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『本屋ミッドナイト』
南阿蘇の自然と駅舎本屋が
織りなすイベント

南阿蘇ひなた文庫だより
vol.005

posted:2018.9.7  from:熊本県阿蘇郡南阿蘇村  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  南阿蘇鉄道にある、日本一長い駅名の駅「南阿蘇水の生まれる里 白水高原」駅。
その駅舎に、週末だけ小さな古本屋が出現します。
四季の移ろいや訪れる人たちのこと、日常の風景を〈ひなた文庫〉から。

writer profile

Emi Nakao

中尾恵美

なかお・えみ●1989年、岡山県勝田郡生まれ。広島市立大学国際学部卒業。出版社の広告営業、書店員を経て2015年から〈ひなた文庫〉店主。

そうめん流しや、阿蘇の木を使ったワークショップも

前回、熊本地震後に本屋として自分たちなら何ができるのかを考え、
『本屋ミッドナイト』というイベントを始めたことをお話ししました。
今年で3回目となるこのイベント。今年は8月25日(土)に行いました。
今回は、天気にも恵まれた本屋ミッドナイトの様子をお伝えします。

本屋ミッドナイトは、本好きたちが集まって星を眺めたり、
虫の声を聴きながら好きな本を探したり、語り合ったり、
南阿蘇の自然を感じながら夜を過ごしてもらう催し。

南阿蘇は昼間もすばらしい景色を楽しむことができますが、
夜もまたそれはすばらしい景色に出会えます。
熊本地震以降、公共交通機関が限られてしまい、
なかなか南阿蘇へは行きづらい現状ですが、
景色も、水源も、温泉も変わらず美しいこの場所へ
足を運ぶきっかけになればと始めたイベントです。

3回目ということもあり、今年は前回よりも内容を充実させて楽しんでもらおうと、
準備も半年前から始めました。

グラフィックデザイナーや映像ディレクターとして活躍する
大学時代の友人たちに協力してもらい、イベントのロゴやフライヤー、
映画上映の宣伝用ビデオクリップも制作し、告知もしっかり行いました。
時間をかけて話し合い、それぞれ意見を出し合いながらつくることができ、
準備の過程も楽しみながら当日を迎えました。

今年のミッドナイトでは、熊本地震以降交流のある
ふたつの団体の方々がイベントを一緒に盛り上げてくれることになり、
午前中に「そうめん流し」を開催してくれました。

協力していただいたのは、南阿蘇鉄道の復旧を応援するために結成された
熊本大学の学生によるボランティア団体〈南鉄応援団〉
そして孤食をなくそうと定期的に地域の方とともにごはんをつくって
一緒にいただく活動をされている〈おたがいさま食堂くまもと〉
さらにそうめんを流すための竹や調理場の提供は、
駅の隣で営業されている食堂〈きしゃぽっぽ〉に協力していただきました。

スタッフは朝から集まり、竹の切り出しから節を取り除く作業をしました。
切り出された大きな竹は見事なもので、
駅舎から横を流れる水路へと7〜8メートルほど竹が組まれました。

参加された方は、竹のお皿づくりやおにぎりづくり、
南阿蘇鉄道で働かれている地域おこし協力隊の案内で
水源へ線路沿いを伝って水汲みに行くレールウォークと、
それぞれ班に分かれて行います。

竹の器はつゆ入れやおにぎりをのせる器用に割ってヤスリをかけていきます。
子どもたちも慣れない手つきで一生懸命ヤスリがけを行ないました。

立派な竹を使った流しそうめん。

立派な竹を使った流しそうめん。

いよいよそうめんが流されると子どもも大人も歓声を上げ、
夢中でそうめんに箸をのばします。
日差しの下で冷たいそうめんをすするのはまさに夏を体感しているようで、
みんな汗をかきながらにこにこ。

途中でトマトやブルーベリー、グミやチョコまで流れだし、
子どもたちはカラフルなグミを掴もうと必死。
流れていくのが想像以上に速く、掴むのに苦戦している姿もまた微笑ましい光景でした。

そうめんと一緒にチョコレートも流れる。

そうめんと一緒にチョコレートも流れる。

そうめんのあとはスイカ割りも。

そうめんのあとはスイカ割りも。

午後からは、南阿蘇村のお隣の高森町で、観光情報の発信や
地域の特産品のブランディングなどを行なっている
〈TAKAraMORI〉にお願いして、南郷檜(ナンゴウヒ)の小枝を使った
小物づくりのワークショップを行っていただきました。

南郷檜とは、阿蘇に古くからある固有種で、日本で唯一の挿し木品種の檜。
阿蘇の外輪山周辺の神社に御神木として植えられてきた貴重な木です。
阿蘇に初めて来た人にも、南阿蘇の自然をかたちづくっているこの木の一部を使って
思い出を持ち帰っていただこうと企画したワークショップです。

小枝とグルーガン(接着道具)を使って自由に好きなものをつくります。

小枝とグルーガン(接着道具)を使って自由に好きなものをつくります。

そのほかにも駅の周りの植物を採集して、家に帰ってから思い出とともに
草花のハーバリウムとして残してもらえるような体験キットもご用意いただきました。
個人的にも、この日のために駅の周りでシダやキキョウソウを採集して
ドライフラワーにしていたので、イベントを終えて
ゆっくりとつくってみようと考えています。

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朗読会ではなく朗読“式”?

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勇気づけられるトークショーと、夕闇の朗読式

17時からは『これからの本屋読本』を5月に出版された
著者の内沼晋太郎さんと、編集を担当されたNHK出版の白川貴浩さんの
出版刊行記念のトークショーを行いました。

内沼さんはブックディレクターとして
本にまつわるあらゆる企画のディレクションを行う〈numabooks〉の代表であり、
下北沢にある〈B&B〉という本屋の経営や
全国のさまざまな本屋のプロデュースを行なっている方。

『本の逆襲』という著書も2013年に出されており、
私たちが本屋を始めようと考えたときにとても勇気をもらった本です。
この場所でトークショーをしていただくことができるなんて、
私たちにとっては夢のようで、駅舎におふたりが現れたときは
めげずに続けていてよかったと、うれしさがこみ上げてきました。

『これからの本屋読本』トークショー。内沼晋太郎さん(左)と白川貴浩さん(右)。

『これからの本屋読本』トークショー。内沼晋太郎さん(左)と白川貴浩さん(右)。

おふたりの対談では、出版業の衰退と相次ぐ新刊書店の閉店が続くなかで、
それに反して小さな書店を始める方が増えていることについてなどが語られました。
そのなかで特に印象に残っているのは、出版業界の売り上げ部数や
各自治体に本屋さんがあるかどうかなど、
統計学的に本と人の関係を分析しようとする方法は、
アプローチとしてふさわしくないということ。

それらの数値的指標は、“新刊書店で売られている本”が
どれだけ売れているかという情報に過ぎず、
個人で出版されたZINEや古本屋で販売されている本たちの情報は反映されていません。

そして、自治体に本屋があるかどうかについても同じことが言えます。
自治体という概念は本屋からの距離を基準につくられたものではないので、
例えば自分の住んでいるまちに本屋がなくても、
車で10分ほどで隣町の本屋に行ける人もいるはずで、
逆に自分の住むまちに本屋はあるけれど、
車で30分以上かけなければ訪れることができないことだってあるということです。

南阿蘇村には新刊書店はないので、各自治体の本屋の有無という点では
本屋がない地域ということになるでしょう。
それでもここには〈ひなた文庫〉もあるし、
軽自動車で新刊書籍を販売している移動本屋もあります。

数値に表れなくとも、全国の小さな書店や古本屋さんでも
本と人の関係は着実に育まれている。
そう考えると、本屋と本の未来はそんなに暗いものなんかじゃない、
そんな風に思わせてくれる対談でした。

夕方になり、空も青みがかって一番星が出た頃、朗読式が始まります。
朗読会ではなく朗読“式”。
これは、読み上げられる物語をその場の風や虫の声、暮れゆく景色と一緒に体感し、
ひとりひとりがこの場所と物語に向き合う静かな式典だからです。

今回の朗読作品は宮沢賢治の『よだかの星』。
駅のホームに立ち、凛とした声で読み上げるのは
熊本市内で出張絵本屋を行う〈モフbooks〉の吉田美樹さん。
物語が進むにつれて空の青が深く、背後の山の輪郭は濃くなり、
星々が次々に姿を現わします。

吉田さんの声で紡がれるよだかの儚い一瞬の輝きと刻々と移りゆく景色とが合わさり、
深く心に染み、よだかの哀しみや星になりたいという願いは、
そのとき私自身のそれとなって空に向かい、一心に飛んでいく感覚を覚えました。

見上げた空には雲のない星空が広がっていました。
朗読される方の声やテンポだけでなく、場所や時間帯、環境によって
物語の感じ方は大きく変わるのだとあらためて気づかされる体験でした。

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駐車場が野外劇場に!

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初めての試み「真夜中映画劇場」

夜も更けてくると、今回が初の試みとなる
野外映画上映「真夜中映画劇場」のはじまりです。

本も好きだけど、映画も好き、そんな私たちが以前からやってみたかった野外上映。
会場となるのは駅の駐車場。南阿蘇村に許可をいただき、
屋根つきの駐輪場にスクリーンを設置して、劇場のように飾りつけをしました。
映像ディレクターの友人がこの日のために、本編の前に流す
真夜中映画劇場のビデオクリップも制作してくれ、さらに本格的に。

今日は特別な飾りつけも。

今日は特別な飾りつけも。

いつもの駐車場がこの日は野外映画劇場に。

いつもの駐車場がこの日は野外映画劇場に。

上映作品はマーティン・スコセッシ監督の『ヒューゴの不思議な発明』です。
パリの駅が舞台のこの作品は、駅の時計のネジ巻きをして暮らす男の子ヒューゴが、
ある機械人形の謎解きを通して、夢に敗れた玩具屋の主人の
知られざる過去や映画の歴史を紐解いていくお話。
スクリーンの前に椅子を並べてお客さんと並んで映画を観ます。

オリジナルポップーコンも販売。

オリジナルポップーコンも販売。

真夜中映画劇場のオープニングクレジット。

真夜中映画劇場のオープニングクレジット。

友人の制作したオープニングクレジットが流れ出し、
上映開始のブザーが鳴るのを聞くともうワクワクが止まりません。
今日のために何度かこの映画を観ていたのですが、
お客さんと一緒に夜の駅で観るのはまたひと味違います。

近所のお客さんの中には昼間に来て一度帰り、
映画の時間になってもう一度来てくれた方もいて、
楽しみにしてくださっていたのだとわかり、うれしい限り。

この映画には“月”がひとつのキーワードとして出てくるのですが、
駅や映画というシチュエーションに加え、当日は眩しいくらいの満月が出ていて、
意図せず作品との重なりを感じることができました。

看板も手づくり。

看板も手づくり。

すべてのイベントスケジュールを終えると、
12時まで本を選ぶ方、談笑する方、星を見上げる方、
手嶋勇気さんにサインをもらう方(第3回でご紹介した手嶋さん
この日のために広島から駆けつけて下さいました!)、
それぞれが思い思いに過ごし、夜が深まっていきました。

手嶋さんの原画も展示しました。

手嶋さんの原画も展示しました。

地元の方や、県外の方、知り合いや初めての方、
みんながこの場に集まってそれぞれに夜を過ごす、
その中心にはひなた文庫が存在している、それって本当にすごいことだと思うんです。

交通の便も悪いのに、車を何時間も走らせて
やって来てくださった方が何人もいらっしゃいました。
その過程を考えるとうれしさでいっぱいになります。

イベント後もまた来年もやってほしいとたくさんの声をいただき、
店主の私たち自身が幸せな温かさをもらう1日になりました。

眩しいほどの満月も現れました。

眩しいほどの満月も現れました。

information

map

ひなた文庫

住所:熊本県阿蘇郡南阿蘇村大字中松1220-1

営業時間:金・土曜日のみ 11:00~15:30

http://www.hinatabunko.jp

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