連載
posted:2015.10.7 from:東京都あきる野市 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
小豆島の「醤(ひしお)の郷」と呼ばれる地域に生まれ、蔵人を愛する醤油ソムリエールが
真心こもった醤油造りをする全国の蔵人を訪ねます。
writer profile
Keiko Kuroshima
黒島慶子
くろしま・けいこ●醤油とオリーブオイルのソムリエ&Webとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳のときに体温が伝わる醤油を造る職人に惚れ込み、小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、さまざまな人やコトを結びつけ続けている。高橋万太郎との共著『醤油本』発売中。
東京で醤油を造る蔵元は〈近藤醸造(屋号「キッコーゴ」〉1軒のみ。
東京駅から中央線で武蔵五日市方面に電車で約80分。
澄んだ空気と緑に恵まれたあきる野市にある。
「ものづくりが好きなんだよね。ラベルも自分でつくるし、
年賀状づくりも9月から取りかかる。でも醤油造りは一番おもしろいよ。
どんなに手をかけても、結局は人ではなく菌が造るんだからね」
近藤醸造3代目の近藤功さんは、温かな気持ちで醤油を造り、届けます。
緑豊かな多摩の山裾に位置する近藤醸造は、明治41年から100年余続く蔵元。
“東京”のイメージから離れた緑豊かな場所で、清流秋川から流れるきれいな水と、
国産丸大豆と国産小麦を使い、天然醸造で醤油を育みます。
「東京にも昭和53年には22軒の蔵元があったんですよ。
でも、うち以外の醤油蔵は、広い敷地を有効活用し、
貸しビルを建てたり、別の事業に転業したりしました。
うちも、昭和55年頃に道路を拡張するからと退かなければいけなくなって、
これを機にホームセンターをしようかなと思ったこともありました。
日曜大工が趣味なので。
けれど、秋川渓谷の入口にあるこの土地でやるべきことは……。
そう思うとやっぱり醤油業だと思ってね」
そうしていつの間にか東京唯一の醤油醸造元になった近藤醸造。
「東京は昔から県外の醤油がどんどん入ってきていたから、
1軒になったからと言って売り上げが伸びるわけじゃない。
それより、東京で醤油を造るぞ、と思う仲間がいてほしかったですね」
そう話す近藤さんは寂しげ。
「私が入社した昭和40年頃は、小さな蔵元の醤油よりも、
大手の醤油が魅力的に見える時代で、消費者も大手のものを使いたがっていたし、
ましてや価格で競争なんてできるはずもない。
そこで近所の家庭に醤油を配達して、顔の見える関係のなかで使ってもらってきました。
いまでもうちの醤油を使っているのは、あきる野市やその周りの家庭が多いです」
それを物語るように、お店には女性が空ビンを2本持ってきて、
醤油を買っていきました。
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「醤油屋の数は減り続け、業界も変動しています。
だからこそ関係性の大切さを感じています。
うちの蔵を見て醤油のすばらしさを知ってもらえれば、
そのよさが伝わっていくと感じています。
小学校の見学を受け入れて、もう30年ほどになります。
あきる野市の小学生はほとんどうちの蔵を見ていますよ。態勢を整えて、
来年4月頃からは個人の見学にも対応できるようにしようと思っています」
私も蔵を見せてもらうことに。
もろみを仕込む木桶は、譲り受け使い続けている明治8年製のもの。
窓から光が静かに射し、熟成香が染みついています。
そしてそのもろみ蔵の隣に、新しい麹造りの工場が建っています。
「そろそろ息子に代替わりをしようと思って、
3年前に思い切って麹を造る工場を新しくしたんです。
道具も建物もすべて。私もいま70歳。
自ら望んで蔵に入った息子も40を超え、もう15年以上の経験を持ちましたから」
工場も機械も新しくするのは、減価償却も難しく勇気のいること。
それでも息子の代を想い、態勢を整えてきました。
蔵に併設している売店も2014年2月に改装。
近藤醸造の周辺は多摩産の木材が集まる地域。
売店にも、蔵からほどないところにある青梅の御岳山から切り出した木材などを使い、
床板も施工業者の指導のもと、スタッフみんなで金槌を片手に張っていきました。
温かみを感じる店内には醤油や調味料、醤油スイーツがずらり。
「最近は“東京産”の商品を出したいということで、
うちの醤油を前面にアピールした商品をつくってくれるところが少しずつ出てきました。
東京駅に入る〈三州総本舗〉さんの〈東京ふみう〉というせんべいもうちの醤油を使い、
うちの商品かと思うくらい近藤醸造をアピールしてくれています。
東京駅の前にある商業ビル〈kitte〉の〈東京から揚げバル〉さんでも
『東京醤油にこだわった鶏から揚げ』として、うちの名前を出してくれています」
近藤さんはうれしそう。
近藤醸造さんの醤油は、素朴で懐かしさを感じる風味。
その醤油を使ったせんべいも、滋味に富む味わい。
そうか、近藤さんの醤油を使うと、
東京で提供する新しい商品やサービスに背景が生まれるのか。
これからも温かい人柄の近藤さん親子によって育まれ、
そしてあきる野市を中心に、都内や各地の食卓を豊かにしていく。
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近藤醸造
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