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日光の隠れ里、小来川に魅せられ移住。
地域おこし協力隊と
二拠点生活の起業家夫婦

暮らす、働く、日光。
vol.005

posted:2019.1.18  from:栃木県日光市  genre:暮らしと移住 / 活性化と創生

sponsored by 日光市

〈 この連載・企画は… 〉  世界遺産「日光の社寺」に代表される歴史や文化、自然や温泉も豊かな日光市。
観光地としても魅力的な日光ですが、ここでの暮らしを楽しんでいる人たちもとても魅力的。
日光で暮らし、働く人たちにスポットを当て、観光だけでない日光の魅力をお届けします。

writer profile

Ikuko Hyodo

兵藤育子

ひょうどう・いくこ●山形県酒田市出身、ライター。海外の旅から戻ってくるたびに、日本のよさを実感する今日このごろ。ならばそのよさをもっと突き詰めてみたいと思ったのが、国内に興味を持つようになったきっかけ。年に数回帰郷し、温泉と日本酒にとっぷり浸かって英気を養っています。

credit

撮影:石井孝典

「戻っても仕事がない」と思い込んでいた

「小来川(おころがわ)を初めて訪れたのは、雪が降っているときでした。
ここはどこ? っていうくらい幻想的な景色が広がっていて、感動したんです」

夫の上吉原隆浩さんとともに、東京から日光市小来川地区に移住した
上吉原麻紀さんは、小来川との出会いを興奮気味にこう語る。
市の南部に位置する小来川は、山に囲まれ、清らかな渓流が流れる日光の隠れ里。
ダイナミックな滝や湖、寺社仏閣、温泉街など、
観光スポットとしてイメージする日光とはひと味違う、
静かでゆったりとした時間が流れている。

麻紀さんはここで地域おこし協力隊となり、
隆浩さんは移住前に立ち上げた、ウェブや映像制作、イベント企画などを行う
〈upLuG(アプラグ)〉という会社の業務をしながら、
日光と東京で二拠点生活を送っている。

上吉原さん夫婦が暮らす、里山の風景が美しい小来川。

上吉原さん夫婦が暮らす、里山の風景が美しい小来川。

隆浩さんは、現在日光市になっている旧今市市出身で、麻紀さんは県内の栃木市出身。
U・Jターンともいえるのだが、もともと日光に戻ってくるつもりはなかったそう。
その理由として「仕事がないだろう」という先入観が少なからずあったようだ。

「日光でウェブや映像制作の求人がないか、なにげなく見たこともあったのですが、
人材を募集するほどのところは見当たらなくて、現状を知りようがなかったんです。
でもせっかく会社を立ち上げたのだから、
何かおもしろいことをしたいと思い、地元の同級生に声をかけて
プロモーションビデオを撮らせてもらうことにしたんです」(隆浩さん)

麻紀さんが小来川で一番好きな場所だという円光寺。石段を上がった先で眺める山並みも美しい。

麻紀さんが小来川で一番好きな場所だという円光寺。石段を上がった先で眺める山並みも美しい。

その同級生というのが、日光の天然水を使って上質なあんこを製造している
〈黒須製餡所〉の3代目、黒須崇浩さん。
隆浩さんは東京で映像制作チームを結成して、日光へ。
ロケハンも兼ねてみんなで鬼怒川温泉に泊まり、
黒須さんのところでものづくりのこだわりを聞いたり、
日光の自然環境を映像に収めたりしていくうちに、あることにふと気がつく。

「高校時代まで毎日当たり前に見ていたはずの景色なのですが、
日光って実はすごくいいところだなと思えたんです」

隆浩さんの興味が地元に向き出したのと時を同じくして、
麻紀さんは移住関連の仕事をしていた友人を通して地域おこし協力隊の制度を知る。
そして栃木県内のさまざまな地域を見ていくなかで、
冒頭のように小来川にひと目惚れして、2017年4月の着任を機に移住することに。
小来川はそもそも移住者が珍しいうえに、
地域おこし協力隊を迎え入れるのは初めての試みだった。

円光寺の住職と奥様と。移住して間もない頃、「いつでもお茶を飲みにいらっしゃい」のひとことが心にしみたという麻紀さん。奥様からは漬物づくりや味噌づくりを教わっている。

円光寺の住職と奥様と。移住して間もない頃、「いつでもお茶を飲みにいらっしゃい」のひとことが心にしみたという麻紀さん。奥様からは漬物づくりや味噌づくりを教わっている。

「狭い地域ということもあって、知らない人が歩いていると、
みんな振り返って不思議な目で見るんです(笑)。
だから私がどうして小来川に来たのか、
地域おこし協力隊とはどういう存在なのかを知っていただくのが先決だと思い、
『協力隊通信』という広報誌をつくって、
自作の似顔絵入りの名刺とともに263全戸に手配りすることにしたんです。

そしたら初対面なのに『よく来たねえ、お茶飲んでいきな』と言ってくださったり、
採れたての野菜をもらったりして、全然進まなくて……。
結局すべて回るのに2か月くらいかかってしまいました(笑)。
でもそのおかげでみなさんに覚えてもらうことができました」

デザインもイラストもすべてひとりで手がけているという『協力隊通信』。小来川のコミュニティに溶け込むことができたのは、麻紀さんの明るくオープンな人柄も大きいようだ。

デザインもイラストもすべてひとりで手がけているという『協力隊通信』。小来川のコミュニティに溶け込むことができたのは、麻紀さんの明るくオープンな人柄も大きいようだ。

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イベントでヒット“SLポップコーン”とは?

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東京と日光を行き来するからできること

隆浩さんは黒須製餡所のPV制作がきっかけで、仕事でも地元と縁が生まれ、
東武鉄道が復活させたSL〈大樹〉の1周年を記念したPVでは、
ドローン撮影を手がけている。

〈黒須製餡所〉の黒須さん夫婦とはふだんから家族ぐるみのつき合い。

〈黒須製餡所〉の黒須さん夫婦とはふだんから家族ぐるみのつき合い。

沿線住民や市民、観光客など約1000人が制作に携わった『想いよつながれSL大樹PV』撮影時の様子。(写真提供:upLuG)

沿線住民や市民、観光客など約1000人が制作に携わった『想いよつながれSL大樹PV』撮影時の様子。(写真提供:upLuG)

『想いよつながれSL大樹PV』

さらにSLを盛り上げるべく、黒須さん夫婦と上吉原さん夫婦が
ブレストの末に考案したのが〈SLポップコーン〉という珍商品だ。
これは液体窒素で瞬間冷凍させたポップコーンを食べると、
煙を上げて走るSLのように鼻や口からもうもうと蒸気が出るというもの。
1周年記念イベントで販売したところ、
見た目のインパクトもあって大成功だったようだ。

写真提供:upLuG

写真提供:upLuG

「日光の外で勝手に抱いていた『仕事がない』というイメージは、
実際に中に入ってみると全然違っていて、
ひとりとつながると、どんどん転がっていくんです。
東京では営業をかけまくって、ひとつかふたつ仕事をいただけたら
いいほうだったりするので、展開の速さに驚きましたね」(隆浩さん)

黒須さん夫婦との話が盛り上がって「SLだから煙出してみる?」と〈SLポップコーン〉のアイデアが。

黒須さん夫婦との話が盛り上がって「SLだから煙出してみる?」と〈SLポップコーン〉のアイデアが。

現在は週3日ほどを東京で、それ以外は日光で過ごす日々を送っているのだが、
こうした行ったり来たりのデュアルライフは、思いのほかいい効果を生んでいるようだ。

パソコンとネット環境さえあればどこでも仕事ができるのも、二拠点生活をするうえで大きなポイント。

パソコンとネット環境さえあればどこでも仕事ができるのも、二拠点生活をするうえで大きなポイント。

「東京でウェブ業界の最新事情を把握しながら、
都会の人がわざわざ癒やされに来るような景色のなかで暮らすこともできて、
理想的なバランスですね。都内のウェブ関係者は、
運動不足の解消も兼ねて自転車通勤をしている人が多いのですが、
小来川は〈ツール・ド・とちぎ〉(*)のコースになっていて、
そういう話をするとすごく興味を持たれるんです。

日光に暮らしているからこそわかることを東京の人に発信したいし、
逆にインバウンド対策として、ウェブや映像ツールの重要性を
日光の人にももっと知ってほしい。
日光と東京をつなげるような活動を、少しずつ始めているところです」

*ツール・ド・とちぎ:2017年、2018年に開催された、栃木県内全市町を走破するサイクルロードレース。

2017年8月に、SL大樹とともに約半世紀ぶりに復活したDL(ディーゼル機関車)。土日を中心に下今市駅~鬼怒川温泉駅を運行している。

2017年8月に、SL大樹とともに約半世紀ぶりに復活したDL(ディーゼル機関車)。土日を中心に下今市駅~鬼怒川温泉駅を運行している。

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実はイベント好きな土地柄?

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人が少ないから寂れているとは限らない

麻紀さんが地域おこし協力隊に着任して驚いたのは、小来川の人たちの結束力。
地域のことを知るために、住民主体の会議にはすべて参加しようと決めたところ、
地域振興協議会や自治会協議会、運動会や文化祭の実行委員、
盆踊り実行委員などなど、会議だけで約30種類もあることが判明。

「地域を盛り上げたいという前向きな姿勢が、すごく伝わってくるんです。
文化祭は70数回続いているし、運動会もみなさん本気でがんばる姿が微笑ましくて、
イベントが好きな地域なんですよね」

「小来川ライトアップ2018」の会場にもなった円光寺の庭。

「小来川ライトアップ2018」の会場にもなった円光寺の庭。

2018年11月に2日間にわたって開催された「小来川ライトアップ2018」は、
麻紀さんが地域の若い人たちと一緒に立ち上げに関わったイベントのひとつ。
円光寺や黒川神社など小来川の顔といえるスポットを幻想的にライトアップして、
このときだけの限定御朱印を発行したり、
地産の野菜などを使った温かい食べ物や飲み物でもてなした、
アットホームなイベントだ。

小来川にあるログハウスの宿泊施設〈Woodsmans Village〉もライトアップで幻想的な雰囲気に。(写真提供:upLuG)

小来川にあるログハウスの宿泊施設〈Woodsmans Village〉もライトアップで幻想的な雰囲気に。(写真提供:upLuG)

準備の大変さや、イベント当日の盛況ぶりを見ていた隆浩さんも、
麻紀さんと同様に小来川の結束力の強さを感じたようだ。

「僕が生まれ育ったところは、小来川よりも明らかに人口は多いけれども、
地元の盆踊りはもうなくなってしまったし、同じ日光でも
地域のイベントがこんなに盛り上がる印象ってまったくなかったんですよね。
これだけ山に囲まれているから、小来川はもっと寂しい場所だと思っていたけど、
住んでみないとわからないものですね」(隆浩さん)

東京の住居は、コンビニまで徒歩0分だったというふたり。
小来川には商店が1軒もないことを移住当初は心配していたものの、
おすそ分けと呼ぶには多すぎるほど野菜をいただくことも珍しくなく、
心配するだけ無駄だった。

「小来川の人には『すごく不便でしょ?』と言われるんですけど、
慣れてしまえばそうでもないですし、地元の人たちも
本当はそこまで不便だとは思っていない気がします(笑)」(隆浩さん)

麻紀さんが目下、取り組んでいるのは、
〈ふれあいの郷小来川〉という交流施設のさらなる有効活用。
現在は農産物の直売やそば打ち体験を不定期に行っている施設なのだが、
せっかく質のいいものを扱っているのだから、ブランディングして
小来川の魅力をより多くの人に伝えるだけでなく、
地域住民にとっても憩いの場にしていきたいと思っている。

その手始めとして、昨秋、野菜の直売を行った際、
駄菓子コーナーを一角に設けてみたところ、好評だったため常設することに。

〈ふれあいの郷小来川〉に麻紀さんがつくった駄菓子コーナー。

〈ふれあいの郷小来川〉に麻紀さんがつくった駄菓子コーナー。

「小来川には商店がないから、子どもたちは
駄菓子屋さんで買い物ができないんですよね。
自分たちの子ども時代を振り返ってもああいう体験って楽しかったよねって
ふたりで話をしていたのがきっかけなんです。
こんなふうに話しながら出てきたおもしろいアイデアは、
だいたい仕事につながっていきますね。
だからいつも、仕事の話ばかり(笑)」(麻紀さん)

駄菓子コーナーに置かれているノート。子どもたちは食べたいお菓子をイラストつきで描くようになり、いまではちょっとした交換日記のように。

駄菓子コーナーに置かれているノート。子どもたちは食べたいお菓子をイラストつきで描くようになり、いまではちょっとした交換日記のように。

「小来川は子どもが少ないし、駄菓子なんて誰も買わないよ、などと
周りの人に言われたのですが、個数にすると1か月で1000個くらい売れました。
最初の『仕事がない』という話にもつながりますが、
『やってもたぶん無理』と思うような物事でも、
やってみると動き始めることって意外と多いんですよね。

駄菓子だけでこんなに人が来るのだから、ふれあいの郷小来川は
地域の拠点としてもっとおもしろい場所にできるはず。
その方法を、ふたりであれこれ考えるのが楽しいですね」(隆浩さん)

小中学校に掲示してもらおうとつくった連絡板。もともと絵や工作は好きだったものの、小来川に来てどんどん腕が上がっているそう。

小中学校に掲示してもらおうとつくった連絡板。もともと絵や工作は好きだったものの、小来川に来てどんどん腕が上がっているそう。

ふたりにとって小来川は、さまざまな可能性を秘めているようだ。
彼らのような移住者がこれからの日光市をもっとおもしろくしていくに違いない。

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