連載
posted:2021.3.10 from:沖縄県 genre:食・グルメ / 買い物・お取り寄せ
取材協力 沖縄県、一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー
〈 この連載・企画は… 〉
日本のローカルにはおいしいものがたくさん。
地元で愛されるお店から、お取り寄せできる食材まで、その味わい方はいろいろ。
心をこめてつくる生産者や料理する人、それらを届ける人など全国のローカルフードのストーリーをお届けします。
writer profile
Takuryu Yamada
山田卓立
やまだ・たくりゅう●エディター/ライター。1986年生まれ、神奈川県鎌倉市出身。海よりも山派。旅雑誌、ネイチャーグラフ誌、メンズライフスタイルメディアを経て、フリーランスに。現在はキャンプ、登山、落語、塊根植物に夢中。
photographer
石阪大輔(HATOS)
サンサンと降り注ぐ太陽に、ビーチやマリンレジャーが沖縄のA面とするなら、
夏の賑わいを削ぎ落とした市井の「うちなー時間」を堪能できる沖縄はいわばB面。
そのなかで「やちむん」と「沖縄タコス」は、
ともに沖縄独特の文化として定着しているが、
ここ数年で観光客や現地の若い世代を中心にさらに注目を集めている。
沖縄の伝統的な陶器、やちむんは、沖縄の人だけではなく、
観光客や全国からの移住者である新鋭作家たちによって再評価を受けている。
一方、沖縄タコスは、メキシコで生まれたタコスがアメリカナイズされ、
米軍基地を経由し、沖縄で独自に進化してきた。
メキシコのタコスでもなく、アメリカのタコスでもない。
沖縄タコスとはどんなものなのだろうか。
どちらも沖縄で研磨され独特の進化を遂げたもの。
その先で、しっかりと沖縄の文化として定着してきた。
テイクアウトした沖縄タコスをやちむんに盛りつけて味わえば
コロナ禍の沖縄のB面も、新しい表情を覗かせてくれるに違いない。
やちむんと聞いてまず思い浮かぶのは、陶芸家の工房が集まるやちむんの里・読谷村。特にこの登り窯は圧倒的な存在感だ。
やちむんを求めて訪れたのは、浦添市にある〈港川外人住宅街〉だ。
別名〈港川ステイツサイドタウン〉の名で、
カフェや雑貨屋、飲食店が軒を連ねる人気のスポット。
近年、徐々に拡大しながら沖縄のエッセンスを発信している。
港川外人住宅街の名の通り、もとは米軍関係者の住宅地として使われていた一角で
ポーチこそないが、平屋のコンクリートづくりの家屋が60軒あまり建ち並び、
アメリカの田舎町にいるような感覚にとらわれる。
港川外人住宅街の店舗は元米兵の住宅とあって、大きな窓に高い天井と那覇市内にはないレトロな雰囲気が漂う。
この港川外人住宅街のなかで、個性あふれるやちむんを
多く取り扱っているお店が〈PORTRIVER MARKET〉だ。
東京から移住してきた麦島さん夫婦が2013年にオープン。
沖縄の衣食住に関わるものをセレクトしたライフスタイルショップだ。
やちむんだけでも小鉢から茶碗、豆皿、植木鉢など、
さまざまな作家の作品を取り揃えている。
「やちむんには、沖縄の土を使わなければならないとか、
伝統的な製法でなければならないとか細かな定義がありません。
沖縄の『やきもの』だから、訛って『やちむん』なんです」
PORTRIVER MARKETはやちむんを中心に沖縄の雑貨や調味料などを揃える。沖縄色を生活に取り入れられる、麦島さんのセレクト眼が光る。
こう話すのは、店主の麦島美樹さん。
沖縄にやってくる前は東京で〈BEAMS〉で働き、
そこで出会った今の旦那さんと沖縄にやってきた。
BEAMSで培った審美眼もさることながら、別注づくりもお手のもの。
沖縄の生活で知り合ったやちむん作家とのコネクションや、
たまたま飲食店で見かけたものなど
「ビビっと」きたものはすぐにピックアップし、作家さんと連絡を取って
PORTRIVER MARKETオリジナルの商品として生みだしていく。
「やちむんは、比較的ポテっとした表情で、
沖縄の自然になぞらえたアースカラーのものが多いですね。
なので、日常生活にもすごくマッチするんです。
和洋中、なにを盛りつけても相性はいいと思います。
クラシックなスタイルだけでなく、アレンジの効いた作品も多いので、
作家さん単位で探していくと、きっとお好みのものが見つかると思いますよ!」
そのほかにも調味料や日用品など、PORTRIVER MARKETには
麦島さん夫婦のお眼鏡にかなったアイテムが
ギュギュッと詰め込まれている。
「『港川』をそのまま英語にしてPORTRIVER MARKET。
ここに来れば沖縄のいいものがすべて揃っている
『港川商店』みたいなイメージですね。
この一角は、飲食店からコーヒーショップ、
雑貨屋となんでも揃っているので一日中遊べますよ。
個人でやっている個性的なお店が多いですね」
港川外人住宅街の店舗はすべて平屋。ミリタリーハウジングとして栄えたブロックで、現在は各通りにアメリカの州名がつけられている。
さてやちむんに沖縄タコスを合わせる、そんな使い方は沖縄では一般的なのだろうか。
「やちむんにも、もちろんマッチすると思います。
やちむんが『沖縄の焼きもの』としかいえないように、
沖縄タコスにもお店ごとに個性があって、
どこかゆるい感じが似ていますね」
どちらもはっきりとした定義がないのならば、捉え方は幅広い。
その組み合わせは無限大かもしれない。
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パリパリ感が自慢のうちのやまちのタコス(1ピース260円、3ピース730円)。うつわはノモ陶器製作所の7寸皿(3850円)。
やちむんは、特にコロナ禍でおうち時間が増えるなかで
自宅の食器や小物入れにと、沖縄の人の生活にも浸透してきているそうだ。
そんな料理を際立たせてくれるひと皿が
沖縄の緑釉「オーグスヤー」が特徴的な〈ノモ陶器製作所〉の作品だ。
「オーグスヤー」は沖縄の伝統的な釉薬で、
沖縄の海の色を思わせる鮮やかな色彩を放つ。
作者の野本周さんは、埼玉県出身のやちむん作家で、
幼少期から陶器市に通う筋金入りの「陶器好き」だ。
やちむんの里、読谷村(よみたんそん)で修業したのち、2009年に独立。
同じく読谷の住宅兼工房で4人の家族とともに作品をつくり続けている。
一方、沖縄南東部、那覇の喧騒を離れてやってきたのは田畑が広がる南城市。
実家の母屋を改築して店舗にした沖縄タコスの店〈うちのやまち〉だ。
住宅街の畑のなかにポツンと看板を掲げるうちのやまち。お客さんはほぼ地元の人という“穴場タコス屋”だ。
店主の山内日出雄さんがこだわっているのが、生地のパリパリ感。
外がパリッとした食感で、中はもっちりしているのが沖縄タコスの生地の特徴だが、
テイクアウト需要が高い沖縄のタコスの場合、
時間が経つとどんどんとパリパリ感が失われてしまう。
そこで、山内さんはパリッとした食感を保つために生地の配合を試行錯誤して
テイクアウト後も自宅でパリパリ感を楽しめるかたさを実現した。
具材はミンチ、レタス、トマトとセオリー通りだが、ミンチにこだわりが強い。
山内さんは牛と豚の5:5の配合にこだわり、県内の卸業者を探し求めたという。
うちのやまちでは自宅の一角を店舗として使っている。「うちのやまち」とは山内さん家族の沖縄の屋号から。
「時間が経つと、肉の味に違いが出てくるので、
お店の味とテイクアウトの味が変わってしまうことが難点でした。
あとは辛口のサルサソースが主流ですが、
ケチャップをつけて食べる子どもたちがいるので甘口ソースも用意しています。
多くの人に楽しんでもらいたいですからね」
山内さんは沖縄生まれ、沖縄育ち。
タコライスは知っていてもタコスを初めて食べたのは20歳のときだったという。
それからタコス熱に火がついて、試行錯誤の10数年。
ようやく理想のタコスに近づいてきた。
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沖縄でもタコス好きの間で人気のセニョールターコ(1ピース200円)。うつわは大胆な絵つけが特徴の深貝工房の7寸皿(4290円)。
深い海の色を表現した7寸皿は、〈深貝工房〉の作品。
2018年に開窯した気鋭の作家・深貝公拓(こうたく)さんは、
沖縄陶器を代表する作家・山田真萬(しんまん)さんに師事。
深みのある青と大胆な筆使いが特徴で、
ときには洋食器をデザインの参考にすることもあるそう。
伝統的な要素を残しつつ、アレンジの効いたモダンなテイストで、
やちむんの裾野の広さを感じられる作品だ。
作家の深貝さんは実は青森県出身。
日本のローカルにおいて、移住者が外からの目線で土地を見ることで
新しい発見があるというのはよく聞くことで、それは沖縄でも例外ではない。
今では県内の若い世代からも料理を撮影するときに写真映えすると、
やちむんが再評価されているそうだ。
このお皿に合わせた〈セニョールターコ〉は、1984年に創業した老舗・沖縄タコス店だ。
アメリカのハイウェイ沿いのダイナーを思わせる雰囲気だが、
それもそのはず、このタコス店を始めたのはアメリカ人で、
現店主の花城さんの父親がそのままお店を引き継ぐかたちで譲り受け、
今年で37年目を迎える。
アメリカンダイナー風の店内。
花城さんがお店に立ち始めたのは19歳のとき。
当時は沖縄にはタコス専門店がほとんどなかった。
お店を受け継いだものの、
アメリカ人がつくる味のままでは沖縄の人には食べてもらえないので
日本人好みのもちもちとした食感の生地をつくり出した。
それが、外はパリっと、中はもっちりとしたオーソドックスな沖縄スタイルになる。
「生地のかたさは、お客さんの好みによって変えています。
オーダーのときに『強めに揚げて』という人もいれば
テイクアウトのときに『フタをしないで!』という人もいらっしゃいます」
〈PORTRIVER MARKET〉の麦島さんの言葉を借りれば
「沖縄タコスは具材と生地、ソースとそれぞれが独自の進化をしているので
どれが特徴ということでなく、
『具材、生地、ソースの一体感』が多様な沖縄タコスの醍醐味」という。
40年近い歴史のセニョールターコからは、
そんな沖縄タコスの先駆者らしい一体感が感じられた。
セニョールターコは、1954年に創業した日本初のショッピングセンターといわれる、沖縄市の〈プラザハウスショッピングセンター〉内にある。
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やちむんではめずらしい真っ黒なうつわは〈oroku〉の8寸皿(5060円)。新鋭作家の作品に、創業40年を超える老舗タコス店〈メキシコ〉のタコスを盛りつけ(4ピース600円)。
那覇市最南部の小禄(おろく)に工房をもつ〈oroku〉は
やちむんのなかでもひと際、異彩を放つ存在だ。
2020年に植木鉢から始まった新進のブランドだが、
滋賀の黒泥を使ったマットブラックのシリーズから
PORTRIVER MARKETオリジナルアイテムを製作している。
そのほかにも各サイズの植木鉢だけでなく、ゴブレットやカップなど
これまで伝統的なスタイルにはあまり見られなかった洋風なデザインと、
マットブラックに統一されたダークな色合いは、やちむんの印象を大きく変える。
沖縄タコスの老舗店とあって店内には絶妙なレトロ感が漂う。最近はテイクアウト客が多いことからウェイティングスペースを確保。
一方、沖縄好きなら、タコス専門店〈メキシコ〉の名を聞いたことがあるかもしれない。
1977年創業と沖縄タコスの最古参級の有名店だが、
現在、店を切り盛りするのは創業者である先代の娘・儀武真麻さんだ。
先代が約40年前に創業したときは、米軍ベースに近く、
営業時間は夕方から深夜で、お酒とタコスを楽しむ店だった。
現在の宜野湾に移ってからは昼営業にシフトし、
10年前から真麻さんと旦那さんで切り盛りしている。
従業員は父の代から働いている人たちを引き継ぎ、
一部の従業員しか知らない生地のコーンと小麦粉の配合も、具材の味つけも
「父のときから変えたことはほとんどありません」と真麻さん。
変わらず、さくっとながらもソフトな沖縄タコスの代表格として
定番的な人気を誇っている。
メニューも名物オーナーだった父のときから変わらず、ドリンクとタコスのみ。
でも、ひっきりなしに客が出入りしている。
サボテンとメキシコ国旗で飾られた「メキシカン」な外観だが、「沖縄タコス」の歴史を牽引するオリジナルの味つけは県外のファンも多い。
沖縄の人にとっては、タコスはリーズナブルでおやつのように食べられるもの。
たくさんテイクアウトして、自宅で「オードブル」として楽しむ習慣もある。
メキシコともアメリカとも違うスタイルの「沖縄タコス」というべきものがあり、
歴史を守ってきた店、そこから独立・派生した店、
枠から飛び出しまったく新しいスタイルを生み出した店もある。
さまざまな枝葉に進化してきていることが、
沖縄タコスの伝統や文化の深さを物語っているように思う。
何といっても、沖縄県内にはタコス専門店が数十店舗もあるのだから。
沖縄タコスとやちむん、どちらもさまざまな物を受け入れる沖縄で
「ちゃんぷる」(沖縄の方言で「混ぜこぜ」の意味)されながら
暮らしのなかに浸透してきた。
沖縄のB面にも、着実に受け継がれてきた歴史や文化がある。
それを知れば、夏だけでなく、幅広い沖縄を楽しめるようになるだろう。
ともに沖縄特有の柔軟さのなかで進化しようとしている。
information
PORTRIVER MARKET
ポートリバーマーケット
information
information
SENOR TACO
セニョールターコ
住所:沖縄県沖縄市久保田3-1-12 プラザハウスショッピングセンター1F
Tel:098-933-9694
営業時間:11:30~22:00
定休日:なし
information
MEXICO
タコス専門店 メキシコ
住所:沖縄県宜野湾市伊佐3-1-3
Tel:098-897-1663
営業時間:10:30~18:00(売り切れ次第終了)
定休日:火・水曜
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