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フランス料理の
巨匠・三國清三シェフが
八丁味噌を愛する理由

みたすくらす × colocal
愛知・岐阜・三重
東海のいいモノ、いいコト。
vol.002

posted:2023.4.17   from:東京都  genre:食・グルメ

PR 東邦ガス

〈 この連載・企画は… 〉  東海3県には地域の文化に根ざしたいいモノやいいコトがたくさんあります。
東邦ガス運営の“地産情報”を発信するウェブメディア『みたすくらす』とコロカルが連携して、
愛知・岐阜・三重のものづくりの現場を訪ね、再発見した魅力をお届けします。

writer profile

Riho Nakamori

中森りほ

なかもり・りほ●東京生まれ東京在住のフリーライター/編集者。仕事やプライベートで月に1回以上、地方や海外へ。各地のおいしい食べ物やお酒、素敵なホテルや旅館を発掘するのが趣味。好きな番組は『ブラタモリ』『六角精児の呑み鉄本線・日本旅』。

credit

撮影:ただ(ゆかい)

八丁味噌の奥深い世界を、東海エリアの文化を発信する
Webマガジン『みたすくらす』との連携企画でお届けします。
みたすくらすで公開中の三國シェフの八丁味噌レシピはこちらから。

世界的に人気のある調味料・八丁味噌。
世界にその名を知られるフランス料理の巨匠・三國清三シェフも、
八丁味噌を愛するひとりです。
八丁味噌の魅力を、三國シェフの目線や経験から紐解きます。

味噌をフランス料理に取り入れたパイオニア、三國シェフ

近年健康志向の高まりや、その斬新な味わいで世界的にも
人気の調味料となってきている味噌。
特にアメリカでは「味噌エスプレッソ」「味噌スープ」がブームになり、
味噌工場がいくつも新設されているほど流行を極めている。
この味噌を世界的な調味料とたらしめた立役者のひとりともいえるのが、
日本が誇るフランス料理の巨匠・三國清三シェフだ。

いまでこそフランス料理に味噌が使われることは珍しくなくなったが、
「味噌・米・醤油をフランス料理に取り入れたのはおそらく私が初めて」
と三國シェフは言う。

フランスの伝統料理を理解したうえで、ジャポニゼ(日本風)を表現する三國シェフ。
この発想の原点は、27〜28歳の頃フランス・リヨン郊外に店を構える
アラン・シャペル氏の下で修業を積んだ経験にある。
お店に入り3か月ほど経った頃、三國シェフの料理に対し、
寡黙なシャペル氏が初めて言葉を投げかけた。
それは「セ・パ・ラフィネ(洗練されていない)」という言葉。
三國シェフはこの言葉の意味はわかったが、シャペル氏が
何を伝えたかったのかがわからず、来る日も来る日もその言葉の意味を考え続けたという。
それから数か月が経ち、賄い当番を任された際に三國シェフはあることに気づく。

「アラン・シャペル氏はフランス料理界のダ・ヴィンチと呼ばれた天才だった」と三國シェフ。

「アラン・シャペル氏はフランス料理界のダ・ヴィンチと呼ばれた天才だった」と三國シェフ。

「夏だからあっさりした料理をつくったら、『味が薄すぎる』と、
みんなクリームやバターをたっぷり足していました。
日本人のぼくからしたら、そうめんとかさっぱりしたものが食べたいと思うのに、
彼らは夏こそこってりしたものを食べないと暑さに勝てないと言うわけ。
そのときにやっと『フランス人の彼らにはフランス料理はもう敵わない』と気づいた。
ぼくは北海道の刺身を食いたいし、醤油を使った料理や、味噌汁も食いたい。
このとき、日本に帰ったら自分が思うフランス料理をつくろうと思ったんだよ」

シャペル氏があのとき「セ・パ・ラフィネ」と言い放ったのも
「皿のどこにもお前自身がいない」と言いたかったのではないかと三國シェフは思い至る。
ただフランス料理の技術を身につけるだけでは、自分の料理はつくれない。
当時のことについて昨年発売された三國シェフの著書『三流シェフ』のなかでも、
「フランス人のようにフランス料理をつくるのはやめる。
ぼくは日本人としてフランス料理をつくる」とその決意を記している。

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味噌、米、醤油で新たなフランス料理の文化を築いた“世界のミクニ”

5年をかけて完成させた著書『ジャポニゼ(JAPONISÉE)』はフランス・パリのグルマン料理本大賞で殿堂入り。

5年をかけて完成させた著書『ジャポニゼ(JAPONISÉE)』はフランス・パリのグルマン料理本大賞で殿堂入り。

1985年に自身の店〈オテル・ドゥ・ミクニ〉を開業させると、三國シェフは
フォアグラと味噌を合わせた料理や、醤油を使ったビネガードレッシング、
茶碗蒸しや焼鳥のようなフランス料理を提供した。
しかし当時の料理評論家や、業界の人々は
「フランス料理に味噌、米、醤油を使うのは邪道だ」と批判する。

ロンドンの〈ザ・バークレー〉には故・エリザベス女王二世も訪れたという。

ロンドンの〈ザ・バークレー〉には故・エリザベス女王二世も訪れたという。

「フランス料理のバイブルともいえる『エスコフィエ』にも
味噌や醤油を使った料理なんて載ってないわけですよ。
ヨーロッパでも味噌を使うことなんてなかったし、
日本もまだ保守的だったからそんな料理はなくて。相当バッシングを受けましたね」

そこへ渡りに船の依頼がやってくる。
ニューヨーク・マンハッタンにある一流レストラン〈ザ・ギルテッド・ジラフ〉オーナーの
バリー・ワイン氏が店で食事をしたあと、
「三國シェフをゲストに招いたフェスティバルを開催したい」とオファーしたのだ。
快諾した三國シェフは、ニューヨークで「鴨の肝のポワレ醤油風味香草和え」
「季節野菜の軽い煮込み盆栽仕立て」など味噌・米・醤油を使ったフランス料理を振る舞い、
セレブや富豪たちから絶賛された。

その噂は瞬く間に広がり、その後香港の〈ザ・ペニンシュラ〉、
バンコクの〈ザ・オリエンタル・バンコク〉、シンガポールの〈ラッフルズ・ホテル〉
などからオファーを受け、フェスティバルを開催。
これを契機に「世界のミクニ」と呼ばれるようになり、フランスの少なからぬシェフたちが
味噌、醤油、さらには出汁を料理に取り入れるようになる。
そして、三國シェフに対する国内の評価も好意的なものへと変わっていき、
日本のフランス料理界でも味噌、米、醤油が取り入れられるようになっていったのだ。

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複雑で高貴な、八丁味噌の味わいに魅せられた三國シェフ

名古屋名物の「味噌煮込みうどん」など、東海地方を中心に親しまれている八丁味噌。
三國シェフと八丁味噌との出合いは、スイスの日本大使館に
大使公邸料理人として勤めていた20代前半の頃だ。
当時、各国大使館には宮内省御用達の食材が運び込まれていたといい、
そのなかのひとつに八丁味噌があった。

「黒くて硬いので、最初はびっくりしましたよ。
私の地元の北海道はだいたい白い味噌か合わせ味噌で、
あんな濃い色の味噌を見たことがなかったですから」

当初はその見た目から、味に関しても半信半疑だったというが、
大使夫妻に八丁味噌を使った味噌汁を振る舞ったところ
大変喜ばれたことが印象に残ったという。

江戸時代から愛知県岡崎市八丁町で八丁味噌をつくり続ける〈カクキュー〉。三國シェフは出身地北海道産大豆の八丁味噌を愛用中。

江戸時代から愛知県岡崎市八丁町で八丁味噌をつくり続ける〈カクキュー〉。三國シェフは出身地である北海道産大豆の八丁味噌を愛用中。

八丁味噌の味わいについて、三國シェフはこう評す。

「極限まで熟成、発酵させているから味が複雑で高貴というのかな。
ビターだけど、良質な苦味がある。
香りはキャラメルやチョコレートっぽい。
極端に味が濃いものって、クセになって段々ほかのものでは物足りなくなっていくけど、
八丁味噌にもその魅力がある」

三國シェフのYouTubeチャンネルでは、さまざまな八丁味噌の料理を紹介している。『みたすくらす』では、三國シェフもお気に入りの、八丁味噌を使用した「レバニラ」ほか、3品の八丁味噌レシピを紹介している。

三國シェフのYouTubeチャンネルでは、さまざまな八丁味噌の料理を紹介している。『みたすくらす』では、三國シェフもお気に入りの、八丁味噌を使用した「レバニラ」ほか、3品の八丁味噌レシピを紹介している。

三國シェフは愛知県岡崎市にある〈カクキュー〉の味噌蔵も見学したそうで
その独特の味噌造りに感嘆したという。

「びっくりしましたよね。木桶の上に石を芸術的に積んでいて。
味噌蔵でできたての八丁味噌を味見したけど、
それはフォン・ド・ボーみたいに凝縮された味わいでしたよ」

海外で八丁味噌が親しまれているのは、発酵・熟成を重ね凝縮された味わいだから

近年、欧米でもその名が広まりつつある八丁味噌だが、
その理由について三國シェフはどう考えているのだろうか。
まずは「健康志向の高まりがある」と言う。

「味噌が健康にいいと人気ですよね。
欧米の人たちもチーズやヨーグルトで発酵食品に親しんできたけど、
最も摂取しているのは日本人。
日本には大豆を使った味噌、醤油、納豆、湯葉、豆腐といろいろありますが、
特に味噌汁をよく飲むのがいいといわれている。
この味噌汁が欧米の人たちにも広まってきている」

八丁味噌の味わいについては、海外の人にどう受け入れられているのだろうか。

「彼らの味のベースにあるのは、フォン・ド・ボーですね。
仔牛の肉や骨でとった出汁に野菜やトマトペーストを入れて、
1週間〜10日ほど煮込んだソースで、さらに煮込むとデミグラスソースになる。
究極に煮詰めるので、味噌の煮詰まったものとテイストは似ているんですよ。
フォン・ド・ボーよりもさらに煮詰めたグラス・ド・ヴィアンド、
グラス・ド・ポワソンはほぼ八丁味噌ですね。
これは煮込みに深みを出すための隠し味として使う。
八丁味噌も同じ使い方をしますよね。
そういう共通点から、親しまれるようになったのかもしれません」

さらに三國シェフは、世界の料理シーンに味噌が欠かせなくなってきていると付け足す。

「次はお茶漬けブームが来るのではないか」と予測。

「次はお茶漬けブームが来るのではないか」と予測。

「昔はニューヨークでもパリでもロンドンでも、
三ツ星のシェフが来日すると必ず日本の包丁と砥石を買って帰っていました。
けれどいまは味噌、柚子味噌、昆布、かつお節を買って帰る。
味噌、米、醤油、出汁を使わない三ツ星シェフはいないんです。
使ってないとインターナショナルじゃないと思われて、お客さんも入ってこないんですよ」

日本の調味料をうまく使いこなせることが、
一流シェフかどうかを左右するようになってきたようだ。

とはいえまだまだ日本人の私たちでも、その魅力を引き出しきれていない八丁味噌。
八丁味噌の独特の苦味や酸味、煮立たせても風味が飛びにくいといった特徴を踏まえ、
どのような家庭料理に使うのがいいか三國シェフに尋ねてみた。

「例えば中華では麻婆豆腐に使うと、味にコクやキレが出る。
あとは、大根などあっさりしたものに強弱をつけるために、
あえて濃い味の八丁味噌を使うと、大根の味が引き立つ。
マヨネーズと合わせて野菜スティックにつけて食べてもおいしいと思うよ。
ぼくは天ぷらが好きでよく食べに行くお店があるんだけど、
そういった一流の天ぷら屋さんは八丁味噌を使っているんですよ。
後味にキレがあるから油物の天ぷらとも相性がいいのかもね」

八丁味噌を持つ三國シェフ

40年以上フランス料理と向き合い、自分だからこそ生み出せる料理は何かと問い続け、
日本の食文化や自身の食体験を掘り下げることで、
新たな料理を次々と生み出してきた三國シェフ。
2022年末に37年続いた〈オテル・ドゥ・ミクニ〉を閉じ、
70歳を目前に新たな夢を実現しようと動きだした。
日本各地の風土に根づいた食文化も、三國シェフのインスピレーションの源泉で
八丁味噌もそのひとつとして大きく貢献したようだ。

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みたすくらすロゴ

おいしい八丁味噌のレシピは『みたすくらす』で

三國清三シェフの好物「レバニラ丼」も。東海地方の地産情報を地元クリエイターがお届けするWebメディア『みたすくらす』にてレシピを公開中!

【カクキュー八丁味噌 協賛プレゼント企画】

ただいま「みたすくらす」ではカクキューのヴィンテージタイプの八丁味噌が抽選で20名様に当たるプレゼント企画を実施中です。ぜひご応募ください!
応募期間:2023年4月10日(月)~2023年4月30日(日)

プレゼントの応募はこちらの記事から

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