連載
posted:2018.1.18 from:京都府福知山市、京丹後市、伊根町、与謝野町 genre:暮らしと移住
PR 京都府北部地域連携都市圏形成推進協議会
〈 この連載・企画は… 〉
ローカルで暮らすことや移住することを選択し、独自のライフスタイルを切り開いている人がいます。
地域で暮らすことで見えてくる、日本のローカルのおもしろさと上質な生活について。
profile
Eri Sato
佐藤枝里
さとう・えり●アイシングクッキー作家。多摩美術大学卒業後、カフェで製菓などを学ぶ。2010年に自身のブランド〈Qwan Qwan icing cookie shop〉をスタート。WEB販売をはじめ、雑誌や広告、企業のノベルティ製作、イベント出展、教室など、幅広く活躍。共著に『はじめてでもかわいく作れるアイシングクッキーアイディア帳136』(主婦の友社刊)が。
credit
構成:下川あづ紗
撮影:松井ヒロシ
京都府北部地域では、2016年より福知山市、舞鶴市、綾部市、宮津市、
京丹後市、伊根町、与謝野町の7市町が広域連携する移住・定住促進プロジェクト
「たんたんターン」を展開。移住・定住促進に力を入れて取り組んでいます。
京都市からも車や電車で1時間半から2時間程度で行き来できるこの地域には、
どんな魅力や暮らしのスタイル、働き方があるのか。
移住者はどんな暮らしを営んでいるのか。
最近移住に興味を持ち始めた、兵庫県西宮市在住のアイシングクッキー作家
佐藤枝里さんと、アウトドアメーカーで商品開発に携わる夫の光将さん、
2歳になる息子一晴くんが、この地域で暮らす移住の先輩たちのもとを訪ねます。
アイシングクッキー作家として活動する佐藤枝里といいます。
結婚を機に、生まれ育った東京から兵庫県西宮へ。
現在は2歳の息子を育てながら、オーダーメイドの
アイシングクッキーの制作や販売をしています。
大のアウトドア好きで、週末になると自然豊かな暮らしを求め、
近畿各地へキャンプに出かけている私たち。
都市部と田舎を行き来する暮らしを続けるうちに、
「都会の暮らしはなにかと便利だけれど、365日自然と寄り添う暮らしにも憧れるなぁ。
息子も田舎のほうが伸び伸びできそうだし、
自然を肌で感じることによって学べることも多いのかも……」と、
“地方への移住”についてほんのりと興味を持つようになりました。
今回、縁あって京都府北部の4つの地域を訪ねることに。
先輩移住者の方たちのお話をもとに、それぞれの地域の暮らしや仕事と起業、
子育てについてシミュレーションしてみたいと思います。
最初に訪ねたのは、福知山市で古民家を改装した
ゲストハウス〈ふるま家〉を営む沢田さやかさん。
アメリカの大学を卒業後、横浜の外資系出版社に勤めていた沢田さんが
ふるま家を営むことになったのは、仲間たちとの旅行がきっかけだったそう。
「脱サラ後、たまたまアメリカ人や日本人の友人を連れて
アレックス・カー氏が手がける徳島県東祖谷(ひがしいや)の茅葺きの古民家
〈篪庵(ちいおり)〉へ行く機会があったんです。
そこは囲炉裏を囲みながら食事ができたり寝泊まりしたりできる、
非常に素朴な施設なのですが、『日本の暮らしを体験できた』と友人たちにも好評で」
もともと外国人とのつきあいも多く、自宅でホームパーティや
社交グループをつくってイベントを開催していたこともあり、
「英語能力が生かせるし文化交流もできて自分も楽しめる。
私がやりたいことってこれかも! とひらめきました」
思い立ったら即実行派の沢田さんは、翌日から(!)物件探しを開始。
自身の出身地でもある京都府内で、篪庵の雰囲気に似た
改修可能な茅葺き屋根の古民家を重点的にリサーチ。
そして「家の佇まいも景観も理想的」な物件と出会い、
導かれるように福知山への移住を決めたそう。
「改修は家族の力を借りながら、2年ほどかけて行いました。
オープン後はまずカフェとしてランチやお茶を提供。
同時にWEBの立ち上げや、ブッキングサイトに登録して、
少しずつ宿泊客を増やしていきました」
現在は宿の運営のほか、月に1度、子連れ家族向けの英語教室「英語カフェ」や
不定期でイベントを開催。ふるま家で知り合い、
結婚したフランス人のご主人ニコラさんとの間に、一昨年、長男のテオ君も誕生。
福知山への移住を機に、人生がガラリと変わったように感じます。
横浜で会社勤めをしていた頃は
「そりゃあもう、バリバリ働いていました」と笑う沢田さん。
「都会で忙しく暮らしているといつの間にか日が昇って、
いつの間にか沈んでいるでしょう? 福知山では自然に寄り添った生活を送っていて、
人間らしい暮らしができているなあって。当たり前のことがしみじみとうれしいんです」
と話してくださったのが印象的でした。
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「先に福知山に暮らし始めた先輩として、自分の体験を話すことも大切にしています」
と沢田さん。日本人宿泊客のなかには福知山への移住を見据えて
ふるま家を訪れる人もいるそうです。移住について考えたとき
「地域の方たちとうまくコミュニケーションがとれるかどうか」
が気がかりだった私。そのことについて訪ねてみると、沢田さんからはこんな意見が。
「地域の人たちとの交流を深められるかどうかで、
暮らしやすさが変わってくると思います。
人とのつながりを大切にする田舎のコミュニティは、
都会よりもずっと濃密なんですよね。近所づき合いが苦手と感じるのなら、
田舎は“暮らす”のではなく“旅行”にしたほうがいいかもしれません」
沢田さんは、近所の草刈りやお祭りといった地域行事へ
積極的に参加することで少しずつ地域の人たちとの絆を深めていったそう。
「田舎はシャイな方が多いので、最初は打ち解けづらいと感じるかもしれないけれど、
地域に溶け込もうという意識を持って行動していれば、きっと受け入れてもらえますよ」
とのアドバイスもいただきました。
「子どもの数が少ないという点はあるけれど、教育施設もひと通りそろっているし、
なにより自然が豊かで、地域の人たちも成長をあたたかく見守ってくれる。
子育てに必要なものがすべてそろっているんです」と沢田さん。
季節を肌で感じながらの暮らし、羨ましいです。
息子の表情もいつも以上に生き生きとしているように見えました。
「結婚、出産を経て働き方が変わってきたんです」と沢田さん。
以前は宿の運営のため、自分の時間を削って働いていたこともあったそうですが、
「フランス人の夫から自分たちの時間を持つことの大切さを教わって。
家族との時間を大切にする、休暇はきちんととる、
夜20時以降はインターネットを使わないなど、
オンとオフをしっかり切り替えるようになりました」
家族との時間を確保するために、昨年から営業日を短縮。
今シーズンは11月いっぱいで宿の営業を終え、冬の間は宿の家のメンテナンスをしたり、
家族でフランスへ長期帰省したりと、長い休暇を満喫するそう。
「営業日数は減りましたが、予約日を同期間に固める、
イベントを開催するなどの工夫をすることで収入的にはほぼ変動なし。
これからは野菜づくりにもさらに力を入れて、
自給率を高めていきたいと考えています」
家事、育児、仕事。日々のやるべきことに忙殺されて、
季節も曜日も、朝か夜かもわからなくなることもしばしば。
「私もこんなメリハリのある暮らしがしたい」と憧れてしまいました。
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福知山市のすぐお隣に位置する与謝野町で出会ったのは、
金属加工会社〈WELD ONE〉の小西栄二さん。
チタンを溶接するという超高度な技術を駆使して、
オリジナルのチタン製自転車やオートバイ競技用パーツを製造。
アメリカのハンドメイド自転車の展示会
「NAHBS(North American Handmade Bicycle Show)」で話題をさらうなど、
世界的にも注目を集めている方です。
世界に通用するアイテムは、このまちでどのように生まれたのでしょうか。
「ほかの人にはできない、自分だけの技術をカタチにしたい」
それが小西さんのものづくりの原動力。チタンを選んだのも
「加工が難しく、なかなか真似できないだろうなと思って。
技術者にとって挑戦しがいのある素材なんです」と笑います。
チタンの接合にはかなり高度な溶接技術が求められるそう。
全国でもトップクラスの溶接技術(溶接技術大会関西1位!)を持つ
小西さんだからこそ、しなやかで乗りやすく、
強高度な究極のフレームが実現できるんですね。
「日本はもちろん、世界でもここにしかないものをつくりたいんです」と小西さん。
自転車やパーツのほかにも、チタン製のコーヒー焙煎機をつくったり、
ピザ窯をつくったり。さらにはチョコレートに使用するカカオ豆用の焙煎機も開発中
……と、新たなアイデアが溢れ出て仕方ないという様子。
ひらめきと熱意、実行に移す行動力があれば、都心に暮らさずとも
世界に対抗するものづくりができる。そう強く感じさせてくれたひとときでした。
もともとバイクや自転車が好き。
いまも休日になると仲間とモトクロスやマウンテンバイクで
山を走っているという小西さん。
「広島の尾道で開催されているマウンテンバイクの
ダウンヒルレースのような大会を与謝野町でも開催できないかなと、
役場の人に掛け合っているんです」と笑顔で話してくれました。
自分の趣味と仕事を技術の力で結びつけ、地域を巻き込み新たな事業に発展させていく。
スモールビジネスの新しいかたちを見た気がしました。
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京都府北部の丹後半島北端にある伊根町は、
穏やかな伊根湾に沿っておよそ230軒の「舟屋」が建ち並ぶ舟屋のまち。
国の重要伝統的建造物群保存地区として選ばれた
「日本でもここにしかないまち並み」を目指して、
近年は国内外から観光客が訪れています。
4月には舟屋群の一角に観光拠点となる複合施設〈舟屋日和〉もオープンし、
さらなる活性化が期待されるエリアです。
「ずっと帰ってきたかったんです、伊根町に」
そう話すのは舟屋日和内にあるカフェ〈INE CAFE〉の店長・永濱志穂さん。
「学生時代はコンビニもない、遊ぶところもないと不満ばかりだったけれど、
いざ離れてみると海のない生活は寂しくて(笑)。
帰省したときは、海ばかり見て過ごしていました」
一度都会で働いたからこそ、伊根の良さが見えてきたという永濱さん。
帰りたいと思う気持ちは募るものの、帰っても仕事がないと半ば諦めていた昨年、
役場の人から舟屋日和の責任者を紹介され、
「パティシエの経験を生かしてINE CAFEの店長をやってくれないか」との連絡が。
「これは乗るしかない! とふたつ返事で帰ってきました」
舟屋日和とは、舟屋が建ち並ぶ伊根浦エリアに
観光客がゆっくりと立ち寄れる場所が少ないことから、
「伊根をゆっくり楽しんでもらえる観光受け入れ態勢の充実」を
大きな目的としてつくられた観光交流施設。
町内の民間有志による会社〈Sabai〉が、施設の運営管理を担っています。
施設内には、INE CAFEのほかに、伊根でとれた新鮮な魚介を供する
鮨割烹〈海宮〉があり、こちらは近隣の舟屋宿の宿泊者の食事処としても活用。
高齢化や担い手不足によって食事提供などが困難になりつつある宿にとっても、
頼もしい存在となっています。
そうした地域活性の使命をもつ場所に永濱さんは呼ばれ、大阪からUターン。
都市で磨いたパティシエの技術をこれからは地元で発揮しようとしています。
伊根町には少しずつ移住者も増えているそうで、
「20代で伊根町にUターンし、就農したご家族もいるんですよ。
無農薬野菜やドレッシングなどの加工品を販売するほか、
奥様はご自身の資格を生かしてヨガやフラダンスの教室を開講。
伊根では初の試みで、地元の人たちからも好評みたいですよ」と教えてくれました。
自分のスキルを武器に、その地域にはなかった新しい仕事を生み出していく。
地方だからこそチャレンジしやすいビジネスのかたちだなと感じました。
念願の伊根町へのUターン。とはいえ、学生として過ごしていた頃とは違い、
今回は働く立場。職の面で、都会との差はなかったのでしょうか?
「人口が少ないまちなので、スタッフの確保にとても苦労しています。
あと、このあたりはケーキなどに使用する食材の店がなく、
いまは少し離れたスーパーまで出かけて、購入している状態。
仕入先の確保が今後の課題ですね」
現在カフェで提供しているケーキは5種類。
伊根町山間部の寺領地区で育てたさつまいも〈鳴門金時〉を利用したモンブラン、
伊根の地酒の酒粕を使ったパウンドケーキなど、地元食材を使ったケーキが並びます。
「地のものを使うことで地域に役に立てたらと思っているんです。
春になったら丹後のいちごを使ったケーキをつくろうかなと、あれこれ構想中です」
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最後にお邪魔したのは、京丹後市にある暮らしのリノベーション会社〈blueto〉。
弱冠30歳の若きオーナー吉岡大さんもまた、
都市での進学、就職を経て故郷へとUターンしてきました。
京丹後市丹後町間人(たいざ)で生まれ育ち、18歳で神戸の専門学校へ。
卒業後は大阪の建設設計会社で働いていた吉岡さん。
「ひたすらマンションの図面を書くだけの毎日に疲れちゃったんですよね。
思い描いていた都会の暮らしとなんか違うぞ? と。
田舎だと同じ仕事でも現場に出ていろんな人の声が聞けるし、
戻ったほうが自分のやりたいことができるかも? と思い、丹後に戻ることにしました」
帰郷後はまず地元の工務店へ転職。そこでさまざまな経験を積む傍ら、
現在のビジネスにもつながる空き家活用事業にも着手。
古い空き家を人が住める状態に改修し、
Iターン移住者の受け皿として活用した〈桃山ノイエ〉など、
いくつかの物件を手がけています。
「空き家のリノベーションをきっかけに丹後へ移住してくれる人が現れたり、
完成した物件の見学やイベントのために府外からたくさんの人が来てくれたり。
家を拠点にたくさんの新しいコミュニティが広がっていくのを見て、
人と人を結ぶ事業っておもしろいなと感じるようになりました」
2016年に自身の会社bluetoを設立。現在は空き家活用事業のほか、
空き家を持つ人と事業を立ち上げたい人のマッチングサービスや、
ドローンを使った丹後の自然やイベントなどを紹介する動画の制作など、
地域に人を呼び込むためのさまざまな活動を行っています。
吉岡さんがドローンで撮影したという映像をいくつか見せてもらいましたが、
どの映像も息をのむ美しさ。一面に広がる田園風景、紺碧の海に緑の豊かさ……。
自分たちの暮らすまちからそう離れていない場所に、
まだ日本の原風景が残っていたなんて!
「地元の人でも『丹後ってこんなきれいだったんだね』と驚くことが多いんです。
ずっと中にいると見えないものも、僕のような人間が入ることで再発見できる。
そういった埋もれている地域の魅力を発掘、提案するのも僕の仕事なんです」
と、うれしそうに語ってくれました。
「自分がやりたいと思い描いていたことに、
自由に取り組むことができるようになったのが起業して良かったところ。
まだまだやってみたい構想がたくさんあるんです」と吉岡さん。
空き家を通じた地域と人とのコミュニケーションの場が、
これからもますます広がっていきそうです。
最近は国内外からの旅行者も少しずつ増えてきているという京丹後市。
「丹後を訪れた人はみんな口をそろえて『住みたい』と言ってくれますね。
海がすぐ近くにあり、自然が豊か。農業が盛んでごはんがおいしく、人もいい。
そんな環境の良さに感動してくれるみたいです」
なるほど、確かに魅力的な条件ばかり。
加えて、丹後は京都市内からも電車で2時間程度と比較的通いやすい距離。
いきなり移住するのはハードルが高いけれど、
二拠点生活や週末だけのプチ移住から始めてみるのもありなのかも……
なんて妄想を膨らませてしまいました。
この2日間で4市町を巡り、先輩移住者の方たちと話をしました。
どの方も移住前に培ってきた仕事や経験をリセットするのではなく、
上手に生かし、発展させていたのが印象に残りました。
私たちも夫婦それぞれが身につけてきたスキルを生かすことができれば、
地域にこれまでなかった新しい事業を起こすことができるかもしれない、
事業を通じてまちづくりにも参加できるのかもしれない……。
4市町にはチャレンジを受け入れてくれる土壌があり、
「なにか新しいことを始めたい」と思っているスタートアップ志向の人にはぴったり。
漠然と考えていた「移住」に対して「私たちにもできるかも」と、
かすかな希望を持つことができました。
暮らしの面では、都市部の利便性は捨てがたいけれど、
京都府北部地域は西宮市内から車で1時間半から2時間半程度と、遠くない距離。
ネットショップなども上手に活用すれば、
いまとそう変わらない暮らしができる気がします。
子育てに関しても、都市部に比べると子どもの数が少ないといった不安はあるものの、
自然の豊かさや人の大らかさを享受できることは、
それをカバーするだけの魅力があるとも感じました。
旅から帰宅後、さっそく4市町の空き家チェックを開始。
私たちなりの移住への第一歩を踏み出してみました。
ここから少しずつ、新しい暮らしや仕事について
具体的なビジョンを描いていけたらいいな、と思っています。
「雛形」では、綾部市、舞鶴市、宮津市への
移住体験記事が読めます。
*“京都府北部UIターンプロジェクト”は、株式会社博報堂、地域の魅力を発信するウェブマガジン「コロカル」(株式会社マガジンハウス)、移住をテーマとするウェブマガジン「雛形」(株式会社オズマピーアール)の3社で、地域創生に関わる活動の企画・運営を支援する共同プログラム「地域エディットブランディング」がサポートを行っています。
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