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ジンベエザメ、喰ったど〜〜っ!!(2)

UOCOLO
旬のさかな、地のさかな図鑑
vol.011

posted:2014.3.27  from:全国  genre:食・グルメ / エンタメ・お楽しみ

〈 この連載・企画は… 〉  南北に長い日本列島。同じ魚でもおいしい時期も違えば料理法も違います。
季節の花を愛でるように旬の魚を食したいではありませんか。そこが肉食と違う魚食の醍醐味。
魚の食べ方や生態や漁法を漁師、魚屋さん、魚類学者、板前さんなど、魚のプロに教えてもらいます。

editor’s profile

Sei Endo

遠藤 成

えんどう・せい●神奈川県川崎市生まれ。出版社を退社後、ヨットで日本一周。漁業、海生生物の生態の面白さに目覚める。東京湾の環境、漁業、海運、港湾土木をテーマにしたエンターテインメントマガジン『TOKYO BAY A GO-GO!!』編集長。

この肝 なんの肝 気になる肝

いやあ、すいません。
前回はジンベエザメを食べる話じゃなくて、
サメに食べられる話になってしまいました。

では、クイズです。
写真のレバ刺はなんのレバーでしょう。①から⑤の中から選びなさい。

①牛 ②豚 ③鶏 ④ジンベエザメ ⑤その他

ふふふ。塩とゴマ油をつけて食べたのですが、
レバ刺し好きにはたまらないでしょう。
2012年7月に生食用牛レバーの販売・提供が禁止され、
食べる機会は激減しましたからね。

肉の食い方にまで国が介入する社会って、
どこか違和感を覚えるのですが、
やはり国が規制しないとダメなんでしょうかねぇ。

生肉を食べるのは、それなりのリスクがあるのはご存知の通りです。

厚労省の食中毒の統計を見ると、戦後間もない1950年代は
毎年約300人、多い年では500人が亡くなっています。

家庭での冷蔵庫の普及、冷凍技術や運送システムの発達とともに
食中毒の死者数は減り、90年代に入るとひと桁になります。

そして死者の数が減ったことに伴い「新鮮であれば大丈夫」と
考えるようになってしまったのでしょうか、
生肉の危険性に対し、鈍感になったようです。

食中毒を起こした焼肉業者のずさんな管理体制や
中国産冷凍食品の危険性を報じている雑誌が、
ジビエ料理で味わうシカの生肉を
「トロけるようにうまい」と載せていました。

さすがに、これはリスキーでしょう。

生肉を食べるといえば、エスキモー。
先日、極北圏のエスキモーの村に20数年通っては、
伝統捕鯨の見習いをしている知人に聞いてみました。

「エスキモーは生肉を食べるからビタミン不足にならないと
よく聞くけれど、本当に生で食べているの?」

答えは「全部の村でどうかはわからないが、
クジラでもアザラシでもセイウチでも、
一度凍らせるか、茹でるなど火を通している。
血の滴る生のままでは食べない」とのこと。

その点、鳥獣の肉に比べると
多くの魚は生で食べても安心です。

クイズの答えですが、正解は⑤。
ホシエイというエイの肝です。

なんだよ、ジンベエザメの回なのに、ホシエイかよ!

いやあ、その通りなのですけれど、
ホシエイのレバーが、あまりにも美味だったので
紹介したかったのです。
エイもサメと同じ軟骨魚類。いわばファミリー。

レバーのコクと白子のまろやかさが合わさったような
独特の味わいで、個人的には鳥獣の肝よりも上だと思いました。
いやあ、うまかったなあ。
こいつがあれば、牛や豚のレバ刺しがなくてもいいかもなあ。

さて、サメやエイを食べるというと東北地方、
それから広島の山間部が有名です。

現在、東京でサメ・エイは一般的な食材とはいえませんが、
関東おでんのネタでお馴染みの「はんぺん」「スジ」。
今ではスケトウダラが主に使われていますが、
もともとはサメ(ホシザメ、アオザメほか)の
肉のすり身から作られたものです。

東京湾にはアカエイも多く生息していて、
昭和30年代くらいまでは食べられていたそうですが、
今ではほとんど流通していないようです。

一部でしか食べていなかった鳥獣の生肉を食べるようになり、
わりと食べていたサメやエイを食べなくなったというわけです。

嗜好の変化って面白いですね。

サメはアンモニア臭いとよく耳にするのですが、
市場で臭いサメ肉に出会うほうが稀じゃないですかね。
肉はふわふわで、煮付けや唐揚げにしても非常に美味です。
しかも小骨がないので食べやすい。

気仙沼産のモウカ(ネズミザメ)のソテー。

青森産のアブラツノザメの蒲焼き。ネットでも入手できます。

本題に戻りましょう。
あれ? 本題ってなんだっけ。
ああ、ジンベエザメだ。

欧米では水産資源としてジンベエザメを利用することはありません。
むしろ保護の対象になっていますが、台湾やフィリピン、
インドネシアの一部地域では食用にもなっているようです。
(前回を読んでくださった読者から、台湾で食べました
との声をいただきました。ありがとうございます)

台湾の水産図鑑に載っているジンベエザメの肉です。

迫力のある肉塊です。
どんな味をイメージします?

インドネシアのレンバダ島に19年通いながら、
銛一本で鯨を捕る伝統捕鯨を追ったノンフィクションに
ジンベエザメの味の感想が載っていました。

《その日、民宿の夕食のテーブルには先日獲れたジンベエザメのスープが登場した。その肉は強烈な臭みがあり、常識的な日本人の感覚では、とても食えたものではない。しかし、食事と言っても残る献立はご飯しかない。やむを得ずかき込んだ。ところが宿の主人をはじめ、村人はご馳走だと喜んで食べていた。慢性の食料不足に悩むラマレラ。ここでは食に対する考え方が根本から違うのかもしれない。食べられるもの、消化できるものはすべて海からの大切な恵みなのだ。》
(『鯨人』石川梵/集英社新書)

ジンベエザメを食べる機会なんてないだろうと
思っていたのですが、去年の夏の終わり、
青森県深浦の定置網にジンベエザメが迷い込み、
発見されたときはすでに死んでしまっていたため、
解体され、この肉が全国の魚食マニアに流れたのです。

僕もとある店で、潮汁のようにシンプルに豆腐と炊き上げた
ジンベエザメをコチジャンでいただきました。

もちろん嫌な臭いはまったくありません。
口にするとふわりとした食感です。

しかし、肉なのに旨みが感じられず、
存在感、自己主張がまったくないのです。
強いていえば豆腐に近い感じ。

もちろん、あれだけ大きいと、
部位によって味は異なるのかもしれませんが、
台湾では「豆腐鮫」と呼ばれているようです。

食べる前は、ものすごく興奮していたのですが、
あまりのあっさり加減に少々拍子抜けでした。
というか、少々複雑な気分。

ヒトは命をいただいて生きることを
痛切に感じた、とかいうのではないのです。

畏敬の念すら抱いていた憧れの存在である
ジンベエザメを食べてしまった罪悪感。
いや、罪悪感ではないな。
むしろ、喪失感に近いかもしれません。

世界最大の魚を食べていながら、
なんかションボリしてしまったのでした。

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