いまはやりたいことが少しずつできるようになってきたという。
そのひとつが、ショップ。
会社の入り口を入ってすぐの小さな部屋を簡単に改装し、
セレクトショップ「ゴヨウキキ茂助」をこの2月にオープンさせた。
もともと友人と趣味のようにトートバッグや缶バッジをつくっていたが、
オリジナルグッズとしてショップで販売することに。
部屋には古いステレオなどが置かれ、
髙橋さんの好きなものを集めたプライベートのような空間だ。
「東京にいたときから家具を集めていたので、それを使ったり、
古い家具を蔵から引っ張り出してきて磨いたりしました。
だから、この部屋をつくるのに3万円くらいしか使っていませんよ。
基本的に何でもお金をかけないでやるのがモットーなんです」
オンラインでも商品は買えるが、店がほしかったという。
「ネット上でお客さんとのやりとりは増えても、
地元のお客さんと直接ふれ合える場所がなかった。
場所があると不意な出会いも誘発できますし、
波及効果が同心円状に広がっていくと思うんです。
地元にいい影響や効果を与えたい」

万事快調に見えるが、ここまでくるのには、時間がかかった。
否、時間をかけたのだ。急激な変化は、周囲を不安にさせる。
父である社長も、すぐには自由を許してくれなかった。
「定番商品を買ってくれている地元のお客さんに、
“息子が帰ってきて味を変えるんじゃないか”と思われたくなかった。
実際に、定番商品はいっさい変えていません。
いまはオンラインショップでも売り上げが伸びてきて、
社長も少しずつ認めてくれているのだと思いますが、
それまでは変革のスピードもセーブしていました」
従業員もこの変化を楽しいと感じてくれたら。
従業員のために揃いの作業着をつくったりもした。
海外への出荷が決まったり、ショップができたりすることによって、
彼らの意識が向上すれば、地元でいい効果が表れることにもつながる。

念願のショップ「ゴヨウキキ茂助」。江戸時代、初代の前身が御用聞きとよばれる商人だったことに由来する。

趣味でつくっていたトートバッグも、会社の事業にした。「だんだん趣味と仕事が近づいてきた」と髙橋さん。

オリジナル前掛けも販売。

商品開発やデザインはひとりで手がけているが、仲間と組んで活動する楽しさもある。
稲庭うどんの「麻生孝之商店」の麻生孝一郎さんとは、
海外のセミナーで知り合い、意気投合。
業態は違うが海外に行くときはコンビのように同行し、
興味を示してくれたバイヤーを互いに紹介し合ったりしている。
また、湯沢市にゆかりのある建築家、白井晟一の建築である
湯沢酒造会館「四同舎」で仲間たちとカフェイベントを行ったことも。
白井氏の孫にあたる白井原多さんも気鋭の建築家で、それを機に交流が続く。
建築を志していた髙橋さんは、いつか原多さんと面白いことができたらと考えている。
そのほか、湯沢市の商店街のシャッターを開けるイベントを仕掛けたり、
秋田県の味噌醤油蔵の若手後継者の集まり「若紫」では、
新しいロゴを髙橋さんがデザインするなど、自分の会社のためだけでなく、
地域を盛り上げるための活動もしてきた。
でもいまは、役割分担があるのかもしれないと思っている。
「地元のイベントをやってほしいという声もありますが、
イベントをやりたい人はほかにもたくさんいますし、
それはまた別の担い手が出てくればいいなと思っています。
僕は、いまは海外のマーケットで求められることがあれば応じていきたいし、
自分がそうやって外に出ていくことで、勇気づけられる人もいると思うんです」

先ごろ、タイの「DEAN & DELUCA」でも商品の取り扱いが決まった。
現在はアジアが販路開拓のメインだが、今後は欧米への進出も視野に入れ、
ヨーロッパの業者とも交渉中だ。
また今後は大学と連携してインターンの受け入れも行いながら、
新しい人材の育成にも取り組んでいく。
「僕は単なる経営者とは思われたくない。
実際に“つくり”の仕事もしているので、経営者と職人の中間の存在になりたい。
つくって売って、何でもやる人間がいちばん強いと思っています」
イベントなどで人前に出るときは、シャツの上にビンテージのワークジャケットを羽織り、
前掛けをつけて、オリジナルトートバッグを肩にかけて出かける。
どこまでも自分のスタイルなのだ。

ショップには古いラベルの原本も展示。髙橋さんのおじいさんにあたる5代目は自分でラベルを描いていたそう。髙橋さんは「このDNAか? と思いました」と笑う。

profile

YASUSHI TAKAHASHI
髙橋 泰

1979年秋田県生まれ。千葉大学デザイン工学科卒業、東京農業大学短期大学卒業。2006年に家業を継ぎ、代々続く味を広く届けるために日々奔走中。

information


map

ヤマモ味噌醤油醸造元/髙茂合名会社

住所 秋田県湯沢市岩崎124 電話 0183-73-2902
営業時間 8:00~17:00(「ゴヨウキキ茂助セレクトショップ」は11:00~16:00)
定休日 日曜・祝日(ショップの開店状況は来店前にご確認ください)
http://www.yamamo1867.com/

present

秋田の味をプレゼント。

ヤマモ味噌醤油醸造元の商品をセットで1名様にプレゼントします。塩分控えめの「あま塩しょうゆ」(300ml)、おそばやうどんなど麺類との相性ばっちりの「あじ自慢」(300ml)、煮物やお吸い物に重宝する「白だし」(300ml)、バジル、ローリエ、セージ、唐辛子、にんにくの5品目の漬け込み醤油「焦香」(120ml)、熟成三年味噌を使った「肉味噌」(85g)の5点セットです。ご応募はコロカルのfacebookページからお願いします。
※プレゼント企画は終了しました。

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