連載
posted:2016.2.5 from:神奈川県横浜市 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
イラストレーターとして活躍する平尾香が、各地の粋な飲み屋をご紹介。
旅して飲んで、おいしいお酒と肴と人に出会います。
text & illustration
kao.ri hirao
平尾 香
ひらお・かおり●イラストレーター。神戸生まれ、独自の個性を発揮した作風で、世界的ベストセラー「アルケミスト」を始めとする書籍のカバーや、雑誌の挿絵、広告などで活躍。個展も多数開催。現在は、逗子の小山にアトリエを構え、本人の取材やエッセイなど活躍の幅は広い。著書本に「たちのみ散歩」(情報センター出版局)「ソバのみ散歩」(エイ出版社)
http://www.kao-hirao.com/
https://www.facebook.com/Kao.0408.hirao
狸小路は、横浜駅を行き交う人混みを抜けてすぐ。
見上げることすら難しいような大きなビルが立ち並ぶ駅前で、
忘れられたかのような一角。
くの字の路地に小さな飲み屋が小さな間口で並んで集まっています。
その中でも際立つ存在。蛍光灯で浮かび光る白地に赤い文字の看板、
中華の渦巻き模様を上下にあしらったのエンジ色の暖簾に
染め抜かれた文字には〈豚の味珍(まいちん)〉。
あやしいような、おかしいようなインパクトある店名。
両サイドに同じ名前で店を構えていますが、
私が好きなのは、引き戸のほうの店舗の2階。
一番左の戸をがらっと開けると、1階にいるほぼ全員が視線をよせてくれる
右側に会釈しつつ、前には、そびえ立つような急な階段。
手すりにしっかりつかまって、キシキシキシ、
木の階段を上がるというか、落ちないように登ります。
2階はその狭い急な階段のせいか、広くも感じる明るい空間。
変形斜めに広がるカウンターにテーブル席が3つほど。
カウンターの赤い丸椅子に座って、とりあえず、瓶ビールを。
メニューを見れば、頭・舌・耳・胃・足・尾……ぞぞぞぞっ。
目を泳がせてると、スッと、写真つきのメニューを出してくれるやさしいお店の方。
醤油で煮込まれた豚の珍しい部位が白いお皿に乗った写真。
茶色いそれぞれは、よくみると形状違い。
斜めに並んだ尾、足、耳は、コラーゲンたっぷりそう。
舌はしっとり、頭はこりこり。
足と耳を注文したなら、目の前に並んだ調味料で、タレづくりを開始。
からしを酢で溶いて、醤油を垂らして、ラー油を少々。
おろしニンニクもあるので、お好みで。
小皿を割り箸でまわしながら、待つ時間が楽しい。
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食べやすいサイズに丁寧にカットされて出される。
艶やかなそれらをタレにつけてぱくり。
変わらぬおいしさがまったりと口に広がります。食感は、ぷるぷる。
サイドメニューも忘れずたのまなくっちゃ。
「ピータンにラッパもください」
「はい、ラーパーサイね」
あっさり言い直されてしまいましたが、この店に来たなら、
通ぶって言ってみたいのが、ラッパにヤカン。
ラッパは、白菜の漬物のこと。豚の合間にさっぱりおいしくいただける一品。
ヤカンは、焼酎のこと。ピカピカに光るステンレスの不思議な形の
ヤカンの長いそそぎ口から小皿に乗った分厚いグラスへ、注いでもらう。
小皿にこぼして泡がキラリ。
そこに梅エキスを、これまた好みの量を注いで口よせて。くぅ~きくぅ。
お酒はほかに日本酒に紹興酒、好きなお酒で、好きな部位を、
お客さんは、みんな楽しんでる様子。
気がつけば、サラリーマンのお客さんで店もいっぱいになる時間。
お皿を突き合い、距離を縮めるほろ酔い仲間が揃います。
帰りは、お兄さんの「階段気をつけてね」のひと言で一瞬酔いが覚め、
足を一歩一歩ゆっくり降りて、ホッとして、
ほっぺがプルプルしたような気になって、お店を後に。ごちそうさま。
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