連載
〈 この連載・企画は… 〉
田舎へ移住を考えている人、すでに移住した人。
そんな方の、暮らしの参考やアイデアになるはずです。農業、狩猟、人とのつながり、四季のこと。
福岡県糸島で自給自足生活を営む〈いとしまシェアハウス〉の暮らしをお届けします。
writer profile
CHIHARU HATAKEYAMA
畠山千春
はたけやま・ちはる●新米猟師兼ライター。3.11をきっかけに「自分の暮らしを自分でつくる」活動をスタート。2011年より鳥を絞めて食べるワークショップを開催。2013年狩猟免許取得、狩猟・皮なめしを行う。現在は福岡県にて食べもの、エネルギー、仕事を自分たちでつくる〈いとしまシェアハウス〉を運営。2014年『わたし、解体はじめました―狩猟女子の暮らしづくり』(木楽舎)。第9回ロハスデザイン大賞2014ヒト部門大賞受賞。
ブログ:ちはるの森
こんにちは。
「食べもの・お金・エネルギー」を自分たちでつくる
〈いとしまシェアハウス〉のちはるです。
山道を歩いていて、ブドウのような甘い香りがふわりと漂ってきたら、
近くに「葛(くず)」の花が咲いている証拠かもしれません。
それほど、葛の花は目が覚めるほどにいい香り!
葛は、秋の七草のひとつに数えられ、
和菓子や料理などに使われる“葛粉”の原料として
古くから日本で親しまれてきた植物です。
一方で、驚異的な繁殖力を持つ外来種として、
アメリカを中心に世界から恐れられていることを知っていますか?
アジアを原産地とするこのツル植物は、
1日に30センチ以上も成長することがあるといわれ、
ほかの植物を覆いつくすように繁殖するため
IUCN(国際自然保護連合)による
「世界の侵略的外来種ワースト100」にも選定されています。
厄介な植物として駆除の対象となってしまった葛ですが、
日本では古来から薬として用いられたり、和歌にも詠われたりしてきました。
今回は、そんな葛の花でつくる
「シロップ」や「花の砂糖漬け」のレシピなどをご紹介します。
スミレ、レンゲ、たんぽぽ、梅……
今までいろんな野花のシロップをつくってきましたが、
今回は、過去最高においしいものができあがったと思います‼
どうぞご期待ください!
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私たちの集落でも葛の繁殖はすさまじく、今や田んぼにまで侵入しています。
このまま放っておくと
(1)葛のツルが猪対策用の柵に絡みつき、柵を壊してしまう
(2)大好物の葛の根を求めて、猪たちが田んぼに入って畔を壊してしまう
(3)葛の花には米の養分を吸うカメムシが集まるので、お米の育ちが悪くなる
などなど、さまざまな問題を引き起こす原因となります。
害獣や害虫からお米を守るためにも、
夏はシェアメイト総出で葛刈りをしました。
葛の大繁殖は、温暖化で冬が暖かくなったことや、
空気中の二酸化炭素濃度が高まったことも関係しているという分析結果があり、
気候変動が大きな原因と推測されています。
……ということは、気候変動が進行すると、葛ももっと増えるということ?
そう考えるとゾッとします。
もうこれ以上増えないでー‼
葛刈りついでに、葛の花をどんどん収穫していきます。
花を摘んでいると、大量のカメムシがポロポロと落ちてきて、
服や靴の中がカメムシだらけに!(笑)
お米の養分を吸われてしまっては大変なので、
かわいそうだけど駆除します。
バケツに山盛り入った葛の花からは、フルーティーな香りが漂います。
これでシロップをつくったら、おいしくなる予感しかしません!
田んぼを荒らされるだけではなんだか癪なので、
このお花でおいしいものをたくさん仕込んでみたいと思います!
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葛の花にはサポニンやイソフラボンという成分が豊富に含まれており、
更年期障害や骨粗しょう症の予防などに効果があるといわれています。
また、お腹周りの脂肪の合成を抑制するということで
サプリメントに配合されていたり、
女性特有の症状にもうれしい効果がたくさんあるそう。
さらには二日酔いにも効くとされ、お酒を飲む人にもぴったり。
……と、さまざまな効能を紹介しましたが、
なによりも「味」や「香り」がいい‼
まずは、いろいろと試作するなかで、これはおいしい! と衝撃を受けた
「非加熱の酵素シロップ」と「煮込んでつくるシロップ」の2種類をご紹介します。
葛の花の下処理
強い香りに誘われて、
葛の花にはカメムシやアリなどたくさんの昆虫がいます。
花はザルなどに広げて少しの間干しておき、虫を出してからさっと洗います。
水に浸け置きすると、花の風味が落ちてしまうので注意。
非加熱の酵素シロップ
まずは、火を入れず、酵素が生きた状態の「酵素シロップ」をつくります。
<材料>
・葛の花
・砂糖(葛の花の1〜2倍くらいの重さ)
・水
・レモン汁(なくてもOK)
・熱湯消毒した瓶
<つくり方>
(1)葛の花、砂糖、の順番で瓶に入れ、レモン汁を絞って回しかける
(2)ひたひたになるくらいまで水を入れ、常温で発酵させる
(3)毎日、蓋を開けてよく混ぜる。密閉したままだと発酵して爆発するので注意
(4)2〜3日で発酵してくるので、花を濾して液体だけにする
(5)完成!
花を濾したあとでも、常温だと発酵が進んでしまうので、
冷蔵庫で保存するのがおすすめです。
また、発酵させすぎると酢になってしまうので、
おいしいところで飲み切ってください。
長期保存したい場合は、次に紹介する「煮込んでつくるシロップ」がおすすめ。
煮込んでつくるシロップ
続いて、火を入れることによって
長期保存が可能なシロップをつくっていきます。
<材料>
・葛の花
・砂糖(葛の花の1.5〜2倍くらいの重さ)
・白ワイン(なくてもOK)
・水
・レモン汁(なくてもOK)
・鍋
・熱湯消毒した瓶
<つくり方>
(1)葛の花と砂糖を鍋に入れ、花のエキスが出てしんなりするまでよく混ぜる
(2)お好みの量の白ワインと、ひたひたになるくらいまで水を入れ、弱火で煮る
(3)花の色が抜け、水に色が移ったら、火を止めて粗熱をとる
(4)花を濾して、液体だけにする
(5)レモン汁を回し入れ、さっと煮立たせたらすぐに火を止め、瓶に入れる
(6)完成!
白ワインの量は、お砂糖の3分の1くらいでしょうか。
フレッシュな風味を楽しみたい方は、レモン汁を入れずにシロップをつくり
飲む直前にレモン汁と混ぜて飲むのも◎。
炭酸割りなどをしたい場合は、
お砂糖たっぷりでつくったほうが、濃厚でおいしく仕上がります。
完成したシロップは、冷蔵庫保存がおすすめ。
ふたつのシロップとも、炭酸割りが一番簡単でおいしいですが、
お酒好きな方はビールと混ぜてもいいと思います。
また、レモングラスなどのハーブティーと混ぜると爽やかな飲み心地に。
私のお気に入りは、葛シロップにローズマリーを漬け込んだもの。
スパイシーさが加わり、一気に華やかな飲み物になります!
ぶどうとスモモを混ぜたような甘酸っぱさと、
それらの果物に引けをとらないおいしさの葛の花シロップ。
これまでつくった野花のシロップのなかでも、間違いなく最高の出来です!
以前、マルシェで葛の花ドリンクを出したところ、
「おいしい」と口コミが広がり、あっという間に売り切れてしまいました。
葛の花のおいしさが伝わってうれしい……!
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2種のシロップをご紹介しましたが、
葛の花の活用術はまだまだあります。
二日酔いに! 「葛の花茶」
葛の花を乾燥させただけの
「葛花(かっか)」と呼ばれる葛の花茶は、二日酔いの薬にもなるそう。
クセがなくほんのり甘い風味。
ほかのお茶とブレンドして飲んでもよさそうです。
花の風味を閉じ込める「葛の花の砂糖漬け」
スミレの花の砂糖漬けに憧れて、
ずっと挑戦してみたかったお花の砂糖漬け。
葛の花でつくってみたいと思います!
<材料>
・葛の花
・グラニュー糖
・卵白
<つくり方>
(1)葛の花に卵白を薄く塗る
(2)グラニュー糖を全体にまぶし、クッキングシートにのせて2日ほど乾燥させる
(3)瓶に詰めて完成!
グラニュー糖がなかったので、白砂糖で代用したところ
お砂糖が塊になってしまい
あまりかわいくない仕上がりに……でも味はおいしい!
サクッと噛むと、お花の香りが口いっぱいに広がります。
乾燥剤と一緒に冷蔵庫保存すれば数か月もつので、
お菓子づくりに使う予定です。
香りをギュッと閉じ込めた「葛の花酒」
葛の花をホワイトリカーや焼酎につけておくと、
芳しい葛の花酒になるそうな。
試したことがないので、今回初挑戦!
仕上がりは数か月後になるので、完成が楽しみです。
根っこや花で漢方薬をつくったり、ツルを使ってカゴをつくったり、
昔は暮らしに欠かせない植物だった葛。
花はおいしいし、根もツルも活用できるのに、
里山を荒らすだけの存在になっているなんてもったいない!
せっかくなので、次回は葛の根からつくる「葛粉」にチャレンジしてみたいです。
なかなかハードだと聞いているのでちょっと心配ですが、
つくったらまたここでシェアしていきますね!
どうぞお楽しみに。
おまけ
葛の花で天ぷらをつくりました!
かわいらしい見た目で、サクサクの食感。
茎はちょっとかたいです。
秋の七草として、目で楽しむ天ぷらになりました。
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