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あなたと食べたい鮭茶漬け

UOCOLO
旬のさかな、地のさかな図鑑
vol.002

posted:2012.11.19  from:全国  genre:食・グルメ / エンタメ・お楽しみ

〈 この連載・企画は… 〉  南北に長い日本列島。同じ魚でもおいしい時期も違えば料理法も違います。
季節の花を愛でるように旬の魚を食したいではありませんか。そこが肉食と違う魚食の醍醐味。
魚の食べ方や生態や漁法を漁師、魚屋さん、魚類学者、板前さんなど、魚のプロに教えてもらいます。

writer's profile

Sei Endo

遠藤 成

えんどう・せい●神奈川県川崎市生まれ。出版社を退社後、ヨットで日本一周。漁業、海生生物の生態の面白さに目覚める。東京湾の環境、漁業、海運、港湾土木をテーマにしたエンターテインメントマガジン『TOKYO BAY A GO-GO!!』編集長。

credit

取材協力 北田水産
special thanks to
Ikunori Suzawa(el coyote)
fumiya okuyama

カモ〜ン! サーモ〜ン!

三陸の川にサケが遡上したというニュースが流れはじめました。
この映像は何度見ても、生命の力強さとはかなさが感じられて、
いつ見ても感動的です。

サケは日本人が一番たくさん食べている魚です。

日本の河川(主に北海道、東北、北陸)に最も多く遡上するサケは、
シロザケという種類で、通常サケといえば、このシロザケのことです。
獲れる地域や時期によって、
アキサケ、アキアジ、ギンケ、ブナ、メジカ、
トキシラズ、トキザケ、オオメマス、ケイジ……
などと呼ばれることもありますが、どれもシロザケのことです。

トキシラズ(トキザケ)は春から夏に獲れた未成熟のシロザケです。
産卵がまだ先なのに沿岸を回遊中していて捕獲されたもので、
栄養が筋子や白子にまわっていないので、身肉に脂がのっていて、
獲れる数も少ないことから人気の高い高級品です。

同じシロザケなのに成熟前(トキシラズ)は、こんな顔をしています。
全然顔つきが違いますね。

サケ類は産卵前のカラフルな婚姻色が表れるまでは、みんな似た感じなので識別が難しいそうです。

川で産まれたシロザケは、海へ下ると北上し、オホーツク海、ベーリング海、
アラスカ湾など、北太平洋全域を大回遊しながら数回冬を過ごします。

サケの仲間でも、日本産まれのシロザケはトップクラスの長距離スイマーです。
そして産卵の2〜3か月前になると、産まれた川を目指します。
シロザケの場合2年〜8年で戻ってくるのですが、多いのは4年だそうです。

サケって、産まれた川にきっちりと戻るイメージが強いのですが、
意外や、間違って他の川に迷い込むのも少なくないのだとか。

ご隠居〜、オイラまた川を間違えちまいましたよ〜。てへへ。

ちょっぴりマヌケな感じもしますが、
4年後に産まれた川に戻っては来たものの、
環境が激変していて遡上できない!→産卵できない!→全滅っ!!
なんてことを避けるための賢い生き残り戦略なのかもしれません。

シロザケが産卵のために回帰するのは9月〜翌年の2月。
河川を遡る前に沿岸の定置網を使って漁獲します。
たとえば北海道でのサケ定置網の漁期は9月〜11月。

少し脱線しますが、北海道の知床半島〜根室半島をヨットで航行すると、
やはり国境というか、ロシアの主張領海線が気になります。
ヨットが拿捕された例がないとはいえ、海上保安庁からは
くれぐれも越境しないように厳しく指導されました。

知床半島の羅臼港で渡されたのが、こんな地図。

渡された航行参考図。びっちりサケの定置網が張り巡らされています。

網に引っかかると大損害を与えてしまうので、
ヨットは定置網が設置されていない、沖を航行しなくてはいけません。
というわけで、境界線ギリギリを走ることになるのです。

GPS航海軌跡。納沙布岬沖がすごく狭い。

おまけ。たぶんミンククジラ。クジラは国の境界なんぞ気にしちゃいません。

司馬遼太郎の小説『菜の花の沖』の主人公、
高田屋嘉兵衛もこの海域にまで来ていましたね。
瀬戸内から塩を積んできて、帰りに塩鮭を本州に運んでいたそうです。

戦後も遠洋漁業が盛んだったころは、
ギンザケ、ベニザケ、キングサーモン(マスノスケ)、カラフトマスなど、
たくさんのサケ類を獲ることができました。

しかし、各国の排他的経済水域が広がり、資源管理型漁業の導入も進んだことから
遠洋漁業は衰退。サケ類の漁獲高の減少、価格高騰が懸念されはじめました。

こうした情勢のなか、資源確保、食料の安定供給ために、
1970年代からシロザケの孵化放流の取り組みが盛んになります。
(孵化放流実験は、明治時代からおこなわれていました)

9割のサケは海で捕獲されますが、生まれ故郷はすべて川です。
北海道、東北、北陸地方の川沿いには驚くほど多くの「孵化場」があります。

岩手県漁業協同組合連合会ホームページを見てみましょう。
もうびっちりですね。

多くの施設が3.11で大打撃を受けました。ちなみに岩手県で人工孵化しているのはシロザケとサクラマスです。

こうして日本沿岸のシロザケの漁獲量は1970年頃の2万トン前後から、
1996年には25万トンにまで増加します。

孵化放流事業は大成功だったのですが、想定外のことが起きました。
日本人の嗜好が変化して、こってり脂ののった魚を好むようになったのです。

秋に沿岸で獲れるシロザケ(秋鮭)は産卵準備のため、身肉の脂が控えめです。

で、人気が集まったのが脂ののるギンザケ。
ギンザケは北米がメインで、日本近海にはまれにしかいないサケです。

ギンザケ養殖の実用化が始まったのも、やはり70年代。
ギンザケは孵化放流ではなく、海上の生け簀で養殖されます。
サケ類のなかでも成長が早いので養殖にぴったりで、
宮城県の女川と南三陸の養殖場は有名です。

では、これら国内で獲れるサケを、私たちは食べているのでしょうか?

実は国内のサケの漁獲量は年間20万トン以上あるのに、
同じくらいの量のサケ類を海外から輸入しています。
どこから輸入しているかというと、半分以上がチリからです。
(次いでロシア、アメリカ、ノルウェーがほぼ同量)

もともとサケ類は北半球だけにしか棲息しない魚だってご存知でしたか?
つまり、南米のチリには本来、サケは一匹もいなかったのです。

チリでギンザケの海面養殖が始まったのが、70年代の終わり頃。
これは途上国支援事業として、日本企業が三陸の海で培った
養殖技術をチリに移入し産業化したのが始まりです。
やがてアメリカなどの企業も参入し、生産量を急速に増やしました。

チリは地形を活かした大規模な経営に加え、飼料、人件費も安いので、
低価格で安定的にギンザケの大量生産ができます。

というわけで、この20年間、スーパーの鮮魚コーナーで、
年間通して幅を利かせているのが、このチリ産ギンザケ、いわゆるチリギンです。

そのあおりを食ったのが、三陸のギンザケ。
養殖の技術を確立した原点の土地だけに、なんとも複雑ですが、
最近では「伊達銀鮭」(「とろ銀鮭」)などブランド化に取り組んでいるようです。

今度、サケの切り身の生産地の表示を見てみてください。
外国産でよく目にするのは……

◎チリ産/ギンザケ、アトランティックサーモン、トラウトサーモン
◎ノルウェー産/アトランティックサーモン、トラウトサーモン、キングサーモン
◎ロシア産/ベニザケ
◎アラスカ(アメリカ)産/ベニザケ、キングサーモン
◎カナダ産/ベニザケ、キングサーモン
といったところでしょうか。

チリではギンザケのヒットをきっかけに、アトランティックサーモンや
トラウトサーモンの養殖事業も盛んになりました。

年を追うごとに世界のサケ類の生産量は右肩上がりで増加しています。
天然サケの漁獲量はずっと90万トン前後で変わりませんが、
養殖サケは増加を続け、1996年頃に天然モノと養殖モノの生産量が逆転しました。
上記のサケもロシア産、アラスカ産以外は、ほとんど養殖モノです。
(アラスカ州では魚の養殖は一切禁止されている)

世界で一番多く生産されているのがアトランティックサーモン(42%)
続いてトラウトサーモン(22%)、カラフトマス(11%)。
ベニザケ・ギンザケ・シロザケは各約5%といった配分です。

シロザケ(秋鮭)(生)/北海道   シロザケ(時鮭)(塩)/北海道   ギンザケ(塩)/チリ産
ベニザケ(塩)/北海道   キングサーモン(生)/NZ   トラウトサーモン(生)/チリ

脂ののったアトランティックサーモン、トラウトサーモン、ギンザケですが、
3種の中で値段が一番高いのはアトランティックサーモンです。

アトランティックサーモンは、かつて塩鮭用に試されましたが、
色が淡いのに加え、脂が多すぎて塩が利かず、
塩鮭に向いていない、使えないと却下されたそうです。

ところが、最近はお寿司屋さんで「サーモン」として大人気。
生食用が主で、チルド、つまり冷凍せずに空輸するので値段はやや高めです。
書き忘れましたが、養殖モノは寄生虫がいないので、生で食べることができます。
天然モノのサケは、加熱するか、生なら凍らせてルイベにして食べるものでした。
オーロラサーモンはノルウェー産のアトランティックサーモンです。

生食用、加工用を兼ねているのがトラウトサーモン。
ほとんどが冷凍なので、値段が安定して安く、
やはり「サーモン」として回転寿司に使われるなど大活躍。
ギンザケよりも成長が早く、扱いやすいので生産量も伸びているとか。

ギンザケは冷凍輸入され、主に加工用として、塩鮭のほか、
フレークになってコンビニおにぎりなどに利用されています。

さて、日本では人気が今ひとつになってしまったシロザケ(秋鮭)ですが、
人工孵化はしているものの、川を下り、海を回遊し、川へ帰るという
極めてナチュラルな成長をしています。

すると「ジャパンのサケってアーシーですごくね?」
「やっぱ養殖モノよりワイルドフィッシュの方がよくなくね?」 
と、オーガニックや生態系に関心の高いヨーロッパから注目を集め、
日本のシロザケが見直されているのだとか。

巨大マーケットである中国へ向けて、シロザケを食べてもらおう
という試みにも力が入れられているようです。

ただし、シロザケでもケイジ(鮭児)は別物です。
ケイジは本籍がアムール川出身の若いシロザケで、
全身に上質の脂がのった、滅多に捕獲されない幻のサケとして有名ですが、
値段もハンパありません。

たとえば、サケ類の中で高値のつくキングサーモン。
なかでも商業ベースでは捕獲していないユーコン川のキングサーモン(天然)が
別格でキロあたり2500円〜3000円だそうです。
ところがケイジは、なんと2〜3万円するというのです。
ギンザケが400〜500円ですから、まさに幻の高級魚です。
もちろん、僕は食べたことありません。

最後に紹介したいのが、アラスカ極北圏に棲むイヌピアック族の魚の図鑑です。

『Fish That We Eat』。シロザケの肝臓のオイル煮とブルーベリーを合えたものとか、サケの頭と筋子のスープとか、日本人にはびっくりの調理法も掲載されています。

太古の昔から、極北の地でもシロザケは貴重な食料でした。
約650万年前にアフリカで生まれたヒトが地球上に拡散していくなかで、
穀物の育たない極北圏を超えて、人類がアメリカ大陸へ渡ることができたのは、
毎年、豊富に、しかも浅い川で容易に獲れるサケがいたからではないでしょうか。

アイヌはこのシロザケをカムイチュブ(神の魚)と呼びます。
その名にふさわしい魚ですね。

Information

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北海番屋

築地場外で北田水産が経営する『北海番屋』。
ここではテーブルの上で海鮮BBQが味わえます。
並んでいる築地の目利きが選んだ旬の食材から 好きなものをチョイスして、
豪快にジュージュー焼きましょう。
リクエストすれば、数種類の塩鮭の食べ比べをすることも可能です。

住所 東京都中央区築地4-14-16
電話 03-5148-0788
営業時間 月〜金
11:00〜15:00(LO14:00)
17:00〜22:00(LO21:00)
土・日・祝
10:00〜16:00(LO15:00)
定休日 不定休

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