連載
posted:2019.1.11 from:熊本県山鹿市ほか genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
南阿蘇鉄道にある、日本一長い駅名の駅「南阿蘇水の生まれる里 白水高原」駅。
その駅舎に、週末だけ小さな古本屋が出現します。
四季の移ろいや訪れる人たちのこと、日常の風景を〈ひなた文庫〉から。
writer profile
Emi Nakao
中尾恵美
なかお・えみ●1989年、岡山県勝田郡生まれ。広島市立大学国際学部卒業。出版社の広告営業、書店員を経て2015年から〈ひなた文庫〉店主。
私たち〈ひなた文庫〉は普段は南阿蘇鉄道の駅舎で古本屋を営業していますが、
1年のうち何度かはイベント出店というかたちで県内外で営業することも。
今回は少し足を延ばして、熊本市内で昨年から始まった古本市、
そして熊本県山鹿市で今年の1月に行われる古本市のふたつについてお話しします。
まずは熊本市内の上通アーケードで、昨年の春5月と冬12月に開催された
〈マルシェ・リーブル〉という古本市の様子から。
会場となるのは、熊本の方なら誰もが一度は食べたことのある、
郷土の中華料理「太平燕(タイピイエン)」でも有名な〈紅蘭亭〉と
老舗の洋菓子店〈Swiss(スイス)〉の店舗のある
〈パビリオン・ガーデン〉という広場です。
この場所では定期的に〈マルシェ・ノワール〉という夜市も開催されています。
その主催者である紅蘭亭ご主人の本好きが高じて、
同商店街で老舗の古本屋を営む〈舒文堂河島書店〉の河島康之さんと話が広がり、
マルシェ・ノワールの本屋版をやってみようと始まったのが
マルシェ・リーブルのきっかけだそうです。
ひなた文庫が出店したのは第2回目の冬のマルシェ・リーブルです。
12月にもかかわらず何十年ぶりかの夏日を記録した前週から一転、
真冬の寒さが戻ったこの日は外へ出かける人は少ないように思えたのですが、
クリスマス前ということもあり活気のある上通アーケード。
今回参加した本屋は、熊本市の古本屋舒文堂河島書店、
〈タケシマ文庫〉、〈mychiairbooks〉の3店舗と
出張絵本屋〈モフbooks〉、それとひなた文庫の5店です。
タケシマ文庫とmychiairbooksのおふたりは私たちと同い年で開業した年も近く、
この世代は古本屋の当たり年だね、と大先輩の古本屋さんから言われたりしています。
さらにモフbooksの吉田美樹さんは夏のイベント〈本屋ミッドナイト〉で
朗読でお世話になった方で、今回は知り合いの方ばかり!
出店の準備は9時頃から行われ、11時にオープン。
本の搬入は車やカートで行われ、近くの本屋さんは
カートに大量の本を乗せていらっしゃいます。
アーケード街は車での搬入・搬出が大変なため、
私たちも今後のためにとカートを新調しました。
カートは夫の手づくりで、夏のイベントや小屋の廃材を再利用。
りんご箱2箱がきっちり入って、出店時はレジカウンターにも使える
すぐれものができました。
それぞれの店舗がお客さんの目を引くように趣向を凝らした並べ方で設営していきます。
お客さんは、紅蘭亭やスイスにいらっしゃった方や、
ふらっと本が並んでいる様子に気づいて入って来られる方、
日頃のそれぞれの店舗の常連さんなど。
お昼を過ぎた頃からだんだんと客足が増え、それぞれの店舗を周回する流れが。
吟味され手にとられた古本は新しい住まいへと旅立ってゆきます。
大学生や家族連れ、そしてご年配のお客さんまで。
さらにはたまたま市内のクリスマスマーケットへ訪れていた
南阿蘇の友人一家も帰りに寄り道してくれたり。
古本市に参加するときはどんな本をどれくらい持って行くか、とっても悩みます。
販売する場所やお客さんの層などいろいろと考慮して持っていきますが、
当日を迎えてみるまではどんな本が売れるかわかりません。
思い通りに売れないことも、予想以上に好評なときも。
それでも、こうやって普段はなかなか会えない店主の方たちと話したり
持ってこられた本の選書を見るのはとても刺激になります。
また次回も参加したいと思う古本市でした。
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さて、次は年明け最初の古本市のお話も。
こちらは2019年1月19日(土)に行われる〈大山鹿古本市〉。
熊本の山鹿市で行われる古本市です。
山鹿は県下一の湧出量を誇る山鹿温泉や
国指定伝統的工芸品の指定を受けた手漉きの和紙と糊だけでつくられる「山鹿灯籠」、
明治43年に建設された芝居小屋〈八千代座〉など、
熊本の観光地としても有名なまちです。
その山鹿に古くからある酒蔵〈天聽の蔵〉と
その近くにある〈古民家ギャラリー百花堂〉が古本市の会場となります。
天聽の蔵は天保元年に吉田善吉が創業した蔵元で、
〈天聽〉という酒をつくっていました。
現在は酒造は廃業し、吉田酒造営業時の店舗部分を、
当時の雰囲気を残したまま〈Metoro Cafe〉が営業し、
中蔵や大蔵は改修や補修を進めつつ、イベントや展示スペースとして使用されています。
今回が初めてとなる大山鹿古本市は古本屋だけでなく
一般の方も出店者として参加が可能で、天聽の蔵の大蔵の広い空間に、
イベント当日だけ約5000冊の本を並べられる本棚〈きつつき文庫〉が設けられます。
高さ約3メートル、横4メートルの棚が3面、
コの字型につくられた大きな本棚を想定されています。
出店者のみなさんご自身で持ち寄った売りたい本を、
きつつき文庫の棚に並べ販売することができ、
出店者がそれぞれの古本を詰め込んだ1日限りの本棚ができあがるという仕組みです。
さらに本棚の周りには椅子やテーブルもあり、出店者も来場者も
本を読んだり、買ったり、並べ替えたりできるんだとか!
主催は、写真家であり、Metoro Cafe内で〈いわしの文庫〉として
本の貸し出しを行っている畠山浩史さんと
マルシェ・リーブルでもご一緒したタケシマ文庫の菅原龍人さんのおふたり。
以前から天聽の蔵で古本市をやりたいと考えていたそうです。
もともと酒蔵だった天聽の蔵の、身が引き締まるような静寂さと
歴史を感じる美しいその場所で開催すること自体が、
この古本市に意味を与えるのではないか、
そう思ったことが開催のきっかけとなりました。
年末には畠山さんの案内で会場となる天聽の蔵に下見に行ってきました。
案内されて重い扉を押して入った大蔵の中は、
歴史を感じさせる古い柱が支える吹き抜けの空間で、
2階の一部には酒造りの樽などがひっそりと保管され、
外の空気とは違う粛然としたものを感じます。
中蔵は大蔵とは違い柱がまったくない開けた空間で、大蔵よりも明るく感じられました。
どちらも雰囲気のある場所で、こんなところに本を並べることができるのかと思うと、
いまからどんな本を持って行こうか悩みどころです。
天聽の蔵を案内してもらったあとは古民家ギャラリー百花堂へもご挨拶に。
ちょうどギャラリーオーナーの木部律子さんが
当日の出店者である陶人形作家のにしだみきさんの作品を並べられていました。
百花堂は木部さんが生まれ育った家を現在はギャラリーにされている場所です。
入り口の土間からずっと奥に延びる先には中庭があり、
鉢や甕に木々が植えられたそこもまた静かな美しい空間でした。
土間を上がると作品が展示できる板の間があり、階段を上がると、
窓辺に干し柿の吊るしてある、日の差し込む暖かな2階があります。
ここに置いてあるものはどれも古い道具や年季の入った時代を感じさせるものが多く、
木部さんのやさしい語り口と合わさって不思議と心が緩む場所でした。
作品をじっくりと鑑賞するのにまさにぴったりの場所です。
最後に畠山さんがうれしそうに鞄からにしだみきさんの作品を出して見せてくれました。
特別につくってもらった作品とのことで、
作家・内田百閒がしかめ面をして頭に猫を乗せている陶人形でした。
『ノラや』という作品で内田百閒の猫への溺愛ぶりを知ることができますが、
その堅物な百間先生と猫の関係がよく表れた、とてもすてきな作品でした。
古本市当日には、内田百閒の関連本と
にしだみきさんのその他の作品の展示もあるそうで、こちらも楽しみ。
年始は本好きたちの集まる大山鹿古本市へ来てみませんか?
きっとすてきな本との出会いがありそうですよ!
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