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ズワイガニのセックスを笑うな

UOCOLO
旬のさかな、地のさかな図鑑
vol.003

posted:2012.12.20  from:全国  genre:食・グルメ / エンタメ・お楽しみ

〈 この連載・企画は… 〉  南北に長い日本列島。同じ魚でもおいしい時期も違えば料理法も違います。
季節の花を愛でるように旬の魚を食したいではありませんか。そこが肉食と違う魚食の醍醐味。
魚の食べ方や生態や漁法を漁師、魚屋さん、魚類学者、板前さんなど、魚のプロに教えてもらいます。

writer's profile

Sei Endo

遠藤 成

えんどう・せい●神奈川県川崎市生まれ。出版社を退社後、ヨットで日本一周。漁業、海生生物の生態の面白さに目覚める。東京湾の環境、漁業、海運、港湾土木をテーマにしたエンターテインメントマガジン『TOKYO BAY A GO-GO!!』編集長。

credit

取材協力 谷次賢也(魚政)
京都府海洋センター
風呂田研究室(東邦大学)

今年もときめきの出会いがなかった貴女へ

カニのシーズン真っ盛りですね。
みなさんはもうカニを食べましたか?

あ、最初にお断りしておきますが、申し訳ない。
今回も嫌がらせのように長いので、時間のあるときに読んでください。
しかも女子の皆さん、すいません。
内容は仰天セックス(僕にとっては)の話なので、ちょっとだけお下品です。

いいですね、断りましたよ。
では、はじめます。

国内のカニ類の漁獲量を調べてみたところ、
ズワイガニとその仲間のベニズワイガニが漁獲量全体の78%を占めていますから、
ズワイガニこそ日本を代表するカニなのです。

でも国産のオスのズワイガニのいいものは、一匹3~4万円くらいは当たり前。

このコーナーで取り上げたいけれど、こりゃ、予算オーバーだとあきらめていたら、
たまたま応募した「カニのキャラクターに名前をつけてねキャンペーン」に見事当選。

景品としてズワイガニが当たったので、ここに登場することになりました。

いやあ、50歳過ぎて「かにぴょん」と書いて応募して、本当によかった~!

さて、11月6日はズワイガニ漁の解禁日でした。漁期は3月20日までの5か月。

冬の冷たく荒れ狂う日本海を舞台に、5か月で年収の約6割を稼ぐといいますから、
漁師さんやカニ加工業者さんたちの11月6日にかける熱い思いは半端ではありません。

カニ底曳き網漁の漁船。カニがいるのは深海。長いロープが必要になるので後部のリールがでかい。

西高東低の冬型の気圧配置で海は荒れやすく、月に操業できる日はわずかだ。操業できても水も空気も痺れるように冷たい。

ずらり並んだ、活きているズワイガニ。

なんでも初日にはご祝儀相場で一匹20万円ついたカニもいたとか。

さて、標準和名であるズワイガニと呼ぶと、どうも美味しさ、貴重さが伝わってきません。
松葉ガニ、越前ガニの方が断然うまそうです。

ご存知のように、ズワイガニのオスは若狭~山陰地方では松葉ガニ、
福井県では越前ガニと呼ばれます。

間人(たいざ)かに、大善かに、津居山かに、柴山かに……
呼び名は違えど、どれもズワイガニです。

水揚げされる各港でブランド化が図られており、
港がひと目で分かるようにタグ付けされています。
(福井県=黄色、京都府=緑色、間人ガニ=緑色、津居山ガニ=青色……など)

ご覧ください。ズワイガニのオスとメスは、大きさがずいぶん違います。

大きいのがオスです。

ズワイガニのメスは地域によって、セコ(北陸)、セイコ(北陸、京都)、
コッペ(京都)コウバコ(石川)、と呼ばれています。

京都にいるときゃ~ コッペと呼ばれたの~ 福井じゃ セイコと名乗ったわ~

失礼しました。
裏返しちゃいましょうか。

きゃ~っ いや~ん!

大きさだけじゃなく、腹のいわゆる「ふんどし」の部分がオスは三角形で、メスは丸型です。

アップで見てみましょう。

卵を数えてみようかと思ったけど、やめました。

卵をたくさん抱いていますね。これが外子(そとこ)と呼ばれる受精卵です。

見た感じはキャビアのようですが、魚卵のようなコクはなく、
むしろさっぱりした味わいとシャキシャキした食感を楽しみます。

では、甲羅をオープンしてみましょう。

うひゃあ、たまりません! 

中央の鮮やかなオレンジ色の部分が、内子(うちこ)と呼ばれる卵巣です。
蟹味噌(緑色をした部分)以上にねっとりした風味とコクがあり、
これが食べたくて、毎年11月6日の解禁日が待ち遠しいという人も少なくありません。

作家の開高健さんの大好物がこれでした。

「雄のカニは足を食べるが、雌のほうは甲羅の中身を食べる。それはさながら海の宝石箱である」
(開高健全集第15巻「越前ガニ」より)

グルメリポーターの彦摩呂さんが、なかなかの読書家であることが分かります。

開高さんが常宿にしていた福井県越前町の「こばせ旅館」で
「う~ん」と言いながらほおばっていたのが、
二合の飯の上に七杯ぶんのセイコガニをほぐして乗せたカニ丼。
彼の死後、この丼は開高丼と名づけられました。

茅ヶ崎市にある開高健記念館

ズワイガニは水温が0~5℃くらいの冷たい深海に棲息しています。
オスとメスは棲んでいる水深が違っていて、
メスは水深250m近辺、オスはやや深い水深300~400mくらいで暮しています。
繁殖期になると大人のオスとメスが集まります。
カニだけに出会いのカーニバルなんちゃって。わははは、日本海の深海より寒いぞ。

ズワイガニの産卵は初産卵と経産卵とでは異なるのですが、
ややこしくなるので、ここではざっくり説明します。

知らない人はちょっとビックリしますよ。

交尾(意外や正常位)したメスは、すぐに産卵し、お腹に卵を抱いて、なんと1年過ごします。
抱えている卵の数は7~10万個。1年後、お腹の卵から子どもが孵化し、放仔したあと、
すぐに受精して、産卵。ふたたびお腹に卵を抱えます。

つまり、卵をお腹から放してから、1週間ほどですぐにまた卵を抱えるので、
卵を抱えていない成熟したメスにお目にかかることは、ほとんどないのだとか。

大人になったらお腹に卵を抱えたままで生涯を過ごすって、すごくないですか?

でも、もっと驚くのはここからです。

いうまでもなく、海は広いな大きいなです。おまけに水深が深いのでまわりはまっ暗。
当然、オスと巡り会えない淋しい年もあります。

そんなロンリー・イヤーはどうするかというと……。

体内にストックしておいた昨年の精子の残りを使って受精するのです! 
なんとメスの体内には精子バンクがあるのです。

そして、次の年もオスと出会えなかったら、
ストックしてある一昨年の精子を使ってまた受精するのです。

こうして、一夜(?)をともにした相手の子どもを、
3~5年間くらいは産み続けることが可能なんですって。

一夜の契りの相手の子を一生産み続ける悲しい女。

雪は降る降る未練はつのる、
馬鹿なやつだといわれても、
宿命ですもの女の命、
ああ、私は今年も産むわ。

ドロドロの演歌の世界を妄想してしまいますねー。
寒風吹きすさぶ冬の日本海が舞台ですからねー。

でも、これはズワイガニに限ったことではなくって、
たいていの甲殻類は、精子をいったん貯精のうと呼ばれる器官に蓄えてから受精するのだとか。

えー、そうだったのか、エビ、カニ!

じゃあ、新しい出会いなんて必要ないじゃん。

京都府立海洋センターの話では、まだよくわかっていないのですが、と前置きした上で、

「貯精のうにストックした精子の場合、受精率が年々下がることはわかっているので、
やはり毎年、交尾して新鮮な精子を仕入れるのが基本的な繁殖戦略ではないでしょうか」
ということです。

しかもですよ。擬人化して書きますが、
処女は童貞、おっさんの区別なくセックスして妊娠しますが、
一度子どもを産んだ熟女は、若い男はお断り。強い大人の男としかセックスしません。

おお、擬人化するとなんてわかりやすいんだ。

つまり、昔の男の子種をキープしつつも、強い男に抱かれる女の性(さが)ですな。
いやはや全然、一途ではありません。カニの世界も女子はクールですな。

むしろオスは自分の子孫を残そうと、他のオスと浮気しないように、
メスに必死にしがみついているそうです。カニの世界も男子は必死です。

俺だって必死なんだよ!

いろんな資源保護対策で
やっと水揚げ量の減少に歯止めが。

ズワイガニの寿命は約20年。
大人になるまで9年くらいかかります(オス9cm、メス7cmが大人の目安)。
成長が非常にゆっくりした生物なのです。

日本海では1970年代には16000t以上の水揚げがありましたが、
1990年代には1500tにまで落ち込んでしまいました。

明らかに獲り過ぎてしまった反省から、漁期を短くしたり、
ひと航海の漁獲可能量や捕獲してよいサイズの制限を設けるだけだなく、
物理的に底曳網漁ができないように、
巨大なコンクリートブロックを沈めてカニの保護区をつくったり、
さまざまな資源保護に努めた結果、現在は5000t前後まで回復しました。

メスガニの漁も資源確保のため、オスよりも早く1月10日で終了になります。
つまり2か月しか味わえない貴重品なのです。

それでもメスを食べるのは日本だけで、
資源保護の観点から、いかがなものかと外国から批判されているそうです
(北米では蟹味噌食べませんしね)。

メスを保護するのに越したことはないでしょうが、メスを保護すれば増えるかというと、
メスの捕獲を禁止しているカナダでも漁獲量が減っているといいますから、
そう単純な問題ではないようです(ちなみにズワイガニの世界一の生産地はカナダです)。

禁漁期に漁師はカレイ漁なども操業していますが、
漁場の環境を守ろうと海底清掃をしているそうです。
操業中に失った漁網や漁具などの回収ですね。
これらにカニが絡まって死んでしまうのを防ぐためです。

兵庫県で会ったカニ底曳網船の船主の話では、燃料代・人件費の補助金が出るので、
その範囲で清掃活動をしているそうです。

ちょっと前までお隣の韓国は無関心でしたが、最近は意識が変わって、
海底清掃を始めたそうです。回収した量によって報奨金が出る制度らしく、
ものすごい勢いで海底をさらっているのだとか。

海底清掃で引き上げられた漁網類

そんなズワイガニの資源保護の努力話を聞いたあと、
日本海をヨットで北上して6月に新潟県の能生(のう)漁港に入港したところ、
禁漁期のはずなのに、堂々とカニが売られているではありませんか!

マリンドリーム能生 かにや横町

あれー、おかしいなー? どうなってんの?

かなり混乱したのですが、調べてみると並んでいたのはズワイガニではなく、
茹でなくても真っ赤な色をしているベニズワイガニでした。

これは水深500~2500mとより深いところに棲むカニで、
カニかご縄漁という漁法で捕まえます。

ベニズワイガニは棒状やフレークとして9割以上が加工用材料として使われ、
姿売りを見られるのは産地で若干見られる程度なのだとか。

でも、漁獲量はズワイガニ5,996tに対し21,456t(08年)と
国内の漁獲量は圧倒的にベニズワイガニが多いのです。
ベニズワイガニの漁期は9月1日~6月30日。もちろん密漁ではありません。

メスのベニズワイガニは捕獲が禁止されています

一般的に味、身の詰まり具合ともにズワイガニに比べて落ちることから、
こちらは価格もお手頃です。

でも、試食させてもらったら、これはこれで美味しいんですけどね。
つまりズワイガニはもっとおいしい。

ベニズワイガニはズワイガニの仲間ですが、缶詰でときどき見かけるマルズワイガニは
主に西南アフリカで獲れるオオエンコウガニで、これはズワイガニの仲間ではありません。
でも、これもこれでおいしい。

美味しいズワイガニは
どうして高額なのか?

ちょっと脱線し過ぎましたね。
話をズワイガニに戻しましょう。

一般的なスーパーで売られているのは、メスガニか輸入物の冷凍ズワイガニ(オス)。
で、国産のオスを見かけることは非常に希です。

これは国産のオスは北陸や山陰の観光地で多く消費されているからです。
ズワイガニは客を呼べるキラーコンテンツなのです。

温泉&カニ食べにいこう!ですね。

見事なまでの地産地消。
やはり現地で食べるのがベストでしょうが、なかなかそうもいかないのが現実。

ネットやトラックの移動販売で格安のズワイガニを買ってみたものの、
そんなに美味しくなかった経験、ありませんか? 僕はあります。

そこで、京都丹後で、長年、老舗の料亭や旅館にカニを卸している「魚政」の谷次賢也さんに
味の違いを聞いてみました。

谷次賢也さん。業界では名の知れた目利きの鬼!

「タグは産地表示で、品質保証ではないからね。タグがついていりゃ美味しいわけではないんだ。

水揚げ港は違っても、同じ丹後沖の日本海で操業しているのだからね。

タグは着いてて当たり前。むしろ大事なのは、カニそのものの鮮度と身の詰まり具合と
漁船での取り扱われかた。一匹一匹、個体差があるからね。

身詰まりのいいカニは、蟹味噌も濃厚でたくさん詰まってる。
たんに大きければいいってもんじゃない。

本当に美味しいカニの選別は、
目利きを二、三年やったくらいじゃ話にならないくらい難しいんだよ」

—— そういえば、泥臭かったことが……。

「深海の砂泥地に棲んでいるからね、水揚げ直後は体内に泥を含んでいるんだ。

だから、まず水槽に入れて泥吐き処理をする。
これを丁寧にしないと泥臭いカニになるね。

次にきれいな水槽に移して鮮度のいい状態を保つんだけれど、
単に活かしているだけだと痩せて肉質が悪くなってしまうんだ。

ストレスを与えるのも味をダメにするね。
頻繁に水を換えたり、毎日の掃除は大変だけど、
味を良くするためだからね、手は抜かないよ」

水槽から、活け松葉かにを取りだし、健康状態を一匹一匹点検し、水槽の汚物を取り除く

—— おいしく茹でるコツは?

「スチームで大量に蒸しているところもある。
でも、それだと火加減や塩加減にムラができるんだ。
うちはステンレス鍋で大量のカニを炊き上げる。

茹でに使う塩は、地元の海水から炊き上げたミネラルたっぷりの天然塩。

身質、時期、気温、大きさや量に応じて蟹茹で職人がつきっきりで炊き上げるんだ。
1分の差で味が大きく違うからね。

で、炊きあがったら一匹ずつ流水で丁寧に洗って灰汁をとり、身を引き締める。
この作業を怠ると嫌な臭いが出やすい。

——「魚政」さんとこのセコガニは外子がうまいです。

「セコガニは流水で洗ったあと、もう一度、魔法の水につけて、味を調整しているからね。
これをしないと、外子が水っぽくなってしまう。

最後に冷蔵庫で半日から一晩寝かせて、蟹味噌を固めて落ち着かせ、
身肉の旨味成分を増やしてるんだ」

はちきれんばかりに詰まっています!

—— 美味しい食べ方は?

「三杯酢もいいけど、まずは何もつけずに、そのままを味わって欲しいね。
絶対に家で二度茹でしたり、焼いたりしたらダメだよ」

—— 松葉かに。高級品ですよね。

「でも、脚が1本ないとか、傷があるものは安いよ。
体裁は少々悪くても、家族で食べるなら、味は変わらないからお買い得。

予算に応じて、予算以上の満足を提供するのがうちのモットー。
堪能してもらえたらうれしいね」

……とまあ、高いのには理由があって、より美味しく食べられるように、
実に手間がかかっているのです。逆に、安いのは手間をかけていないから、ともいえます。

カニを食べるのは冬の一大イベント。ケチってへんなカニを食べるよりも、
きちんとした値段で、信頼できるプロの目利きに選んで茹でてもらったカニを手に入れるほうが、
賢い選択だと思いますけどね。

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魚政

海の幸は同じように見えても、季節、海域、漁法はもちろん、
漁師の魚の手当・処理で味は大きく異なります。
でも、素人がそれを見分けるのは至難の業。

魚政では、目利きの鬼である店主の谷次賢也さんが、
丹後半島の豊富な海の幸を厳選して、食卓に届けてくれます。

魚政のモットーは「心に残る本物の味」。

ネット販売もしているので、間違いのない蟹が食べたくなったら、ぜひどうぞ。

住所 京都府京丹後市網野町網野2707-17
電話 0120-72-0823(フリーダイヤル)
営業時間 9:00~18:00
定休日 火曜日(蟹シーズンは無休)

http://www.uomasa.jp/

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