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カゴ編みで世界の見え方が変わる?
長谷川美和子さんと体験する
山あいだからこそできる作品づくり

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.071

posted:2018.8.9  from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。

http://michikuru.com/

credit

取材協力:栗沢工芸館

自然素材を自分の手で集めてつくるカゴ

北海道に梅雨はないというが、今年の6月は雨続きだった。
岩見沢の山あいで続けている〈みる・とーぶSchool〉というワークショップは
屋外での活動も多く、天気予報を眺めて気を揉む日々が続いていた。

6月23、24日に企画したのは、秩父に住むカゴ作家の
長谷川美和子さんによるワークショップ。
長谷川さんは東京農工大学科学博物館つるかごサークルを卒業し、
2009年から〈木のヒゲ〉という名前で活動を開始。
東京・国立にある自然素材のインテリアを扱う〈たとぱに〉で
定期的に教室を開いている。

今回、岩見沢には、素材集めとワークショップ開催を兼ねてやってきてくれ、
1日目にカゴ編みの素材となる樹皮採取と下処理、2日目にカゴ編み体験を行った。

長谷川美和子さん。昨年、東京から、クルミをはじめ、コウゾやクワなどの木が豊富にある秩父に移住。さまざまな地域に足を運んで素材を採取している。

長谷川美和子さん。昨年、東京から、クルミをはじめ、コウゾやクワなどの木が豊富にある秩父に移住。さまざまな地域に足を運んで素材を採取している。

ワークショップ開催の告知チラシ。

ワークショップ開催の告知チラシ。

23日は薄曇り。お天気がそのままもってくれることを願いつつ、
まずは樹皮採取を行った。
カゴ編みに使える樹皮はさまざまあるが、
長谷川さんがなかでも大好きというのがクルミ。

北海道には道や田畑の脇にたくさんのクルミが自生しており、
大きくなると通行のジャマになるため切り倒されるものも少なくない。
今回そうした木を所有者さんの了解を得て、
カゴ編みの素材として使わせてもらうことにした。

クルミの花が咲くのは6月。北海道にはオニグルミという殻のかたいクルミがそこかしこに自生している。

クルミの花が咲くのは6月。北海道にはオニグルミという殻のかたいクルミがそこかしこに自生している。

ワークショップに集まったのは10名ほど。切ることになったのは畑の傍に生えていたクルミ。

ワークショップに集まったのは10名ほど。切ることになったのは畑の傍に生えていたクルミ。

まず長谷川さんは、取った素材をムダにしないことを空に誓ってから、
森へと入っていった。

「素材を自然からむさぼりとるようなことはしたくない」

活動名は、イギリスの長編小説『指輪物語』に出てくる木の精の名前からつけたもの。
必要以上に植物を採取して「木のヒゲ」の怒りを買わないようにと
自戒の意味を込めているという。

カゴ編みというと、ついどんな作品をつくっているのかに目がいきがちだが、
実際に編む工程は全体の3割くらいなのだそう。
素材を採取し下処理をするのも重要なプロセスのひとつ。
素材は購入することもできるが、自分で採取することによって、
自然の恵みをいただいていることを肌で感じることができる。

「樹皮を見て、これをどんなふうに編もうかなと考えたりしながら、
素材を集めるのが好きなんです」

木を切り倒したら、葉っぱを取って枝をカット。

木を切り倒したら、葉っぱを取って枝をカット。

次のページ
樹皮をどうやって処理する?

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自然の恵みを受けるだけでなく、森をキレイにすることが大事

長谷川さんはハツラツとした表情を見せながら、ノコギリで幹を切ったり、
枝を集めて片づけたり、テキパキと作業を進めていく。
今回樹皮を採取するクルミは、3メートルを超える。
根元から木を切り倒し、それを車に積める大きさにカットしていくことになった。

「枝は脇に寄せておいてください。その場に置いておかないように」

長谷川さんは、枝を置いておく場所にも気をつかっていた。
畦道の脇にあるくぼみに枝を積み上げてしまうと、あとから入った人や車が
間違ってそこを通り、くぼみに落ちてしまうことがあるという。
そのため地面が平らになっていて通行の妨げにならない場所に
枝を置くようにしたり、側溝に枝が落ちないようにしたり。

素材を採取すること以上に、森をキレイな状態に維持することに
細心の注意を払っていた。

クルミの木以外にも、ツルの伸びる植物を採取することもある。
このとき来年も豊かに成長できるように、周囲の整備も同時に行っているという。
自然の恵みをもらうために森を豊かな状態に保とうとする長谷川さんの考えは、
自分が持っている山の生かし方の参考になるものだった。

細い枝も捨てない。できる限り素材として使いたいと長谷川さんは考えている。

細い枝も捨てない。できる限り素材として使いたいと長谷川さんは考えている。

場所を移動して次に行ったのはクルミの樹皮の下処理。
クルミの木にカッターで切り込みを入れて樹皮をはがしていく。

「そんなに力を入れなくてもとれますよ」

切り込みを入れた部分に少しずつ空気を入れるようなイメージで、
ヘラを動かしていくと、するりと樹皮がとれる。

太い幹でも樹皮はキレイにはがれる!

太い幹でも樹皮はキレイにはがれる!

樹皮をはいだら、内側を表にして筒状にまき煮沸。これを2週間ほど乾かすと素材として使えるそう。

樹皮をはいだら、内側を表にして筒状にまき煮沸。これを2週間ほど乾かすと素材として使えるそう。

樹皮をはいだ後の木の芯。これも何かに使えそう?

樹皮をはいだあとの木の芯。これも何かに使えそう?

中から真っ白な木の肌が出てくる瞬間は感動!
最初は加減がわからずに手こずっていた参加者も、
だんだん手慣れてきてスピードアップ。
それを鍋で数分煮て虫を退治して干しておく。
かなりの分量があったが、夕方までにすべての樹皮の下処理が終った。

クルミの樹皮を短冊状に割いて編んだカゴ。樹皮の内側は最初は白いが、時間が経つと茶色く変色する。裏と表で色が異なるので、それを生かした編み目をつくることができる。

クルミの樹皮を短冊状に割いて編んだカゴ。樹皮の内側は最初は白いが、時間が経つと茶色く変色する。裏と表で色が異なるので、それを生かした編み目をつくることができる。

長谷川さんが、一番気に入っているもののひとつがクルミのオブジェ。樹皮を煮沸しているときに偶然にふたつに折れた状態となり、このままの形を生かしたいと、端を洗濯バサミで留めながら乾かしたもの。

長谷川さんが、一番気に入っているもののひとつがクルミのオブジェ。樹皮を煮沸しているときに偶然にふたつに折れた状態となり、このままの形を生かしたいと、端を洗濯バサミで留めながら乾かしたもの。

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ササやトウモロコシも使える!?

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カゴ編み体験は、センス・オブ・ワンダー

2日目に行ったのはカゴ編みのワークショップ。
つくる作品はリブバスケット。リブとは肋骨のこと。
カゴの底にあたる部分に放射状に枝を組んでいく様子が
肋骨のように見えることから、その名がついたという。

枝を留める部分は、ゴッズアイ(God's Eye)というネイティブアメリカンのお守りなどにつかわれる編み方を取り入れた。

枝を留める部分は、ゴッズアイ(God’s Eye)というネイティブアメリカンのお守りなどに使われる編み方を取り入れた。

この枝を留めるためにさまざまな素材が使われた。
長谷川さんが秩父から持ってきてくれたアオツヅラフジや山ぶどう。
岩見沢でとれたコクワやクルミ。
さらに今回は、ササの葉やトウモロコシ、オオバコの茎を
縄にして使うアイデアも教えてくれた。

ワークショップ参加者の作品。山ぶどうやクルミの皮を細く裂いたものを編み込んだ。

ワークショップ参加者の作品。山ぶどうやクルミの皮を細く裂いたものを編み込んだ。

このアイデアには心が踊った。
北海道の山々は笹薮でおおわれているところが多く、
ほかの植物が育たないと厄介者扱いをされることもしばしば。
また、北海道はトウモロコシの生産量日本一で、
収穫期になるとわが家では毎日のように食卓にのぼっている。
オオバコも、いままで気づかなかったが、
子どもたちとよく行く公園にいくらでも生えている。

ササを煮沸して干したもの。

ササを煮沸して干したもの。

ササを真ん中で裂いてふたつにしたら、先をクリップでとめ、同じ方向にこよって、ふたつを束ねていく。この技法を「縄ない」と呼ぶ。

ササを真ん中で裂いてふたつにしたら、先をクリップでとめ、同じ方向にこよって、ふたつを束ねていく。この技法を「縄ない」と呼ぶ。

それ自体の強度はそれほどないが、縄として編んでいくことで、
見違えるほどすてきな素材に変身していったのだった。

右はトウモロコシの皮、左はコクワの皮をむいてつくった縄。色や質感はさまざま。

右はトウモロコシの皮、左はコクワの皮をむいてつくった縄。色や質感はさまざま。

長谷川さんのワークショップのテーマは「センス・オブ・ワンダー」。
レイチェル・L・カーソンの遺著のタイトルにもなったこの言葉は、
自然のなかで美しいもの、未知なもの、神秘的なものに目を見はる感性のこと。
こうした考えから豊富な素材を用意し、自然の多様な姿を感じとれる場にしているのだ。

また、長谷川さんは素材に話しかけ、対話をしながらカゴを形づくっていった。
曲がりにくく折れそうな枝があると、
「もうちょっと曲がってみる? 曲がれるよね。すごいよ」と語りかける。
すると魔法のように、枝がくいっと曲がっていくのだ。

かたかった枝も長谷川さんの手にかかるとこのとおり! 長谷川さんは植物それぞれを、「この子はね……」と呼び、やさしく声をかけていた。

かたかった枝も長谷川さんの手にかかるとこのとおり! 長谷川さんは植物それぞれを、「この子はね……」と呼び、やさしく声をかけていた。

「素材が曲がりたい方向に合わせて形をつくっていけばいいんですよ」

サラリとそう語るが実は不器用だという長谷川さん。
カゴ編みを始めた当初、こんなに高度なことは自分にはできないと思ったというが、
素材に合わせていけば自ずと形ができていくと教えられ、
この世界に引き込まれていったのだそう。

長谷川さんのカゴは、「乱れ編み」という
ランダムに編んでいく技法を好んで使っており、
植物が上へ上へと伸びていく生命力を封じ込めたようなエネルギーが感じられる。
自分のやりたい形ではなく、植物がなりたい形を探る。
それはまるで、仏師が木に導かれるように
形を掘り出していくような感覚に近いのかもしれない。

長谷川さんの作品。ブドウを剪定した枝を骨格にして、そこにツルをランダムにはわせている。「乱れ編み」という手法。

長谷川さんの作品。ブドウを剪定した枝を骨格にして、そこにツルをランダムにはわせている。「乱れ編み」という手法。

「編み出すと人生観が変わる。世界が輝いて見えるのよ(笑)」

長谷川さんはワークショップの最後に、そう教えてくれた。
森の中はもちろん、都会の小さな庭にも素材になる植物はたくさんあるという。
どんな場所でも、あっ、あそこに編める素材があると発見する楽しみがあり、
その植物の良い点を見出していくと、「世界は輝いて見える」のだという。

今回、長谷川さんのワークショップは〈みどりのおやゆび・チュプ〉が管理する岩見沢の山里でも行われた。この団体が中心となって長谷川さんのワークショップや樹皮採取を実施。〈みる・とーぶ〉も連動するかたちで企画に関わった。

今回、長谷川さんのワークショップは〈みどりのおやゆび・チュプ〉が管理する岩見沢の山里でも行われた。この団体が中心となって長谷川さんのワークショップや樹皮採取を実施。〈みる・とーぶ〉も連動するかたちで企画に関わった。

このワークショップを境に、確かにわたしも世界を見る目が変わった。
公園を歩けばオオバコを採り、木に絡まっているツルの種類を確かめる。
また車窓から風景を眺めていると、クルミの木が
そこかしこに生えていることに気づくようになった。

山々に囲まれた場所に暮らしていると、この自然の恵みを生かして
何かしてみたいという気持ちが頭をもたげてくる。
いままではそれをどういう方向に向けていったらいいのかわからなかったが、
自然に触れてじっくりと向き合い、その力を引き出していくことが
何より大切なことを、長谷川さんから教えてもらった。

雑草を見る目も変わった。「この茎でもしかしたら縄が編めるかも」と妄想することもしばしば。

雑草を見る目も変わった。「この茎でもしかしたら縄が編めるかも」と妄想することもしばしば。

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