連載
posted:2023.9.19 from:静岡県掛川市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
ローカルで暮らすことや移住することを選択し、独自のライフスタイルを切り開いている人がいます。
地域で暮らすことで見えてくる、日本のローカルのおもしろさと上質な生活について。
したたむ
料理人の夫・奥田夏樹と陶芸家の妻・吉永哲子によるご飯屋と陶芸工房。完全予約制でランチのみ営業中。
予約はInstagramより。
https://www.instagram.com/_sitatamu_/
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編集:栗本千尋
静岡県掛川市の山間での暮らしを始めて4年目、
料理人の夫と陶芸家の妻による、ごはん屋さんと陶芸工房〈したたむ〉。
完全予約制のランチ営業のみで、Instagramで1か月分の予約を開始すると
すぐに埋まってしまい、キャンセル待ちができるほどの人気店です。
車でしか行けない山奥にあり、決して利便性の良い立地ではないものの、
ここまでの人気店に成長したのはなぜなのか、本連載を通してひも解いていきます。
前回まで、飲食店を開こうと考えたきっかけや、お店を出すための土地探し、
資金調達、リノベーション計画について書いてくれました。
今回は、料理人の夫・奥田夏樹(おくだ なつき)さんが、
漆喰塗りや無垢材張りなどのセルフリノベーションの内容について振り返ります。
セルフリノベーションでも人気の作業といえば、漆喰塗りではないでしょうか。
「漆喰をコテで塗っていく作業はなんか楽しそう」。これである。
実際の感想は、「”塗りやすい場所は”楽しかった」である。
振り返ってみましょう。
漆喰塗りの計画は、まず奥のプライベート空間の二間で練習して
お店側の二間が本番、というプランでした。
まずは漆喰選び。いろいろ調べた結果、
〈日本プラスター〉から出ている「漆喰うま〜くヌレール」は
自分で材料を混ぜ合わせる必要がなく、開けたらすぐに塗り始められるというお手軽さ。
漆喰を自分で混ぜてつくるよりも若干割高ですが、扱いに慣れていない素人だと
ムラになってしまうかもしれません。そして何より使いやすさを重視し、
「漆喰うま〜くヌレール」を選択しました。
作業の過程は以下。
・養生
・必要な道具を作成
・面を平らにする
・シーラー塗り(アク止め)
・塗る
・ムラがある場所を重ね塗りする
養生は、漆喰を塗りたい場所のまわりを汚さないよう、マスキングテープで覆っていく作業です。
そして塗るのに必要な道具は、コテ板とコテ。
これらはホームセンターにさまざまなものが売られているので買ってもよかったのですが、
地味にお金がかかるし、構造をみると、仕組みは簡単でつくれそうだったので、
100円ショップで下敷きを買い、家にあった木端でコテ板とコテをつくりました。
要はきれいに漆喰が塗れればいいわけで、実際のところ自作のもので十分でした。
塗る対象面は、石膏ボードのつなぎ目や木ネジの頭などで意外と凸凹しています。
そこで、メッシュ状のテープを貼ってなるべく面を平らにしていきました。
こうしておくと仕上がりにムラがなくなります。
シーラー塗りとは、漆喰の下地処理で必ず行う工程。
下地の種類によってはアクが出てきたり、ひび割れたり剥がれやすくなってしまうため、
それを防ぐためにシーラーを塗ります。
シーラーが乾いたら下準備終了となり、いよいよ本番、「漆喰塗り」。
奥のプライベート空間の二間で練習したかいがあり、
結構コツをつかんだ状態でお店側へと移っていったので
割とスムーズに作業は進みました。
大変だったのは、角。山でも谷でも。
場所によっては三面が交わる角などがありましたが、仕上げるのがとても難しかったです。
おそらくこういうところでプロとの差が出るのだなと実感しました。
時間と予算があればすべて漆喰で仕上げたかったところですが、
外壁も漆喰で仕上げることにしたので、予算を考えて、お客様が入らないキッチンや
トイレのなかは漆喰でなくペンキを塗って仕上げることにしました。
具体的な作業内容は以下。
・壁の掃除
・養生
・シーラーを塗る
・乾いたらペンキを塗る
床張りでは金子さんにふたつの提案をいただきました。
ひとつめは使用する木材を、浜松市・天竜地区の無垢の杉材にすること。
品質の確かな「しずおか優良木材等」を使った木造住宅を取得または
リフォームする人を対象に助成する「住んでよし しずおか木の家推進事業」というものを
見つけてきてもらったため、助成金をもらうために、対象となる浜松市の
天竜地区産の無垢材の天竜杉を使うことが決まりました。
もうひとつは床張りの一部をワークショップ形式にして
残った部分を私たちでやるのはどうかというものでした。
金子さんは静岡理工科大学の建築学科で講師もされているのですが、
そこの生徒さんたちと一緒にワークショップ形式で床張りをやりましょうと。
ワークショップでは、大工の天野さんに来てもらい、機材の使い方、計測の仕方、
床板の張り方など工程ごとにポイントやコツを教えてもらいながらみんなで張っていきます。
問題だったのは、古民家ゆえに直角や直線がなく、“約90度”だったり、
直線に見えてゆるやかに曲がったりしていることでした。
なので、基準となる直角のL字を床に描くところから始まりました。
また壁を抜いた南側二部屋には印象的な柱が6本あるのですが、それらは
手斧(ちょうな)で仕上げた化粧柱や、人力で削り出した、太さやかたちがすべて違う柱。
それら柱と床板の取り合いの部分は、お店の顔といってもいいくらい目立つ場所なので
そこが素人仕事の感じが出てしまうのはカッコ悪い……ということで匠の技を発動。
南側の端の数枚は大工さんにお願いして、柱のラインを超えたところからみんなで張り始めました。
ワークショップに集まってくれた建築学科の学生さんたちも
おそらくこの先プロになったとしても、あまり出合うことがないであろう
築200年以上経つ建物での作業に、学びやおもしろさを見出しながら
作業してくれていたと思います。
参加された学生のみなさんの経験になり、私たちも勉強になり
さらにリノベーションの作業も進むという、何とすばらしい企画でしょう。
お礼といってはなんですが、初々しいキッチンで、ささやかながらカレーライスをつくり、
縁側や外に座ってみんなで食べたのはいい思い出です。
外壁は茶色と小豆色の間のような色のガルバリウムで、
見慣れるとまぁこれでもいいかなと思いつつも、
来店されるお客様の視線で考えたときに、最初に目に入るお店の顔になる部分。
ここは手を抜いてはいけないと、当初から予定していた通り外壁も漆喰で塗ることに。
通常であれば、ガルバリウムを剥がして下地になる壁をつくり、
その上に漆喰を塗るのですが、剥がしたガルバリウムがゴミとなり、
それらの処分費がまたかかることが問題でした。
そこで金子さんたちに相談し、ガルバリウムの上に石膏ボードを貼りつけてしまい、
さらにその上に漆喰を塗っていくという案を出してもらいました。
この手法の懸念点は、壁がかなり重くなるということだったものの、
大工の天野さんの経験上、大丈夫だろうということでこの方法が採用されました。
具体的な作業内容は、以下。
・石膏ボードの切り出し、貼りつけ
・壁の掃除
・養生
・面を平らにする
・漆喰塗り
室内の漆喰塗りで自信をつけていた私たちは、室内のときに使った道具もあるので
慣れた手つきで割といい感じにできたと思っています。
難しかったのは、室内のときと同じく角の仕上げ方でした。
さて、前回から長々と振り返ってみると、いろいろなことをやってきたのだなと
自分を褒めてあげたいと思いますが、本当に「セルフリノベーション」といっていいのか
というほど、実はたくさんの人に助けられながらやってきたことがよくわかります。
協力してくださったみなさま、本当にありがとうございました!
細かい作業を入れると、ここに挙げた作業の倍以上の工程があり、
ワークショップもこのあと別の内容でさらに2回開催しているのですが、機会があればまた。
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したたむ
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