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漁師の娘から生まれた
「きびなご魚醤」
高知・土佐佐賀産直出荷組合

醤油ソムリエール黒島慶子の
日本醤油紀行
vol.008

posted:2014.5.29  from:高知県幡多郡黒潮町  genre:食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  小豆島の「醤(ひしお)の郷」と呼ばれる地域に生まれ、蔵人を愛する醤油ソムリエールが
真心こもった醤油造りをする全国の蔵人を訪ねます。

writer's profile

Keiko Kuroshima

黒島慶子

くろしま・けいこ●醤油とオリーブオイルのソムリエ&Webとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳のときに体温が伝わる醤油を造る職人に惚れ込み、小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、さまざまな人やコトを結びつけ続けている。

愛情いっぱいに「きびなご魚醤」のことを話す浜町明恵さんに惹かれ、
初めてお会してから1分で現場を訪ねさせてもらえないか交渉。
「どうぞ来てください!」と、社交辞令とは思えない気持ちのいい言葉に甘え、
浜町さんが運営する「土佐佐賀産直出荷組合」がある高知県幡多郡黒潮町を訪ねました。

主婦たちが地魚を使って商品開発

力強い光にまばゆく輝く海。
そして太陽に誘われて生き生きと伸びる樹々が迎える道を、車で数時間走ると到着。
黒潮町は漁業が盛んで、特にカツオ漁の漁獲量は日本一。天日塩の生産も盛んです。
ここで、浜町さんは日本でも特に高知で漁獲される「きびなご」を
黒潮町産の天日塩で漬け込んで「きびなご魚醤」にするなど、
地元で水揚げされた水産物を新鮮なうちに加工し、販売しています。

魚醤とは、魚でつくるお醤油のこと。
通常の醤油は大豆と小麦を麹にして塩水に仕込むのに対し、
魚醤は大豆や小麦を使わず、魚と塩でつくります。
漬け込んだ魚が年月をかけ分解されて液状になるのです。

「私の家族は代々漁師で、昔から漁師に囲まれて生活してきました。
毎晩集まっては『売れん』と愚痴を言っていたし、
子どもには『絶対漁師になんかなるな』と言っていました。
なんで売れんの? 東京ではなかなか手に入らん質の高い魚ばかりなのに……。
そう昔から思っていたことが原点です」
海から民家へと目を向け、浜町さんが話してくれました。

「地元でとれる安全な魚を新鮮なうちにフライ加工をして販売したい」
そう長年夢を描き、約12年前に「土佐佐賀産直出荷組合」をたったひとりで立ち上げ。
次第に浜町さんの考えに共感した主婦がひとり、ふたり、3人と加わり、
「家族に安心して食べさせられるもの」を軸に、
アイデアを出し合いながら商品開発が行われました。
こうして高知県産のきびなごを黒潮町産の天日塩で漬けた「きびなごフィレ」が、
東京で開催された新商品開発の「グルメ&ダイニングスタイルショー」で
フード部門の大賞を受賞。次いで「きびなご魚醤」が生み出されました。

フィレも魚醤も、地元では誰もつくり方を知らなかったもの。
生み出すのは大変だったのでは? と尋ねると
「楽しかったですよ! たしかに、きびなご魚醤をつくるにも、
最初はきびなごが真っ赤になってすごく臭くなったりして、
開発するのに3年かかりました。
でもみんなと塩の量や種類や仕込む時期を変えながら試行錯誤している時間が
一番好きなんです」とハツラツと答えてくれました。

いろんな地魚を新鮮なうちに加工し、販売している。

きびなご魚醤の前身「きびなごフィレ」が漬けられている。

1年以上漬け込んだきびなご。自然に分解されている。

いいものをシンプルに

加工場に入ると、たくさんのお母さんたちがテキパキと手を動かしていました。
その速さと丁寧さにびっくり。手さばきに見とれているうちに、
何十、何百もの魚が次々とおいしそうな商品になっていきます。
「きびなご魚醤はこれです」と浜町さんに言われ、
大きな容器をのぞくと、ぎっしりときびなごが。
「最初に混ぜ、1年以上静かに置きます。そしてゆっくり搾ったら完成。
それ以外は何も手を加えません。加水もしません。
最近は酵母を入れて短期間で魚醤をつくるところが全国各地に増えていますが、
私はここの豊かな自然ときびなごと塩、この3つに委ねてじっくりと分解させたいんです」
そう話す浜町さんの言葉には、生まれ育った土地の恵みや食、
人に対する愛情が溢れていました。

見とれるほどテキパキと丁寧に魚を加工していく土佐佐賀産直出荷組合のみなさん。いまでは社員が11人に。

「この塩じゃないと」と、きびなご魚醤の要となる塩の生産現場にも案内してくれました。
そこで迎えてくれたのは高知のキラッと光る海のイメージにぴったりな浜田哲男さん。
高知の光と風を使い、火は使わずに塩にします。
「しっかり時間をかけて管理をしているんですよ」と浜町さん。
「粒になるときに手でほぐしたり、小さなゴミを取り除いたりと、手間がかかる。
自然相手やからなるようにしかならん。だから、精一杯やるしかない」
と浜田さんが力強く言い切ります。
「だから、ミネラルが多くて粒揃いの塩ができるんです。
おいしさに欠かせず、使いやすさも兼ね備えています」
と浜町さんが誇らしく話します。

降り注ぐ太陽の光と風を利用し、時間をかけて塩をつくる。

塩をつくる浜田哲男さん(左)と浜町明恵さん(右)。

これまで、きびなご魚醤やきびなごフィレを使った
さまざまなおいしそうなレシピを紹介している浜町さん。
なかでも浜町さんのお気に入りは何ですか? と尋ねると
「きびなご醤油は野菜炒めや卵焼きや卵かけご飯に入れたりと、
シンプルに使うこと。魚の旨味でおいしくなります。
特にきびなご魚醤は魚醤特有の癖が主張しないので合いますよ。
きびなごフィレのお気に入りは、冷や奴の上に載せて、
漬けてあるオリーブオイルをかけること」と教えてくれました。
これまで魚醤をかけ醤油として使ったことがなかったので、
さっそく卵かけご飯にひとかけ。まず気づいたのは、色がきれい! 
卵の輝かしい黄色を楽しむことができます。そして味もびっくり。
卵や米の甘味や旨味がぐっと引き出されています。う~ん、もう一杯!

料理を邪魔しないきれいな色。

きびなご醤油をかけた卵かけご飯。かける前とほとんど色が変わらず、きれいな黄色のまま。

シンプルなのにおいしい。いや、すべてがシンプルだからおいしいんだ。
漁業が盛んなまちで漁師に囲まれて育った女性が、
出会った塩と魚だけを使い、自然に委ねて魚醤を造る。
それだけのことを、愛情いっぱいで気っ風のいい浜町さんがするからおいしい。
卵かけご飯を頬張りながら
「ここで生まれ、漁師に囲まれて育った私だからこそできることがあるんです」
と、生き生きと伝えてくれた浜町さんを思い出しました。

information

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土佐佐賀産直出荷組合

住所 高知県幡多郡黒潮町佐賀80番
TEL 0880-31-4188
http://www.tosasaga-fillet.com/

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