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遠隔地で在宅勤務。
孤独や焦りを解消するため
暮らし方をどう変えた?

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.119

posted:2020.8.19  from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

精神的に不安定になって実践したこと

今年、わたしは北海道のふたつの大学で、編集の仕事を紹介する講義を行った。
講義といっても今回は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から遠隔授業。
ひとつの大学ではオンラインで行い、もうひとつの大学では
スライド資料を用意してネットに公開したり、
学生からの質問に答えたりという試みを数回行った。

学生からの質問で多かったもののひとつは、わたしが2011年から約3年間、
東京の出版社に所属しながら北海道で在宅勤務をしていたことについてだ。
オンライン講座を受けたり、講義の記録映像や課題の資料を
パソコンで見たり読んだりしている学生さんたちは、気持ちの切り替え方法や
よりよい向き合い方についてのヒントを探りたいと思っているようだった。

そんななかで、全国の大学で実際されている遠隔授業の実態について、
学生さんたちの生の声を知りたくなり、わたしはあるときSNSを見てみたことがある。
そして、パソコンの前にずっと座っていることで極度の疲労を感じていたり、
レポートなどの課題が多くて対応できなかったり、
自分だけが取り残されているのでないかという
孤独感をもっていたりという人がいることがわかった。

これらの言葉は他人事とは思えなかった。
わたしも在宅勤務を始めた当初は、ずっとパソコンにかじりついて仕事をし、
ときどきオンラインで会議を行っていて、
出勤していたときとは違う感覚に戸惑いを覚えていたからだ。

これまでは、北海道では寒くて重苦しい冬の季節が長く続くことが
気持ちを不安定にさせていたと思っていたのだが、
SNSの声を見て、ネットだけで会社とつながることも、
ひとつの要因だったのではないかと思うようになった。

家事や育児をしながらの仕事。パソコンに向かう時間が多くて、首が痛くなることもある。

家事や育児をしながらの仕事。パソコンに向かう時間が多くて、首が痛くなることもある。

在宅勤務を始めて半年が過ぎた、3月くらいのことだったと思う。
朝起きると吐き気がして、3時間くらいはなかなか治まらないという状態が続いていた。
医者に行ったわけではないが、これは精神的に何かがおかしいと感じ、
切実に暮らし方を変えようと思った。
実践したことはふたつ。

まずひとつは、自分の評価を他人と比べず自分ですることだ。
ネットだけで会社とつながっていると、
社内で自分がどういう立場に置かれているのか見えにくくなる。

また、同僚の仕事ぶりもまったくわからなくなるので、
1日に自分がどのくらい人より仕事をしたのか、
あるいは仕事をしていないのかが比べることができなくなった。
これは、出勤していたときには意識していなかったが、
会社の全体の雰囲気のなかで、自分が少し秀でていると感じられることが、
仕事のモチベーションになっていたことを悟った。

在宅勤務当時手がけた書籍。2年半の歳月をかけてつくった『日本美術史』など、思い出深い本がたくさんある。

在宅勤務当時手がけた書籍。2年半の歳月をかけてつくった『日本美術史』など、思い出深い本がたくさんある。

また、オンラインの会議では、いつも言い足りない、聞き足りないことが残っていた。
対面での会議では、始まる前に、今日は暑いとか寒いとか、ランチがどうだったかなど、
雑談である程度コミュニケーションを図りながら会議へと入っていく。
しかし、オンラインでは、いきなり本題に入り、
会議が終ればあっという間に回線が遮断される。

いまにして思えば、雑談で気持ちを共有するからこそ通じ合っていると感じていて、
そこがなくなったことで、相手の真意が伝わらず変な解釈をしていたことに気づき、
そうした判断を極力しないように努めた。

さらに、会社や仕事先のメールを気にしすぎることも止めた。
わたしの仕事を否定するような言葉に異常に反応してしまい、
そのことを悶々と考えたりすることもあった。
おそらく会話の中であれば、スルーできるようなレベルの小さなことなのだが、
相手の表情もわからずに内容だけが入ってくると、拡大解釈してしまって、
悪いほうへと気持ちが流れていくのだった。

そこで、否定された内容のところは、目を細めてやや読み飛ばし気味にして、
ほめてくれたメールがあったら、それを何度も読み返すようにしていった。
気持ちを明るくするメールだけを意識的に記憶にとどめるようにしたのだ。

北海道に移住して小さな菜園をつくったこともあった。土をいじっていると、マイナスな感情がやわらぐ。

北海道に移住して小さな菜園をつくったこともあった。土をいじっていると、マイナスな感情がやわらぐ。

こうしたネットに対する反応の方法とともに、
毎日、すぐにクリアできそうなささやかな目標を立てることにした。
「今日は締め切りの原稿を半分書けたら良しとしよう」とかそういう感じだ。
「今日は締め切りの原稿を絶対に書き上げる!」とすると、
書き上げられなかったときの落胆がひどいので、
つねにちょっとした逃げ道を用意しておくような、目標を設定していった。

そして、終ったときに、けっこう今日はがんばったなあとか、
意外にいい原稿が書けたなあとか、良かったことを振り返る時間を持つように
意識をしていったら、少しずつ前向きな気持ちが上回るようになっていった。

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北海道の農家の働き方にヒントが…?

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農家の暮らし方にサイクルを合わせてみて

もうひとつ実践したことは、会社の時間にすべてを合わせずに、
自分の暮らしに会社の時間を取り込むというイメージだ。

わたしの精神状態が不安定になったのは3月。
住まいのある岩見沢市は豪雪地帯で、まだまだ春の訪れは遠い時期だった。

そんななかで、わたしは夜遅くまで仕事をしていた。
北海道にいるのに、東京時間で動いているような感じだった。
同僚や相手先はたいてい夜型タイプだったので、
夜中までメールの返信をしていたのだが、夜に行う仕事は、
孤独感と疲労感をひときわ募らせた。

朝に吐き気がするようになって、わたしは北海道の農家のみなさんの働き方に注目した。
農家のみなさんは、春から秋にかけては猛烈に仕事をしている。
明け方の4時には仕事を始め、
夜暗くなっても野菜のパック詰めなどをすることもあるという
(ときには0時くらいまで! しかも土日もない)。

対して冬は、アルバイトに出かける人もいるが、
比較的ゆったりと過ごしている人も多い(まさに冬眠のよう)。
これがきっと自然のサイクルに逆らわない北海道での暮らし方なのだと思った。

ただ、いきなり早朝に起きるのはかなりしんどいと思う。
そこで、わたしがとった方法は、夜は20~21時くらいに
子どもと一緒に寝てしまうことにして、カーテンを開けておくことだ。
そうすると、目覚ましがなくても早朝に起きられるようになってきた。

日の出とともに起きるようにしていれば、冬の日の出は遅く、
夏は早いため、冬の睡眠時間は自動的に長くなる。
ちなみに先月までは日の出が早かったので、
朝3時30分くらいには目が覚めていて、現在は4~5時くらい。

窓から見える朝焼けの風景。

窓から見える朝焼けの風景。

いまではこのサイクルに体が慣れていて、
朝の1時間が一番重要だということがわかった。
原稿の構想は、このときにパッとひらめいたことを、紙にばーっと書いておき、
日中にパソコンで清書するようにしている。

パソコンでネットを開いた瞬間に、朝のフレッシュな感覚は消え去っていくように思う。
しかもメールのひと言が気になったりするので、
パソコンを見る時間を極力減らすようにしていることも、
気持ちが安定する要因なのかもしれない。

いろいろと書いてみたが、シンプルに言うと
「今日も自分がよくやったなあと感じる」、
「日の出とともに起きる」がポイントなのではないかと思う。

現在は会社から独立してフリーランスで仕事をしているが、
このふたつは、いまも継続して実践している。
もちろん、現在も締め切り前にはイライラしたり、
仕事が思うように進まなくて絶望感にさいなまれるときもあるが、
前ほど追いつめられなくなったのではないかと感じている(たぶん!)。

仕事場の近くには、桑の実がたくさん実る。スーパーで買わなくてもフルーツが食べられるのは、地方で在宅勤務をしているからこそ。

仕事場の近くには、桑の実がたくさん実る。スーパーで買わなくてもフルーツが食べられるのは、地方で在宅勤務をしているからこそ。

コロナ禍で、インターネットでのやりとりが加速するなかで、
ネットを通した組織とのつき合い方と、自分たちの暮らし方を、
あらためて考える機会がきているように感じている。
この記事で、わたしと同じような境遇にいる人の状況が、
ちょっとでも改善されるような手がかりとなったらうれしいなあと思っています。

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