連載
posted:2017.12.28 from:長崎県五島市・新上五島町 genre:暮らしと移住 / 旅行
sponsored by 長崎県
〈 この連載・企画は… 〉
ローカルで暮らすことや移住することを選択し、独自のライフスタイルを切り開いている人がいます。
地域で暮らすことで見えてくる、日本のローカルのおもしろさと上質な生活について。
writer profile
Ayumi Yagi
八木あゆみ
三重県の伊賀生まれ四日市育ち。大学時代は関西で過ごし、ただいま東京在住。紙媒体の編集職として出版社で経験を積んだ後Web制作会社へ。2016年に独立し、Web制作ディレクター、執筆や編集、カメラマンなど職種を問わず活動中。車の運転、アウトドア、旅行、お酒が好きで、目を離すとすぐに遠くに行きたがる。
photographer profile
Tada
ただ
写真家。池田晶紀が主宰する写真事務所〈ゆかい〉に所属。神奈川県横須賀市出身。典型的な郊外居住者として、基地のまちの潮風を浴びてすこやかに育つ。最近は自宅にサウナをつくるべく、DIYに奮闘中。いて座のA型。
http://yukaistudio.com/
「島暮らし」。なんてわくわくする言葉だろうか。
よくよく考えれば私たちは日本という島国で暮らしているのだけど、
ここでは「離島暮らし」について。
毎日満員電車に揺られ、あくせく働き、気づけば季節が巡っている。
「都会での生活を捨てて、自然豊かな島で暮らせたら」
そんな想いを巡らせたことのある人も少なからずいるだろう。
でも実際にそこで暮らすと考えると、仕事はあるのか、
どんな生活になるのか、気になることだらけ。
そうであれば、実際に現地の人に話を聞けばいい。
九州の最西端の島々である長崎県五島列島にて
2017年10月27日〜29日に開催された
「長崎のしまで暮らそう!働こう!移住体験ツアー」。
ツアーは島の職場見学から先輩移住者との交流、住まいの見学など
実際に五島列島で暮らすならどんな生活なのかを体験できる内容となっており、
島暮らしに興味を持つ20〜40代の関東在住の男女が参加した。
五島列島は長崎市の西方約100キロに位置する五島市福江島と、
150あまりの島々がある。
五島市、新上五島町、小値賀町の3つの市町と佐世保市、西海市の離島からなり、
合わせて約6万人が暮らしている。
海と山とが織りなす美しい景観により、一部が西海国立公園に指定され、
ダイナミックな自然を楽しむことができる。
また、五島列島は潜伏キリシタンの島としても知られている。
16世紀にキリスト教が日本に伝えられ、長崎は信仰の中心地となったが、
豊臣秀吉による禁教令が出され、キリシタンへの迫害が始まった。
その後、18世紀後半には約3,000名の潜伏キリシタンが
仏教徒を装って五島列島へと移り住んだ歴史があり、
現在も島のあちこちで美しい教会を目にすることができる。
その歴史を語る「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は、
世界遺産候補となっている。
地元民から「かわいい」と愛されているプロペラ機。五島市の福江島にある五島つばき空港へは、福岡空港と長崎空港からアクセス可能。
福岡空港からプロペラ機に乗って45分、
あっという間に五島市の五島つばき空港に到着。
10時前に羽田空港を出発したばかりなのに、まだ13時。
離島って案外近いもんだなあ、なんて思いながら、
〈五島コンカナ王国 ワイナリー&リゾート〉の視察へ向かう。
滞在型リゾートである〈コンカナ王国〉には、宿泊施設だけでなく
レストラン、陶芸館、椿油を使用したエステ、鬼岳温泉、五島ワイナリーなどが揃う。
なかでも気になるのは、2014年からスタートしたという
長崎初のワイナリーである〈五島ワイナリー〉。
ブドウの栽培から醸造までを手がけており、コンカナ王国の敷地内で育った
ブドウを使用した純“王国産”のワインが楽しめる。2016年には3万本を出荷した。
8月に収穫を終えたブドウ畑。うかがった前週の大型台風によって、この畑まで潮をかぶったそう。キャンベル・アーリー、ナイアガラ、マスカット・ベリーAを育てている。
軽やかな味わいの五島ワイン。ワインの製造に携わる移住者も募集中だ。
次の訪問先へ向かう間に、福江島のシンボルである鬼岳へ寄り道。天文台もあり、晴れた夜には満天の星空が頭上に広がるという。毎年ゴールデンウィークには凧揚げ大会が催され、名物である五島ばらもん凧が空に舞う。
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次は、24歳で単身移住をした伊藤睦月さんの自宅へ。
今回のツアーは何と言っても移住が目的のため、
参加者も前のめりで先輩移住者である伊藤さんに話を聞く。
部屋の中心には、改修前からあった囲炉裏をそのまま残している。柱にぺたぺた貼ったままのシールからも、当時の名残が。
仕事も住まいも決めずに五島市にやってきた伊藤さん。2018年1月に、富江商店街にておでん屋を開業予定。
「埼玉県出身ですが、以前から暖かいところで暮らしたいなと思っていました。
移住先を探し、他県で勤務先も決まっていたのですが、
赤羽の飲み屋でたまたま出会った五島出身の人に
「五島は本当にいいところだから、まずは来てみてごらん!」と
とてもおすすめされました。気軽な気持ちで一度来てみたら
五島市のおもしろい人をどんどん紹介してくれて、すごく楽しかったんです。
気づけば、五島市に引っ越していました。
今住んでいる家はインターネットの空き家バンクに載っていた物件で、
改修補助金を利用してリノベーションしました。
築60年、空き家歴6年で家の中は大荒れ。
内覧は土足で入ったほどでしたが、
家の形や柱の雰囲気がとても好きだな、と思って。
とはいえその時はここで暮らすのは無理だろうと諦めたのですが、
五島市に自宅をリノベーションして暮らしている人がいて
具体的なアドバイスをもらうことができたんです。
その時に初めてここに住むイメージができて、改修に入りました。
前に住んでいた方の持ち物などもあるので片付けは大変でしたが、
床を張って畳の表替えをして、水回りを整えたらだいぶ変わりましたね」
コンテンツ盛りだくさんの初日の夜は、先輩移住者とともに宴席を囲む。
会場はコロカルで連載をしてもらった〈さんごさん〉。
福江島の富江地区にある私設図書館だ。
現在、神奈川県から移住してきた大島健太さんが館長を務めている。
商店街でひときわ目をひく朱いさんごカラーの外観のさんごさん。2017年夏にはコーヒースタンドもオープンした。
館長の大島さんは「今はネット通販でなんでも手に入りますし、東京も五島市も変わらないですよ」と話す。
五島市では移住者同士のつながりも深い。店に次々入ってくる先輩移住者たちはみんな顔見知りで、五島市での暮らしをちょっとイメージトレーニングしてしまう。
宴会の主役は旬の魚たち。五島市には刺し盛りをつくってくれる魚屋が多い。
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2日目の朝は高速船に乗り、新上五島町へ。
新上五島町の島暮らしの根幹となる「仕事」はどのようなものがあるのか。
参加者も興味津々の様子だ。
若松島へ移動し、まずは水産物の養殖・活魚の販売を行う〈宝生水産〉を訪問。
水産業は新上五島の経済を支える基幹産業だ。
その職場の様子を見学していく。
到着するなり、次から次へと釣り上げられる立派なクロマグロの姿が!
60〜80キロのマグロを1日に50匹ほど出荷するという。
続いて五島うどんの製麺・販売を手がける〈ますだ製麺〉へ。
日本三大うどんのひとつに数えられている五島うどんは、
麺に椿油を練り込んであり、コシが強くて伸びにくいのが特徴だ。
ここでも麺の製法について見学をし、仕事の内容に関する話を聞く。
現在は機械化された部分もあるが、気候や温度、湿度に合わせて調整するのは手仕事。新上五島町だけで40軒ほどのうどん業者があるという。
ツアー参加者も五島うどんの手延べに挑戦!
五島列島の観光の要でもある教会巡りも忘れてはならない。
新上五島町におけるキリスト教の信者は約3割で、
島内に29の教会があり、島民の生活に根づいている様子がうかがえる。
新上五島町に暮らす、ということは、
そうした文化や歴史的背景を、理解、尊重するということなのだ。
日本における教会建築の父とされる鉄川与助(現新上五島町出身)が独立後、初めて手がけた教会である冷水教会。ステンドグラスのガラスは西ドイツ製。
次は、今まさに空き家として住み手を探している物件を見せてもらう。
自分がこの家に住むとしたらどうする?
そんな思いを膨らませながらの物件見学では、参加者それぞれの脳内で
「ここは床を貼って、ここは壁を塗って……」と家づくりが始まっている模様。
元整骨院だったこちらの空き家。中はとても広々していて、間取りもおもしろい。リノベーション好きな人にはたまらない物件だろう。
夜は新上五島町の先輩移住者とともに食事を楽しんだ。
祖父が住んでいたことをきっかけに移住してきた孫ターンの人や、
結婚を機に縁もゆかりもなく飛び込んできた人、そしてUターンの人。
みんな理由はそれぞれだが、新上五島町暮らしの良さをいきいきと語る。
「新上五島町はいい人が本当に多いんです。あと自分もなんですけど、お酒好きな人も多いですよ」と話す、移住の先輩﨑本 慎さん。
長崎県によるユニークなサービス「キャンピングカーによるラクラク移住先探し」で、一家総出で移住先を探した原 知也さん。最安1日3000円でコンパクトな軽自動車キャンピングカーを借りることができる。
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話を聞かせてくれたのは、〈虎屋〉で働く﨑本 慎さん。
新上五島町で生まれ育ち18歳で島を出て広島にて就職をしたが、
2017年の春にUターン移住をした25歳の一児の父だ。
五島うどんと海塩の製造・販売を手がける〈虎屋〉にて、
﨑本さんは塩づくりを担当している。
「自分で稼いで自分のために使いたいという想いが最優先で島を出ました。
老後は島に帰ってのんびり過ごそうと思ってはいたものの、
そのときはまだUターン移住に関して具体的に考えていませんでした。
そんな時、広島でたまたま出会った男性にお金があったら幸せかと聞かれて。
島を出る動機となったお金はいま自分の手にあるのに、
日々働く中で『何のために仕事をしているのか』という想いは
ずっと拭えなかった。だからこそ、男性からの質問の答えを考えたときに、
島に帰ろう、と思いました。
また、その頃結婚して子どもができたのが大きかったですね。
自分が子どもの頃、自分の親よりも近所の人に怒られたことのほうが
多いくらいだったから、自分が子どもを育てるとなったら地元で
育てたいと思ったんです。
子どもは親だけではなく、地域で育てるべきでしょう?」
一度都会で働いたからこそ、島の良さが見えてきた﨑本さん。
久しぶりに暮らす新上五島町の暮らしが心地よく、今は島中毒なのだと言う。
朝5時から炊き続けているかん水(塩分濃度の高い海水)。この結晶を自然乾燥させるとミネラルたっぷりの塩となる。
五島列島の恵みたっぷりの〈虎屋〉の商品。特産であるあご(トビウオ)と椿油、目の前の海水からつくった天然塩を組み合わせてできたアンチョビならぬ〈あごんちょび〉は経済産業大臣賞も受賞している。
1日目のすこんと抜けたような晴れから一転、2日目の夜は風雨となり、
ツアー最終日の3日目は台風22号の影響で高速船がすべて運行中止。
当初の予定より4時間早いフェリーに乗り込み佐世保へ向かった。
名物の長崎ちゃんぽんを食し、長崎空港から羽田に帰着。
行きは4時間程度で着いたが、帰りは12時間かけて東京へ戻ることとなった。
海が荒れれば、船が出ないかもしれない。
予定は狂ったものの、離島で暮らすとはこういうことなのだ。
「船が出なければ、また違う1日の過ごし方ができるからね」
五島列島で暮らす人はあっけらかんと言った。
高い波だからこそ、虹が見えるご褒美も! フェリーは大揺れ。
帰り際、移住ツアーの参加者に話を聞いた。
「移住したいな、と思い五島市を候補に考えていたなかで、
今回来て、島の人と触れ合ってイメージがもっと湧きました」
「新上五島町のポテンシャルを感じました。
移住を念頭に置いて、実際に動いてみようと思います」
離島は文字通り、「離れている島」ではあるけれど、人と人との距離は
離れるどころかむしろ近い場所でもあった。
島から離れていく船から見えたのは、いつまでもいつまでも
手を振り続けてくれる人の姿。
この五島の地で、誰かの新しい生活が始まる予感がしたツアーだった。
大げさではなく、本当に見えなくなるまで手を振ってくれた。
information
ながさき移住サポートセンター(長崎本部)
住所:長崎県長崎市尾上町3-1
TEL:095-894-3581(直通) 095-824-1111(内線3581~3583)
営業時間:9:00~17:00(月~金)※祝祭日、12/29~1/3を除く
Email:iju@pref.nagasaki.lg.jp
information
ながさき移住サポートセンター(東京窓口)
住所:東京都千代田区有楽町2-10-1
TEL:080-7735-3852(直通) 03-6273-4401(代表)
営業時間:10:00~18:00(火~日)※祝祭日、8/11~16、12/25~1/4を除く
Email:nagasaki@furusatokaiki.net
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