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大久保秀和さん

PEOPLE
vol.010

posted:2012.10.10   from:茨城県大子町  genre:食・グルメ / ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。

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コロカル編集部

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Collaborated with
フォトいばらき
撮影:前川健彦

米づくりへの自信

茨城県北部、日本三名瀑のひとつに数えられる袋田の滝がある大子町(だいごまち)。
中山間地であるこの地には、清流久慈川が流れ、いくつもの支流が田んぼを潤す
豊かな水の恵みを受けてきた土地であり、古くからおいしいお米の産地として知られている。
この地で、代々農業を営み、米づくりに携わってきた大久保さん一家。
秀和さんと父である憲治さんを中心に、現在は約20ヘクタールの田んぼで米づくりを行っている。

左から大久保憲治さん、三枝子さん、そして秀和さん。

「自分が家を継ぎ農業を続ける」
当然のごとくそう考えていた秀和さんは、茨城県立農業大学校を卒業後
実家において父、憲治さんとともに米づくりに取り組み始める。
「最初の頃はキュウリ栽培も行っていたのですが、この周辺で米づくりをする人が減っていき、
田んぼの管理を頼まれることが多くなり、米づくり中心の農業となっていきました」

大久保家に代々続く米づくりのノウハウを研究しそれを高めることによって
よりおいしいお米を生みだそうと努力を重ねていく。
そして、この努力は確実な結果として表れ、
周囲でも評判のおいしい米づくりができるようになっていった。
「しかし、いくらおいしさに自信のある米をつくっても、それが認知されなければ
単なる自己満足に終わってしまう」
そんな思いの中で2006年に、お米の食味コンテストとして権威ある
「お米日本一コンテストinしずおか」に自慢のコシヒカリを出品することにした。

「正直なところ、ある程度の評価をいただければいいという思いでした。
しかし、結果を聞いてビックリ!」
結果はなんと最優秀賞を受賞。「日本で一番おいしいお米」の称号を受けたのだ。
これは茨城県初の快挙だった。
「昔からの米ぬかをベースとしたオリジナル肥料を使い、丁寧な米づくりを行う。
あとは豊かな土地と気候が育ててくれます」
と、米づくりの秘訣についてあっさりと語る秀和さんだが、
その奥に熱く秘められた情熱は、日本一となったあとも、次なる未来へと向けられている。

「新たに静岡、福島、山形の米づくりを行う仲間たちと
『カミアカリドリーム』という勉強会を通して、
巨大な胚芽をもつ新しい玄米食専用品種『カミアカリ』を育てようと取り組んでいます。
新しい品種は次々と生まれてきていますが、自分たちの手で育て、
後生に残す品種をつくりあげようと、仲間たちと協力しているところです」

丘陵の間に広がる大子町の田んぼ。この豊かな土地で日本一のコシヒカリが生まれた。

地元を思う心が生み出す新しい農業へのチャレンジ

2006年に「お米日本一コンテストinしずおか」で最優秀賞を受賞後、
秀和さんは米づくり以外の新しいチャレンジも始めている。
「地方の一農業者が、企業や行政の大規模な企画や予算の事業ではなく、
小規模だけど自分たちのこだわりの詰まった商品を生みだし消費者に届ける。
という農業のひとつのかたちを示したかった」
と、まずは仲間と日本酒づくりに取り組んだ。

きっかけは、地元を愛する仲間たちとの会話からだった。
それは単に農家が酒米をつくるということではなく、
仲間とともに、酒米づくりに始まり自分たちの考える日本酒への思いを酒蔵さんに伝え
米農家と仲間たちが生み出した、こだわりの日本酒を完成させることだった。
大子町で生産される「米」、それにかかわる「人」にこだわり、
この地の古い呼び名にちなんで名付けられた純米酒「穂内郷(ほないごう)」。
大子町の豊かな土地を感じさせる深い味わいをもつ日本酒はすぐに評判となった。

また、日本各地の中山間地と同様に、
大子町も農業後継者がいないために増え続ける休耕地が問題となっているが
そんな休耕地を利用してのそば栽培にも取り組んでいる。
大子町はもともとそばでも知られた土地。
そこで休耕地を利用してそばを栽培し、
乾麺そば「保内郷(ほないごう)蕎麦」として販売したところ
大子町のお土産として喜ばれている。

日本酒づくり、そばづくり、ともに地元生産の素材を活かし
少しでも地元が活気づき、元気になる力となれば、という思いから始めたものだ。
「地元をアピールすることで特徴も生まれ差別化もできる。
米や野菜、その素材をつくった人の顔が見えるものづくり、これからはそんな時代だと思う」

大久保農園のコシヒカリ「大久保農園の米」「日渡の米」。そして「保内郷蕎麦」と純米酒「穂内郷」。

今年、10月6日から12月9日(水曜定休)まで
秀和さん、そして憲治さんも卒業した旧上岡(うわおか)小学校において
「おいしい さとやま学校」というイベントが行われる。
これは、2001年に廃校となり、保存された趣ある旧上岡小学校の木造校舎において
東京にある有名なイタリアンレストランのシェフが、
地元大子町の素材を活かした料理を提供する期間限定のレストラン&ライブイベント。

地域活性化を目的としたこのイベントへの食材提供はもちろん
運営や準備にと、忙しい農作業の合間をぬって飛び回った秀和さん。
「大子町にはすばらしいものがいっぱいあります。そこに住む我々がそのすばらしさを知り、
守り、アピールしていくことで輝いてくると思います」
生まれ育った大子町への熱い思いが、
農業だけでなく地域を巻き込んだチャレンジへとつながっている。

profile

HIDEKAZU OKUBO
大久保秀和

1971年生まれ。茨城県立農業大学校を卒業後、実家で父とともに農業を営む。06年、「お米日本一コンテストinしずおか」で最優秀賞を受賞。08年、農事組合法人 大久保農園を設立。
http://www.okubo-farm.com/

information


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おいしい さとやま学校

住所 茨城県久慈郡大子町大字上岡957-3 旧上岡小学校
営業期間 2012年10月6日(土)〜12月9日(日)
営業時間 10:00〜19:00(水曜定休)
http://oishii-satoyama.com

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