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千葉・やん米

美味しいアルバム
vol.005

posted:2013.9.2  from:千葉県南房総市  genre:暮らしと移住 / 食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  フォトグラファー、津留崎徹花が、美味しいものと出会いを求め、各地を訪ね歩きます。
土地の人たちと綴る、食卓の風景を収めたアルバムです。

text & photograph

Tetsuka Yamaguchi
山口徹花

やまぐち・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『コロカル』のほか『anan』『Hanako』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。

やん米、くいくい。

前回、千葉は南房総にて、「太巻き寿司」と「鯵料理」を教えて頂きました。
引き続き、まだまだお邪魔しております、真夏の千葉、古民家「ろくすけ」に。
初めて知ったのですが、古民家ってとっても涼しいんですね。
開けっ放しにした縁側から、すーーーっと風が抜けていく。
あんまり気持ちがよくて、畳の上に大の字になって寝そべりたくなる。
そんな気持ちをこらえて、今回は伝統料理「やん米(ごめ)」について伺いました。

初めて耳にする、という方もいらっしゃると思うのですが、私もそのひとりで。
実際目にするまでは、どんな様子のものかまったく想像がつきませんでした。
事前に下調べをと思い、ネットで「やん米」とか「やん米 千葉」と検索してみましたが、
「米やん」という愛称で親しまれた評論家、などがヒットし、実態にたどり着けず。
ならば、しつこく調べるのはやめにして、ここは丸腰でいこう! と当日を迎えました。

そうして、ちゃぶ台の上にある「やん米」らしきものと対面を果たしたわけですが、
これが「やん米」なのか? と判断がつかず。
不思議な、いや、不思議といっては失礼ですが、
完成形なのか? まだ途中の段階なのか?
見た目はパラッと乾燥気味のお赤飯。
ぼたもちとかお饅頭の形状を想像していたので、それとはかなりかけ離れている。
そしてその量がすごい。
これ、何人前!!! という超ド迫力。

「やん米」「やき米」「やーごめ」「えいごめ」など、
地域によってその呼び方もさまざま。
お盆のみならず、田植えどきの晴れの日や、豊作祈願の縁起物としての役割など、
昔から行事食や晴れ食として地域に根づいている。

やん米を作ってくださった鈴木俊子さんに伺ってみた。

テツ「これが、例のその、やん米ですか?」

鈴木「そうですそうです、時間がかかるので作っておきました。
うまくいったかどうか、お口に合うかどうか」

照れくさそうに微笑む鈴木さん。

鈴木「まずは食べてみたら? どうぞどうぞ」

ありがとうございます! 
いっただっきまーす!

「さぁ、召し上がれ~」

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「!? 美味しい!!」

初めて食べるのに、どこか懐かしくてホッとする味。
どっぷり甘いのでは? と警戒していたけれど、
甘さはほんのり後からやってくる程度。
口の中でお米がホロホロとほどけていく食感。
ときどきやってくる小豆がほっくりして、
しっかりめの塩味とほどよい調和を保っている。

鈴木「これね、お盆のときやなんかには、必ず作るものでね。
やんごめくいくい、まっこうかみかみって言ってね」

テツ「??? もう一度いいですか?」

鈴木「やんごめくいくい まっこうかみかみ みずのみのみ
このあかりでごぜいらっしゃい、ってね」

テツ「……」

なかなか聞き取れない、とくに最後のほうが。

テツ「ごじゃいらしぇ?」

鈴木「いやいや、ごぜいらっしゃい」

テツ「ごじぇいらしえ????」

何度も言い合っているうちに、互いに可笑しくなって大爆笑。

鈴木「ここに書いておきましたから」

テツ「!!!」

それを早く言ってください! 鈴木さん!

やん米 食い食い(やん米を食べて)

まっ香かみかみ(お香を嗅いで)

水のみのみ(水を飲んで)

この明かりでごぜいらっしゃい(この明かりでどうぞいらしてください)

これを唱えながら、火をつけた麦わらにやん米をまき、お香をくべ、水を注ぎかける。

鈴木「これをね、お盆の迎え火を焚くときにやるわけ、みんなでね。
ほら迎え火やっぺよ~! ってね。
そうすると子どもらが喜んで集まってくるんでね~」

鈴木さんは南房総市山田に住んでいる。
毎年お盆のときには、親戚一同が集まり、みんなでこの迎え火をするそう。
それって何だかとっても楽しそう、温かい家族の風景が目に浮かぶ。

その昔は、植えで余ったこの種籾を乾かし、石臼で皮を剥いて炊いていた。

これくらいのキツネ色になるまでお米を炒って、小豆と一緒に炊く。

「ぼーーーん、ぼーーーん」
古時計に目をやると、かれこれ5時間が経過していた。
黒川操さんと吉野みち子さん(前回、太巻きを教えていただきました)
千葉自然学校の遠藤陽子さんを含む、計5人の女性が集い、
郷土料理の話から、結婚生活のこと、更にはコレステロール値の話まで、
あれやこれや、おおいに盛り上がった楽しい時間でした。
「またお会いしましょーね~」と約束をして、お別れのご挨拶。

ガールズトーク大盛り上がり。あっという間の5時間でした。

バス乗り場まで送って下さるという鈴木さんのお言葉に甘え、
車に同乗させてもらう。
走り出した車の窓を開けると、田んぼの草のにおいが「むんっ」と入ってくる。
ふ~~~、いいところだな~~~、千葉。

道の駅「富楽里」に到着。
ここから高速バスに乗って東京へ戻る。

鈴木「珈琲でも飲んでいく?」

そんなお誘いが嬉しくて、予定していたバスを後ろに倒し、
鈴木さんとお茶をすることに。

鈴木「ここのソフトクリーム美味しいから、どぉ?」

テツ「はい! 食べたいです!」

「自分で払います! 払います!」

という私の手を振り払い、鈴木さんがご馳走してくれることに。
さらにはお土産のチーズまで持たせてくれた。
ここでは南房総市にある近藤牧場のソフトクリームやチーズを販売している。
モッツァレラチーズ、乳臭くてフレッシュ、美味しい!

ソフトクリームを食べながら、のんびりとした時間が流れていく。

鈴木「ちっこ、ってのがあんだけど」

はっ、それどこかで聞いたことがある。

鈴木「生まれたての牛の初乳をね、蒸し器で蒸すと豆腐みたいになるの、
それが美味しいんだよね~、ほわほわで」

生後すぐの牛の初乳は、タンパク質が多く含まれているため、
凝固剤などを使用しなくても、熱を入れるだけで固まるんだそう。
搾乳したものを、当の牛にも飲ませ、残りの少しを人間もいただくということ。
この初乳、とても足が速いので、絞ったらすぐに熱を加えるか、
冷凍して保存しなくてはならない。
そのため、一般には流通せず、酪農家のあいだでしか食することができない幻の一品。
鈴木さん、これを年に数回、馴染みの酪農家さんからいただくのだそうで。

テツ「それ、食べてみたいのですが!!!」

鈴木「ね~、そうだよね~。
とにかく足が速いもんだから、生まれてすぐでないといけないんだけど~。
えっとね~、次は9月か10月に生まれるらしいから、そのとき連絡しようか?」

やた! 
というわけで、もし運よく「ちっこ」に出会えたら、それもまたお伝えします。

バス停のベンチに座り、鈴木さんと辺りの景色をぼんやり眺める。

鈴木「これ、この爪のキラキラのって、東京行くとやれるんだってね???」

と、私の爪を指差し、鈴木さんが聞いてきた。

テツ「はい、ネイルサロンでできますよ。
でも高いから、私は自分でやってます、ハハッ」

鈴木「自分でもできるの!!!
こういうの、この辺でも売ってるの??? そういうの」

鈴木さん、私の爪をじっと見つめ、

「やってみたいな~」という、好奇心に満ちた少女の顔をしている。

バスが到着した。
窓から下を覗くと、鈴木さんがふわりと大きく手を振ってくれた。
それを見ていたら、別れがやたらと寂しくなってしまった。
マニキュアを買って、また来よう。

自宅に戻り、やん米を作ってみました。

★やん米

材料

 

白米:2カップ 餅米:1カップ

小豆:1カップ(半日、水に浸しておく)

砂糖:1.5カップ(この分量だと甘めです。お好みで調整してください)

塩:小さじ1

1. 白米と餅米を研がずに、きつね色になるまでフライパンで煎る。

2. 小豆をゆでる。煮立ってきたら、1回ゆでこぼす。再度水を注ぎ、柔らかくなるまで煮る(人差し指と親指ではさみ、少しつぶれる程度、ゆですぎないのがポイント)。ゆで上がったら、ザルに上げ、ゆで汁はボウルに取っておく。

3. すべての材料を炊飯釜に入れ、目盛り通りのゆで汁を注ぎ、炊飯する。

4. 15分ほど蒸らした後、飯台やおひつに移し替え、かき混ぜる(炊飯釜の形に固まってしまうため)。

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