連載
posted:2018.7.19 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
札幌市資料館で7月6日から3日間開催した『みる・とーぶ展』がついに終わった。
前回の連載で書いたように、このイベントに合わせて
地域マップの改訂や販売物の制作を行い、
さらに今年は、〈森の出版社ミチクル〉という独自の出版活動を立ち上げ、
そのお披露目もすることにした。
すべての締め切りが一気に押し寄せることとなり、
大慌てで作業をしていったが、チームのみんなで協力しあい、
なんとか展覧会の初日を迎えることができた。
展覧会には、地域の陶芸家や木工作家、花屋さんの作品とともに、
〈みる・とーぶ〉チームがつくった手づくりの品を並べ、
その一角に森の出版社のコーナーをつくった。
出品したものはごくわずか。
昨年つくった『山を買う』と新作『ふきのとう』、
りんごの品種と味がわかるポストカード3種のみ。
とても小さな展示であったが、本やポストカードを買ってくれる人に接する機会となり、
わたしにとっては大きな収穫があった。
新作の『ふきのとう』は、ふきのうとうの成長をモノクロームの切り絵で表現した絵本。
立ち読みでも、あっという間に読めてしまうほど言葉は少ない。
ふきのとうの形も抽象化されていて、色もなく、
切り絵という手法であることから、単純な表現に見える。
普段、わりとくどくど説明したくなるタイプであるため、
こうした要素の少ない絵本に、人は果たして興味を持つのか半信半疑だった。
1日100人ほどの人が会場を訪れ、
そのなかで本を実際に手に取る人はわずかではあったが、
何人か「こういう世界好き」と言ってくれた人がいた。
わたしの知人やコロカルの連載を読んでくれている人ではなく、
たまたまその場で本を知って買ってくれた人がいたことは、
自分の表現を信じることができる体験となった。
また、展覧会終了後、ミチクル編集工房のFacebookで
ささやかに販売の告知を始めており、
購入したいと連絡をくれる人がいることにも勇気づけられた。
十数年、出版社で編集者として本をつくり続けてきたときにも、
売り上げの数字が伸びると喜びを感じたことはあったが、
今回の『ふきのとう』のように、たった1冊売れるだけで、
心がくすぐったいようなドキドキするような感覚を味わうのは初めてだった。
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『みる・とーぶ展』で人気だったのは、
毛陽の果樹園でとれたはちみつの蜜蝋を使ったキャンドル。
昨年の展覧会では、蜜蝋キャンドル本体だけの販売だったが、
今回新商品としてシラカバをくり抜き、そこにキャンドルを入れたものを制作。
みる・とーぶメンバーのうちふたりがつくったもので、
新商品に注目が集まったことは、彼女たちの自信につながったに違いない。
このほかにも、陶芸作品の展示方法を工夫したことで、
焼きものの魅力がよく伝わるようになり、販売に結びつく結果も出た。
今回の『みる・とーぶ展』は、札幌市資料館の4つのギャラリー合同企画
『北にあつまる手しごと展』の一環として行われたもの。
わたしたちを含め12組の作家やショップが参加。
東京、大阪、札幌、小樽、淡路島からクリエイティブな人々が集まり、
大いに刺激を受けた。
みる・とーぶは、搬入に2日間かかり、搬出も一番手こずってしまったのだが、
ほかのみなさんは各地のイベントにたびたび参加しており経験豊富。
数時間でサッと搬入搬出を行い、楽しそうに接客をし、
閉館後は札幌のおいしいものを食べに出かけて旅気分も満喫。
朝から立ちっぱなしで夕方にはぐったり気味のわたしとは違って
エネルギーにあふれていた。
こうした彼女たちの姿を見ていて、長年活動を続ける原動力は、
ものをつくり、イベントを心から楽しむ姿勢なんじゃないかと痛感した。
3日間のイベントを振り返って反省点もあるものの、
少しだけ成長したと感じる部分もあった。
右も左もわからないまま参加した昨年は、
果たしてどんな商品であれば気に入ってもらえるのか
実感のないままに展示をしていたが、
今回はピントが合ってきたと感じる部分がいくつかあった。
ポイントになるのは、岩見沢の山あいで暮らす
わたしたちにしかできないもであるかどうかだ。
例えば地元でとれた蜜蝋とシラカバでつくるキャンドルであったり、
ほかでは見られない独自の表現を探求する作家の作品であったり。
わたしの森の出版社ミチクルの本についていえば、売れたのはほんの数冊。
なので「わたしたちにしかできないもの」なのかどうか、
自分でもまだ判断がついていないが、
常に山あいのこの地であるから生まれるテーマを根幹に据えて、
これからも本をつくっていけたらとあらためて思う機会となった。
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