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ジンベエザメ、喰ったど〜〜っ!!(1)

UOCOLO
旬のさかな、地のさかな図鑑
vol.010

posted:2014.2.13  from:全国  genre:食・グルメ / エンタメ・お楽しみ

〈 この連載・企画は… 〉  南北に長い日本列島。同じ魚でもおいしい時期も違えば料理法も違います。
季節の花を愛でるように旬の魚を食したいではありませんか。そこが肉食と違う魚食の醍醐味。
魚の食べ方や生態や漁法を漁師、魚屋さん、魚類学者、板前さんなど、魚のプロに教えてもらいます。

writer's profile

Sei Endo

遠藤 成

えんどう・せい●神奈川県川崎市生まれ。出版社を退社後、ヨットで日本一周。漁業、海生生物の生態の面白さに目覚める。東京湾の環境、漁業、海運、港湾土木をテーマにしたエンターテインメントマガジン『TOKYO BAY A GO-GO!!』編集長。

credit

撮影:岩田亘平(水族館のジンベエザメ)

ジンベエザメは好きですか?

大きな生き物というのは、それだけで人を畏怖させる何かがあります。
ダイバーにとって憧れの魚といえば、
やはり、マンタ(オニイトマキエイ)とジンベエザメでしょう。

マンタとはいろんな海で遭遇したのですが、
ジンベエザメはなかなかお目にかかれませんでした。

水族館以外でジンベエザメを見たのは、意外にも東京湾でした。
房総半島の先端近くにある波左間海中公園では、
定置網にジンベエザメが迷い込むと、
巨大な生け簀に飼って、見学させてくれるのです。

一度見たら忘れられない、特徴的な平たい頭と大きな口。
ゆったりとカラダをくねらせ泳ぐ神々しい孤高の姿。
世間に左右されることなく、生きる喜びからも怯えからも超越した、
悟りを開いたようなそのたたずまい。

子どものころ、好きな絵を描きなさいといわれれば、
ジンベエザメを描いていた僕にとって、
一緒に水の中にいるのは、このうえなく幸せな時間でした。

芥川賞作家の大岡玲さんは、ちょっと不気味な短編小説で
ジンベエザメをこう表現しています。

《ジンベイザメは、まるで無頓着に見える。コバンザメはおろか、人が口のところに手をかけて背の側に密着しても、我関せずといった風情で泳ぎ続ける。彼をわずらわすものなど存在しないかのようだ。殺されても、別に平気なんじゃないか、とさえ思えたりもする》

《私の頭の中でジンベイザメは周囲の状況とは関わりなく、かといって拒絶的でもなく、
ただゆっくりと、幸福でも不幸でもない様子で相変わらず泳いでいるのだった》
(『ジンベイザメになりたかった』大岡玲/文藝春秋)

えーっと、突然ですが番組宣伝です。
実は半年前から「中央FM」という東京都中央区のミニFMで、
大岡玲さんらと「京橋漁協」という、海と魚をテーマにしたラジオ番組
(毎週土曜よる7時30分から)をやっているので、
よかったら聞いてください。僕のコーナーは月1回ですけど。
https://www.facebook.com/Kyobashi.fc.radio
以上、番宣でした。

さて、ジンベエザメは南の温暖な海域に生息していますが、
黒潮にのって回遊していたものが、黒潮の蛇行の関係で関東沿岸にやってきて、
地引き網や定置網に迷い込んでしまうことがあります。

横浜八景島シーパラダイスで飼育されているジンベエザメも
波左間の定置網で捕獲されたものです。

ご存知のようにジンベエザメは世界最大の魚です。
現在、発見された最大の体長は約14m。
でも20mを超えるものもいるのではないか、といわれています。

巨大生物といえば、絶滅したけれど、やはり恐竜でしょう。
恐竜の中で最も凶暴といわれるティラノサウルスの体長が、
約11~13mだそうですから、やはりジンベエザメはでかいですね。

海に棲息していたプレシオサウルスの体長は約2~3mだそうです。
あれれ? これは想像よりもかなり小さなサイズだぞ。

ジンベエザメは大きな口で海水を飲み込み、
エサとなるプランクトンを濾し取って食べます。
小魚も食べるからでしょうか、爪楊枝の先くらいの小さな歯が
約5000本上下にあるのですが、噛む機能はないようです。

八景島シーパラダイスにいるジンベエザメは5mくらいですが、
ひと口で飲み込む水の量は約60リットルだそうです。

ジンベエザメは大人しく、危険なサメではありません。
しかし、冒険野郎としても知られるイギリスの実業家、
バージングループの創設者にして会長のリチャード・ブランソンさんは
ジンベエザメに飲み込まれたことがあるんですって。

すぐに吐き出されたからよかったですけれど、
飲み込まれちゃったらピノキオですね。

ジンベエザメの生態はよく分かっていません。
卵胎生であることが判明したのも、わりと最近のことです。

八景島シーパラダイスの飼育員さんにお聞きしたところ、
個体差はあるだろうけれど、と前置きをした上で、教えていただきました。

「臆病だといわれていますが、意外と好奇心は強く、
イルカがショーをしにジンベエザメのプールへやってくると、イルカに近づこうとするので、
エサを与えて離すようにしています。
視力は弱いという説もありますが、むしろいいのではないかと思います。
嗅覚も優れていると思いますよ」とのこと。

図体は大きいのですが、脳は落花生くらいの大きさだそうです。

種ごとで脳の大きさ(体重に占める脳の割合)と知能の高さは
関係するそうですし、知能が高いほうが優れているような気もしますが、
だから幸せかというと、それはもちろん別問題。

脳が小さいのは、あれこれつまらないことを考えずに
生きていける、というような気もします。

逆に言えば、巨大な脳を持つヒトは、知能が発達したぶん、
どうでもいいことにも悩み、年がら年中、心配をしてないと
生きていけない生き物なのかもしれません。

それにしても「脳」と「悩」って漢字、似ていますよね。

ジンベエザメは基本的に群れをなさず、繁殖期以外は単独で回遊しています。
サメ類は一般に免疫力が強く、あまり病気にならないともいわれています。

大きく育ってしまえば、ジンベエザメに敵らしい敵はいません。
運悪く航行中の船のスクリューに巻き込まれたり、
シャチやホオジロザメに襲われたりしないかぎり、
病気にならないので、かなり長生きをすると考えられていて、
150年くらい生きても不思議ではないそうです。

水族館では1年に50cmくらい大きくなるそうです。
成熟年齢になるのは8mくらいといわれていますから、
シーパラダイスではあと6年後に恋の季節がやって来るのかもしれません。
2020年。おお、東京五輪の年じゃないですか。

世界で初めてジンベエザメを飼育した沖縄美ら海水族館では、
現在、飼育下繁殖に向けた取り組みが始まっています。

飼育するときに、一番気を使うのはストレスだそうで、
複数のジンベエザメを飼う場合、互いの相性が悪いと
強いものが弱いものにプレッシャーをかけ、衰弱させる例があるそうです。

シーパラダイスの場合、相性がいいというか、お互い意識はしているものの、
干渉しない態度を取っているので良好な関係なのだとか。

さて、サメというと恐ろしい生き物の代表ですが、
世間に思われているほど凶暴ではありません。

1年間に世界でサメに襲われて亡くなる人の数はどのくらいだと思いますか?

マスメディアが扇情的に取り上げることにより、
とんでもない数の事件が起こっているてと人々に思い込ませる例として
「Summer of the shark」という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。

2001年6月、8歳の女の子がホオジロザメに襲われたのをきっかけに、
全米中のテレビ、新聞、雑誌はサメの襲撃報道で溢れかえりました。
9月初旬、10歳の少年がサメに襲われ亡くなった事件は、
3大ネットワークがトップニュースで大々的に取り上げました。

しかし、2001年を通じて、世界中で起きたサメの襲撃はというと68件。
そのうち死者が出たのは4件です。

若手経済学者のノーベル賞といわれる「ジョン・ベーツ・クラーク・メダル」を
受賞したスティーヴン・D・レヴェット(シカゴ大学教授)も
こんなふうに書いています。

《1995年から2005年を見ると世界中で起きたサメの襲撃は平均で1年に60.3件であり、一番多かった年が79件、一番少なかった年が46件である。死者は年平均で5.9人であり、一番多かった年が11件、一番少なかった年が3件だ。言い換えると、2001年の夏、マスコミに踊る見出しはこんなふうでもよかった。「サメの襲撃、今年は平年並み」。でもたぶん、そんな見出しじゃ雑誌はあんまり売れない》

《一方、ゾウは毎年少なくとも200人の命を奪っている。それじゃなんで、ぼくたちはゾウを見てもぞうっとしないんだろう?》 
(『超ヤバい経済学』スティーヴン・D・レヴェット、スティーヴン・J・ダブナー/東洋経済新報社)

ゾウはダンボやババールになったように、人なつこいキャラで
子どもに大人気の動物ですが、野生のゾウはかなり恐ろしい動物です。
カバもひょうきんでお人好しなイメージですが、アフリカではカバに襲われて、
毎年2900人も死者が出ているのだとか。
海で極悪な役を演じさせたら、独壇場のサメですが、年間の死者は4人。

それがヒトの肥大した脳で作り上げたサメのイメージです。

突然、過熱していたシャークアタック報道は、全く消えてしまいます。
11 September Attacksで約3000人が一瞬にして亡くなったからです。

(ジンベエザメの項、つづく)

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