連載
posted:2021.12.14 from:福井県鯖江市、大野市 genre:食・グルメ
PR 福井県交流文化部
〈 この連載・企画は… 〉
日本のローカルにはおいしいものがたくさん。
地元で愛されるお店から、お取り寄せできる食材まで、その味わい方はいろいろ。
心をこめてつくる生産者や料理する人、それらを届ける人など全国のローカルフードのストーリーをお届けします。
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コロカル編集部
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photo:上田順子
全国各地に伝統的な食文化がある。
特に福井県の雪が深い丹南地区(鯖江市、越前市、池田町、南越前町、越前町)や
奥越地区(大野市、勝山市)などでは、細かい区分けでそれが伝えられている。
かつて山間部では、冬の間は隣町に行くことすらできなかったので、
その土地だけに伝わる固有の食文化が生まれた。
それが、福井県の食の多様性につながっているようだ。
「同じお漬物でも隣の谷とは味つけが違ったり、まったく食べないものがあったり」と
教えてくれたのは、福井郷土料理研究家でフードプロデューサーの佐々木京美さん。
“谷ごと”とは、かなり局地的だ。
例えば豆腐。自家用車がなく移動が困難な時代、
ある谷では、原料の大豆をすって白和えなどをつくっていたという。
ほかの谷では塩を1年分購入してわらに敷き、
そこから落ちる汁をにがりとして自分たちで豆腐をつくっていた。
豆腐がなくても、代用を考えるのか、豆腐自体をつくるのか。
同じ福井県なのに、その手法に地域性が表れて興味深い。
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そんな福井県固有の郷土料理を食べられるのが、鯖江市にある〈椀椀〉だ。
通常は喫茶営業だが、予約をすると立派な越前漆器のお膳とうつわに郷土料理が供される。
椀椀では、家庭では伝承しきれない郷土料理をグループで伝承している。
この日の献立は、さといもやあげの煮物、舞茸の天ぷら、ぜんまいのお和え、焼きさば、
麩のからし和え、すこ、山うに、葉寿司、呉汁など。
福井、特に鯖江市河和田地区の食材をふんだんに使用し、
河和田に伝わる方法で調理された郷土料理の数々だ。
では、お膳の料理から特徴的なものを見ていきたい。
葉寿司を包んでいるのは、油桐の葉。これは福井だけといわれている。
鯖江市の河和田地区では金時豆を入れた五目寿司を包む。
包むのは、この河和田地区と海岸線の殿下(でんが)地区だけという。
これが永平寺地区になると、
「葉っぱ(こっぱ)寿司」という押し寿司に姿を変える。
ふわふわの呉汁は、福井の大豆文化を象徴する郷土料理。
報恩講(浄土真宗の法要)や仏事などで食べられていたものだ。
生の大豆を水で戻してすり鉢で1時間以上かけてする方法や、大豆をゆでる方法、
青大豆しか使わない方法など地区によってつくり方はさまざま。
椀椀では切り身で提供されるが、丸焼きさばは、
地域の魚屋さんで丸ごと豪快に焼いてあるものを買って、
家族でシェアして食べるものだった。
「大根おろしや生姜醤油で食べるとおいしい」と、佐々木さんは言う。
かつて若狭湾で水揚げされたさばに“ひと塩”して、
京都に着く頃にはいい塩梅になっている。それが有名な「鯖街道」の由縁である。
「大野市の焼さばも、塩をして少し置いてから焼くといいます。
海から遠いので、当時の名残りではないかと思います。
大野では、“半夏生(はんげしょう)さば”といって、
かつては半夏生(夏至から11日目)に
夏場のスタミナ源として食べるものでした」(佐々木さん)
「すこ」はさといも農家が育てている赤ずいきを甘酢漬けにしたもの。
しゃきしゃきした食感があり、甘さと酸味のバランスは、これまた地域によって異なる。
ほかの地域では赤ずいきは干すことが多いというが、
福井では「すこ」にすることが多いという。
麩の辛子和えは、福井独特の地辛子を使うことが味つけのポイント。
からし種を丸ごと粗挽きしたもので、自分で熱湯を入れて練ることで完成させる。
香りが立ち、上品な辛さになる。
「山うに」は、ゆず(完熟)と赤なんば(赤万願寺唐辛子)、塩、鷹の爪を、
丁寧にすり鉢で練り上げた薬味。
見た目が「うに」のようであるところから、「山うに」と呼ばれてきた。
300年以上前から、特に鯖江市河和田地区で冬に食べられてきた伝統薬味で、
さわやかなゆずの風味が香り、あとからくるピリッと辛さがくる。
福井県は、浄土真宗が広く浸透している地域。
精進料理などから派生した料理も多く、
地味ながらも、現在の食育につながる“教え”も込められている。
食文化は、土地の気候や風土に大きな影響を受ける。
郷土料理を食べてみると、気候風土も感じていくことができるだろう。
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さて、福井の冬の風物詩といえば、越前がにという人も多いだろう。
しかしながら、ここからの主役はさといもである。
椀椀でのお膳にも、さといもの煮物があった。
特によく食べられているのが、「さといもの煮っころがし」だ。
もちろん福井出身ではない人やほかの地域に住む人のなかにも、
さといもの煮っころがしなら食べたことがあるという人も多いだろう。
それが福井の郷土料理として伝わっているのは、
そもそもほかにはないさといもが育てられているという前提がある。
それは〈上庄さといも〉だ。
水がきれいなまちとして有名な大野市や勝山市など、
奥越エリア全体で〈越前さといも〉が生産されているが、
大野市の上庄地区で育てられたものだけが上庄さといもとされる。
奥越は白山や荒島岳に囲まれ、水が豊富でおいしい。
晩夏から秋にかけては寒暖差が大きく、さといもをおいしく育てる。
なかでも上庄地区は、真名川と清滝川の扇状地で、火山灰が混じった土で水はけがいい。
さといもを育てるのに最高に適した土地なのだ。
そして実は「土地がやせている」ことが重要で、
それゆえ「さといも自体が栄養を蓄え、身の詰まったさといもをつくる」と、
農家の印牧(かねまき)富士夫さんが教えてくれた。
上庄さといもは、一般的なさといもより歯ごたえがある。
身がしっかりと詰まっており、煮くずれをしない。
でんぷんが多く含まれており、甘みが強いのが特徴だ。
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印牧さんのお宅でさといもの煮っころがし、さといも入りおでん、
そしてさといも赤飯をいただいた。
大きいものはおでんに、小さいものは煮っころがしにするのがいいという。
「煮っころがしにするとき、多くの地方では包丁などで皮をすべて剥いてしまいますが、
大野では薄皮を残します。たわしのようなものを使ってこそげとるようにするのがいい。
そうしないとおいしくならない」と印牧さんが教えてくれた。
薄皮つきのまま煮るのが大野の伝統的な煮っころがしなのだ。
現地では、農家の軒先で、
さといもの皮むき専用の洗浄機が回っている姿をアチコチで見ることができる。
全国の八百屋さんやスーパーマーケットなどに並ぶ機会の少ない上庄さといも。
人気が高いことも一因だが、そもそも生産量がそこまで多くないからだ。
「高齢化や後継者不足などで、全体的な生産量が減っていることもありますが、
手作業が多く、簡単に生産量を上げることは難しいです」(印牧さん)
特に手作業による植え付けが大変だという印牧さん。
そしてさといもは連作ができず、「最低でも4〜5年は空けたい」という。
だから、毎年安定的な供給を実現するためには、
農家はいくつかの畑を用意しなくてはならない。
これも生産量が少ない要因のひとつになっている。
それでも、全国から人気の上庄さといも。
秋冬に大野を訪れたならば、ぜひ、道の駅や直売所などを覗いてみてほしい。
現地まで行って手に入れた上庄さといもは、きっと格別だ。
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