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連載

〈界 ポロト〉から足を伸ばして。
ウポポイで出会った思い出。
時間を超えるもの

星野リゾートの温泉旅館〈界〉で
感じる日本各地の魅力
vol.012

posted:2025.9.26   from:北海道白老郡  genre:旅行

PR 星野リゾート

〈 この連載・企画は… 〉  「王道なのに、あたらしい。」をコンセプトとした星野リゾートの温泉旅館〈界〉。
それぞれの旅館で楽しめる温泉やその地の贅沢食材をその地の調理法を使用した会席料理、
個性あふれるご当地部屋の魅力はもちろん、〈界〉施設周辺地域の風土や歴史を紹介していきます。

writer profile

Toshiya Muraoka

村岡俊也

むらおか・としや/ノンフィクション・ライター。1978年生まれ。鎌倉市出身、同市在住。著書に『穏やかなゴースト 画家・中園孔二を追って』(新潮社)、『新橋パラダイス 名物ビル残日録』(文藝春秋)、『熊を彫る人』(小学館 写真家との共著)など。

photographer

Taro Hirano

平野太呂

ひらの・たろ/写真家。1973年生まれ。東京都出身。主な著書に『POOL』(リトルモア)、『ばらばら』(星野源と共著/リトルモア)、『ボクと先輩』(晶文社)、『Los Angeles Car Club』(私家版)、『The Kings』(ELVIS PRESS)など。

アイヌの長老が語りかけてくる

藤戸竹喜作のエカシ像。タイトルは「イランカラㇷ゚テ像」。周りを取り囲むイクパスイは、現代の名工たちによるもの。

藤戸竹喜作のエカシ像。タイトルは「イランカラㇷ゚テ像」(プは、下付き小文字)。周りを取り囲むイクパスイは、現代の名工たちによるもの。

阿寒湖畔に暮らしていたアイヌの木彫り作家・藤戸竹喜さんの元に通っていたのは、およそ10年近く前だった。季節ごとに阿寒へ向かい、問わず語りに話を聞き、木彫り熊を自然の中に持ち出して撮影させてもらった。『熊を彫る人』という本にまとめてからしばらくして、藤戸さんは亡くなってしまった。そのために私にとってアイヌの「何か」を見ることは、藤戸さんとのやり取りを思い出す時間になる。だから、「ウポポイ」内にある「国立アイヌ民族博物館」に足を踏み入れ、本来は札幌駅にあるはずのアイヌのエカシ(長老)像を見て、まるでバッタリと藤戸さんと再会したような気持ちになった。

藤戸さん作の熊の面。圧倒的な躍動感。

藤戸さん作の熊の面。圧倒的な躍動感。

写真等をもとに復元したアイヌの儀礼に使う道具。技術を復活させ、次世代へと繋ぐ役割も担っている。

写真等をもとに復元したアイヌの儀礼に使う道具。技術を復活させ、次世代へと繋ぐ役割も担っている。

生きているよう、という言葉では、その魅力がきちんと捉えられていない。彫刻なのだから、動かない。けれど、時間を超えて対話ができる。それは私が藤戸さんと面識があったからだけではないはずだ。博物館の中には、そうやって時間を超えて、観る者の芯のあたりを揺さぶる「何か」に満ちている。それは、離れた民族間にも共通の伝統が見られることでもわかる。展示にあった木の表皮を薄く削ってそのまま垂らす技法「削りかけ」は、アイヌの祭具ではイナウと呼ばれるが、東アジアの広い地域で同じものが見られるという。

上は、樺太アイヌのニポポ。下は、ウイルタの木偶。

上は、樺太アイヌのニポポ。下は、ウイルタの木偶。

ウポポイ内「国立民族共生公園」にあるチセ(家)の中には、宝物として集められた漆器類やイナウなどが飾られている一角がある。

ウポポイ内「国立民族共生公園」にあるチセ(家)の中には、宝物として集められた漆器類やイナウなどが飾られている一角がある。

次世代へ「感覚」を伝える。それがアーティストの役割か

樺太アイヌとウイルタの二つの頭を持つ「木偶」も並べて展示されていた。どちらの「木偶」も首には、「削りかけ」を巻いている。この類似性は、民族や文化を越える嗜好や感覚があることを示している。感覚に訴える「何か」に形を与え、次の世代へと伝えていくのが、アーティストの役割なのかもしれない。藤戸さんは自分のことをアーティストではなく「ただの熊彫り」と言っていたが、本来はそこに違いはない。ミュージシャンのOKIさんは、樺太アイヌの楽器・トンコリを現代に復活させ、エフェクターやアンプと繋げてエレキ・トンコリを作ってしまった。その佇まいには、まさしく現代が映し出されていて、歪さも美しさも兼ね備えていた。

OKIさんのエレキ・トンコリ。実際にステージで使われている。

OKIさんのエレキ・トンコリ。実際にステージで使われている。

アイヌの世界観を紹介する展示の中に、輪廻転生の死生観を示すパネルがあった。白老のアヨロ海岸に「アフンルパㇻ」(ラは、下付き小文字)と呼ばれる「あの世の入り口」があるという。ウポポイから車を30分ほど走らせて、探しに行った。登別漁港の脇から砂利地道に入り、クライミングのためのチョーク跡が残る岩沿いを歩いていくと、水平に岩が切れ、洞窟になっている。その向こうにあの世があるとは思えなかったが、アイヌの人々が「入り口」と呼んだ理由はわかる気がした。草に埋もれそうになっていたが、暗く人を寄せ付けない雰囲気に、ふと見入ってしまう。伝承や博物館に残っている「何か」の強さの根源には、おそらくはこの洞窟のような自然がある。藤戸さんも、動物と人間を区別なく見ているような人だった。手からカラスに餌をあげて会話していた姿を思い出した。

この洞窟は、「あの世の入り口」だろうか。海沿いに突然現れる岩群は、確かにとても不思議な光景だった。

この洞窟は、「あの世の入り口」だろうか。海沿いに突然現れる岩群は、確かにとても不思議な光景だった。

information

界 ポロトmap

界 ポロト

住所:北海道白老郡白老町若草町1-1018-94

TEL:050-3134-8092(界予約センター)

Web:https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiporoto/

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